厚生労働省の「キャリアアップ助成金」は、アルバイトや契約社員等の非正規社員の雇用条件改善のために設けられた助成金制度です。
アルバイトや契約社員の雇用条件改善は、労働者のモチベーションアップやエンゲージメントの向上にもつながります。
アルバイトや契約社員を雇用している事業主は、キャリアアップ助成金を活用して処遇見直しを検討してみてはいかがでしょうか?
この記事では、キャリアアップ助成金でも特に申請が多いアルバイトや契約社員を正社員にした場合の内容や事業主による助成金申請までの流れのほか、注意点や支給されないケースなどについて解説します。
注意点としては、支給申請の際に賃金台帳の割増賃金や労働時間と就業規則及び雇用契約書の整合性が特にみられます。
※生産性要件、企業要件、加算措置は分かりやすくするために別記事に記載します。
生島社労士事務所代表
生島 亮
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キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは、契約社員の正社員化を実施した事業主に対して国が助成金を支給する制度です。
「正社員」とは、同じ事業所内で働く社員と同一の就業規則が適用される従業員であり、かつ賞与や退職金制度、昇給制度が適用される従業員を指します。
この場合、正社員への転換または直接雇用の前後の6ヵ月分の賃金を比較し、3%以上増加している必要があります。ただし、通勤手当や住宅手当、時間外労働手当など、賃金に含まれない手当もあるため、注意してください。
今までは、正社員転換後6ヵ月経ってから支給申請でしたが、11月29日以降の転換に関しては、支給申請を2回に分けることになります。
「キャリアアップ助成金」支給申請までの流れは以下のとおりです。
実施日の前日までに管轄労働局長に提出
(正社員への転換規定がない場合)
(転換前6か月と比較して3%以上賃金の増額が必要)
(取組後6か月の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内)
キャリアアップ計画は、契約社員のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるため、今後のおおまかな取り組みイメージをあらかじめ記載するものです。
キャリアアップ計画書作成のポイント
- 「キャリアアップ管理者」を決めてください。
- 「有期雇用労働者等のキャリアアップに関するガイドライン」に沿って、おおまかな取り組みの全体の流れを決めてください。
- 3年以上5年以内の計画期間を定めてください。
- 計画対象者、目標、期間、目標を達成するために事業主が行う取り組みなどを記載してください。
- 計画の対象となる契約社員の意見が反映されるよう、契約社員等を含む事業所における全ての労働者の代表から意見を聴いてください。
キャリアアップ計画の記入例
対象事業主
次の条件のすべてに該当する事業主が対象です。
- キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた雇用保険適用事業所の事業主。
- 契約社員等を正社員に転換する制度を就業規則に規定していること。
- 転換された労働者を、転換後6か月以上の期間継続して雇用し、当該労働者に対して転換後6か月分の賃金を支給していること。
- 支給申請日において当該制度を継続して運用していること。
- 転換後6か月間の賃金を、転換前6か月間の賃金より3%以上増額させていること。
- 当該転換日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、事業主の都合により離職させていないこと。
- 本人の同意に基づく制度として運用していること。
- 正社員に転換した日以降の期間について、当該労働者を雇用保険及び社会保険に加入させていること。
対象労働者
次の条件のすべてに該当する労働者が対象です。
- 契約社員 (次のア、イのいずれかに該当する労働者)
ア 賃金の額または計算方法が正社員と異なる雇用区分の就業規則等の適用を通算6か月以上受けて雇用される契約社員
イ 支給対象事業主が実施した有期実習型訓練を受講し、修了した契約社員等 - 正社員として雇用することを約して雇い入れられた契約社員等でないこと。
- 当該転換日または直接雇用日の前日から過去3年以内に、当該事業主と密接な関係であった者でないこと。
- 事業主または取締役の3親等以内の親族以外の者であること。
- 障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律施行規則に規定する就労継続支援A型の事業所における利用者以外の者であること。
- 支給申請日において、転換または直接雇用後の雇用区分の状態が継続し、離職していない者であること。
- 支給申請日において、契約社員への転換が予定されていない者であること。
- 転換または直接雇用後の雇用形態に定年制が適用される場合、転換または直接雇用日から定年までの期間が1年以上である者であること。
- 支給対象事業主または密接な関係の事業主の事業所において定年を迎えた者でないこと。
同一の事業所内の正社員に適用される就業規則が適用されている労働者。
ただし、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている者に限る
※正社員としての試用期間中の者は、正社員から除きます。
賞与や昇給であれば、その支給又は実施時期等を明示することが望ましいです。退職金であれば、労働基準法上、適用される労働者の範囲、退職金の支給要件、額の計算及び支払の方法、支払の時期などを記載しなければなりません。
正社員の定義に関するQ&A
- 正社員転換後6か月の間に賞与や昇給の実績がないが支給対象になるのか?
- 正社員に適用される就業規則等に「賞与または退職金制度」かつ「昇給」の規定を確認することができれば、支給対象となり得ます。
- 賞与について「賞与は原則として支給する。ただし、業績によっては支給しないことがある。」と規定している場合は、支給対象となるのか?
- 就業規則等で賞与制度の規定がある場合に、「賞与は原則として支給する。ただし、業績によっては支給しないことがある。」との記載だけをもって不支給となることはありません。
その一方で、「賞与は支給しない。ただし、業績によっては支給することがある。」といったように、原則不支給の規定の場合や、「賞与の支給は会社業績による」といったように、原則として賞与を支給することが明瞭でない場合は、支給対象外となります。
- 賞与の支給月や回数を記載できない場合は、正社員定義の「賞与」には該当しないのか?
- 支給時期等を記載できない場合は、支給の原則性及び記載できないことに対しての合理的な説明を求める場合があります。その上で、原則として支給することが確認できない場合は、正社員定義の「賞与」には該当しません。ただし、「原則として、毎年 6 月及び 12 月に支給する。ただし。業績により支給しない場合がある」といった規定であれば対象となります。
- 年俸制の場合もキャリアアップ助成金に該当し得るのか?
- 該当し得ます。
- 契約社員との通算契約期間が5年を超えた者を正社員転換した場合は助成金額はどうなるのか?
- 無期雇用労働者の転換と同額となります。
- 昇給について、賃金改定の規定(年1回賃金を見直す等)や降給の可能性のある規定は、「昇給のある就業規則」が適用されている正社員として見なすことはできますか?
- 毎年昇給する訳では無く、賃金の据え置きや降給の可能性があることを規定している場合は、就業規則等に客観的な昇給基準等の規定が必要です。
※ 客観的な昇給基準等がなく、賃金据え置きや降給の規定がある場合(支給不可のケース)
(例)会社が必要と判断した場合には、会社は、賃金の昇降給その他の改定を行う。
※ 客観的な昇給基準等に基づき、賃金減額の規定をおいている場合(支給可のケース)
(例)昇給は勤務成績その他が良好な労働者について、毎年〇月〇日をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は行わないことがある。
(例)毎年1回、各等級の役割遂行度を評価し、基本給の増額又は減額改定を行う。
- 「決算賞与」は正社員定義の「賞与」に該当しますか。
- 支給の有無が会社の業績に依存している「決算賞与」のように、原則として支給することが明瞭でない賞与のみを適用している場合は、正社員定義を満たす賞与の要件には該当しません
賃金の額または計算方法が「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」の適用を6か月以上受けて雇用している契約社員
例)契約社員と正社員とで異なる賃金規定(基本給の多寡や昇給幅の違い)などが適用されるケース
基本給、賞与、退職金、各種手当等(にて、いずれか一つ以上で正社員と賃金の額または計算方法が異なる制度を明示的に定めていれば(基本給の多寡や賞与の有無等)支給対象となり得ます。
労働者要件の定義に関するQ&A
- 契約社員を正社員へ転換させる際の注意点は?
- 契約社員を正社員に転換する場合は、就業規則等上に「契約期間の定め」が必要です。
※)「契約期間の定め」の例
・契約社員の雇用契約期間は 1 年とする。
- 正社員と契約社員の別が就業規則で明らかになってないが支給対象になるのか?
- なりません。
- 令和4年6月1日に就業規則を改正し、「賃金の額または計算方法が正社員と異なる雇用区分」の契約社員就業規則を作成した。令和4年3月1日雇い入れた契約社員を令和4年 10 月1日に正社員転換したが支給対象になるのか?
- 「賃金の額または計算方法が正社員と異なる雇用区分の就業規則」の適用を6か月以上受けて雇用していないため、支給対象外となります。
- 毎月月末締めで翌月 15 日に賃金を支給している事業所において、4月1日に正社員転換をした場合の支給申請期間はいつからいつになる?
- 6か月分の賃金を支給した日の翌日である 10 月 16 日~12 月 15 日までが支給申請期間となります。
- 正規雇用労働者への転換後に、必ず社会保険に加入させなければ助成対象とはならないのか?
- 強制適用事業所または任意適用事業所の場合は、社会保険に加入させなければ助成対象となりません。
- いつの支給申請から2期制の対象となるのか?
- 令和5年 11 月 29 日以降に、正社員化した者の支給申請から、2期制の支給申請の対象となります。
例:(第1期) 令和5年 12 月1日~令和6年5月 31 日(賃金支給日令和6年6月 20 日)
申請期間 令和6年6月 21 日~令和6年8月 20 日
(第2期) 令和6年6月1日~令和6年 11 月 30 日(賃金支給日令和6年 12 月 20 日)
申請期間 令和6年 12 月 21 日~令和7年2月 20 日
※ 転換後6か月分の賃金支給日の翌日から2か月間が第1期申請期間、その後の6か月分(7~12 か月目分)の賃金支給日の翌日から2か月間が第2期申請期間。
※ 勤務が 11 日未満の月がなかった場合の申請期間の例です。11 日未満の月がある場合は、当該月を除いて6か月分を数えるため、該当月分、申請期間が後ろ倒しとなります。
- 2期制となったことに伴う留意点は?
- 第2期目の申請においては、第1期と比較して賃金に減額がないこと、第1期同様、通常の正社員に適用される労働条件が全て適用されていることを確認します。
- 新たに通常の正社員への転換等のための規定を設けた場合の加算についていつから加算が受けられるのか?
- 令和5年 11 月 29 日以降に対象労働者を転換等する場合であって、当該対象労働者を転換等するための規定が存在しなかった事業主が、新たに規定を整備して転換等を行った場合(※)から、当該加算の申請の対象となります。
※ 転換等のための規定整備日と転換等を講じた日が、同一のキャリアアップ計画期間内であることが必要です。
※ また、加算申請の対象労働者が、整備後の規定に基づく転換等の措置の1人目であることが要件となります。
(例)キャリアアップ計画期間:R5.10.1~R10.9.30
規定整備日(導入日):R5.10.1
~
転換(直接雇用)日:R5.12.1
(上記規定の整備後、加算措置の対象となる1人目の転換等が講じられた場合。)
なお、規定整備日は、原則として規定を施行した日(周知日)となりますが、客観的に整備した日が分かるよう、就業規則に規定する際には、施行後速やかに監督署に届け出ることが必要です。
- 事業所に契約社員しか在籍しておらず、店長も契約社員なのですが、契約社員であってもキャリアアップ管理者になることはできるか?
- 契約社員であっても、キャリアアップ管理者としての適格性を満たす方であれば、キャリアアップ管理者になることができます。
- キャリアアップ計画期間内に各コースの取組が終わらない場合、キャリアアップ計画期間満了前に計画期間を延長することはできますか?
- キャリアアップ計画期間は、計画期間満了前であれば、変更届を提出することにより当初の計画期間開始日から最大5年まで延長することができます。
- 外国人労働者はキャリアアップ助成金の対象になるのでしょうか。
- 正社員化コースにおいて、外国人技能実習生については、支給対象外です。また、EPA受入人材として、看護師・介護福祉士試験合格前の者についても、支給対象外です。永住者、定住者は問題ありません。
- 正規雇用労働者への転換後に、必ず社会保険に加入させなければ助成対象とはならないのでしょうか。
- 強制適用事業所または任意適用事業所の場合は、社会保険に加入させなければ助成対象となりません。なお、任意適用申請を行っていない未適用事業所の場合は、社会保険への加入は必要ありませんが、労働条件は適用要件を満たすものである必要があります。
令和5年 11 月 29 日以降に、正社員化した者の支給申請から、2期制の支給申請の対象となります
(例)令和5年 12 月1日転換、賃金支払いが月末締め翌月 20 日払いの場合(※)
(第1期) 令和5年 12 月1日~令和6年5月 31 日(賃金支給日令和6年6月 20 日)
申請期間 令和6年6月 21 日~令和6年8月 20 日
(第2期) 令和6年6月1日~令和6年 11 月 30 日(賃金支給日令和6年 12 月 20 日)
申請期間 令和6年 12 月 21 日~令和7年2月 20 日
※ 転換後6か月分の賃金支給日の翌日から2か月間が第1期申請期間、その後の6か月分(7~12 か月目分)の賃金支給日の翌日から2か月間が第2期申請期間。
※ 勤務が 11 日未満の月がなかった場合の申請期間の例です。11 日未満の月がある場合は、当該月を除いて6か月分を数えるため、該当月分、申請期間が後ろ倒しとなります。
申請書類
- キャリアアップ助成金 支給申請書
- 正社員化コース内訳
- 正社員化コース対象労働者詳細
- 支給要件確認申立書
- 支払方法・受取人住所届
支給申請書の記入例
添付書類
- 管轄労働局の認定を受けたキャリアアップ計画書(コピー)
- 転換前後の就業規則又は労働協約等(コピー)
- 対象労働者の転換前後の労働条件通知書又は雇用契約書等(コピー)
- 対象労働者の転換前後の賃金台帳及び賃金3%以上増額に係る計算書
- 対象労働者の転換前後の出勤簿及び賃金台帳(コピー)
- 委任状
- 登記簿(コピー)
具体例
賃金3%以上増額の際に含めることのできない手当
増額に含むことのできない手当には以下があります。
① 実費補填であるもの
例:通勤手当、住宅手当、燃料手当、工具手当、食事手当
②毎月の状況により変動することが見込まれる等、実態として労働者の処遇が改善しているか判断できないもの
例:歩合給、精皆勤手当、休日手当、時間外労働手当(固定残業代を含む)
③賞与
・固定残業代が基本給に含まれている場合は、固定残業代に関する時間数と金額等の計算方法、固定残業代を除外した基本給の額を就業規則または雇用契約書等に明記してください。
・固定残業代の総額または時間相当数を減らしている場合(固定残業代を廃止した場合も含みます)であって、かつ転換前後の賃金に固定残業代を含めた場合に、賃金が3%以上増額していない場合、支給対象外となります。
(昇給)
第〇条 会社は、前年4月1日より当年3月31日までの査定期間内の勤務日数が3ヶ月以上ある者について、会社の業績、各人の能力、勤務成績その他を勘案して良好な労働者について、原則として4月に昇給を行う。但し、会社の業績低下等のやむを得ない事由がある場合は行わないことがある。
(賞与)
第〇条 賞与は、原則として正社員を対象として前年4月1日より当年3月31日までの査定期間内の勤務日数が3ヶ月以上ある者について、会社の業績、各人の能力、勤務成績その他を勘案して良好な労働者について、原則として6月に賞与を支給する。
2,賞与は原則として、支給日に在籍する正社員について支払う。但し、勤務成績が著しく不良な正社員については、全部または一部を支給しないことがある。
3,本条の賞与は、就業規則に定める正社員以外の社員には支給しない。
留意事項
- 労働者の処遇改善が図られていない場合など、本助成金の趣旨・目的に沿った取組と判断されない場合には、不支給となります。
- 国の助成金制度の一つですので、受給した事業主は国の会計検査の対象となることがあります。
- 助成金の支給決定にあたり、事業所の実地調査を行う場合があります。
- 不正受給をしてから5年以内に申請をした事業主は助成金を受給できません。
- 不正受給が発覚した場合、助成金を返還していただきます。なお、返還に際し、受給した日の翌日から返還を終了する日までの期間に対し、年3%の延滞金が付されることに加え、返還額の20%の額が違約金として請求されます。
キャリアップ助成金の条件は常に変化しており、審査も厳格化してきております。キャリアアップ助成金の審査に通過するためには、日頃から労働基準法に則った経営を行い、勤怠状況や就業規則や賃金規定に問題がないか、社会保険労務士などに確認してもらいましょう。
特に2022年の10月からは、3%ルールに加え、賞与あるいは退職金の付与等の条件も追加されておりますので要注意です。
また、助成金の申請自体も、人事労務担当者が該当分野に知見のある社会保険労務士を通して申請する方がbetterです。キャリアアップ計画の作成段階から、専門家に相談しつつ手続きを進めることをお勧めします。
#キャリアアップ助成金
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生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
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