キャリアアップ助成金は、契約社員の正社員化や処遇改善を支援する制度です。
この助成金を申請するためには、「キャリアアップ計画書」を作成し、労働局へ提出する必要があります。ただし、計画書の内容が企業の実情に合っていなかったり、就業規則と矛盾している場合は、不支給となる可能性があります。
この記事では、キャリアアップ計画書の作成方法を、正社員化コースの記入例を交えてわかりやすく解説します。また、作成や提出時の重要なポイントや注意点についても詳しく紹介しています。
キャリアアップ助成金の申請を検討中の方は、ぜひ参考にして、受給に向けた準備を進めましょう。
生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
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キャリアアップ助成金の「キャリアアップ計画書」とは、企業が契約社員を正社員に転換するための具体的なプランを示した計画書です。
キャリアアップ計画書は助成金の適正な支給を確保するために求められるものであり、不備がある場合には受理されません。そのため、事業主は契約社員のキャリアアップに向けた具体的な施策を計画し、実行可能な形で明確に示すことが求められます。
キャリアアップ計画書を作成する目的
キャリアアップ計画書を作成する目的は、キャリアアップを計画的に進め、労働者の待遇を向上させることです。
例えば、正社員化を促進する場合、計画書には正社員化に関する方針や具体的な取り組みを記載し、就業規則などの制度にもその方針が反映される必要があります。
これにより、助成金の申請に必要な条件を満たすことができ、労働者の安定した雇用と企業の成長を両立させることが可能となります。
また、計画書の内容に変更が生じた場合には、変更届を提出することで内容を更新することが可能です。定期的に計画書の内容と実施状況を確認し、計画に齟齬がないか、計画の期間が切れていないかなどを確認することが、助成金の支給を受ける上で重要なポイントです。
キャリアアップ計画書の作成は、助成金を受け取るための最初のステップであり、労働者のキャリア形成と企業の健全な発展を支える重要な取り組みです。
キャリアアップ計画書を正しく作成することで、助成金の申請がスムーズに進み、労働者の待遇改善を実現できます。こちらでは、キャリアアップ計画書の作成ポイントや具体的な記入例について詳しく説明します。
各コースに応じた記載方法を理解し、助成金の取得に向けて適切な計画書を作成しましょう。
キャリアアップ計画書作成のポイント
キャリアアップ計画書を作成する際には、以下の3つのポイントに留意することが重要です。
キャリアアップ管理者は、キャリアアップ計画の策定および実行を担当する重要な役割を担います。注意点として、キャリアアップ管理者は複数の事業所や労働者代表との兼務はできません。適切な管理者を選定することが、計画の成功に直結します。
キャリアアップ計画書の計画期間は「3年以上5年以内」で設定する必要があります。5年の計画が終了した場合でも、引き続き取り組みを進めたい場合は、新たに計画書を作成し、再度提出する必要があります。この期間設定により、計画が無理なく実行可能で、かつ効果的なキャリアアップを達成するための適切なスパンが確保されます。
キャリアアップ計画書には、対象労働者の具体的な情報、キャリアアップの目標、達成までの期間、そしてその目標を達成するための具体的な取り組みを明記する必要があります。さらに、有期雇用労働者を含む全ての労働者代表からの意見を反映させることが求められます。これにより、計画が実行に移される際の明確な指針となり、助成金の支給要件を満たすことが可能となります。
キャリアアップ計画書の記入例
キャリアアップ計画書は、「表紙」「共通事項」「キャリアアップ計画」の3部構成になっています。「表紙」と「共通事項」は、会社名や所在地など、基本的な会社情報を記入するため、比較的容易に進められます。
一方で、「キャリアアップ計画」部分には、具体的な取り組み内容や目標を記載する必要があります。この部分は、労働者のキャリア形成を具体的に計画する重要な項目であり、必要に応じて変更を加えることも可能です。変更が生じた場合は、必ず管轄労働局に変更届を提出する必要があります。施策と整合性が取れていない場合、助成金が不支給となる可能性がありますので、十分に注意しましょう。
また、キャリアアップ計画書の申請様式には8つの項目が記載されています。各項目について、自社の取り組み内容を具体的に記入することが求められます。
このように、計画書の記入にあたっては、自社の現状や目標をしっかりと反映させることが重要です。
以下でキャリアアップ計画書の書き方を実際の様式と記入例を使い解説します。
キャリアアップ計画書の1ページ目にあたる「表紙」では、「事業所名」「使用者側代表者名」「労働者代表者名」を記入し、必要なチェックボックスにチェックを入れる必要があります。
以下に、表紙を作成する際の具体的な注意点を解説します。
宛名:
計画書を提出する際には、事業所の所在地を管轄する労働局の都道府県名を記入します。
提出日:
キャリアアップ計画書を提出する日付を正確に記入してください。
使用者側代表者名:
事業主またはキャリアアップ管理者の氏名を記入します。
労働者代表者名:
労働者代表として選任された従業員の氏名を記入します。注意点として、労働者代表者は役員やキャリアアップ管理者とは異なる人物である必要があります。
適用事業所の事業所名:
キャリアアップ助成金は適用事業所(支店)ごとに申請するため、該当する事業所の名称を正確に記入します。また、労働者代表も適用事業所単位で選出する必要があります。
この表紙の記入において、情報の正確さが求められます。不備がある場合、助成金の申請手続きが滞る可能性があるため、記入漏れや誤記に十分注意してください。
キャリアアップ計画書の2ページ目にあたる「共通事項」には、「事業所情報」と「キャリアアップ管理者情報」を記入します。
以下に、共通事項を記入する際の具体的な注意点を解説します。
【事業所情報欄】
事業主名:
代表取締役など、代表者の氏名を正確に記入します。
事業所の担当者:
キャリアアップ計画書について問い合わせがあった場合に対応する担当者名を記入します。担当者の連絡先を併せて記載することも忘れないようにしましょう。
労働保険番号:労働保険番号を記入します。もし労働保険番号が複数ある場合は、欄外にすべて記載するようにしてください。
【キャリアアップ管理者欄】
キャリアアップ管理者情報
・氏名:
キャリアアップ計画を推進する責任者の氏名を記入します。この人物は複数の事業所や労働者代表との兼務ができないため、専任での任命が必要です。一般的には経営者やマネジメント層が任命されます。
・配置日:
キャリアアップ管理者が任命された日付を記入します。この日付は計画提出日よりも前である必要があります。
キャリアアップ管理者は、キャリアアップ計画を推進し、労働者にその内容を周知する役割を担います。各事業所ごとに1名を配置し、複数事業所との兼務は不可です。キャリアアップ管理者には特別な資格は不要ですが、キャリアアップの知見を有することが望ましいとされています。一般的には経営者やマネジメント層が適任です。
適切な管理者を選任し、情報を正確に記入することで、計画の円滑な実行と助成金申請の成功につながります。
キャリアアップ計画書の3ページ目には、実際にどのようなキャリアアップを行うのか、その具体的な内容を記載します。
以下の項目をしっかりと記入し、計画を明確にしていきましょう。
◯キャリアアップ計画期間
計画の実施期間を定めます。
通常、3~5年程度の期間を設定します。期間は余裕を持たせて設定することで、目標を達成しやすくなります。◯キャリアアップ計画期間中に講じる措置
計画期間中に行う具体的な措置を記載します。
例えば、正社員化コースや職業訓練コースなど、複数のコースを同時に進めることができます。計画に変更が生じた場合は、変更届を提出する必要があります。
◯対象者(③の項目)
計画の対象となる労働者について記載します。個人名は不要ですが、雇用形態や所属部署などの情報を明示します。
記入例)
雇用して◯ヵ月以上の有期契約労働者
◯ヵ月以上継続して業務をしている派遣労働者
新たに採用されたパートタイム労働者
◯目標(④の項目)
計画完了時の目標を設定します。
例えば、正社員化を目指す場合、習得するスキルや実施する職業訓練の内容を明記します。
記入例)
対象者を正規雇用または短時間正社員に転換する。
対象者のうち○名を正規雇用または多様な正社員に転換する。
◯目標を達成するために講じる措置(⑤の項目)
目標を達成するための具体的なアクションプランを記載します。例えば、職業訓練の実施や転換に向けた面談の実施などです。
記入例)
転換制度を就業規則に規定し、面接試験を実施する。
昇格試験を通じて正規雇用へ転換を判断する。
◯キャリアアップ計画全体の流れ(⑥の項目)
計画全体の流れを記載します。例えば、職業訓練を実施し、その後の評価と面談を経て正社員化を判断するなどです。
記入例)
正規雇用への転換を図るための制度整備を行い、対象者の範囲を明確にし、面接や試験を通じて転換を進める。
キャリアアップ助成金をスムーズに申請するためには、キャリアアップ計画書の提出期限と提出先について正確に理解し、必要な手続きを適切なタイミングで行うことが重要です。
以下がキャリアアップ助成金の申請までの流れになります。
【2024年版】キャリアアップ助成金とは?条件や申請方法、支給金額を社労士がわかりやすく解説
提出期限
キャリアアップ計画書の提出期限は、キャリアアップ計画の開始予定日の前日までに、管轄の労働局へ提出を行わなければなりません。
例えば、正社員化コースの場合は、正社員転換の前日までにキャリアアップ計画の提出が必要です。
【令和6年版】キャリアアップ助成金の正社員化コースとは?条件や申請方法、支給金額を社労士がわかりやすく解説
また、計画期間中に変更が生じた場合には、その変更が発生する前に「変更届」を提出することも求められます。
キャリアアップ計画書を管轄のハローワーク等へ提出後、受理印と交付番号が記載された計画書控えが会社宛に返送されるまでには、通常数週間から約1ヶ月程度かかります。
これらの控えは、キャリアアップ助成金の支給申請を行う際に必要となるため、大切に保管しておきましょう。
提出先
キャリアアップ計画書の提出先は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局またはハローワークです。具体的には、労働局の助成金担当窓口に直接提出するか、郵送での提出が可能です。また、電子申請システムを利用することもできます。
各労働局の窓口やハローワークでは、申請に関する詳細なサポートも受けられるため、不明点がある場合は事前に問い合わせて確認すると良いでしょう。提出先を誤ると申請が無効になる可能性があるため、必ず正しい窓口へ提出してください。
キャリアアップ計画書を作成する際には、助成金の支給申請がスムーズに進むために、就業規則や実際の措置内容と相違がないことが重要です。支給申請の審査段階で、就業規則や実施内容が計画と一致しているかが総合的に精査されるため、計画書作成時にはこれらの内容を十分に確認してください。
ここでは、具体的な注意点を説明します。
就業規則の内容と相違がないこと
るかを確認することが大切です。
特に、正社員化コースの支給要件には、賃金の計算方法や額が正社員と異なる契約社員に対して、改訂された就業規則が適用されていることが求められます。
キャリアアップ助成金受給のためには正社員転換の6ヵ月前から就業規則の適用が必要になるため、計画書作成時にこれらを確認することが必要です。
下の記事でキャリアアップ助成金の申請に必要な就業規則について詳しく解説しています。
キャリアアップ助成金の申請に必要な就業規則とは?規定例や注意点を解説
実施内容と計画に相違がないこと
キャリアアップ助成金を受け取るためには、実施した内容が計画書に記載された内容と一致している必要があります。
例えば、キャリアアップ計画書で「正社員転換」を目標として掲げた場合、その実施内容が計画通りであることが求められます。
計画と異なる内容で取り組みを行った場合、助成金が支給されない可能性があるため、実施前に必ず計画書の内容を再確認し、実施内容が計画通りであるかを確認しましょう。また、実施の際には、進捗状況を記録しておくことも重要です。
キャリアアップ計画書は、キャリアアップ助成金を申請する際に必要不可欠な書類です。自社のキャリアアッププランを明確に示し、不正受給を防止する役割も担っています。そのため、適切に記入しなければ助成金を受給できないリスクがあります。
キャリアアップ助成金の確実な受給を目指すためには、専門である社労士に作成をサポートしてもらうことも一つの方法です。
キャリアアップ計画書自体の作成は難しくありませんが、助成金を申請する際には就業規則、労働条件通知書、出勤簿、賃金台帳などの整備が求められます。これらの書類の準備を怠らないことが、キャリアアップ助成金の確実な受給に繋がります。
以下のポイントをまとめておきます。
- キャリアアップ計画書は、正社員化するまでに確実に提出すること。
- 正社員化コースの支給要件を満たした文言を就業規則に導入すること。
- 賃金改定は、賃金上昇要件確認ツールを使用して3%以上アップさせること。
- 就業規則、労働条件通知書、出勤簿、賃金台帳の整備は事前に行うこと。
キャリアアップ計画書は、助成金申請の基盤となる重要な書類です。計画の有効期間が3年から5年と長いため、制度全体を十分に把握した上で、継続的に計画を運用することが重要です。しっかりと準備を進めて、キャリアアップ助成金を有効活用し、企業の成長を促進していきましょう。
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