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最低賃金とは?違反した場合の罰則やリスクについてわかりやすく解説

最低賃金は、パートやアルバイトを含むすべての労働者に適用される、労働条件の最低基準です。違反すると、罰金などの法的ペナルティだけでなく、最大2年分の未払い賃金の支払い、企業の信用失墜といった大きなリスクを招きます。

しかし、最低賃金の計算は「含める手当・含めない手当」や固定残業代の扱いなど判断が難しく、知らないうちに違反してしまうケースも少なくありません。

本記事では、最低賃金制度の基礎から、違反した場合の罰則・企業リスク、違反が発覚した際の対応方法、確認方法や注意点までを社労士がわかりやすく解説します

この記事を監修した人

生島社労士事務所代表

生島 亮

いくしま りょう

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最低賃金制度とは?種類と適用対象

最低賃金制度とは、国が法律(最低賃金法)に基づき、賃金の最低限度額を定める制度のことです。 使用者(会社・事業主)は、この最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければなりません。 この制度は、正社員やパートタイマー、アルバイトといった雇用形態にかかわらず、原則としてすべての労働者に適用される、企業経営において必ず遵守すべき重要なルールです。

最低賃金は、物価や賃金の動向を踏まえて毎年10月前後に改定され、都道府県ごとや業種ごとに異なる金額が設定されています。

最新の金額は、厚生労働省の公式サイト「地域別最低賃金の全国一覧」で必ず確認してください。

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生島社会保険労務士
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最低賃金を下回るのは法律違反

使用者が労働者に対し、最低賃金額に満たない賃金しか支払わないことは、明確な法律違反です。

最低賃金法第4条では、「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」と定められています。

たとえ労働者と使用者の間で「最低賃金を下回る金額で働く」という合意があったとしても、その合意は法律上「無効」となり、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。 

つまり、「本人が納得していたから」という理由は一切通用しません。

パート・アルバイトを含むすべての労働者が対象

最低賃金制度は、正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイト、嘱託社員、臨時社員など、雇用形態や呼称にかかわらず、原則としてすべての労働者が適用対象となります。

「学生アルバイトだから」「試用期間中だから」といった理由で最低賃金を下回ることは、原則として認められません。 外国人労働者であっても同様に適用されます。 この適用範囲の広さは、最低賃金制度の根幹をなす重要なポイントです。

労働基準法に基づく最低賃金には2種類ある

最低賃金には、「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。

企業は、自社の事業所がある都道府県の「地域別最低賃金」と、自社の事業が該当する場合は「特定最低賃金」の両方を確認する必要があります。もし両方が同時に適用される労働者がいる場合は、より高い方の最低賃金額を支払わなければなりません。

地域別最低賃金

地域別最低賃金とは、産業や職種にかかわらず、各都道府県内で働くすべての労働者とその使用者に適用される最低賃金のことです。

各都道府県に1つずつ定められており、毎年、地域の生計費や賃金水準などを考慮して見直され、例年10月頃に改定されます。 東京都や大阪府など、本社と支店で所在地が異なる場合は、それぞれの事業場で適用される地域別最低賃金が異なる点に注意が必要です。

特定最低賃金

特定最低賃金とは、特定の産業について、地域別最低賃金よりも高い水準の最低賃金を定める必要があると認められた場合に設定される最低賃金です。 「産業別最低賃金」とも呼ばれます。

これは、特定の産業における労働者の生計費や賃金の状況をよりきめ細かく反映させることを目的としており、「鉄鋼業」や「機械器具製造業」など、全国で約200件の業種が設定されています。

ただし、18歳未満または65歳以上の労働者や、技能習得中の労働者などについては、特定最低賃金の適用が除外される場合があります。 その場合でも、地域別最低賃金は適用されるため注意が必要です。

最低賃金に違反した場合の罰則とリスク

最低賃金法に違反すると、事業主は刑事罰や行政指導の対象となり、金銭的負担だけでなく企業の信用にも深刻な影響が及びます。

ここでは、最低賃金を下回った場合に課される具体的な罰則と、違反によって発生する企業リスクを解説します。

最低賃金に違反した場合の罰則

最低賃金の不払いは、最低賃金法および労働基準法に基づく明確な法律違反であり、違反した使用者(会社・事業主)には刑事罰としての罰金が科せられます。

使用者は、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金のうち、いずれか高い方の金額以上の賃金を労働者に支払う義務があります。違反が悪質と判断された場合や、労働基準監督署からの是正勧告に従わない場合には、検察庁へ書類送検され、刑事事件として扱われる可能性もある、極めて重い処罰です。

罰則①:地域別最低賃金違反には50万円以下の罰金

地域別最低賃金を下回る賃金で労働者を雇用した場合、最低賃金法第40条に基づき、50万円以下の罰金が科されます。罰金は法人に対しても適用されるため、経営規模に関係なく負担は重く、特に小規模事業者にとっては経営を直撃する可能性があります。

また、罰金刑は「未払い賃金の支払い義務」と併せて課されることもあり、違反が軽微であっても「知らなかった」では済まされません。

罰則②:特定最低賃金違反は30万円以下の罰金

特定(産業別)最低賃金に違反した場合は、労働基準法違反とみなされ、30万円以下の罰金が科せられます 。

特定最低賃金とは、特定の産業に従事する労働者を対象に、地域別最低賃金よりも高い水準で設定される最低賃金です 。この定められた賃金を支払わないことは、労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」に違反すると解釈されるため、労働基準法の罰則が適用されます 。

このように、地域別最低賃金違反(最低賃金法が根拠)と特定最低賃金違反(労働基準法が根拠)では、罰則の根拠となる法律が異なる点を理解しておくことが重要です 。

最低賃金違反による企業リスク

最低賃金法違反は刑事罰としての罰金だけでなく、経営全体に波及する複数のリスクを伴います。以下のような実務的な影響を軽視すると、事業継続にも支障が出かねません。

リスク①:最大2年分の差額遡及支払い

最低賃金を下回る違反が発覚した場合、企業は労働者に対し、過去に遡って最低賃金額との差額分を支払う義務が生じます 。

賃金請求権の時効は法改正により延長されており、当面の間は過去3年分の差額を支払う義務を負う可能性があります 。この遡及支払いは、企業の財務に深刻な影響を与えかねません。

例えば、時給が最低賃金を50円下回っていた従業員が1人いた場合、過去3年分の未払い額は約28万円にも上ります。対象者が複数名いれば、その総額は経営を圧迫するほどの大きな金額になり得るのです。

リスク②:労働基準監督署による立入調査と是正勧告

労働者からの申告などにより最低賃金違反の疑いが生じた場合、労働基準監督署による立入調査(臨検監督)が実施されることがあります 。調査では、賃金台帳やタイムカード、雇用契約書などの帳簿類を確認され、担当者へのヒアリングが行われます。

調査の結果、違反が事実と確認されると是正勧告書が交付され、企業は指定された期日までに未払い賃金の支払いといった是正措置を講じ、その結果を報告する義務を負います 。

この是正勧告に従わないなど悪質なケースと判断された場合は、刑事事件として検察庁に送検され、罰則が科される可能性があります 。これら一連の調査や報告への対応は、多大な事務的負担を伴う経営上のリスクです 。

リスク③:企業の信用の失墜と採用活動への悪影響

最低賃金違反は、罰金や遡及支払いといった直接的な金銭リスク以上に、企業の社会的信用を大きく損なう、回復困難なダメージをもたらします。

悪質な違反事例は厚生労働省によって企業名が公表される制度もあり 、一度「法律を守らない会社」という評判が広まると、金融機関や取引先からの信用を失う可能性があります 。

この評判は人材採用においても深刻な悪影響を及ぼし、応募者数の激減に直結しかねません 。特に現代の採用市場において、企業のコンプライアンス意識は厳しく評価されており、違反の事実は致命的なハンディキャップとなります。

さらに、既存従業員の会社に対する信頼も揺らぎ、士気の低下や離職につながるなど、組織の根幹を揺るがす問題に発展します 。

最低賃金違反となる事例

最低賃金違反は、意図しない「うっかり違反」が非常に多いのが実態です。時給が明らかに低いケースだけでなく、各種手当の扱いや固定残業代、歩合給といった複雑な給与計算の誤解から、気づかぬうちに法律違反を犯しているケースが後を絶ちません。

ここでは、実務で起こりがちな違反事例を「明らかな違反」と「判断が難しいケース」に分けて、具体的に解説します。

明らかな違反事例

まずは、誰が見ても明確に最低賃金法違反となるケースです。これらの事例は、賃金計算の基本的なルールを見落としている場合に発生します。

明らかな違反は、法律上の解釈に余地がなく、発覚すれば即時是正が求められるケースです。

計算時に特定手当を除外し忘れたケース

最低賃金の計算において、本来なら除外すべき手当を誤って含めて計算した結果、「見かけ上」は最低賃金をクリアしていても、実際には違反しているケースは非常に多く見られます。

最低賃金法では、以下の手当は「最低賃金の対象とならない賃金」として、計算から除外することが明確に定められています 。

  • 時間外労働手当(残業代)、深夜労働手当、休日労働手当
  • 通勤手当
  • 家族手当
  • 精皆勤手当
  • 賞与など、臨時に支払われる賃金

例えば、東京都(地域別最低賃金 1,163円 ※2025年時点)で、時給を「基本給1,100円+一律の通勤手当100円=1,200円」と設定しているケースを考えます。

この場合、合計時給1,200円は最低賃金を上回っているように見えます。しかし、通勤手当は最低賃金の計算に含めることができないため、比較対象となる時給は

基本給の1,100円です 。結果として、最低賃金額である1,163円を下回っており、明確な法律違反となります。

固定残業代込みで最低賃金を下回るケース

近年、トラブルが急増しているのが「固定残業代(みなし残業代)」に関する違反です 。

固定残業代制度は適正に運用すれば違法ではありません。しかし、固定残業代を含めた給与総額で最低賃金をクリアしているように見えても、

時間外労働の対価である固定残業代を除いた基本給部分が最低賃金を下回っていれば、それは明確な法律違反です 。

例えば、東京都(地域別最低賃金 1,163円 ※2025年時点)の企業で、以下の給与契約を結んでいるケースを考えてみましょう。

  • 月給:220,000円
  • 内訳:基本給 180,000円 + 固定残業代 40,000円
  • 月の所定労働時間:160時間

この場合、最低賃金の計算対象となるのは、固定残業代を除いた基本給180,000円です。この基本給を時給に換算します。

計算式:180,000円 ÷ 160時間 = 1,125円

この時給1,125円は、東京都の最低賃金1,163円を下回っているため、法律違反となります。

固定残業代を導入している企業は、雇用契約書などで基本給と固定残業代の内訳(金額と対応する時間数)を必ず明確に区分し、基本給部分だけで最低賃金をクリアしているかを確認しなければなりません。

判断が分かれるケース(適法かグレーか)

次のような給与体系や雇用条件の場合は、計算方法や手続き次第で適法にも違反にもなり得ます。自社の運用が適法かどうか判断に迷った場合は、必ず労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家に確認してください。

歩合給や出来高払いの計算例

歩合給や出来高払いが導入されている場合でも、最低賃金法は適用されます。原則として、歩合給として支払われた賃金総額を、その月の総労働時間で割った金額が、最低賃金を下回ってはいけません。

例えば、完全歩合給の営業職が、ある月に200時間働き、賃金が20万円だったとします。この場合、時給換算額は1,000円です(200,000円 ÷ 200時間)。もし勤務地の地域別最低賃金が1,113円であれば、この月の賃金は最低賃金法に違反していることになります。

ただし、労働基準法では出来高払制の労働者に対して、労働時間に応じた一定額の賃金(保障給)を保障することが定められています。この保障給部分だけで最低賃金をクリアしている場合は、適法と判断される可能性があります。

研修期間中の賃金設定

「研修期間中だから」「試用期間中だから」という理由だけで、一方的に最低賃金よりも低い賃金を設定することは、原則として認められません。

ただし、最低賃金法第7条に基づき、「試用期間中の者」など一部の労働者については、都道府県労働局長の許可を受けた場合に限り、最低賃金の減額(最大20%まで)が認められる「減額の特例」制度があります。

この特例は自動的に適用されるものではなく、事前に所定の申請を行い、許可を得る必要があります。 許可なく最低賃金を下回る時給を設定する行為は、明確な法律違反となります。

最低賃金違反が発覚した場合の対応方法

最低賃金違反が判明した場合、問題を放置すると罰則や多額の遡及支払いといった重大なリスクにつながります。パニックにならず、まずは事実関係を正確に把握し、迅速かつ誠実な是正措置を講じることが不可欠です。

①社内調査と事実確認

最初のステップは、違反の事実と範囲を正確に把握することです。

賃金台帳、タイムカード、雇用契約書などを照合し、各従業員の賃金が最低賃金を下回っていないかを確認します。特に、最低賃金の計算から除外すべき手当(通勤手当、家族手当など)を誤って算入していないか、固定残業代の計算が適正か、といった点は重点的にチェックする必要があります。

②労働基準監督署への報告と是正計画

労働基準監督署から是正勧告を受けて違反が発覚した場合は、指定された期日までに是正報告書を提出しなければなりません。

自主的に違反を発見した場合でも、専門家(社労士など)に相談の上、労働基準監督署へ報告し、是正の意思を示すことが賢明です。誠実な対応は、その後の行政指導を円滑に進める上で有利に働くことがあります。

是正計画には、未払い賃金の支払い時期・支払方法・再発防止策を明確に記載し、具体的な行動計画を示しましょう。

③未払い分の速やかな支払い

調査で確定した未払い賃金(差額)は、対象となる従業員に対して速やかに支払うことが最も重要です。

賃金請求権の時効は法改正により延長されており、当面は過去3年分の差額を支払う義務を負う可能性があります。支払時には、従業員に計算根拠を丁寧に説明し、謝罪の意を伝えることで、不信感を和らげ、信頼関係の悪化を防ぐよう努めましょう。

④再発防止策の策定(賃金体系の見直し)

目先の是正だけでなく、同様の違反を繰り返さないための恒久的な再発防止策を策定し、実行に移す必要があります。

賃金体系や就業規則の見直し、法改正に対応した給与計算ソフトの導入、人事労務担当者の定期的な研修などを計画的に実施し、コンプライアンス体制を強化しましょう。

【最低賃金改定対応チェックリスト】
□ 毎年の地域別・特定最低賃金の改定額を、厚生労働省のサイト等で確認していますか?
□ 賃金台帳の計算に含める手当/除外する手当を正しく区分していますか?
□ 固定残業代を導入している場合、基本給部分だけで最低賃金をクリアしていますか?
□ 複数の給与形態(月給・日給・時給)の換算方法が正しく設定されていますか?
□ 最低賃金改定時に、給与体系の見直しやシミュレーションを実施していますか?
□ 新しい従業員を雇用する際、契約条件が最新の最低賃金を下回らないか確認していますか?

最低賃金の確認方法

自社の賃金が最低賃金を守れているかを確認するには、正しい計算方法を理解することが第一歩です。特に、手当の扱いや給与形態によっては計算を誤りやすく、意図せず法律違反を犯すリスクがあります。

ここでは、最低賃金の計算対象となる賃金を正しく把握し、給与形態に応じて時間額に換算するという、2つのステップで具体的な確認方法を解説します。

ステップ1: 最低賃金の計算に「含める賃金」と「含めない賃金」を分ける

最低賃金を下回っていないかの判断は、支払われる賃金総額ではなく、法律で定められた「最低賃金の対象となる賃金」のみで行います。この区分を誤ると、正しい時給換算ができず、違反につながるため注意が必要です。

▼最低賃金に含める手当(毎月決まって支払われる基本的な賃金)

  • 基本給
  • 職務手当、役職手当など、名称を問わず毎月固定的に支払われる手当 

▼最低賃金に含めない手当(労働の対価以外の性質や割増賃金など)

  • 時間外労働手当(残業代)、深夜・休日手当
  • 職務手当、役職手当など、名称を問わず毎月固定的に支払われる手当
  • 通勤手当、家族手当、住宅手当
  • 精皆勤手当
  • 賞与(ボーナス)など、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
  • 結婚手当など、臨時に支払われる賃金

 ステップ2: 給与形態別に時間給へ換算する

最低賃金は「時間あたりの金額」で比較するのが原則です。給与が時給制以外の場合は、必ず時間給に換算して確認しなければなりません。

時給制の場合

時給で給与を定めている場合は、その金額を勤務地の最低賃金額と直接比較します。例:時給1,200円 の場合
→ そのまま最低賃金額と比較。

日給制の場合

日給で給与を定めている場合は、日給を1日の所定労働時間で割って時間額を算出します。

計算式:時間額 = 日給 ÷ 1日の所定労働時間

例:日給9,600円、1日の所定労働時間が8時間の場合

→ 9,600円 ÷ 8時間 = 1,200円/時

月給制の場合

月給制の場合は、月給から最低賃金の計算に含めない賃金を差し引き、その金額を「1か月の平均所定労働時間」で割って時間額を算出します。

計算式:時間額 = 月給(対象賃金のみ) ÷ 1か月の平均所定労働時間

※1か月の平均所定労働時間の計算式: (365日 – 年間所定休日日数) × 1日の所定労働時間 ÷ 12ヶ月

例:月給20万円(通勤手当1万円含む)、年間休日125日、1日8時間労働の場合

最低賃金の対象となる月給20万円 – 1万円 = 19万円
1か月の平均所定労働時間(365日 – 125日)× 8時間 ÷ 12ヶ月 ≒ 160時間
時間額19万円 ÷ 160時間 = 1,187.5円/時

月給制の最低賃金の計算は、1か月の平均所定労働時間を算出する必要があり、手計算では間違いやすいポイントです。

そこで、自社の給与が最低賃金をクリアしているか、手軽に確認できる無料のチェックツールをご用意しました。

最新の全国47都道府県の最低賃金に対応しており、月給額や労働時間などを入力するだけで、ご自身の会社の時間単価が自動で計算され、最低賃金と比較した結果がすぐに分かります。計算ミスがないか、最終確認にぜひご活用ください。

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【要注意】固定残業代(みなし残業代)の罠

固定残業代を導入している場合、その計算には細心の注意が必要です。

「基本給と固定残業代の合計額」で最低賃金を判断するのではなく、固定残業代を除いた基本給部分だけで最低賃金を上回っているかを確認しなければなりません 。

この基本給部分が最低賃金を下回っていると、最低賃金法違反と、固定残業代制度自体の無効(未払い残業代の発生)という、2つの重大な違反が同時に発生する恐れがあります。

固定残業代を適正に運用するには、給与総額の中から「通常の労働時間の対価となる部分(基本給)」と「時間外労働の対価となる部分(固定残業代)」を、計算上明確に分ける必要があります。

こちらの計算ツールは、給与総額や固定残業時間などを入力するだけで、この2つの部分を自動で算出します。

算出された基本給部分を時給換算すれば、最低賃金をクリアしているかを正確に確認できます。自社の固定残業代の設定が適法かどうかのチェックに、ぜひお役立てください。

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最低賃金に関する特例と適用除外

最低賃金は原則としてすべての労働者に適用されますが、法律では例外的なケースが2つ定められています。一つは「特定最低賃金の適用除外」、もう一つは「最低賃金の減額特例」です。

ただし、これらは事業主が自由に判断できるものではなく、法律で定められた厳格な要件を満たす必要があります。特に減額特例には行政の許可が不可欠であり、ルールを誤解していると意図せず法律違反を犯すリスクがあるため注意が必要です。

特定最低賃金の適用が除外される労働者

特定の産業を対象とする「特定(産業別)最低賃金」は、以下に該当する労働者には適用されません。

  • 18歳未満または65歳以上の者
  • 雇入れ後一定期間未満で、技能習得中の者
  • 清掃や片付けといった軽易な業務に主として従事する者

【最重要ポイント】 これらの労働者には特定最低賃金は適用されませんが、

「地域別最低賃金」は変わらず適用されます。 したがって、「高校生アルバイトだから最低賃金以下で良い」といった解釈は絶対にできません。

最低賃金の減額特例が認められるケース

事業主が都道府県労働局長の許可を受けた場合に限り、例外的に地域別最低賃金を下回る賃金で労働者を雇用することが認められています。 これを「最低賃金の減額特例」といいます。

この特例は、労働能力が他の労働者と比べて低いなど、一律に最低賃金を適用するとかえって雇用機会を狭めてしまうおそれがある、以下のような労働者の雇用を促進するための制度です。

  • 精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者
  • 試用期間中の者
  • 法律に基づき認定された職業訓練を受けている者
  • 軽易な業務に従事する者
  • 断続的労働に従事する者(監視業務など)

この特例を受けるためには、事業主が「減額特例許可申請書」を所轄の労働基準監督署経由で都道府県労働局長に提出し、許可を得る必要があります。会社が許可なく一方的に判断して減額することは、明確な法律違反となります。

最低賃金の注意点について

最低賃金を守るためには、制度の基本を理解するだけでなく、実務上の落とし穴を回避することが重要です。ここでは、特に経営者や人事担当者が見落としやすい3つの注意点を解説します。

最低賃金改定時の社内告知は義務がある

使用者は、毎年10月前後に行われる最低賃金の改定内容を、従業員に周知する義務を負っています。これは最低賃金法第8条で定められた、事業主の法的な義務です。

具体的な周知方法としては、以下のいずれかの方法を用いる必要があります。

  • 事業場内の見やすい場所(休憩室や掲示板など)に常時掲示する
  • 全従業員に書面を交付する
  • 就業規則や賃金規程に最新の最低賃金額を記載し、周知する

年俸制の場合は年俸を「時間給」に正しく換算する

年俸制を採用していても、その時間単価が最低賃金を下回れば法律違反になります。年俸を時間給に換算する際は、以下の手順で正確に計算する必要があります。

  1. 年俸額から最低賃金の計算に含めない賃金(賞与、通勤手当、固定残業代など)をすべて除外する。
  2. 年間の総所定労働時間を算出する。
    計算式:(365日 – 年間所定休日日数) × 1日の所定労働時間
  3. ①の金額を②の時間で割り、時間単価を算出する。

この計算を誤ると、意図せず最低賃金違反となるリスクがあるため、年俸制を導入している企業は特に注意が必要です。

遡及支払いの時効は原則3年(将来的には5年)

最低賃金違反が発覚した場合、未払い賃金の遡及支払い義務が生じます。2020年4月1日に施行された改正労働基準法により、賃金請求権の時効は、当面の間3年に延長されています(将来的には5年に延長予定) 。

これは、労働者が過去3年分の未払い賃金を請求できる権利があることを意味します 。例えば、3年間にわたって時給が50円不足していた場合、従業員1人あたり数十万円単位の追加支払いが発生することもあります。

遡及支払いは企業の資金繰りに大きな影響を与える可能性があるため、日々の正確な賃金計算が極めて重要です。

最低賃金のことでよくあるQ&A

最低賃金に関して実務担当者から特に多く寄せられる質問と、その回答をまとめています。

試用期間中の従業員の最低賃金は減額できますか?

事業主の判断だけで一方的に減額することはできません。

試用期間中の従業員であっても、原則として最低賃金が適用されます 。ただし、例外として、都道府県労働局長の許可を受けた場合に限り、最低賃金を最大20%まで減額できる「減額の特例」制度があります 。

この特例は、正式な申請手続きを経て許可を得て初めて適用できるものであり、許可なく最低賃金を下回る賃金を設定すれば法律違反となります 。

歩合給やインセンティブ給の場合はどう計算する?

歩合給やインセンティブ給であっても、最低賃金法は適用されます。

計算方法は、その月に支払われた歩合給の総額を、その月の総労働時間で割って時間額を算出します 。この時間額が最低賃金を下回っていた場合は、事業主はその差額分を支払う義務があります 。

また、労働基準法では、出来高払制の労働者に対して、労働時間に応じた一定額の賃金(保障給)を保障することが定められています。

業務委託契約の相手にも最低賃金は適用される?

原則として適用されません。

最低賃金法が適用されるのは、労働基準法上の「労働者」に限られます。個人事業主として業務委託契約を締結している相手方は、原則として「労働者」に該当しないため、最低賃金法の適用対象外となります。

ただし、契約形式が「業務委託」であっても、働き方の実態として会社から具体的な指揮命令を受けているなど、実質的に「労働者」であると判断された場合は、最低賃金法が適用される可能性があります。

従業員との合意があれば最低賃金を下回っても良い?

最低賃金法は、当事者間の合意よりも優先される法律です。たとえ労働者が個別に納得し合意したとしても、最低賃金額に満たない賃金に関する取り決めは法律上無効となります 。その場合、契約内容は自動的に最低賃金額で契約したものとみなされます。

派遣社員の最低賃金は、派遣元と派遣先のどちらが適用?

実際に就業している「派遣先」の事業所の所在地がある都道府県の最低賃金が適用されます 。

例えば、派遣元の会社(派遣会社)が東京都にあっても、派遣されて働く事業所が神奈川県にある場合は、神奈川県の最低賃金が適用されます。

派遣労働者を受け入れる派遣先の企業側も、その労働者に支払われる賃金が自社の地域の最低賃金を下回っていないかを確認する責任があります。

コンプライアンス遵守は、企業の成長への第一歩

最低賃金の遵守は、すべての事業主に課せられた法的な義務であり、「知らなかった」では済まされない重要な経営課題です 。違反が発覚した場合は、罰金や過去の未払い賃金の遡及支払いだけでなく、企業の社会的信用の失墜といった、回復が困難なリスクを伴います 。

最低賃金の引き上げは、人件費の増加という課題をもたらしますが、これを機に生産性向上に取り組むチャンスと捉えることもできます。

国は、賃上げに取り組む中小企業を支援するため、「業務改善助成金(令和7年度業務改善助成金のご案内)」などの支援策を用意しています 。この助成金は、生産性向上のための設備投資(POSレジシステムの導入など)を行い、事業場内最低賃金を引き上げた場合に、その費用の一部を助成する制度です 。

最低賃金の計算や各種手当の判断、助成金の活用など、人事労務管理には専門的な知識が不可欠です。

もし手続きに不安がある場合や、自社の賃金体系にリスクがないか専門家の視点で確認したい場合は、社労士への相談を検討しましょう。専門家を活用することで、法改正に迅速に対応し、安心して事業運営に集中できる体制を整えることができます。

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生島社会保険労務士
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