従業員が10人未満の会社では、法律上、就業規則の作成義務はありません。しかし、就業規則がないことで労働トラブルが発生した場合の対応が難しくなり、職場の秩序が乱れる原因にもなります。
また、従業員数が10人以上になれば、就業規則の作成が義務化されるため、早めに整備しておくことで法的リスクの回避や職場環境の改善につながります。
この記事では、従業員10人未満の会社における就業規則作成のメリットや具体的な作成の流れ、注意点について詳しく解説します。また、就業規則を作成しない場合のデメリットにも触れながら、なぜ小規模企業こそ必要なのかをお伝えします。
就業規則は、会社と従業員双方の安心と信頼を守る大切なルールブックです。ぜひ、この記事を参考にして前向きに作成を検討してみてください。
生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
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従業員10人未満の会社では、就業規則の作成や労働基準監督署への届出の義務はありません。一方、常時10人以上の従業員を雇用している会社では、労働基準法第89条に基づき、就業規則の作成と届出が義務づけられています。
ただし、従業員が10人未満の会社においても、就業規則の作成は強く推奨されています。その理由は、就業規則が以下のような3つの重要な役割を果たすからです。
■就業規則の3つの役割
- 経営者と会社を守る
従業員との間でトラブルが発生した際、就業規則は解決のためのルールや根拠を提示します。ルールがない状況で減給や会社都合解雇は原則としてできません。仮に怠慢な社員がいたとしても、就業規則がない状況では罰することが難しくなります。 - 法律上のリスクを軽減する
解雇や労働時間、ハラスメント対応など、トラブルが法的問題に発展する場合でも、法律に基づいた就業規則があり、社員に周知していれば、短絡的なリスクを最小限に抑えられます。 - 労務管理に関する業務効率化
従業員が増えた際に、労働条件や運用ルールが明確化されることで、労務管理がスムーズになります。
なお、就業規則を作成するメリットについては、後ほど「従業員10人未満の会社で就業規則を作成するメリット」の項目で詳しく解説します。
また、従業員数が10人以上に増加した場合、就業規則の作成および届出が義務となるため、あらかじめ整備しておくことで、トラブル防止や会社運営の効率化に役立ちます。
従業員10人未満の会社の就業規則の効力について
従業員10人未満の会社が自主的に作成した就業規則は、従業員に適切に周知されていれば、従業員10人以上の場合と同様に法的な効力を持ちます。この周知義務は労働基準法第106条で規定されています。
ただし、従業員への周知が不十分な場合、就業規則の内容が法的に認められないません。そのため、周知の方法や手続きには十分な注意が必要です。
また、従業員10人未満の会社では労働基準監督署への届出義務はありませんが、自主的に届出を行うことも可能です。届出を行うことで、外部の専門機関による確認が得られ、就業規則の信頼性が高まります。
就業規則の作成要件における常時10人以上の数え方・範囲
労働基準法で義務付けられる「常時10人以上」の従業員数には、正社員だけでなく、パートやアルバイトも含まれます。具体的な範囲を正確に理解しておくことで、作成義務の発生を適切に判断できます。
「常時10人以上」とは、会社と直接雇用契約を結んでいる従業員の総数を指します。この中には正社員だけでなく、パートタイム労働者やアルバイトなどの非正規雇用者も含まれます。雇用形態や勤務時間に関係なく、契約がある限りカウントの対象となります。
一方、派遣社員は派遣元との雇用契約に基づいて働いているため、派遣先の従業員数には含まれません。同様に、役員や外注契約のスタッフなど、雇用契約を結んでいない人もカウント対象外です。
■具体例
◯ 対象になるケース
正社員6名、アルバイト2名、パート2名の場合、合計10名となり、就業規則の作成が義務となります。また、短時間勤務や週2日勤務の従業員も、雇用契約がある限りカウントされます。
✕ 対象外のケース
役員2名、正社員6名、派遣社員2名の場合、役員と派遣社員はカウント対象外のため、合計は6名となり、就業規則の作成義務はありません。
このように、従業員数の計算では、雇用契約の有無が重要なポイントです。就業規則の作成義務があるかどうかを判断する際は、正確なカウントを心がけましょう。
就業規則の作成義務は、会社全体の従業員数ではなく、「事業所単位」で判断されます。これは、労働基準法に基づき、各事業所が独立して従業員数を計算する必要があるためです。
例えば、ある会社の本社に15人、支店に8人の従業員が勤務している場合、本社は10人以上となるため、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が必要です。一方、支店は10人未満であるため、就業規則の作成義務はありません。
また、事業所単位で判断する際は、正確な従業員数を把握することが重要です。特に、派遣社員や役員などが含まれるかどうかの確認も必要です。このように、各事業所ごとの従業員数を正確に数えることで、就業規則の作成義務を適切に判断できます。
従業員10人未満の会社には、法的に就業規則を作成する義務はありません。しかし、事業運営の効率化や従業員との信頼関係を築くために、就業規則を整備しておくことは非常に有効です。
10人未満の会社で就業規則を作成する主なメリットは以下の5つです。
- 労働トラブルを未然に防ぐことができる
- 会社・職場環境の秩序を維持できる
- 従業員のモチベーションと信頼関係の向上
- 就業規則を整備することで助成金の申請が可能になる
- 規定によっては節税対策になる
以下では、これらのメリットについて具体的に解説します
労働トラブルを未然に防ぐことができる
就業規則を整備することで、労働条件や労務管理におけるルールが明確になり、トラブルを未然に防ぐことが可能です。特に、解雇や懲戒処分、無断欠勤時の対応、給与控除のルールが曖昧だと、従業員との間で意見が対立し、問題が大きくなるリスクがあります。
具体的に想定されるトラブル例
- 業務命令を拒否する従業員への対応
- 無断欠勤が続いた従業員の処遇
- 解雇処分に関する不当性の主張
- 懲戒処分の基準や判断の不透明さ
- ハラスメント行為への対応
例えば、「ハラスメント行為の事実が認められた場合は解雇の対象とする」と就業規則に明記しておけば、万が一ハラスメントが発生しても、速やかにルールに基づいた対処が可能です。このように、就業規則があればトラブル発生時に解決の指針となり、問題を早期に収束させることができます。
また、解雇や懲戒処分では「客観的な理由」や「社会通念上の妥当性」が求められます。就業規則に基準を明文化しておくことで、法的な根拠を示すことができ、不当性を主張されるリスクを軽減します。
さらに、ルールが明確であることで従業員は安心して働くことができ、会社側も場当たり的な対応を防ぐことができます。結果として、職場の秩序維持とスムーズな労務管理につながり、経営者の負担も大きく軽減されるでしょう。
会社・職場環境の秩序を維持できる
就業規則を整備することで、会社全体に統一的なルールが設定され、職場の秩序を保つことができます。労働条件や勤務態度、服装規程、ハラスメント対策など、明確な規範を示すことで従業員間の意識の差を埋め、健全な職場環境を実現します。また、残業などが生じる場合は36協定の申請は当然に行う必要がありますが、就業規則には割増賃金の率やどういった場合に残業代が支払われるのかを明確に定めておく必要があります。
具体的な役割と効果
- 従業員間の摩擦を減らす
就業規則に基づいて企業のルールや文化が明示されていれば、新しい従業員の入社時にも速やかに企業風土を理解してもらえます。これにより、従業員同士の意識や行動の違いによる摩擦を最小限に抑えられます。 - 服装や勤務態度の統一
例えば、就業規則に「業務にふさわしい服装を着用すること」と明記しておけば、露出の多い服装や業務に適さない格好を未然に防ぐことができます。もしルールに反する服装で出勤した場合でも、就業規則に基づき適切に注意・指導が可能です。 - ハラスメントの予防と対処
就業規則には「パワーハラスメントやセクシャルハラスメント行為が確認された場合、降格や懲戒処分の対象とする」などの規定を盛り込むことができます。これにより、ハラスメント行為の抑止力となるほか、万が一発生した場合の対応も明確化されます。
このように就業規則は、会社の規律を守るための指針として機能し、従業員間の公平性を確保しつつ、健全な職場環境を維持するために欠かせない役割を果たします。結果として、従業員が安心して働ける環境が整い、企業全体の生産性向上にもつながるでしょう。
従業員のモチベーションと信頼関係の向上
就業規則を整備することで、労働条件や福利厚生が明確に示され、従業員は自分の権利や働く環境について安心感を持つことができます。ルールが一貫して適用されることで、不公平感が解消され、職場全体の信頼関係が強化されるため、モチベーションアップにもつながります。
具体的な効果
- 安心して働ける環境の提供
例えば、慶弔休暇や特別休暇などの取得条件を明確に定めることで、従業員は「休んでも問題ない」という安心感を持つことができます。これは、職場への定着率向上にも効果的です。 - 不満や不公平感の解消
パートやアルバイト従業員にも公平なルールを適用することで、不公平な取り扱いによる不満が解消され、職場全体の士気が高まります。特に、小規模な企業ではルールのあいまいさがトラブルの原因となりやすいため、明文化された基準は従業員の働きやすさを向上させます。
具体例
- 慶弔休暇のルールを設定
「結婚や家族の不幸があった場合、正社員だけでなくパート従業員にも慶弔休暇を適用する」と定めれば、全従業員に公平な環境を提供できます。 - 昇給や評価基準の透明化
就業規則で評価基準を明確にすることで、従業員は自分の努力が適切に評価されるという信頼感を持ち、仕事への意欲が高まります。
このように、就業規則を整備することで職場全体の信頼関係が強まり、従業員のモチベーション維持・向上につながります。結果として、離職率の低下や生産性向上にも寄与するため、会社側にとっても大きなメリットとなるでしょう。
就業規則を整備することで助成金の申請が可能になる
就業規則を整備することで、キャリアアップ助成金や働き方改革推進支援助成金など、各種助成金の申請がしやすくなります。多くの助成金制度では、申請要件として「就業規則の整備」が条件となる場合があるため、事前に準備しておくことが重要です。
例えば、キャリアアップ助成金を活用して非正規従業員を正社員化する場合、就業規則に「正社員転換に関する規定」が必要です。適切な規定が整備されていなければ、助成金の対象外となる可能性があります。
キャリアアップ助成金の申請に必要な就業規則とは?規定例や注意点を解説
一方、働き方改革推進支援助成金では、年次有給休暇の計画的付与に関する規定が就業規則に明記されていることが条件となることがあります。具体的な取得方法や時期まで明記されていないと、申請が認められないケースもあるため注意が必要です。
助成金の申請を逃さないためのポイント
- 申請要件に合った就業規則を整備する
漠然と就業規則を作成するのではなく、対象となる助成金の内容に沿った規定を設けることが重要です。 - 早めの準備が成功のカギ
助成金の申請には手続きや書類の整備が必要となるため、就業規則を早い段階から整備しておくことで、申請の際に慌てることなくスムーズに対応できます。
具体例
- キャリアアップ助成金
有期雇用から無期雇用への転換制度を就業規則に明記し、要件に沿った形で転換を実施することで、助成金の対象となります。 - 働き方改革推進支援助成金
就業規則に「年次有給休暇の計画的付与」を明記し、具体的な取得日程まで設定しておくことが条件です。
就業規則がない場合、助成金の申請に間に合わないケースも考えられます。そのため、任意の段階から就業規則を整備しておくことで、会社として受けられる支援の幅が広がり、従業員の待遇改善や事業拡大の支えにもなります。
規定によっては節税対策になる
就業規則に「出張旅費規程」や「手当規程」などを明記することで、経営者や従業員にとって節税対策になることがあります。これらの規定を正しく整備することで、出張旅費や手当を給与扱いとせず、非課税として経費計上することが可能になります。
例えば、出張旅費規程を設けることで、業務上の出張にかかる交通費や宿泊費、日当などが経費として認められます。
詳しくは下記の記事で専門家である税理士が解説しています。
就業規則は、会社の労働条件や運用ルールを明確に示す重要な文書です。特に小規模企業では法的義務がなくても、就業規則を整備しないことで、さまざまなデメリットが生じる可能性があります。
就業規則を作成しない場合の主なデメリットは以下のとおりです。
- 労働トラブルの解決手段・根拠がなくなる
- 従業員の不安や不信感を招く
- 会社・職場環境の秩序維持ができなくなる
- 従業員が10人以上に増えたら就業規則の作成が急務になる
以下では、就業規則がないことによる主なデメリットについて詳しく解説します。
労働トラブルの解決手段・根拠がなくなる
就業規則がない場合、解雇や懲戒処分、労働条件に関するトラブルが発生しても、会社側の対応を裏付ける明確な根拠が存在しません。その結果、トラブルが水掛け論に発展し、最悪の場合は裁判に発展するリスクが高まります。
たとえば、以下のようなケースが考えられます。
◯解雇処分
問題行動を起こした従業員を解雇しようとしても、解雇の「理由」や「基準」が示されていなければ、不当解雇だと主張される可能性があります。労働契約法第15条では、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の妥当性」が求められるため、就業規則に解雇の事由を明確に定めておくことが重要です。
◯懲戒処分
無断欠勤や業務命令違反などに対して懲戒処分を検討する場合も、就業規則がないと処分の根拠が不明確となり、従業員から異議を申し立てられることがあります。
さらに、未払い残業代や有給休暇の取得に関するトラブルも年々増加しています。就業規則がないと、労働条件や賃金計算のルールが曖昧なままになり、従業員とのトラブルが生じやすくなります。
就業規則は、これらのトラブルを未然に防ぎ、発生した場合には迅速かつ適切に対処するための指針として機能します。あらかじめ労働条件や職場のルールを明確に定めておくことで、経営者・従業員双方の負担を軽減し、問題解決の手段を確保することができます。
特に小規模企業においては、トラブル対応にかかる時間やコストが経営の大きな負担となるため、早めに就業規則を整備しておくことが望ましいでしょう。
従業員の不安や不信感を招く
ルールや労働条件が明確でない職場では、従業員の不安や不信感が生まれやすくなります。
例えば、給与控除や休暇取得の基準が曖昧だと、「上司の判断次第でルールが変わるのではないか」と感じ、従業員間の不公平感や不満が広がる原因となります。
就業規則が存在しない場合、現場の判断が場当たり的になりやすく、「上司の好みや気分で決められている」と誤解されることもあるでしょう。このような状況では、従業員が理不尽さを感じ、信頼関係が損なわれる可能性が高まります。
一方、就業規則を作成し、労働条件や規律を明文化しておけば、すべての従業員が平等かつ一貫性のあるルールの下で働くことができます。例えば、休暇取得の基準や遅刻・欠勤時の対応が就業規則に明確に記載されていれば、従業員は安心して業務に専念でき、不公平感が軽減されます。
さらに、新たに入社する従業員に対しても、就業規則を通じて会社の方針やルールを示すことができるため、早期に職場に適応しやすくなります。結果として、従業員との信頼関係が強化され、健全な職場環境が維持されるでしょう。
会社・職場環境の秩序維持ができなくなる
就業規則がない場合、従業員の行動や勤務態度に対する基準が不明確となり、職場の秩序が乱れる可能性があります。例えば、無断欠勤や業務命令の拒否、勤務態度の不良などが発生しても、具体的なルールがなければ適切に対応できず、他の従業員に不満や混乱を招く恐れがあります。
就業規則が存在すれば、あらかじめ違反行為とその処分基準を明記しておくことができるため、問題行動に対しても公平かつ一貫した対応が可能です。
例えば、「無断欠勤が3日以上続いた場合は懲戒処分の対象とする」などの具体的な規定があれば、問題が発生しても迅速に対処でき、他の従業員への悪影響を最小限に抑えられます。
また、就業規則は労働条件や職場内の規律だけでなく、育児や介護休暇、ハラスメント防止策といった従業員を支える制度も明確に示す役割を果たします。これにより、従業員は会社の方針やルールを理解し、安心して働くことができます。
結果として、職場全体の秩序が保たれ、従業員の信頼感やモチベーションも向上します。就業規則がないことで、場当たり的な対応や不公平な判断が生じると、企業の信用や職場環境に悪影響を及ぼすため、秩序維持のためにも就業規則の整備は欠かせません。
従業員が10人以上に増えたら就業規則の作成が急務になる
労働基準法第89条では、常時10人以上の従業員を雇用する事業所に対して、就業規則の作成および労働基準監督署への届出が義務付けられています。
しかし、就業規則が未整備の状態で従業員数が10人を超えると、法律に基づいて速やかに作成する必要があるため、内容が不十分になったり、作業が後手に回るリスクがあります。例えば、新規採用や業務拡大のタイミングでは、手続きや業務対応が多忙になるため、就業規則の作成に割く時間やリソースが限られてしまうでしょう。
また、就業規則を作成していなかった場合、労働基準法違反と見なされ、30万円以下の罰金が科せられる可能性もあります。このような法的リスクを避けるためにも、従業員が10人未満の段階から就業規則を整備しておくことが重要です。
早い段階で就業規則を作成しておけば、従業員が増えた際にもスムーズに対応でき、法令違反の心配がなくなります。さらに、会社の成長に合わせて内容を見直し、柔軟に運用する余裕も生まれるでしょう。
従業員が10人以上に達してから慌てて作成するのではなく、将来の事業拡大を見据えて、早期に就業規則を整備しておくことが健全な企業運営の鍵となります。
就業規則は、会社のルールや労働条件を定めた重要な文書です。その作成には、法令遵守だけでなく、従業員との合意形成や適切な運用が欠かせません。
就業規則を作成する流れは次のとおり、大きく5つのステップに分けられます。
- 自社の労働環境・条件(ルール)と整合性のとれる就業規則案を作成する
- 従業員の過半数から意見を聴き、意見書を作成する
- 労働基準監督署長に届け出をする
- 従業員に就業規則を周知する
- 就業規則を作成したあとも定期的に見直しをする
以下では、各ステップについて順を追って解説します。
自社の労働環境・条件(ルール)と整合性のとれる就業規則案を作成する
就業規則の作成において最初に行うべきことは、自社の労働環境や労働条件に合わせた就業規則案を作成することです。就業規則は労働基準法をはじめとする関連法令を遵守しつつ、会社の実態に即した内容であることが求められます。
特に注意したいのは、雛形(テンプレート)を使う場合です。 雛形は手軽に就業規則を作成できるため便利ですが、そのまま使用するのではなく、自社に合った内容にカスタマイズすることが必要です。
雛形をそのまま採用すると、会社の業務実態や従業員の働き方に合わない部分が出てきてしまい、かえってトラブルを招く原因にもなりかねません。
例えば以下の点を意識して、自社に合わせた内容を明確にしましょう。
- 労働時間・休憩時間・休日の取り扱い
- 賃金の計算方法や支払い方法、昇給・賞与の基準
- 休職や退職、解雇に関するルール
- パート・アルバイトなど雇用形態ごとの規定
自社独自のルールや、トラブル予防策も盛り込むことで、実務に即した就業規則になります。
就業規則の内容が労働基準法や関連法令に違反している場合、その規定は無効とされる可能性があります。そのため、就業規則案の作成段階では、社会保険労務士など専門家に相談することが重要です。
専門家のアドバイスを受けながら作成することで、法令違反のリスクを回避し、自社の業務実態に即した就業規則を整備することができます。また、会社の成長や従業員の増加を見越し、柔軟性を持たせた内容にすることもポイントです。
適切な就業規則案を作成することで、従業員が安心して働ける環境が整うとともに、企業側も法的リスクを軽減し、労務管理を効率的に行えるようになります。最初のステップとして、現状の労働条件を整理し、自社に合ったルールを明確に定めましょう。
従業員の過半数から意見を聴き、意見書を作成する
就業規則案が完成したら、労働基準法第90条に基づき、従業員の過半数代表者から意見を聴取し、意見書を作成する必要があります。この手続きは、就業規則の透明性を確保し、従業員側に発言の機会を与えるために定められています。
従業員が10人未満の場合、法的には就業規則の作成および届出義務はありませんが、任意で労働基準監督署に届出を行う際には、従業員の過半数代表者の意見書の作成が必須です。
意見書には、以下の内容を記載します。
- 就業規則案に対する従業員の意見の概要
- 賛否の内容
意見書作成のポイント
- 従業員代表者の選出
労働組合がない場合は、投票や挙手によって過半数の支持を得た代表者を選出する必要があります。 - 意見聴取は義務だが、反映は任意
就業規則に従業員の意見を反映する義務はありませんが、意見を聴く手続きを経なければ、届出が無効になる恐れがあります。
労働基準監督署長に届け出をする
従業員から意見を聴取し意見書が完成したら、所轄の労働基準監督署へ就業規則を届け出ます。労働基準法第89条では、常時10人以上の従業員を雇用している事業所に対し、就業規則の作成および届出が義務付けられています。
提出する書類は以下のとおりです。
- 就業規則本体
- 従業員の過半数代表者からの意見書
就業規則の届出義務に違反した場合、労働基準法第120条に基づき、30万円以下の罰金が科される可能性があります。従業員数が10人以上になった際は、必ず速やかに届出を行いましょう。
従業員10人未満の会社では、就業規則の届出は法的義務ではありません。しかし、任意で就業規則を労働基準監督署に届け出ることは可能です。
届出を行うことで、就業規則の内容が正式に認められ、法的な効力をより強固にする効果が期待できます。
従業員に就業規則に周知する
就業規則は作成して終わりではなく、従業員に対して確実に周知することが重要です。労働基準法第106条および労働基準法施行規則第52条の2では、就業規則の周知が義務付けられており、周知が徹底されていない場合は就業規則の効力が認められない可能性があります。
就業規則の周知には、以下の手段が労働基準法施行規則で定められています。
- 職場内に掲示・備え付ける
例:見やすい場所に常時掲示、共用スペースに保管しておく - 書面を配布する
就業規則を印刷し、全従業員に直接配布する - 電子的に公開する
社内SNSやクラウドシステムを利用し、従業員がいつでも閲覧できるようにする
これらの方法を用いることで、全従業員が内容を確認できる状態にしておく必要があります。
就業規則の内容が従業員に周知されていない場合、次のような問題が発生します。
- 効力が認められない
就業規則に基づく懲戒処分や労働条件の変更が無効とされるリスクがあります。 - トラブルの原因になる
労働条件や勤務ルールが伝わっていないことで、従業員との間でトラブルが生じやすくなります。
新たに就業規則を作成・変更した場合は、従業員に迅速かつ確実に内容を周知することが求められます。従業員にとっての「働くルール」が明確になることで、安心して働ける環境づくりにつながります。
就業規則を労働基準監督署に届け出た後は、必ず従業員に周知を行い、会社全体で共有・遵守されるよう徹底しましょう。
就業規則を作成したあとも定期的に見直しをする
就業規則は一度作成すれば終わりではなく、定期的に見直しを行うことが重要です。法律の改正や社内の状況変化に合わせて更新し、現状に即した内容を維持することで、就業規則の実効性と信頼性が保たれます。
見直しが推奨される主なタイミングは以下のとおりです。
- 法令改正や新しい助成金制度が施行されたとき
- 新たな福利厚生や社内制度を導入したとき
- 従業員からの意見や要望が寄せられたとき
- 従業員数の増加や組織変更があったとき
例えば、労働基準法や助成金制度の改正を見逃し、就業規則を更新しないままでいると、知らないうちに法令違反となるリスクがあります。しかし、定期的な見直しを行うことで、法改正にも迅速に対応し、法的リスクを回避できます。
また、従業員の意見を取り入れたり、新しい制度を反映することで、従業員の安心感が向上し、職場全体のモチベーションや業務効率の改善につながります。
変更が生じた場合は、従業員代表者の意見を再度聴取し、労働基準監督署への変更届を忘れずに提出しましょう。これにより、常に最新のルールを従業員に周知し、信頼される就業規則を維持できます。
就業規則を作成する際には、法令遵守はもちろん、会社の実情に合わせた運用のしやすさや、従業員の働きやすさを考慮することが大切です。これにより、法的リスクを回避しながら、職場の秩序を維持し、従業員との信頼関係を築くことができます。
就業規則作成における主な注意点は以下の3つです。
- 法令を遵守して作成する
- すべての雇用形態(正社員・非正規・パートなど)に対応できる規則を作成する
- 専門家である社労士に相談しながら作成する
法令を遵守して作成する
就業規則を作成する際は、労働基準法や関連法令に基づいて作成することが必須です。法令に違反する規定が含まれている場合、その部分は無効とされ、従業員とのトラブル発生時に企業側が不利になります。
例えば、以下の項目には特に注意が必要です:
◯労働時間や休憩時間が法定基準を満たしているか
例:労働時間が6時間を超えた場合、少なくとも45分の休憩を与える必要があります。これに反した就業規則は労働基準法第34条に違反し無効です。
◯賃金や残業代の支払い方法が適正か
例:残業代の未払いや固定残業代の明確な記載がないと、従業員とのトラブルの原因となります。
◯解雇や懲戒処分の基準が合理的かつ具体的に記載されているか
例:解雇の理由が曖昧だと「不当解雇」とみなされ、会社側が法的責任を問われる可能性があります。
労働法や助成金制度は頻繁に改正されるため、就業規則をそのまま放置することは危険です。
法令改正があった際には、速やかに就業規則を見直し、現行法に適合させましょう。これにより、法的リスクを回避し、従業員とのトラブルを未然に防ぐことが可能です。
また、残業が発生する場合には36(サブロク)協定の申請も忘れないようにしてください。
下の記事で36協定の基本からわかりやすく解説しています。
すべての雇用形態(正社員・非正規・パートなど)に対応できる規則を作成する
就業規則は正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト、契約社員などの非正規雇用者にも適用できる内容で作成することが重要です。
雇用形態ごとに適切な労働条件や権利を明確に示し、不公平感を解消することで、従業員の信頼向上や職場定着率の改善が期待できます。
就業規則の適用範囲は、会社と直接雇用契約を結ぶすべての従業員に及びます。
■就業規則の適用範囲
- 対象者:正社員、契約社員、パート、アルバイト
- 対象外:派遣労働者や外部委託のスタッフ(会社との雇用契約がないため)
トラブルを未然に防ぐために、以下の項目を雇用形態ごとに明確に設定しましょう。
■雇用形態ごとに明確にすべき項目
- 労働時間・休憩時間・休日
例:パートやアルバイトの場合、シフト制を採用する旨を記載。 - 有給休暇や福利厚生の適用範囲
例:正社員とパートで有給取得の基準を分ける場合でも、合理的な理由と基準を明示。 - 賃金体系・昇給・賞与の基準
例:非正規雇用者に対して昇給制度がない場合は、その理由を記載し明確に伝える。
正社員とは異なる労働条件を設定する場合は、「パートタイム労働者専用の就業規則」など、別途の就業規則を作成することが推奨されます。この際、以下2点を主たる就業規則に明記する必要があります。
- 別規則が適用される労働者には主たる就業規則が適用されないこと
- 別規則を別途定めていること
雇用形態ごとにルールを明確に設定することは重要ですが、不合理な待遇差がないよう注意しましょう。特に同一労働同一賃金の原則に基づき、待遇の違いが発生する場合には合理的な理由を示し、従業員に説明できる状態にしておくことが求められます。
すべての雇用形態に配慮した就業規則は、従業員の安心感や満足度を高め、健全な職場環境の維持につながります。
専門家である社労士に相談しながら作成する
連法令に違反している場合、その部分は無効とされる可能性があります。社労士は最新の法令に精通しているため、法令遵守を徹底し、適切な内容を作成することができます。
2. 助成金申請要件を満たす内容を盛り込める
助成金申請には、就業規則の整備が要件となるケースが多くあります。例えば、キャリアアップ助成金や働き方改革推進助成金では、特定のルールが就業規則に明記されていることが条件です。社労士に相談することで、助成金の対象となる項目を確実に反映した就業規則を作成できます。
3. トラブルに強い実践的な内容に仕上げられる
解雇や懲戒処分、ハラスメント防止策などの項目は、労働トラブルが発生した際の判断基準として重要です。社労士はトラブルを未然に防ぐための実践的な規定を提案し、会社の実情に即した内容に整えてくれます。
就業規則は一度作成すれば終わりではなく、定期的な見直しが必要です。法改正や組織変更があった際にも、社労士のサポートを受けることで、効率的かつ確実に対応できるでしょう。
適切な就業規則の作成は、従業員との信頼関係を築く基盤となり、健全な職場環境を維持するための重要な要素です。 社労士と連携しながら就業規則を整備することで、法令違反のリスクを回避し、労働トラブルを未然に防ぎ、従業員が安心して働ける環境を実現することができます。
【スポット作成】就業規則の作成は義務?就業規則の必要性と相場について
就業規則について、よくある疑問にお答えします。
就業規則は役員にも適用される?
就業規則は原則として役員には適用されません。
就業規則は、労働基準法に基づき、会社と雇用契約を結んでいる労働者(正社員・契約社員・パート・アルバイトなど)に適用されるものです。役員は会社との関係が「業務委任契約」となるため、労働者には該当しません。そのため、就業規則の適用範囲外となります。
ただし、名ばかり役員のように、実質的には労働者として働いている場合は労働基準法が適用される可能性もあります。役員に対するルールを定めたい場合は、役員向けの「役員規程」などを別途作成することが推奨されます。
従業員10人未満でも就業規則を変更したら届出は必要?
従業員が10人未満の場合、就業規則の届出は法的には必要ありません。
労働基準法第89条では、「常時10人以上の従業員を雇用する事業場」に対し、就業規則の作成および変更時の届出が義務付けられています。 そのため、従業員が10人未満の会社は、就業規則を変更しても労働基準監督署への届出は不要です。
しかし、就業規則を変更した場合は、従業員に対して必ず周知しなければ効力が発生しないため、変更内容を確実に伝えることが重要です。
就業規則はパートやアルバイトにも適用される?
就業規則はパートやアルバイトにも適用されます。
就業規則は、会社と直接雇用契約を結んでいるすべての労働者に適用されるものです。正社員はもちろん、パートタイマーやアルバイト、契約社員も対象となります。
ただし、パートやアルバイトには正社員とは異なる労働条件を設定する場合があります。その際は、主たる就業規則とは別に「パートタイム就業規則」などを作成し、適用範囲を明確にしておくことが推奨されます。
また、同一労働同一賃金の原則に基づき、正社員と非正規雇用者の間で待遇に差がある場合は、その理由や基準を明示し、合理的な説明ができる状態にしておくことが重要です。
従業員が10人未満の会社には法的に就業規則を作成する義務はありません。しかし、職場環境の健全な運営や労働トラブルの予防を考えると、就業規則は早めに作成しておくことが重要です。
厚生労働省も、事業規模に関わらず就業規則の作成を推奨しており、小規模事業所においても以下のような多くのメリットがあります。
- 労働トラブルの未然防止
- 会社の秩序維持
- 従業員の安心感・信頼向上
- 法的義務への備え
特に、従業員数が増えてから慌てて作成すると、内容が不十分になったり、法令違反を招くリスクがあります。従業員数が10人未満の段階から整備しておけば、トラブルの防止や職場環境の改善、将来的な事業拡大にも役立ちます。
また、**社会保険労務士(社労士)**などの専門家に相談することで、法令に準拠した実践的な就業規則を効率的に作成できます。
早期の就業規則整備は、会社と従業員双方に安心感を与え、健全な企業運営の基盤を築く第一歩です。事業を安定させるためにも、ぜひ前向きに作成を検討しましょう。
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