従業員が退職する際、会社側には社会保険や雇用保険の手続きを迅速に行う責任があります。これらの手続きが遅れると、従業員の不利益だけでなく、会社自身が法的リスクや信頼低下を招く可能性があります。そのため、適切かつ迅速な対応が求められます。
この記事では、従業員の退職に伴い会社側が行うべき社会保険および雇用保険の手続きについて、必要書類や手続きの流れをわかりやすく解説します。
また、手続きが遅れた場合のリスクや、適切な対応策についても詳しく紹介します。
退職手続きを適切に行うことは、従業員の次のステップをサポートし、会社の信頼を守ることにつながります。
担当者の方には、本記事を参考に、社労士との連携も視野に入れながら、誠実な対応を心がけていただければと思います。
退職手続きを円滑に進め、トラブルを防ぐためのガイドとして、ぜひ最後までお読みください。
生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
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従業員が退職を申し出た際、会社側では社会保険および雇用保険に関する手続きを迅速かつ正確に進めることが求められます。手続きが遅延すると、従業員の保険状況に影響を与えるだけでなく、会社が罰則を受けるリスクも存在します。
退職手続きは、従業員の退職日決定後から退職後の数日以内に完了させるべき一連の作業です。以下では、その具体的な手続きの流れについて段階ごとに解説します。
従業員から退職の申出があった場合、社会保険・雇用保険に関する手続きは以下のように行います。
退職前の手続きの流れ
退職の意思表示が従業員からなされたら、まず会社側で適切な準備を始めます。一般的には1~3ヶ月前に退職意思が示されますが、民法第627条によれば退職の申し入れから2週間で効力が生じるため、場合によっては短期間での対応が必要になります。
以下の手続きは退職日までに完了させましょう。
1. 退職届の受理
従業員が正式に退職の意思を示したら、退職届を受理します。この際、自己都合退職か会社都合退職かを確認し、それに応じた対応を準備することが重要です。退職届には特定の様式はありませんが、会社の規定に従い適切に処理します。
2. 退職手続きの説明
従業員に対して、退職に伴う具体的な手続きや、提出すべき書類について説明します。例えば、健康保険の任意継続や退職証明書の発行、離職票の発行手続きについて事前に詳しく説明し、従業員が安心して手続きを進められるようにします。また、健康保険証の回収や、退職所得に関する申告書の提出も必要です。
3. 離職票の発行希望の確認
従業員が失業保険の受給を希望する場合、離職票が必要となります。退職者には離職票1と2が発行され、失業手当の申請に用いられますので、退職者の希望を確認し、必要な準備を行います。
退職後の手続きの流れ
退職日が過ぎた後は、会社として速やかに社会保険および雇用保険の資格喪失手続きを進める必要があります。これらの手続きには厳密な期限が定められており、社会保険の資格喪失手続きは退職日から5日以内、雇用保険の資格喪失手続きは退職日の翌日から10日以内に完了させる必要があります。手続きが遅延すると、従業員に不利益が生じたり、会社に対する行政指導が行われる可能性もあるため、迅速な対応が求められます。
1. 社会保険の資格喪失手続き
退職日から5日以内に、従業員の健康保険および厚生年金保険の資格喪失手続きを年金事務所で行います。健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届を提出し、退職者から回収した健康保険証(本人および被扶養者分)を添付する必要があります。また、退職者が健康保険の任意継続を希望する場合や、国民健康保険に切り替える場合についても、事前に詳細を説明し、必要な手続きのサポートを行います。
2024年12月2日からの健康保険証の廃止に伴い、社会保険の喪失手続きにも一部変更点があります。下記の記事で解説しているので、合わせてチェックしてください。
健康保険証の廃止で2024年12月2日から社会保険手続きはどう変わった?マイナ保険証についても解説
2. 雇用保険の資格喪失手続き
退職日の翌日から10日以内に、ハローワークに対して雇用保険被保険者資格喪失届を提出します。あわせて、退職者の賃金台帳や出勤簿、その他の必要な書類を揃えて提出します。退職者が失業保険を申請する場合は、離職証明書を作成し、これを「雇用保険被保険者資格喪失届」とともにハローワークへ提出することが求められます。
雇用保険被保険者離職証明書とは?書き方と必要書類を記入例付きで社労士が解説
3. 退職者への書類送付
退職手続きが完了したら、以下の書類を速やかに退職者へ送付します。
- 健康保険被保険者資格喪失確認通知書
- 離職票1、2
- 源泉徴収票
これらの書類は、退職者が今後の転職活動や各種保険の手続きを進める際に必要となるため、遅滞なく送付することが重要です。特に離職票や源泉徴収票は、次の就業先や失業保険の申請において不可欠な書類ですので、徹底した管理と迅速な対応が求められます。
従業員の退職に伴い、会社側は社会保険や雇用保険の手続きを正確に進める必要があります。特に、退職時に必要な書類の受け渡しや提出期限は、法律で定められた重要な手続きです。これを怠ると、従業員の退職後に不利益を被る可能性があるため、迅速かつ的確に対応することが求められます。以下では、退職前・退職後に会社が行うべき対応について詳しく解説します。
従業員の退職に伴う会社側の手続きについては下の記事で詳しくまとめています。
従業員の退職で会社側が行う退職手続き一覧・流れや必要書類を社労士が解説
退職時に渡すもの
退職時には、従業員にいくつかの書類を渡す必要があります。これらの書類は、従業員の次の就職先や失業給付の受給などに必要となるため、漏れなく渡すことが大切です。
◯雇用保険被保険者証
雇用保険被保険者証は、従業員が次の職場で雇用保険に再加入する際に必要となる重要な書類です。退職時に必ず従業員に渡し、次の就職先で利用できるように準備しましょう。
◯退職証明書
退職証明書は、従業員が希望した場合、会社が必ず発行しなければならない書類です。労働基準法第22条第1項に基づき、企業は退職者の請求に応じて迅速に対応する必要があります。発行を拒否したり、理由なく発行を遅延させることは労働基準法違反となり、30万円以下の罰則が課される可能性があります。
退職証明書には、「使用期間」「業務の種類」「その事業における地位」「賃金」「退職の事由」など、退職者が請求した内容のみを記載します。逆に、退職者が希望しない事項を記載することは禁止されています(例えば、「解雇理由を記載しない」など)。この点に注意して、退職証明書を作成しましょう。
なお、退職証明書の様式は特に決まっていませんが、厚生労働省のモデル様式を参考にすると便利です。また、退職証明書は雇用保険の離職票とは別物であり、離職票を代用することはできませんのでご注意ください。
退職前までに提出してもらうもの
退職が決まった段階で、従業員から会社に提出してもらうべき書類もあります。これらの書類は、退職手続きや税務処理に必要なものです。
健康保険証
健康保険の資格喪失手続きを行うために、従業員から健康保険証を回収します。本人および扶養家族の分も含め、全ての保険証を退職日までに回収することが重要です。
退職所得の受給に関する申告書
退職金が発生する場合、退職者には「退職所得の受給に関する申告書」を提出してもらう必要があります。この申告書は、退職金に対する適切な税務処理を行うために重要です。申告書は、退職金の支払いまでに受理できればよいのですが、手続きの効率化を考慮し、退職日までに提出してもらうのが望ましいです。
この申告書は、会社が受理した時点で税務署に提出したとみなされるため、特別に税務署へ送る必要はなく、会社が保管します。受理後は、申告書の内容に基づいて退職金の税額計算を行い、適切な支給手続きを進めましょう。また、退職金に関する源泉徴収票も発行する必要があるため、忘れずに準備しておくことが重要です。
退職後に送付する書類
退職後も、会社から従業員に送付すべき書類があります。これらの書類は、従業員が失業給付や次の職場での手続きを円滑に進めるために必要です。
健康保険被保険者資格喪失確認通知書
健康保険の資格喪失手続きが完了した際に発行される通知書です。従業員が国民健康保険や任意継続の手続きを行うために必要となるため、速やかに送付します。
源泉徴収票
源泉徴収票は、退職した従業員が年末調整や確定申告を行う際に必要な書類です。通常、退職した年内に送付し、従業員が適切な税務処理を行えるようサポートします。
雇用保険被保険者離職票-1と2
離職票は、従業員が失業給付を受け取る際に必要な書類です。
離職票には、「離職票-1」と「離職票-2」の2種類があります。
「離職票-1」は、退職者が雇用保険の資格を喪失したことを通知する書類であり、失業給付を受ける際に必要な振込先の金融機関情報などを記入する欄が含まれています。
「離職票-2」は、会社がハローワークに提出した雇用保険被保険者離職証明書の写しで、退職者が失業給付を受けるために使用される重要な書類です。
これらの書類は、ハローワークで確認された後に会社に交付され、速やかに退職者へ送付する必要があります。退職者はこの2つの書類を使用して、雇用保険給付の手続きを行いますので、迅速な対応が求められます。
離職票1と2について発行方法や手続きについて下記の記事で詳しく紹介しています。
離職票(1と2)とは?発行手続きや離職証明書・退職証明書の違いを社労士が解説
社会保険の資格喪失手続きの流れは以下の赤丸の箇所になります。
退職前に健康保険証の回収
退職者およびその被扶養者の健康保険証を、退職日までに提出してもらいます。回収が遅れると、健康保険が無効になるタイミングにズレが生じ、保険料や医療費に関するトラブルが発生する可能性があります。
資格喪失届と添付書類の提出
健康保険および厚生年金の資格喪失届を、退職日から5日以内に管轄の年金事務所へ提出します。これには、健康保険証や雇用証明書などの書類が必要です。提出期限を守ることで、従業員の保険資格が正しく喪失され、次のステップへ円滑に進むことができます。
健康保険被保険者資格喪失確認通知書の送付
保険資格喪失の手続きが完了すると、年金事務所から「健康保険被保険者資格喪失確認通知書」が発行されます。この通知書を従業員に速やかに送付し、資格喪失が正式に完了したことを通知します。
従業員が退職した際、雇用保険の資格喪失手続きは企業側にとって重要な責任のひとつです。この手続きが遅れると、退職者が受ける失業給付の開始が遅れてしまうことがあります。そのため、適切な時期に必要書類を準備し、手続きを進めることが求められます。ここでは、雇用保険の資格喪失手続きの具体的な流れについて解説します。
雇用保険の資格喪失手続きの流れ
雇用保険の資格喪失手続きの流れは以下の赤丸の箇所になります。
①雇用保険被保険者資格喪失届を提出
従業員が退職した場合、企業はまず雇用保険被保険者資格喪失届を提出しなければなりません。これは退職日から10日以内にハローワークに提出する必要があります。この手続きを行うことで、退職者は雇用保険から除外され、失業給付の手続きに進むことが可能になります。
②離職証明書と退職届を提出
退職者が離職票の発行を希望する場合、企業は「離職証明書」と退職届を①と一緒に提出する必要があります。離職証明書は、退職理由や在職期間などを証明するための書類で、失業給付を受ける際に必要です。これにより、退職者が速やかに失業給付の申請手続きを進められるようになります。
従業員から離職票の発行手続きがおくれてしまうと罰則のリスクもあるので注意が必要です。
離職票の申請期限10日以内を過ぎると罰則?期限内に提出できなかった場合の対処法も解説
③離職票1と2を退職者へ送付する
雇用保険被保険者離職票-1と-2は、退職者が失業給付を申請するために必要な書類です。企業はこれらの書類を受け取った後、速やかに退職者へ送付し、失業給付の申請手続きが遅れることのないように配慮することが求められます。
雇用保険の資格喪失手続きに必要な書類には、以下のものがあります。
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 離職証明書(退職者が離職票を希望する場合)
- 退職届
企業がこれらの書類を揃え、迅速に提出することが重要です。提出が遅れると、退職者の失業給付手続きが遅延し、結果として不利益を被る可能性があるため、速やかに対応することが求められます。
従業員が退職した後、社会保険や雇用保険の喪失手続きは速やかに行うことが求められます。しかし、何らかの理由で手続きが遅れてしまう場合があります。このような状況では、どのような影響が発生するのか、そしてその対応方法についてしっかり把握しておくことが重要です。適切な対応を行うことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
退職にともなう資格喪失手続きが遅れた場合の影響
社会保険や雇用保険の喪失手続きが遅れると、以下のような影響が考えられます。
- 失業給付の遅延:
雇用保険の喪失手続きが完了していないと、離職票の発行が遅れ、退職者が失業保険を申請できなくなります。 - 健康保険の適用ズレ:
健康保険の喪失手続きが遅れると、健康保険の適用期間にズレが生じ、医療費の請求に問題が発生する可能性があります。 - 未加入期間の社会保険料の不整合:
手続きの遅延により、未加入期間にかかる社会保険料や税金の不整合が発生する可能性があります。 - 法的リスク:企業が手続きを怠ることで、法的なリスクやトラブルの原因となる可能性があります。
手続きが遅れた際の対応手順
手続きが遅れた場合、気がついたら速やかに以下の手順で対応を進めることが重要です。
- 退職者に状況を説明する
まず、退職した従業員に連絡を取り、手続きが遅れた理由や現在の状況を説明します。誠実な対応が、トラブルを未然に防ぐポイントです。 - ハローワークや年金事務所に連絡する
すぐにハローワークや年金事務所に連絡し、手続きが遅れた旨を報告します。その際、遅延があった理由を明確に説明し、必要な書類を確認します。 - 雇用保険の手続き
「雇用保険被保険者資格喪失届」をハローワークに速やかに提出します。その後、退職者が失業保険を申請できるよう、離職票を発行します。 - 社会保険の手続き
健康保険被保険者資格喪失届を年金事務所に提出します。また、健康保険証を回収し、未払いの保険料がある場合は、速やかに精算します。 - 退職者への対応
必要に応じて、遅延により発生した影響や保険料の払い戻しなどについて、退職者に説明を行います。誠実な対応で信頼関係を維持することが重要です。
もし対応が複雑だったり、手続きが遅れたことで不安がある場合は、専門家である社労士に相談することも検討してください。社労士に手続きを依頼することで、速やかかつ正確に対応が行われ、トラブルを回避できます。
社会保険や労働保険に関する手続きは従業員の退職時だけではなく、入社のタイミングなどのイベントが発生するごとに必要な手続きが必要なもの、1年のうちで決まったタイミングで発生するものがあります。
計画的に準備しておくことで手続きの遅れや漏れを防ぐことができます。
【社労士監修】社会保険及び労働保険手続きの年間スケジュールと年間業務の全まとめ
従業員が退職する際、社会保険や雇用保険に関する手続きは、企業がスムーズに行うべき重要な義務の一つです。適切な対応を行わないと、退職者に不利益が生じたり、企業にペナルティが課される可能性があります。ここでは、退職時に特に注意すべき点について解説します。
退職月の社会保険料の控除の取り扱いには注意が必要
退職月の社会保険料の控除は、退職日や給与支払い日のタイミングに大きく影響されます。社会保険料は月単位で発生するため、退職後の資格喪失日がいつになるかによって、その月の保険料が徴収されるかが決まります。特に、退職日が月末に近い場合、複数月の保険料が一度に控除される可能性があり、トラブルを防ぐために事前の確認が不可欠です。
具体例として、次のようなケースが考えられます。
■月末退職の場合(例:9月30日)
資格喪失日が翌月1日となるため、退職月である9月の社会保険料が発生し、控除が必要です。
■月中に退職した場合(例:10月20日)
資格喪失日が10月中であれば、その月の社会保険料は発生しません。そのため、給与計算時には、前月分の保険料のみが控除対象となります。
これらの違いを事前に退職者に説明し、誤解やトラブルを防ぐために正確な情報を共有することが重要です。
期限のある手続き(届出の提出)には注意が必要
社会保険や雇用保険の手続きには、期限が定められています。退職時に提出する「健康保険被保険者資格喪失届」や「雇用保険被保険者資格喪失届」は、速やかに提出しなければなりません。特に、期限を過ぎると、会社として法的なリスクが生じる可能性があります。期日を守り、必要書類を適切に提出することが重要です。
退職前に離職票の発行希望を確認しておく
退職者が離職票を希望するかどうか、退職前に必ず確認しておくことが大切です。離職票が必要な場合、会社は速やかにハローワークに「雇用保険被保険者離職証明書」を提出しなければなりません。この手続きを怠ると、退職者が失業保険を受給する際に遅れが生じる可能性があります。退職者とのコミュニケーションを密にし、希望を確認しておくことで、スムーズな対応が可能です。
離職証明書に記載する退職理由には注意が必要
雇用保険の手続きにおいて、離職証明書に記載する退職理由は非常に重要です。不適切な理由を記載すると、退職者の失業保険給付に影響が出る可能性があります。
例えば、会社都合か自己都合かによって、退職者が受け取れる給付の内容が異なります。正確かつ公正な理由を記載し、退職者との合意のもとに手続きを進めることが大切です。
退職者の状況によっては任意継続制度を案内する
退職後、従業員が健康保険の資格を失った後でも、一定の条件を満たせば健康保険に「任意継続」として加入することが可能です。この制度は、退職後も最長2年間、退職前と同じ健康保険に加入し続けることができ、次の職場での保険制度が整うまでのつなぎとして役立ちます。任意継続を希望する場合、退職から20日以内に所定の手続きを行う必要があります。
とくに次の状況のような従業員には任意継続制度を案内するとよいかもしれません。
・次の職場がまだ決まっていない人
・次の職場が保険を提供していない場合
・家族の被扶養者になるまでのつなぎ
・国民健康保険よりも保険料が安い場合
【スポット申請】労働保険(労災保険及び雇用保険)の役割と加入条件について
退職時の手続きは、社会保険や雇用保険に関連する重要な業務であり、計画的かつ迅速に対応することが求められます。退職者が円滑に次のステップに進めるよう、事前に必要な書類や手続きの流れを明確にし、退職日が決定した時点で迅速に行動を開始しましょう。
特に、資格喪失届や離職票などの重要な書類の提出には期日があるため、遅延がないように管理することが重要です。また、手続きに関して不安や疑問がある場合は、社労士などの専門家に相談し、正確な対応を行うことが推奨されます。
会社廃業(解散)時も従業員を雇用している場合は、従業員の社会保険や雇用保険の手続きが必要になります。
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