キャリアアップ助成金は、個人事業主にとっても従業員の正社員化や待遇改善を促進するために有効な制度です。
しかし、個人事業主がキャリアアップ助成金を活用するためには、特定の条件や手続きが求められ、要件を満たさないと不支給となる可能性もあります。
この記事では、個人事業主がキャリアアップ助成金を利用できる条件や申請方法、活用する際のメリット・デメリットについて詳しく解説します。
生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
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キャリアアップ助成金は、個人事業主であっても条件を満たせば支給申請が可能です。ただし、申請対象となるには、事業主と雇用する労働者がキャリアアップ助成金の要件を満たしていることが必要です。
特に、個人事業主の場合、社会保険と雇用保険の適用事業所であることが対象条件として重要です。これは、助成金の支給対象になるために必須の要件であり、未加入である場合は申請ができませんので注意が必要です。
ここでは、申請対象となるための事業主や労働者の条件、さらに個人事業主が注意すべき社会保険と雇用保険の適用条件について詳しく解説します。
申請対象となる事業主の条件
キャリアアップ助成金の対象となるためには、事業主が以下の条件をすべて満たす必要があります。これらの条件をクリアすることで、助成金の申請が可能になります。
- 社会保険・雇用保険の適用事業所であること
- キャリアアップ管理者を配置していること
- キャリアアップ計画を作成し、認定を受けていること
- 労働条件および賃金に関する書類を整備していること
- キャリアアップ計画に基づいた実施を行っていること
これら5つの条件をすべて満たしている事業主が、キャリアアップ助成金の申請資格を得られます。
また、助成金の受給には、労働法や社会保険関連の法令を遵守し、計画通りの取り組みを行うことも求められます。
【スポット申請】社会保険の加入条件や加入手続きの流れと加入方法の全まとめ
申請対象となる労働者の条件
キャリアアップ助成金の対象となる労働者には、以下の条件をすべて満たすことが求められます。これらの条件をクリアすることで、支給対象として認められます。
- 非正規雇用であること
- 正社員前提での雇用ではないこと
- 賃金が異なる雇用区分に対応した就業規則が適用されていること
- 事業主や取締役の3親等以内の親族でないこと
- 密接な関係(例えば親族以外の親しい関係)がないこと
- 特定の支援事業所利用者でないこと
- 支給申請日までに離職していないこと
- 転換後の雇用に定年制が適用される場合、定年まで1年以上の期間があること
- 過去に定年を迎えた者でないこと
これらの条件をすべて満たすことで、労働者はキャリアアップ助成金の支給対象となります。助成金の申請前に、労働者の要件を慎重に確認し、適格であることを確かめておきましょう。
キャリアアップ助成金正社員化コースの条件とは?対象者の要件と申請期間、人数などを解説
個人事業主の場合の社会保険・雇用保険の適用条件
キャリアアップ助成金を申請するためには、個人事業主であっても、社会保険および雇用保険の適用事業所であることが条件となります。
ただし、個人事業主の場合、法人とは異なり、社会保険の強制適用事業所とはなりません。社会保険や雇用保険の加入義務は、従業員数や業種、労働時間によって異なります。
また、強制適用の条件を満たしていない個人事業主であっても、任意適用の申請を行うことで、社会保険に加入することが可能です。この手続きを行うことで、キャリアアップ助成金の支給要件をクリアすることができます。
【社労士監修】個人事業主の社会保険の加入(任意適用)及び労働保険の加入について
以下では、キャリアアップ助成金を申請するために必要な社会保険と雇用保険の適用条件について詳しく解説します。
社会保険には、健康保険、厚生年金保険、介護保険の3つ(狭義の社会保険)に加えて、労災保険と雇用保険を含む労働保険(広義の社会保険)があります。それぞれの適用条件は異なり、従業員数や業種に応じて加入義務が発生します。
以下の表を参考に、加入条件を確認しましょう。
社会保険の種類 | 主な適用条件 |
健康保険・厚生年金 | 原則、常時5人以上の従業員を雇用する事業所(個人業の場合、サービス業や商業など一部業種を除く) |
雇用保険 | 週20時間以上勤務、31日以上の雇用見込みがある労働者 |
労災保険 | 従業員が1人でもいる事業所(1分でも勤務した場合に強制加入) |
例えば、従業員数が5人以上の事業所では、健康保険や厚生年金の加入が義務となります。また、従業員が1人でも在籍している場合は労災保険の加入が必要です。
社会保険への加入は、キャリアアップ助成金の申請においても重要な条件となるため、従業員の労働状況に応じた適用条件を理解し、適切な手続きを行うことが求められます。
従業員が5人以下の個人事業主でも「任意適用」制度を利用して社会保険に加入して、任意適用事業所になることができます。
個人事業主の社会保険や雇用保険の加入条件、任意適用については下記の記事で詳しく解説しています。
個人事業主が従業員1人、5人以下を雇う場合の社会保険加入の条件は?手続きや注意点も解説
キャリアアップ助成金は、非正規雇用者である契約社員、派遣社員、パートタイマーなどのキャリアアップを支援するために厚生労働省が設けた制度です。非正規雇用者を正社員に転換したり、賃金や労働条件の改善に取り組む事業主に対して助成金が支給され、労働市場の安定と企業の生産性向上が期待されています。
この助成金には「正社員化支援」と「処遇改善支援」の2種類があり、従業員のキャリアアップを推進するための支援策が用意されています。
キャリアアップ助成金の活用により、事業主は非正規雇用者の正社員化にかかるコストを軽減し、従業員のモチベーション向上や企業の定着率改善を目指すことが可能です。
以下で、各支援内容について詳しく解説します。
キャリアアップ助成金は誰がいくらもらえる?対象者や支給金額を解説
正社員化支援を目的としたキャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金の「正社員化支援コース」は、契約社員を正社員に転換することで、従業員の職場定着や働きがいを高め、企業にとっても安定した人材の確保を可能にする支援制度です。このコースには、一般の正社員化コースに加え、障害者の正社員化を支援する「障害者正社員化コース」も含まれており、それぞれの条件に基づいて助成金が支給されます。
正社員化コースでは、1名あたり最大80万円の助成が受けられるため、従業員の採用や正社員化を検討している個人事業主にとって非常に有益な制度です。
処遇改善を目的としたキャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金の「処遇改善支援コース」は、非正規雇用労働者の待遇改善を目的とした支援制度です。このコースを利用することで、企業は賃金規程の改定や福利厚生の充実、労働時間の延長などを通じて、非正規雇用者の職場環境を改善し、長期的に働きやすい環境を整えることが可能になります。処遇改善によって、企業は従業員の定着率向上や生産性の向上も期待できます。
「処遇改善支援コース」には、以下の5つの具体的なコースが設けられています。
- 賃金規程等改定コース
- 賃金規程等共通化コース
- 賞与・退職金制度導入コース
- 社会保険適用時処遇改善コース
- 短時間労働者労働時間延長コース(令和6年3月31日に廃止)
これらのコースを通じて、企業は非正規雇用者の待遇改善を図り、労働環境の向上と人材の安定的な確保に寄与することができます。各コースの条件や支給額については、申請前に確認することが重要です。
キャリアアップ助成金の各コースの条件や申請方法などについては、下記で詳しくまとめています。
【2024年版】キャリアアップ助成金とは?条件や申請方法、支給金額を社労士がわかりやすく解説
キャリアアップ助成金の申請方法には、「正社員化支援コース」と「処遇改善支援コース」の2つがあり、それぞれで支給申請までの流れが異なります。キャリアアップ助成金を受給するためには、各コースの申請手順やスケジュールを正確に守ることが求められます。
添付の図では、キャリアアップ助成金申請の具体的な流れを視覚的に示しています。助成金の申請を円滑に進めるためには、この流れに沿って計画的に手続きを行うことが重要です。
以下では、利用申請が多い「正社員化支援コース」を中心に、申請までの手順と個人事業主が申請する際のポイントについて詳しく紹介していきます。
正社員化コース申請の流れ
キャリアアップ助成金の「正社員化コース」を申請するためには、以下の手順に従って準備と申請を進める必要があります。
各手順を順守することで、申請がスムーズに進み、支給が確実となります。
- キャリアアップ計画書の作成・提出
- 就業規則の作成・届出
- 対象従業員がいない場合は雇用する
- 契約社員の雇用契約書の作成
※手順1から4は、正社員転換前に完了させる必要があります。
- 正社員への転換(正社員化)
- 社会保険と雇用保険の加入
※手順5と6は同時に進める。
- 転換後6ヶ月の賃金支払い(第1期目)
- 第1期目の支給申請
- 転換後7〜12ヶ月目の賃金支払い(第2期目)
- 第2期目の支給申請
以下の記事に、キャリアアップ助成金の正社員化コースに関する詳細な条件や支給金額、申請方法について、わかりやすくまとめていますので、参考にしてください。
【令和6年版】キャリアアップ助成金の正社員化コースとは?条件や申請方法、支給金額を社労士がわかりやすく解説
個人事業主がキャリアアップ助成金を申請するときのポイント
- 社会保険や雇用保険の適用条件を満たすこと
個人事業主が助成金を申請する際、特に重要なのが社会保険と雇用保険の適用条件を満たしていることです。従業員が適切に保険に加入しているか確認することで、申請の要件を確保します。 - 非正規雇用社員として募集・採用すること
助成金の対象となるためには、従業員が非正規雇用であることが条件です。正社員前提での雇用は対象外となるため、初めは契約社員などの非正規雇用で採用し、その後正社員に転換する流れが必要です。
このように、キャリアアップ助成金の申請には、事前準備と順序立てた対応が求められます。手続きの一つ一つを確実に進めることで、申請の成功率が高まり、従業員のキャリアアップを効果的に支援できるでしょう。
キャリアアップ助成金の正社員化コース支給申請時の注意点!不支給になる失敗例も解説
キャリアアップ助成金の申請は、非正規雇用者を正社員に転換することで、事業の安定や成長に貢献するメリットが多くあります。しかし一方で、申請にはコストや手続き面でのデメリットも存在します。
ここでは、個人事業主がキャリアアップ助成金を活用する際のメリットとデメリットについて解説します。
キャリアアップ助成金を活用するメリット
キャリアアップ助成金を利用することで、従業員のモチベーションアップや定着率の向上が期待できます。非正規雇用者を正社員に転換することで、従業員は安定した雇用形態とキャリアの見通しが得られ、モチベーションが向上します。また、教育や研修費用を助成金で補えるため、企業はコスト負担を軽減しつつ人材のスキルアップに取り組むことができます。
正社員化によって、従業員の業務効率や生産性が向上することが期待できます。安定した雇用環境を提供することで、従業員の長期的な定着が促進され、事業の継続性や安定性が強化されます。特に、定着率が上がることで、求人や教育にかかるコストも削減できるため、経営基盤の強化に寄与します。
キャリアアップ助成金の申請におけるデメリットと注意点
正社員転換に伴い、企業側が負担する社会保険料が増加します。特に小規模事業主にとっては、追加の負担が経営に影響を及ぼす可能性があるため、事前の資金計画が重要です。
正社員としての待遇を整えるために、退職金や賞与の導入を検討する必要があります。これにより、従業員に対する支払いコストが増加する可能性があり、経営計画においても考慮すべきポイントとなります。
助成金の申請には、キャリアアップ計画の作成や各種書類の準備が必要であり、手続きには多大な時間と労力がかかります。特に、書類に不備があると不支給となるリスクがあるため、慎重な確認と準備が求められます。
キャリアアップ助成金の支給には審査があり、不支給のリスクも存在します。また、支給までに数ヶ月を要することもあり、資金が必要なタイミングに合わせた計画的な申請が重要です。
キャリアアップ助成金の審査は厳しい?申請成功のコツや不支給になる理由を解説
キャリアアップ助成金は、従業員の正社員化や待遇改善に向けた有益な支援ですが、コスト面や手続きの負担もあるため、事業全体の計画に合わせてメリットとデメリットを十分に検討することが大切です。
個人事業主であっても、特定の条件を満たすことでさまざまな助成金制度を活用することができます。ここでは、代表的な「雇用調整助成金」「人材開発支援助成金」「創業支援助成金」について詳しく解説します。
雇用調整助成金
雇用調整助成金は、経済的な影響で事業活動の縮小が余儀なくされた場合、従業員の休業や教育訓練、出向を支援するための助成金です。事業主が従業員を解雇せずに雇用を維持するために活用されるもので、休業手当の一部が助成される仕組みです。個人事業主も、経営が厳しい状況にある場合に申請が可能であり、従業員の雇用を守るための大きな助けになります。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、事業主が従業員のスキルアップを目的とした教育訓練を実施する際に助成金が支給される制度です。個人事業主であっても、従業員のキャリア形成やスキル向上に取り組むことで、助成金を申請することが可能です。この助成金を活用することで、従業員の専門知識や技術力が向上し、事業の生産性や競争力を高める効果が期待できます。
創業支援助成金
創業支援助成金は、新たに事業を開始する際にかかる初期費用の一部を助成する制度です。新規創業時に必要な設備投資や人材確保のコストが補助されるため、事業を立ち上げる際の負担を軽減することができます。個人事業主として新たに事業を始める際に、資金不足のリスクを軽減し、円滑なスタートを切るために非常に有効な支援です。
これらの助成金は、個人事業主の事業運営や従業員の雇用環境改善に役立つものです。事業の成長や安定に向けて積極的に活用を検討すると良いでしょう。
キャリアアップ助成金の申請にあたって、個人事業主が抱える疑問や不安は多くあります。ここでは、よくある質問とその回答をわかりやすく解説します。
個人事業主がもらえる支給金額はいくらですか?
キャリアアップ助成金の支給額は、コースや対象となる従業員の雇用形態、企業規模によって異なります。例えば、正社員化支援コースでは、契約社員から正社員に転換した場合、中小企業では1人あたり最大80万円の助成金が支給されます。個人事業主であっても、助成金の支給金額は法人と同じ基準で算定されるため、条件を満たせば同額が支給されます。さらに、条件を満たせば追加の加算金もあります。助成金の金額は最新の制度内容によって変動するため、申請前には必ず最新情報を確認し、支給額を正確に把握することが重要です。
キャリアアップ助成金は自分でも申請できますか?
キャリアアップ助成金は、個人事業主自身でも申請可能です。しかし、申請には多くの書類準備や手続きが求められ、特に帳票の管理、就業規則の整備、賃金増額の計算など、専門的な知識が必要となります。また、要件を十分に満たしていない場合や、書類に不備がある場合には、不支給となるリスクもあるため、初めての申請には不安が伴うことも多いでしょう。
こうしたリスクを避けてスムーズに申請を進めるためには、社会保険労務士(社労士)などの専門家に代行を依頼することも有効な方法です。社労士のサポートを受けることで、申請が確実かつ迅速に行われるため、企業は本業に集中しつつ、助成金を効果的に活用できます。
これらのQ&Aを参考に、キャリアアップ助成金の申請に関する疑問を解消し、適切な手続きを進めていきましょう
キャリアアップ助成金は、非正規雇用者の正社員化や待遇改善を支援する制度であり、個人事業主でも条件を満たせば利用可能です。この助成金を活用することで、従業員のモチベーションを高め、長期的な定着を促進し、企業の安定成長にも寄与します。
申請にあたっては、必要書類の準備や要件の確認など、手続きが複雑で時間を要することがあります。特に、就業規則の整備や賃金の見直し、社会保険の適用条件など、専門知識が求められる部分も多いため、初めて申請する際には不安が生じるかもしれません。そんな場合には、社会保険労務士などの専門家に相談することで、スムーズな申請手続きを進めることができ、不支給リスクの回避にもつながります。
キャリアアップ助成金の活用は、事業の安定性を高めるとともに、従業員の働きやすさを向上させる大きな助けとなります。助成金をうまく活用し、事業の成長と従業員の定着を目指して、効果的な人材育成と労働環境の整備に取り組んでいきましょう。
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