2023年になり、コロナ禍による外出制限等の各種制約が緩和され、また、ワクチンの普及による感染リスクの低減など、アフターコロナの状況ではビジネスの活性化や事業展開のために、出張が増えているケースが多く見られます。一方で、コロナ禍において必須ツールとなったオンラインによる会議も継続的に利用されており、オンライン・オフラインを組み合わせたハイブリットな働き方が進んでいます。
今回は、アフターコロナの状況で増加している、出張の際の経費に係る規程である「出張旅費規程」について確認をしていきたいと思います。
特に中小企業者や一人会社の経営者は、今後増加していくであろう出張に適切に対応することで、事業の拡大と効率的な運営、従業員または社長自身の所得税課税の適正化を実現することが可能となります。
税理士
中野 雄太
ナカノ ユウタ
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出張旅費規程について、法律上の定義はありませんが、企業が全従業員に対して出張の際の交通費、宿泊費、食事代などの経費に関するルールや基準を定めたものです。主な目的は、出張による経費の適正な管理と透明性の確保、従業員の公平な取り扱い、財務上の観点からも不要な旅費等を使用しないことによる財務管理にも資するものとして多くの企業で導入されているものです。
例えば、出張の宿泊費はいくらまで、日当はいくらまで、などについて自社の役員や従業員といった役職ごとに定められていくものになります。
一般的には、以下が出張旅費規程に記載される経費項目であり、これらについて経費の金額の範囲を定めることにより、効率的な予算管理を行うことが可能となります。
- 交通費:航空券、新幹線、鉄道、バス、タクシー代などの交通費。
- 宿泊費:ホテルや旅館などでの宿泊費。
- 日当 :あらかじめ決められた金額を支出するもので、昼食代などの「飲食代」、「備品代」「通信費」などが対象になり、実際の使用額との差額は精算しません。
なお、特段、出張旅費規程の作成方法等は定められていないため、自社の実態に沿うような形で運用しやすい規定として制定することが良いかと思います。
上述の通り出張旅費規程を制定することにより、適正な予算管理、経費利用並びに透明性の確保が可能となりますが、それ以上に特に中小企業において着目されているのが、節税効果になります。
これを簡単に表にまとめると以下の通りになります。
費用項目 | 出張旅費規程なし | 出張旅費規程あり |
交通費 | 実費精算 (旅費交通費として法人経費) | 規定により定めた 金額を支給 |
宿泊費 | 実費精算 (旅費交通費として法人経費) | 規定により定めた 金額を支給 |
日当 | 給与 (給与として法人経費 / 給与課税あり) | 規定により定めた 金額を支給 (旅費交通費として法人経費 /給与課税なし ) |
上表のとおり、交通費や宿泊費の出張旅費について、出張旅費規程の定めがない場合には実費による精算になりますが、出張旅費規程を制定することにより当該規程により定めた金額(定額)を支給することができます(例えば、宿泊費の実費が7,000円に対し、規定上は8,000円など)。
また、日当についても出張旅費規程がない場合には給与として取り扱われますが、出張旅費規程を自社で制定している場合には所得税法上の非課税所得として取り扱われることになります。
(後述の留意点等参照)
出張旅費規程を制定した場合の出張旅費に係る所得税法と法人税法上の取り扱いは次のようになります。
出張に際して従業員が支出した交通費、宿泊費などの経費は、所得税法上の非課税として認められる場合が一般的です。
ただし、必要経費として認められるためには、使用した経費が業務に必要であり、且つ、一般的な範囲内で支出されていることが条件となります。
出張旅費については所得税法基本通達において以下の通り記載をされております。
(通達はあくまで実務指針であり“法律”ではない点につきご留意ください)。
(所得税法基本通達)
9-3 法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。(平23課個2-33、課法9-9、課審4-46改正)
(1) その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2) その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。
上記通達の通り、全員が対象となり、かつ役職等含めて適正なバランスとなっているか、また、金額については同業他社と比して不相当に高額ではないか(=相場の範囲内となっているかどうか)が大切になってきます。
企業が出張旅費規定に基づき、出張旅費を従業員に支給した場合、これらの経費は法人税法上の「損金」として認められることになります。そのため、企業の課税所得から差し引かれるため、法人税の負担を軽減することができます。ただし、節税を目的とした不適切な経費計上や不要な経費の計上は将来の税務調査において指摘を受ける可能性があるため、規程策定時の金額設定が重要になります。
出張旅費の一般的な平均額は地域や業種、企業の方針によって異なりますが、一般的には以下の金額が目安となるかもしれません(あくまで一例になります)。
なお、実際に策定する際には専門家からのアドバイスを受けることをお勧めいたします。
(一般的な一例)
役員 | 従業員 | |
日当 | 4,000円~5,000円 | 2,000円~3,000円 |
宿泊費 | 10,000円~15,000円 | 8,000円~10,000円 |
交通費 | 各交通機関相当額 (グリーン車含む) | 各交通機関相当額 |
出張旅費規程を導入するにあたり、まず目に留まるのが、節税という点かと思いますが、それ以外にも以下のようなメリットがあります。
出張が多い企業は従業員からの出張経費を精算する手間が都度発生し、経理の事務負担が多くなる傾向にあります。
また、事務処理の頻度にかかわらず、例えば、出張者が適切な交通ルートを選ぶべきところ、グリーン車や航空機の利用など、本来必要のない行程で出張する可能性も生じます。しかし、これは適切な交通ルートではないため、経理担当者は、まず、上長の承認を得たのか、なぜこの交通機関を利用したといった、通常、入力・精算で済むはずの立替経費の処理に追加での業務が生じることになります。
一方で、あらかじめルールを出張旅費規定で定めた場合、経理担当者は当該規定を基に判断することが可能となり、経理担当者の事務手間が削減できるというメリットがあります。
また、出張者についてもあらかじめ決められたルールの枠内での選択となるため、交通手段の選択が容易になるというメリットもあるかと思います。
上述の通り日当につきましては、出張旅費規定に基づき出張日当を支払った場合、企業側では経費(損金)となり、法人税等の納付額の減少、受給者側では所得税・住民税の非課税となるため、双方にとって税額が少なくなるというメリットがあります。
また、従業員のみならず役員にも適用できるという点もメリットかと思います。
通常、役員報酬は法人税法上、経費(損金)にできる金額が定期同額給与などに限られています。特に中小企業では、この定期同額給与として役員報酬を支給することが一般的です。
※ 定期同額給与とは、あらかじめ定められた毎月同額の報酬をその事業年度を通して支払う報酬になります。
しかしながら、日当手当であれば、役員の方は上記の役員報酬以外の形で日当手当を受給し、企業側でも法人税法上、経費(損金)とすることが可能となります。
出張者が多い場合、既定通りに支給をしなければならないため、出張分に応じてコストが増加する可能性があります。
現在ではオンラインでの会議も可能なため、本当に必要な出張かどうかの見極めも必要になるでしょう。
いくら節税対策となるからと言え、資金繰りが悪化している企業の場合には単純にメリットだらけではないという点も覚えておくべきでしょう。
出張旅費規程の対象者ですが、役員だけを対象として出張に係る日当を受け取れる規程を策定してしまった場合、役員に支給する日当は経費ではなく、役員給与とみなされ税務署に否認される可能性が高くなります。
上表の通り、役員とその他従業員の役職に応じて金額に一般的な範囲で差があるのは認められていますが、役員だけを対象とした既定の策定は税務の観点からは難しいでしょう。
役員と従業員の間での“差”ですが、支給する日当の金額に一般的に常識的な範囲内で差を設けることや、移動手段について「役員:グリーン車 従業員;普通車」として規定することが考えられます。
出張旅費規程の適切な策定・運用にあたり、やはり、企業(経営者)側からすると節税に目を向けがちになり、日当金額を高額にする、また、一般的には出張といえない外出全てに対して日当旅費を支給するといったことをされている方も多くいらっしゃるのが現状かと思います。しかしながら、それらは後日、税務調査があった場合には確実に争点となりますし、過度な支給を続けることで企業の財務体質に悪影響を及ぼす可能性もございます。また、税務調査で日当旅費ではないとされてしまうと、役員に対する日当の場合、上述の通り、企業側では法人税法上、損金(経費)とならず、個人(役員)側でも給与として認定され、給与課税されてしまうため、留意が必要となります。
個人事業主の場合には事業主本人の日当を計上することは認められていませんので留意が必要です(従業員に対しての日当については認められております)。
これは個人事業主の場合、自身への給与を支払うという考えがないものと同じという形で考えて頂ければと思います。
一度制定した規程であっても何十年も経過すると市況や物価などの経済状況や働き方などが変化していくことがあります。
そのため、定期的に規程の見直しを行うことで自社に適した規程を維持する必要があります。
今回は出張旅費規程について主に税務面から導入目的や、メリット、留意点等について説明をさせていただきました。出張が多い企業や、現状の経理処理が煩雑な企業などではメリットが多くありますので、未導入の企業に関しましては検討をしてみてはいかがでしょうか。
なお、テンプレートについてはweb上のものを活用する形で結構ですが、適切な内容の出張旅費規程となるように、策定する際には顧問税理士等の専門家にご相談いただければと思います。
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