36協定は、企業が従業員に時間外労働や休日労働をさせる際に欠かせない法的な協定です。
しかし、36協定を締結せずに時間外労働を行わせた場合や、締結した協定の上限を超える時間外労働や特別条項を逸脱した場合は、労働基準法違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金といった厳しい罰則が科される可能性があります。
2019年の働き方改革関連法の施行により、時間外労働の上限規制が厳格化されたことで、法令を遵守した労務管理の重要性がこれまで以上に高まっています。
36協定を適切に締結し、運用することは、企業が法的リスクを回避し、従業員の健康と職場環境を守るための基本といえるでしょう。
この記事では、36協定違反となる具体的なケースや罰則内容を解説するとともに、違反を未然に防ぐための効果的な対策を詳しくご紹介します。法令を遵守し、健全な労使関係を築くための知識をぜひご確認ください。
生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
https://syarou-shi.com/社会保険手続きの自動販売機|全国のあらゆる社会保険手続きと労務相談を「顧問料なしのスポット」で代行するWebサービス【社労士クラウド】の運営者|懇切丁寧 ・当日申請・フリー価格・丸投げOK| 1,800社以上の事業主様や顧問先の社保周りを解決されたい士業の先生にご利用頂いており、顧問契約も可能です|リピーター率8割以上
36協定(サブロク協定)は、労働基準法第36条に基づき、法定労働時間を超える労働や休日労働を可能にするための労使協定です。企業が適法に時間外労働や休日労働を行わせるには、従業員との間で36協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
法定労働時間とは、1日8時間、週40時間と定められており、これを超える労働は原則として違法です。しかし、36協定が締結されている場合、所定の範囲内で時間外労働や休日労働が認められます。
ただし、この協定がないままに時間外労働を行わせると、労働基準法違反となり、企業や責任者には罰則が科される可能性があります。
【関連記事】
36協定における残業時間の上限(月45時間/年360時間)や超えたらどうなる?社労士が解説
また、36協定には以下の図のとおり時間外労働の上限や特別条項が設けられています。
たとえば、原則として1ヶ月の時間外労働時間の上限は45時間ですが、特別な事情がある場合には、特別条項に基づき最大100時間まで延長可能です。ただし、これには年間720時間という制限もあります。これらのルールを守らない場合、罰則の対象となり、企業の信用に大きな影響を与えるリスクがあります。
36協定は、単に書類を整えるだけでなく、実際の運用を通じて労働時間管理を徹底することが重要です。企業が法令を遵守し、従業員が働きやすい環境を整えるためにも、正確な知識と適切な運用が求められます。
36協定の時間外労働時間の上限や基本については下の記事でわかりやすく解説しています。
36(サブロク)協定とは?時間外労働の上限規制を基本からわかりやすく社労士が解説
36協定に違反する行為は、企業に法的リスクをもたらすだけでなく、従業員との信頼関係を損なう原因にもなります。
以下に、36協定違反となるケースを4つ挙げ、それぞれ詳しく解説します。
36協定を締結・届出せずに時間外労働を実施
36協定を締結せず、労働基準監督署に届け出を行わないまま時間外労働を実施することは、労働基準法に違反する行為です。法定労働時間は1日8時間、週40時間と定められており、この範囲を超える労働を命じる場合には、36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出ることが義務付けられています。
また、36協定を締結していても、労働基準監督署への届け出が行われていない場合も違反となります。未届出の状態では、協定が効力を持たないため、その期間中に行われた時間外労働は違法とみなされます。
さらに、36協定届は労働基準監督署に正式に受理された日から効力を発揮します。そのため、届出前にさかのぼって効力を持たせることはできません。協定を締結しても届出が遅れた場合、届出前に行われた時間外労働も違反となる可能性があります。
労使間で合意があったとしても、書面による協定を締結し、労働基準監督署に届け出を行わなければ36協定が成立したとはみなされません。これらの手続きが欠けている場合、適法な労働環境を整える上で重大な問題となるため、企業として十分に注意する必要があります。
時間外労働時間が法定上限を超過
36協定を締結していても、法定上限を超える時間外労働を行わせることは労働基準法違反に該当します。労働基準法では、1ヶ月あたりの時間外労働の上限を45時間、1年間で360時間と定めており、これを超える労働は違法です(特別条項の適用がない場合)。
こうした違反は、企業のコンプライアンスを損なうだけでなく、従業員の健康や安全に深刻な影響を与える可能性があります。
また、36協定で設定された上限時間も厳守が必要です。
たとえば、「1ヶ月40時間、1年300時間まで」と規定された場合に、1年間で310時間の時間外労働が発生すれば、法定上限(1年360時間)を超えていなくても違反となります。
これは、36協定で合意した内容が労働基準法よりも優先されるためです。
さらに、特別条項を適用する場合には、特別な事情がある場合に限り、1ヶ月あたり100時間、1年間で720時間までの時間外労働が許容されます。
ただし、この場合でも、2ヶ月から6ヶ月の平均時間外労働が80時間以内であることが条件となります。加えて、健康確保措置の実施が義務付けられており、適切な対応が求められます。
特別条項該当外なのに上限を超えて働かせる
特別条項は、臨時的かつ特別な事情が発生した場合に限り、法定上限を超える時間外労働や休日労働を可能にする例外規定です。しかし、この条件を満たさないまま、上限を超えた時間外労働を命じる行為は、労働基準法違反に該当します。
労働基準法第36条では、「臨時的かつ特別な事情」を以下のように定義しています:
- 突発的な大規模クレーム対応
- 繁忙期や商戦期の業務急増
- 予算・決算業務の集中
一方で、通常業務の延長や慢性的な人手不足といった理由は、特別条項の適用対象外です。こうした状況下で上限を超える時間外労働を命じた場合、特別条項を主張しても無効とされ、違反として扱われます。
特別条項の適用条件を誤解せず、ルールに基づいた運用が求められます。
特別条項に違反して労働させた場合
特別条項付き36協定を締結している場合でも、以下の法定上限を超える時間外労働や休日労働を命じた場合は、労働基準法違反となります:
- 年間720時間以内
- 1ヶ月あたりの時間外労働と休日労働の合計が100時間未満
- 2~6ヶ月平均で月80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超える月が年間6回以内
これらの条件は、従業員の健康や安全を守るために設定されたものであり、いずれかを超えると、特別条項の適用は無効となり、違反となります。
さらに、特別条項を適用するには、臨時的かつ特別な事情が必要です。たとえば、以下のような状況が該当します。
- 突発的な大規模クレーム対応
- 決算業務や予算調整の集中
ただし、「業務上必要だった」や「慢性的な人手不足」といった理由は、特別条項の条件に該当しません。また、健康確保措置の実施や労働基準監督署への届け出が不備な場合も、特別条項を利用した労働は違反とみなされます。
参考)36協定の特別条項とは?時間外労働時間の上限や注意点を解説
36協定違反は、企業にとって法的な罰則だけでなく、社会的信用の低下や労使関係の悪化といった深刻な影響をもたらす可能性があります。
以下では、具体的な罰則内容やリスクについて詳しく解説します。
労働基準法違反による罰則内容(懲役・罰金)
36協定に違反した場合、労働基準法に基づき、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。この罰則は、労働基準法第32条「労働時間」、第35条「休日」、および第36条「時間外及び休日労働」の規定に違反した際に適用されます。
特に重大な違反が認められる場合には、懲役と罰金が併科される可能性もあるため注意が必要です。
また、派遣労働者が派遣先で36協定違反に該当する時間外労働を行った場合でも、罰則の対象となるのは派遣元ではなく派遣先の企業です。これは、実際に労働者を管理し、指揮命令を行った側が責任を問われるためです。
このような罰則は、単に法的制裁にとどまらず、企業の社会的信用や労使関係にも悪影響を及ぼします。法令を遵守した適切な労務管理を行い、36協定違反を未然に防ぐことが求められます。
企業名公表や社会的信用の低下リスク
労働基準法違反が発覚した場合、厚生労働省や労働局が運営するホームページで企業名が公表されることがあります。この公表制度は、悪質性の高い違反に対して適用され、以下の情報が公開される可能性があります:
- 企業名
- 所在地
- 企業概要
- 違反内容および該当する法律
これにより、社会的な信用が大きく損なわれるリスクが生じます。特に、取引先や顧客、求職者に対するイメージが悪化し、以下のような具体的な影響が予想されます:
- 取引先からの信頼喪失による契約解除や取引停止
- 求職者の応募減少や採用活動への悪影響
- ブランドイメージの低下による顧客離れ
一度失われた社会的信用を回復するには、多大な時間とコストがかかります。さらに、インターネット上で情報が長期間公開されるため、影響が継続する可能性もあります。
このようなリスクを回避するためにも、36協定の適切な締結と運用、労働基準法の遵守を徹底し、労務管理の透明性を高めることが重要です。
従業員トラブルや労使関係への悪影響
36協定違反は、従業員とのトラブルを引き起こす可能性があります。
具体的には以下のような事例が考えられます:
- 未払い残業代の請求
違反が発覚した場合、従業員から未払い残業代の請求を受ける可能性があります。 - 労働条件に対する不信感
違法な時間外労働が常態化すると、従業員の士気低下や退職率の増加に繋がります。 - 訴訟リスク
過重労働が原因で労災や健康被害が発生した場合、従業員や遺族から訴訟を起こされる可能性があります。
労使関係の悪化は、企業運営に大きな支障をきたすため、労働条件の適正な管理が重要です。
違反時の罰則の対象者について
36協定違反が発覚した場合、法的責任を問われるのは労働者ではなく、主に使用者側です。具体的な罰則の対象者は以下の通りです:
- 企業(法人)
組織全体としての責任が問われ、罰則が科される可能性があります。企業名の公表や罰金刑が課されることもあります。 - 経営者(代表者)
企業全体の管理責任を負う立場にあるため、個人として罰則を受ける場合があります。代表取締役や取締役などがこれに該当します。 - 現場の労務管理者(工場長や部門長など)
労働時間や休日管理を直接担当している場合、企業とともに責任を問われることがあります。不適切な労務管理や違反の見逃しがあった場合、法的制裁を受ける可能性があります。
これらの対象範囲は、違反の性質や規模に応じて異なりますが、最終的には企業全体の管理体制が問われることになります。特に、労働時間管理に関与する責任者がいかに法令遵守を徹底するかが重要です。
企業としての信頼を守るためには、経営者から現場の管理者まで、一貫して適切な労務管理体制を構築・運用する必要があります。
36協定違反が発覚することは、企業にとって法的リスクだけでなく、社会的信用を大きく損なう重大な問題です。罰則としての懲役や罰金に加え、企業名の公表といった措置が取られる場合もあり、取引先や顧客、従業員からの信頼を失う恐れがあります。
36協定が発覚する原因は主に以下のとおりです。
・労働基準監督署の臨検監督
・従業員からの通報
・労働災害の発生
・社内調査
ここでは、それぞれの問題が発覚するまでの流れについて詳しく説明します。
企業としての健全な労務管理を維持するためにも、これらのケースを理解し、適切な対策を講じることが重要です。
労働基準監督署の臨検監督があった場合
労働基準監督署による臨検監督は、36協定違反が発覚する主要なケースの一つです。臨検監督とは、労働基準法や労働安全衛生法に基づき、企業の労働条件が適法に運用されているかを調査する制度です。
主に以下の2種類の監督が行われます。
監督の種類 | 実施のきっかけ | 主な特徴 |
申告監督 | 従業員からの通報や苦情が労働基準監督署に寄せられた場合 | 臨時に行われる調査。違反や不備が発見されると迅速に対応を求められる。 |
定期監督 | 労働基準監督署が計画的に事業所を選定 | 監督計画に基づいて定期的に実施される。全般的な労働条件や36協定の締結状況を確認。 |
臨検監督が実施される具体的な背景として、以下のような状況が挙げられます。
- 労働時間や残業代に関する従業員からの苦情が寄せられた場合
- 労働災害が発生し、その原因究明の一環として行われる場合
- 定期的な監査の対象に選定された場合
調査では、以下の点が厳しく確認されます。
- 36協定の締結・届出状況
- 時間外労働や休日労働の実態
- 労働時間管理の適切性
調査の結果、不備や違反が見つかった場合、企業には「是正勧告」が出されることが一般的です。こ
の是正勧告は、提示された期間内に改善を求める行政指導であり、強制力はありません。しかし、是正勧告を無視した場合、書類送検される可能性が高まります。そのため、勧告を受けた場合は、提示された期間内で適切な対応を行い、改善に努めることが重要です。
是正勧告に基づき迅速に対応することで、違反リスクを軽減し、労働基準監督署との良好な関係を維持することができます。
また、日頃から労働条件の適切な管理と、36協定の内容が現場で遵守されているかを定期的に確認することが不可欠です。
従業員からの通報によって発覚した場合
従業員からの通報は、36協定違反が発覚するきっかけの一つです。労働時間や休日労働に不満を持った従業員が、労働基準監督署や労働組合に相談・通報を行うことで、違反が明るみに出るケースが少なくありません。
従業員が通報に至る背景としては、長時間労働の強制や法定労働時間を超えた不適切な勤務指示、36協定の締結や届出の欠如などが挙げられます。
また、特別条項付き36協定の条件が複雑であるために、企業側が管理を徹底できず、限度時間を超えた時間外労働が行われてしまう場合もあります。
通報を受けた労働基準監督署は、該当企業の労務管理状況を調査し、違反が確認された場合には是正勧告を発出します。また、長時間労働の抑制や健康障害防止に関する指導を実施し、問題の再発防止を求めます。
従業員からの通報は、企業内部の労務管理体制や職場環境に問題があることを示しています。そのため、通報を受けた場合には、迅速に原因を調査し、適切な改善措置を講じることが重要です。
さらに、従業員とのコミュニケーションを強化し、問題を未然に防ぐ仕組みを整えることで、信頼関係を築き、通報リスクを低減することができます。
労働災害が発生した場合
労働災害が発生した場合、36協定違反が明るみに出ることがあります。特に長時間労働や過重労働が原因で従業員の健康が損なわれた場合、労働基準監督署による調査が行われ、その中で36協定の未締結や違反が発覚するケースが少なくありません。
たとえば、過労が原因で労働者が体調を崩したり、労災申請に基づいて勤務実態が調査された際、以下の点が確認されます。
- 長時間労働や休日労働の実態
- 時間外労働の上限超過
- 36協定の締結状況や内容の適切性
労働災害の原因が、従業員への過剰な労働時間の要求や労務管理の不備であると判断された場合、企業は法的責任を問われるだけでなく、社会的信用を大きく損なうリスクがあります。また、悪質性が認められると、管理責任の追及や罰則が科されることもあります。
企業にとって、労働災害の発生は重大な事態であり、これを未然に防ぐためには、従業員の労働時間を適切に管理し、36協定を遵守することが不可欠です。さらに、労働災害が発生した場合は迅速に対応し、原因を特定して再発防止策を講じる必要があります。
社内で発覚した場合の対応と違反時の報告義務
企業内部で36協定違反が発覚した場合、迅速かつ適切な対応が求められます。以下の手順を徹底することが重要です。
①事実確認
労働時間の記録や36協定の締結状況を精査し、違反内容を特定する。
②是正措置の実施
・労働時間管理の体制を強化する。
・必要に応じて新たな36協定を締結し、労働基準監督署に届け出る。
③労働基準監督署への報告
違反が重大である場合、速やかに労働基準監督署へ報告し、是正措置について協議する。ただし、36協定違反に対する法的な報告義務は明確には規定されていません。企業の判断で自主的に報告することで、問題解決を図る場合があります。
④再発防止策の導入
内部監査や労働時間管理システムを見直し、再発防止の仕組みを構築する。
これらの手順を実施することで、違反の拡大を防ぎ、従業員の信頼回復に努めることができます。また、日常的な労務管理の見直しや従業員とのコミュニケーション強化も、違反を防ぐための重要なポイントとなります。
なお、報告義務がない場合でも、自主的に報告を行い是正措置を講じることで、企業の姿勢を示すことができるため、労働基準監督署からの評価が比較的寛大になる可能性があります。
違反が発覚した場合は、ただちに専門家である社労士や弁護士に相談することを推奨します
36協定に違反しないためには、企業が日頃から労働時間の管理や労働環境の整備に細心の注意を払うことが重要です。従業員の健康を守りながら、法令を遵守した適切な労働環境を維持するためには、実効性のある対策を講じる必要があります。
ここでは、企業が実践すべき具体的なポイントについて詳しく解説します。
残業が発生する可能性があれば必ず36協定を締結する
労働基準法では、36協定を締結し労働基準監督署に届出を行わなければ、たとえ1分の時間外労働であっても法令違反となります。そのため、残業が発生する可能性が少しでもある場合は、必ず36協定を締結し、適切に届出を行うことが必要です。
企業の規模に関係なく、従業員を一人でも雇用している場合には、36協定の締結と届出を推奨します。特に小規模事業者やスタートアップ企業では、「残業は基本的に発生しない」と思われがちですが、突発的な業務増加や繁忙期に備えるためにも、事前に36協定を締結しておくことがリスク回避のために重要です。
また、協定の内容を定期的に見直し、現状の業務実態に即した形で更新することで、法令順守だけでなく、従業員が安心して働ける環境づくりにもつながります。
違反を防ぐためには、時間外労働を想定していない場合であっても、事前に36協定を締結しておくという「早めの対策」が最善の防止策です。
労働時間管理を徹底するシステムの導入
労働時間の適切な管理は、36協定の遵守に直結します。特に、リモートワークの普及により従業員の労働状況を直接把握することが難しくなった今、勤怠管理システムや長時間労働抑止ツールの導入が効果的です。
労働時間管理システムは、自動集計機能やリアルタイム管理機能を備え、PCやスマホでの打刻情報を正確に記録します。これにより、ヒューマンエラーを防ぎ、管理者が従業員の労働状況を即座に把握できる環境を構築します。これらの機能は、時間外労働の上限超過を未然に防ぐために重要です。
特に、特別条項付き36協定を運用する場合は、年間720時間以内、2〜6ヶ月平均80時間以内といった複雑な条件を遵守するため、システムによる管理が欠かせません。企業規模や業務形態に応じた適切な勤怠管理システムを選定し、日常的に活用することで、36協定の遵守だけでなく、従業員の働きやすい環境づくりにもつながります。
従業員への周知と定期的な研修
36協定の内容や時間外労働のルールを従業員に周知することは、法令順守と労務管理の基盤となります。労働基準法第106条に基づき、36協定の内容は従業員に周知することが義務付けられており、作業場の見やすい場所への提示や書面の交付が求められます。また、これに加えて、定期的な研修を実施することが効果的です。
研修を通じて、従業員に基本的な労働基準法の知識や時間外労働の上限規制について理解を深めてもらうことで、働きすぎの防止につながります。さらに、管理者や労務担当者に対しても、法令や協定内容の詳細を共有し、知識不足による違反のリスクを低減します。
特に従業員数の少ない企業では、「従業員が少ないから36協定が不要」という誤解が生じることがあります。たとえ1人しか従業員がいなくても、時間外労働や休日労働を行う場合には36協定が必要であり、その内容をしっかりと伝えることが求められます。
周知と研修を徹底することで、従業員と企業の双方が36協定の重要性を理解し、法令違反を防ぐ体制を整えることが可能です。
時間外労働を減らす(長時間労働の解消)
時間外労働を削減し、長時間労働を解消するためには、業務効率化や人員配置の最適化が不可欠です。時間外労働が常態化している場合には、以下の取り組みを行うことが効果的です。
まず、業務フローを見直し、業務の無駄を削減します。業務の優先順位を明確にし、定時で業務が完了するような仕組みを導入することが重要です。たとえば、タスク管理ツールを活用することで、業務の進捗を可視化し、不要な業務を削減することができます。
また、業務負担を分散するために、人員配置の適正化や必要に応じた増員も検討すべきです。これにより、特定の従業員に業務が集中することを防ぎ、過重労働のリスクを低減できます。
さらに、時間外労働を減らすことで、従業員の健康を守り、残業代のコストを削減できるだけでなく、企業イメージの向上にもつながります。長時間労働が常態化している企業は、ブラック企業として認識されるリスクもあるため、早期の対策が求められます。
これらの取り組みを通じて、従業員が働きやすい環境を整備し、企業全体の生産性向上を目指しましょう。
違反が発覚した場合はすぐに専門家(社労士)に相談する
36協定に違反してしまった場合、速やかな対応が求められます。違反が発覚すると、労働基準法違反に基づく罰則や企業名の公表といった重大なリスクを伴う可能性があります。これにより、企業の社会的信用が低下するだけでなく、従業員や取引先との関係に悪影響を及ぼすことも考えられます。
そのような状況を最小限に抑えるためには、専門家である社会保険労務士(社労士)への相談が不可欠です。社労士は、36協定や労働基準法に関する専門的な知識を持ち、違反の是正方法や報告書作成、再発防止策の提案など、具体的な支援を行います。また、労働時間管理や職場環境改善のアドバイスを受けることで、企業の労務管理体制を強化することができます。
違反が発覚した際は、迅速に社労士に相談し、必要な対応を進めましょう。これにより、トラブルの拡大を防ぎ、企業の信頼を取り戻すことが可能です。労務管理の徹底を図り、再発防止に向けた取り組みを進めることで、安心して働ける職場環境を構築しましょう。
特別条項の適切な活用と管理
特別条項を導入する際は、臨時的かつ特別な事情に限定されるという原則を厳守し、適切な運用が求められます。特別条項に基づく時間外労働が発生した場合、以下の点に注意することが重要です。
まず、特別条項による労働時間の実績を詳細に記録し、労働基準法で定められた上限(年間720時間以内、2~6ヶ月平均80時間以内など)を超えないよう定期的に確認する必要があります。また、過重労働が従業員の健康に与える影響を防ぐために、健康診断や面談を実施することも有効です。
さらに、特別条項の運用状況を定期的に見直し、必要に応じて協定内容を更新することで、現場の労働状況に即した管理を徹底できます。
複雑な条件や運用に不安がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談しながら進めることで、リスクを最小限に抑えられます。
特別条項の適切な管理は、法令遵守だけでなく、従業員の健康と職場環境の維持にもつながります。
36協定違反の実例
36協定違反は法的リスクだけでなく、社会的信用の低下や従業員の健康被害につながる重大な問題です。こちらでは、実際に発生した違反事例を紹介しています。
大きな問題となってから後悔しないよう、日頃から労務管理体制を整備し、36協定違反をしないようご注意ください。
実例1:特別条項の上限時間を超えた違法な時間外労働(製造業)
◯事例内容
製造業の事業所では、特別条項付き36協定の上限時間(月100時間)を超え、20名以上の労働者に違法な時間外労働を行わせていました。そのうち10名は3か月連続で月100時間超の労働を強いられ、健康リスクが懸念されました。
◯監督署の対応
- 労働基準法違反に対する是正勧告
- 特別条項付き36協定の適正な運用について指導
- 長時間労働抑制と健康障害防止のための指導
参照元:監督指導事例/事例1(厚生労働省)
実例2:月170時間の過重労働と健康リスク(製造業)
◯事例内容
製造業の事業所で、最長で月170時間の違法な時間外労働を行わせ、さらに4か月連続で月100時間超の労働が確認されました。従業員の中には、過重労働により体力的・精神的限界を訴える者もいました。
◯監督署の対応
- 労働基準法違反に対する是正勧告
- 特別条項付き36協定の適正な運用について指導
- 長時間労働抑制と健康障害防止のための指導
参照元:監督指導事例/事例2(厚生労働省)
実例3:限度時間を超える常態化した違法な時間外労働(IT関連業)
◯事例内容
IT関連事業所では、特別条項付き36協定の上限時間(月100時間)を超える違法な時間外労働が約20名に確認されました。また、1年間の協定期間中、限度回数6回を12回超えて全ての月で違法な時間外労働を50名以上に行わせていました。
◯監督署の対応
- 労働基準法違反に対する是正勧告
- 特別条項付き36協定の適正な運用について指導
- 長時間労働抑制と健康障害防止のための指導
参照元:監督指導事例/事例3(厚生労働省)
実例4:月275時間超の違法な時間外労働(運送業)
◯事例内容:
運送業の事業所で、特別条項付き36協定の上限時間(月195時間)を80時間超える月275時間の違法な時間外労働が確認されました。また、健康診断後の医師意見聴取が行われておらず、労働者の健康リスクが懸念されました。
◯監督署の対応:
- 労働基準法違反に対する是正勧告
- 長時間労働抑制と健康障害防止のための指導
- 健康診断と医師意見聴取の徹底に関する是正勧告
参照元:監督指導事例/事例4(厚生労働省)
実例5:長時間労働と労働時間改ざんによる違法行為(建設業)
◯事例内容:
建設業の事業所では、最も長い労働者で月約280時間の違法な時間外労働が行われていました。さらに、割増賃金の支払額を抑えるために労働時間が改ざんされていたことが判明しました。調査により、会社は改ざんを認め、別途作成していた作業日報に基づき実際の労働時間が明らかにされました。
◯監督署の対応:
- 労働基準法第32条(労働時間)違反を是正勧告
- 長時間労働の抑制について指導
- 過重労働による健康障害防止について専用指導文書により指導
- 労働基準法第37条(割増賃金)違反を是正勧告
- 未払いとなっている割増賃金の支払いを指導
- 労働時間の適正把握について指導
実例6:労働基準法違反で書類送検された事例
◯事例内容
ある企業の管理職を含む5名が、労働基準法違反で書類送検されました。この企業では、従業員に対し36協定の延長時間を大幅に超える時間外労働や休日労働を行わせていただけでなく、労働時間管理簿を改ざんし、虚偽の記録を提出していたことが判明しました。また、法定割増賃金の未払いが確認され、不適切な労務管理が問題視されました。
◯法的措置
これらの行為に基づき、労働基準法第36条(時間外労働)、第37条(割増賃金)、第119条(罰則)、および第120条(虚偽申告)に違反したとして、宮崎労働基準監督署が対応しました。
参照元:労働基準法違反の疑いで書類送検(宮崎労働基準監督署)
36協定を正しく運用し、違反を防ぐことは、企業が法令を遵守し、従業員との信頼関係を築くために欠かせない責任です。
2019年の働き方改革法案の施行により、時間外労働や休日労働には厳格な上限規制が設けられました。これを超えた労働をさせると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が科される可能性があります。
また、違反が重大な場合、企業名が公表され、社会的信用を失うリスクもあるため、特に注意が必要です。
労務管理を徹底するためには、まず36協定の締結と労働基準監督署への届出を正確に行うことが基本です。そのうえで、協定内容に基づく労働時間の管理体制を整え、従業員に対する周知や教育を定期的に実施する必要があります。
また、テレワークの普及や多様な働き方に対応するため、労働時間の記録や管理を効率化するシステムを導入することも有効な対策です。
企業が36協定を遵守することは、従業員の健康を守り、長時間労働のリスクを抑えるだけでなく、企業の信頼性を高める重要な要素です。労務管理を徹底し、罰則やトラブルを未然に防ぐことで、働きやすい職場環境を実現しましょう。
従業員を雇ったら36協定を締結・届出を忘れずに
従業員を一人でも雇用している場合、36協定の締結と労働基準監督署への届出は、法令遵守のために欠かせないステップです。36協定を締結していない状態で時間外労働や休日労働を行わせると、労働基準法違反となり、罰則や企業名の公表といったリスクを負う可能性があります。
特に、中小企業や小規模事業者では「少人数だから問題ない」と思いがちですが、法令は事業規模に関わらず全ての雇用主に適用されます。そのため、事業を開始した時点で、すぐに36協定の締結と届出を行いましょう。
労務管理体制を整えることは、トラブルの防止だけでなく、従業員が安心して働ける職場づくりにもつながります。適切な36協定の運用を通じて、企業の信頼性を高め、健全な労使関係を築いていきましょう。
さいごに:36協定の作成は専門家である社労士に相談しよう
36協定の作成は、法令を正確に理解したうえで適切に進める必要があります。特に、時間外労働や休日労働の上限規制、特別条項の適用条件など、複雑なルールを含むため、不備があると罰則の対象となるリスクがあります。
そのため、専門家である社会保険労務士(社労士)に相談することをおすすめします。社労士は、労働基準法や36協定に精通しており、企業の実情に合わせた協定内容の作成や、労働基準監督署への届出のサポートを行います。また、適切な労務管理体制の構築についてもアドバイスを受けられるため、企業にとっての大きなメリットとなります。
社労士に相談することで、トラブルの発生を未然に防ぎ、労務管理の適正化を図ることが可能です。特に、初めて36協定を作成する場合や、複数の従業員を抱える企業では、社労士の支援を受けることで安心して手続きを進めることができます。
参照)社労士との顧問契約の必要性・顧問料の相場・サポート内容・メリットデメリットを徹底解説
全国のあらゆる社会保険手続きと労務相談を「顧問料なしのスポット」で代行するWebサービス【社労士クラウド】
懇切丁寧 ・当日申請・全国最安値価格| 1,800社以上の社会保険手続き実績|