従業員が退職する際、会社側が行うべき手続きは多岐にわたります。雇用保険や社会保険の資格喪失手続き、税金の調整、退職者への必要書類の交付、健康保険証や貸与物の回収など、正確かつ迅速な対応が求められます。また、退職者が再就職しない場合や自己都合退職、定年退職など、退職理由によって必要な対応が変わる点にも注意が必要です。
この記事では、退職時に会社側が行うべき手続きについて、スケジュールや必要書類の具体例を交えながら詳しく解説します。退職手続きの流れを理解し、抜け漏れを防ぐためのチェックリストや、アルバイト・パートなどの従業員に対応する際の注意点も取り上げています。
さらに、社会保険料や税金計算のポイントやトラブル回避のための実践的なアドバイスも提供します。会社にとっても従業員にとってもトラブルの原因とならないよう、正しい退職手続きを把握し、効率的かつ円滑に対応できるようにしましょう。
本記事では、社労士監修のもと、退職手続きの全体像を網羅的に解説しています。退職手続きをスムーズに進めるために、ぜひ最後までお読みください。
生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
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従業員が退職する際、会社側は保険・税金・書類の手続きに加え、離職票や各種証明書の発行など必要な手続きを進める必要があります。手続きの遅延やミスによるトラブルを未然に防ぐために、退職日までと退職日以降に行う手続きの流れを明確に把握しましょう。
従業員が退職する際に会社側が行うべき手続きや対応の主な全体スケジュールは以下のようになります。
このスケジュールに基づき、退職日までの準備と退職後の対応を適切に進める必要があります。
退職手続きの期間は従業員や会社側の状況により異なります。
一般的に、就業規則で「退職の意思は退職の1カ月前までに示すこと」と定めている企業も多いですが、雇用契約が無期の場合は、従業員がいつでも退職を申し出ることができます。
また、企業が退職届を受理しない場合でも、民法に基づき本人の意思表示から2週間後には効力を生じることがあります(民法第627条第1項)。
退職手続きは、仕事の引き継ぎ期間も考慮する必要があります。短期間で対応を終えなければならないケースもあるため、担当者は手続きの流れを把握し、迅速かつ適切に対応しつつ、業務が滞らないよう引き継ぎをしっかりと行うことが求められます。
会社側の主な退職手続きと対応
・退職届の受理
・貸与物や健康保険証を従業員から回収
・社会保険の喪失手続き
・雇用保険の喪失手続き
・住民税、所得税関連の手続き
・離職票や源泉徴収票などの発行と郵送
手続きの種類と内容、期日について以下の表にまとめています。
退職手続きの種類 | 提出期限 | 提出物 | 提出場所 |
社会保険 | 退職後5日以内 | ・健康保険 ・厚生年金被保険者資格喪失届 | 管轄の年金事務所 |
雇用保険 | 退職後10日以内 | ・雇用保険被保険者資格喪失届 ・雇用保険被保険者離職証明書 | 管轄のハローワーク |
所得税・住民税 | 退職日から1か月以内 | 源泉徴収票 | 退職者に送付 |
それぞれの対応について詳しくは以下で解説しています。
従業員から退職の申し出があった場合、退職日までに会社側で必要な対応を行います。ここでは、具体的な手続きとその目的について詳しく説明します。
■退職日までに行う会社側の対応一覧
①退職(願)届の受理と退職日の決定
②退職手続きの説明
③退職時誓約書の締結
④退職証明書の準備
⑤離職証明書の準備(離職票が必要な場合)
⑥退職金の支給準備
⑦従業員から返却物の回収
上記に合わせて業務の引き継ぎ作業も有給休暇の消化日程と合わせて進める必要があります。
以下で詳しく解説していきます。
退職(願)届の受理と退職日の決定
退職(願)届の受理は、退職手続きの最初の重要なステップです。従業員から退職の意思が表明された際には、まずは退職日について従業員と相談し、正式に退職届を受理します。退職届は、退職の意思を示す正式な書類であり、受理された時点で労働契約の解除が決定します(民法第627条第1項)。
退職日は、引き継ぎ期間や後任者の選定、人員補充の必要性を考慮して決定することが重要です。また、他の従業員に混乱が生じないよう、年次有給休暇の取得期間についても従業員と十分に話し合って決めることが必要です。会社の就業規則によっては、退職の申し出を行うタイミングが指定されている場合があり、通常は1カ月前までに申し出ることが求められますが、法律上は2週間前の通知で退職は有効とされています。
退職届を受理する際には、退職理由が自己都合か会社都合かを確認することも重要です。退職理由は、退職金の支給や雇用保険の失業給付に影響するため、必ず書面に明記します。退職届の提出は法的義務ではありませんが、口頭のみではトラブルの可能性があるため、書面での提出が推奨されます。
退職手続きの説明
退職手続きの説明は、退職者が手続きの全体像を理解し、安心して準備を進められるようにするために重要です。
会社側は、健康保険証の回収や貸与品の返却、退職日以降に従業員が行う必要のある手続き(国民健康保険や失業保険の申請など)についてリストを作成し、具体的に説明します。これにより、従業員が安心して手続きを進められるようになります。
退職手続きの説明では、以下の項目について確認と説明を行うことが重要です。
- 健康保険の任意継続の意思確認
- 退職証明書・離職票の必要有無
- 住民税の徴収方法の確認
健康保険の任意継続や国民健康保険、離職票(失業保険を受給する場合に必要)の有無、住民税の手続きについては、退職後に従業員が行う必要があるため、必ず説明しましょう。
特に、退職後に転職活動をする場合や個人事業主として独立する場合は、国民健康保険か任意継続健康保険(現在の健康保険を任意継続する)への加入、もしくは家族の健康保険に被扶養者として加入する手続きを本人が行う必要があるため、手続きの詳細について丁寧に説明してあげましょう。
また、給与から徴収していた残りの住民税の支払い方法についても、退職者にしっかりと説明する必要があります。特に、退職が1月から5月の場合は「普通徴収」が選択できないため、「一括徴収」または「転職先での特別徴収継続」のいずれかを選ぶことになることを伝えておきましょう。
退職時誓約書の締結
退職時誓約書の締結は、退職後の守秘義務や競業避止義務など、企業秘密を保護するために非常に重要です。この書類により、退職者が秘密保持や競業避止に関して企業との約束を正式にすることができます。会社側から内容についてしっかりと説明し、退職する従業員に署名・捺印を求めることで締結します。こうした対応を取ることで、企業としてのリスクを最小限に抑え、安心して退職後の関係を維持することができます。
退職証明書の準備
退職証明書は、退職の事実を証明するために企業が発行する書類です。退職者が転職先での手続きや、離職票が発行される前に社会保険の手続きを行う際に必要とされることがあります。退職証明書には、就業期間、業務内容、事業内での地位、賃金、退職の理由といった基本的な情報を含めます。ただし、労働者からの請求があった内容のみを記載し、求められていない情報は含めないように注意する必要があります(労働基準法第22条第3項)。
退職証明書には定まった形式はなく、企業独自のフォーマットで作成可能です。厚生労働省のモデル退職証明書を参考にするのも良いでしょう。また、退職証明書の申請には期限があり、退職後2年間の間であれば、いつでも交付の希望に応じる必要があります。発行の回数に制限はないため、退職者の希望に応じて速やかに発行しましょう。
離職証明書の準備
離職証明書は、正式には「雇用保険被保険者離職証明書」といい、ハローワークが退職者に交付する「離職票」の基になる書類です。
離職票は、退職者が失業給付を受ける際に必要となります。ただし、転職先がすでに決まっているなど、退職者が離職票の交付を希望しない場合には、離職証明書の作成は不要です。
一方で、退職する従業員が59歳以上の場合には、本人の希望にかかわらず、離職票の交付が義務付けられているため、離職証明書の発行が必要です。
離職証明書には会社側が退職理由を記載し、その記載内容について退職者本人に確認を取ります。本人の合意を得た上で、離職証明書に署名・捺印してもらうことが求められます。退職日に間に合うよう、余裕を持って作成を進めましょう。
雇用保険被保険者離職証明書とは?書き方と必要書類を記入例付きで社労士が解説
退職金の支給準備
退職金の支給準備は、退職する従業員に対して重要な対応の一つです。退職金制度がある場合、退職金の計算を早めに行い、支給に向けた準備を進めましょう。退職金の金額は、就業規則や労使協定に基づいて算出されます。
退職金の支給に際しては、従業員本人に「退職所得の受給に関する申告書」を提出してもらう必要があります。この申告書は、退職金からの税額控除を適切に行うために重要です。申告書の提出の有無により源泉徴収額が異なるため、提出し忘れのないよう従業員に注意を促しましょう。
退職金の金額が確定したら、速やかに支給に向けた手続きを進めます。退職手当は給与などとは別に源泉徴収を行う必要があるため、適切に処理を行いましょう。また、退職手当に係る源泉徴収票の発行も忘れずに行い、退職者へ必要な書類を提供することが求められます。
退職者が退職金の受取に関する手続きをスムーズに行えるよう、必要な書類や申請手続きについても詳細に説明することが大切です。また、税務上の手続きについても適切に対応し、退職者に不利益が生じないよう配慮しましょう。
従業員から返却物の回収
退職する従業員から貸与物の回収を行うことは、退職手続きにおいて非常に重要な作業です。回収物には、社員証、健康保険証、業務用携帯電話、パソコン、制服、自身の名刺、業務で得た取引先の名刺などが含まれます。
貸与物が未回収のままになると、情報漏洩や会社資産の損失といったリスクが発生するため、退職日または最終出勤日までに全ての貸与物を確実に回収する必要があります。
貸与物が返却されない場合、会社側が損害賠償請求を行う可能性もあります。そのため、全ての貸与物を確実に回収することは非常に重要です。退職日前に有給休暇を消化する場合には、最終出勤日までに貸与物を回収するようにしましょう。
回収漏れがあると、退職後に郵送依頼する手間が生じたり、回収が難航したりと、後々のトラブルに繋がる可能性があります。そのため、従業員に最終出勤日を確認し、確実に回収することが求められます。
リモートワークを行っている従業員については、貸与物の返却方法として郵送を求めるケースもあります。退職手続きがスムーズに進むように、事前に返却方法を従業員と確認し、適切に指示することが必要です。
健康保険証については、扶養家族分も含めて退職日までに回収する必要があります。健康保険資格喪失手続きにおいては、従業員の退職の翌日から5日以内に事業所を管轄する年金事務所へ返却する必要があるため、遅れが生じないよう迅速に対応することが重要です。万が一、従業員が返却を忘れた場合は、「健康保険被保険者証回収不能届」を添付して手続きを行う必要があるため、その点についても確認しておきましょう。
回収物のリストを作成し、退職者と共有することで、抜け漏れのない回収を実現し、返却物の状態についても確認し、必要に応じて清算手続きを行うことが求められます。
退職日が過ぎた後も、会社側にはさまざまな手続きが必要です。退職者の社会保険や雇用保険、税金に関する手続きを正確に行うことで、退職者が新たな生活にスムーズに移行できるようにサポートします。
社会保険(健康保険・厚生年金)の資格喪失手続き
社会保険の資格喪失手続きの流れは以下の赤丸の箇所になります。
退職者が加入していた社会保険については、資格喪失手続きを速やかに進める必要があります。資格喪失日は退職日の翌日であり、手続きの期限は資格喪失日から5日以内です。
例えば、1月31日に退職した場合、資格喪失日は2月1日となり、2月6日までに手続きを完了する必要があります。そのため、必要書類を事前に準備し、スムーズに対応できる体制を整えましょう。
社会保険の資格喪失手続きに必要な書類を以下の表にまとめています。
項目 | 内容 |
届出 | 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届 |
添付書類 | 回収した健康保険証(本人・被扶養者分) |
期限 | 喪失日から5日以内(土、日、祝日の場合はその翌日) |
手続き先 | 事業所を管轄する年金事務所 |
手続きは、事業所の所在地を管轄する年金事務所に「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を提出することで行います。
また、全国健康保険協会の場合は、従業員本人および扶養家族分の健康保険証を添付する必要があります。健康保険証以外にも、「高齢受給者証」「健康保険特定疾病療養受給者証」「健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証」などが交付されている場合は、それらも忘れずに回収し、添付してください。
万が一健康保険証を回収できなかった場合には、「健康保険被保険者証回収不能届」を資格喪失届に添付することで対応可能です。
さらに、健康保険組合に加入している場合は、年金事務所に加えて健康保険組合にも資格喪失届を提出する必要があります。
また、従業員が70歳以上の場合には専用の様式が必要になることを留意してください。退職者および扶養家族の保険証を確実に回収することで、手続きが円滑に進むよう努めましょう。
退職後、独立して個人事業主の場合や再就職先が決まっていない従業員には、「国民年金」や「健康保険の任意継続」を案内してあげましょう。
2024年12月2日からの健康保険証の廃止に伴い、社会保険の喪失手続きにも一部変更点があります。下記の記事で解説しているので、合わせてチェックしてください。
健康保険証の廃止で2024年12月2日から社会保険手続きはどう変わった?マイナ保険証についても解説
雇用保険の資格喪失手続き
退職者が雇用保険に加入していた場合、会社は雇用保険の資格喪失手続きを行う義務があります。
雇用保険の資格喪失手続きの流れは以下の赤丸の箇所になります。
手続きは、退職日の翌々日から10日以内に、事業所を管轄するハローワークに「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出することで完了します。
また、退職者が離職票の発行を希望する場合は、「雇用保険被保険者離職証明書」と賃金台帳・労働者名簿・出勤簿など、退職日以前の賃金支払い状況と離職理由が確認できる資料を提出する必要があります。
ただし、退職者が59歳以上の場合は、本人の希望に関係なく離職票を発行が必要になります。
雇用保険の資格喪失手続きと離職票の発行に必要な書類を以下の表にまとめています。
手続き内容 | 詳細 |
届出 | ・雇用保険被保険者資格喪失届 ・雇用保険被保険者離職証明書 |
添付書類 | ・賃金台帳、出勤簿、タイムカード、労働者名簿、退職届 |
期限 | 退職日の翌々日から10日以内 |
手続き先 | 事業所を管轄するハローワーク |
雇用保険被保険者離職証明書の提出時には、記載内容に関して退職者本人の署名が必要です。署名が得られない場合は、その理由を明記し、事業主が代わりに記入します。
住民税の手続き
住民税の手続きは、転職先が決まっている場合と、決まっていない場合で対応が異なります。また、退職時期によっても対応が変わってくるため注意が必要になります。
どちらの場合も退職日を含む月の翌月10日までに、住民税の徴収方法を選択して住所がある市区町村に「給与支払報告に係る給与所得異動届」を提出する必要があります。
退職者が転職先を決定している場合、新しい勤務先で特別徴収(給与から天引き)を継続する手続き(特別徴収の継続手続き)を進めます。具体的には、退職日を含む月の翌月10日までに、退職者の居住地の市町村に「給与支払報告に係る給与所得者異動届書」を提出します。
この手続きを怠ると、会社に督促状が届く場合があるため、注意が必要です。
退職者に給与支払報告に係る給与所得異動届書を引き渡し、新しい勤務先が必要事項を記入をして市町村に提出することで、特別徴収が継続されます。
再就職までに期間が空く場合は、従業員本人が住民税を直接納付することになります。この場合も、退職者本人が居住地の市町村に「給与支払報告に係る給与所得異動届書」を提出します。
住民税は、従業員の退職月によってその年度中に納付すべき住民税の徴収方法が異なります。特別徴収では、1年分の住民税を6月から翌年の5月までの期間で徴収します。
このため、以下のように退職時期によって最後の徴収方法が異なりますので、注意しましょう。
退職時期 | 徴収方法 |
1月〜4月 | 最後の給与または退職金から残額を一括徴収します。 |
5月 | 残額が1ヶ月分のみの場合、最終給与から特別徴収として処理されます。 |
6月〜12月 | 一括徴収または普通徴収への切り替えを選択可能です。一括徴収の場合は翌月10日までに納付を完了する必要があります。 |
従業員の退職に伴う社会保険と雇用保険の手続きについて詳しく解説しています。
従業員の退職で会社側が行う社会保険・雇用保険の手続き!必要書類や流れを解説
健康保険被保険者資格喪失確認通知書の送付
健康保険被保険者資格喪失届を提出すると、「健康保険被保険者資格喪失確認通知書」が発行されます。この通知書は、退職者が退職後に健康保険の切り替え手続きを行う際に必要な重要な書類です。発行された通知書が会社に届いたら、速やかに退職者に送付するようにしましょう。送付が遅れると、退職者の新しい保険加入手続きに支障をきたす可能性があるため、迅速な対応が求められます。
源泉徴収票の発行・送付
退職日から1ヶ月以内に源泉徴収票を発行し、退職者に送付します。この書類は、退職者が確定申告や再就職先での年末調整に必要となるため、正確かつ迅速に対応することが求められます。
源泉徴収票の内容は、退職者の1月1日から退職時までの収入額や天引きされた所得税などを記載したものです。退職者が同年中に再就職する場合は、新しい職場での年末調整のためにこの書類が必須となります。同年中に再就職しない場合でも、確定申告を行うことで所得税の過不足分を調整できる旨を退職者に説明しておきましょう。
また、退職金を支給する場合には、退職金専用の源泉徴収票を別途発行する必要があります。給与分と退職金分の源泉徴収票はそれぞれ正確に記載し、適切に管理してください。
離職票1と2の送付
離職票1と2は、退職者が失業給付を申請するために必要な書類です。これらの書類は、会社がハローワークに「雇用保険被保険者離職証明書」を提出した後、ハローワークから交付されます。企業はこれらの書類を受け取った後、速やかに退職者へ送付し、失業給付の申請手続きが遅れることのないように配慮することが求められます。
離職票(1と2)とは?発行手続きや離職証明書・退職証明書の違いを社労士が解説
従業員の退職手続きは、その雇用形態や年齢によって異なる注意点があります。それぞれのケースに適した対応を行うことで、法的リスクやトラブルを防ぎ、円滑な退職手続きが可能となります。以下では、アルバイト・パート、派遣社員、高齢者の退職手続きについて詳しく解説します。
アルバイト・パートの場合の対応
アルバイトやパートの退職手続きには、雇用契約の確認と状況に応じた対応が求められます。
アルバイトやパートは非正規雇用であるため、手続き内容に違いがある場合もありますが、基本的な退職手続きは正社員と同様です。とくに、社会保険や雇用保険の加入状況や納税の有無を確認し、個々のケースに合った対応を進めることが重要です。
また、契約期間の満了や途中退職など、退職理由によって手続きの進め方が異なります。
派遣社員の場合の対応
派遣社員の退職手続きでは、派遣元との密な連携が必要です。派遣社員は、派遣元の派遣会社と雇用契約を結んでいるため、退職手続きは派遣元が主体となって行います。ただし、派遣先の会社としても業務の引き継ぎや調整を適切に進めることで、退職による影響を最小限に抑えることが重要です。
65歳・70歳以上の高齢者の場合の対応
社会保険の加入手続きが遅れると、その期間の保険料が未払いになっています。年金事務所から指示された方法で、未払い分高齢者の退職手続きは、基本的には一般的な退職手続きと同様です。ただし、年齢や再就職の有無に応じて追加の手続きや配慮が必要になる場合があります。
65歳以上の従業員が退職する際には、年金や健康保険に関する説明が特に重要です。再就職しない場合や、再就職先が健康保険の適用事業所でない場合は、以下の選択肢を説明しましょう。
- 国民健康保険への加入
- 任意継続被保険者として全国健康保険協会・健康保険組合に加入
- 健康保険に加入している身内の被扶養者となる
70歳以上の従業員の場合、厚生年金保険の適用がなくなるため、「厚生年金保険70歳以上被用者不該当届」を退職翌日から5日以内に管轄の年金事務所へ提出する必要があります。この期限を守ることで、年金事務所からの是正指導を防ぎ、企業としての信頼を維持できます。
また、65歳以上で再就職を希望する退職者には、高年齢求職者給付金について案内しましょう。この給付金は年金との併給が可能で、退職者の生活を支える重要な制度です。ハローワークでの手続き方法や必要条件を正確に伝えることで、退職者の不安を軽減できます。
高齢者の退職手続きでは、個別の状況に応じた柔軟な対応と、丁寧な説明が重要です。これにより、退職者が新しい生活を安心して始められると同時に、会社としての法的リスクを回避できます。
退職手続きに関する疑問や不安は、従業員だけでなく、会社側にも多く生じるものです。手続きの遅れやミスがトラブルに発展することを避けるため、よくある質問に対する具体的な回答を知っておくことは非常に重要です。
ここでは、退職手続きの中でも特に多く寄せられる「手続きが遅れる場合の影響」や「退職代行や弁護士から連絡を受けた際の対応」について解説します。適切な対応を理解し、スムーズに手続きを進めるための参考にしてください。
退職手続き(離職票など)が遅れると、どのような問題が起こる?
退職手続きが遅れると、会社側にも従業員側にもさまざまな不利益が生じる可能性があります。例えば、離職票の発行が遅れると、退職者が失業手当の受給を開始する時期が遅れることがあります。また、社会保険や雇用保険の資格喪失手続きが滞ると、保険料の精算が正確に行われず、未納や過払いが発生するリスクが高まります。
さらに、税務関連手続きが遅れると、住民税や所得税の処理が混乱し、会社や従業員が追加の対応を迫られることも考えられます。こうした遅延は、会社の信用問題にもつながるため、注意が必要です。
これらの問題を防ぐためには、退職手続きにおける期限を厳守し、事前に必要な書類や手続きを整理しておくことが重要です。特に、離職票の発行や社会保険の資格喪失手続きなど、期限が法令で定められているものについては、計画的に対応を進めましょう。
離職票の申請期限10日以内を過ぎると罰則?期限内に提出できなかった場合の対処法も解説
退職代行・弁護士から連絡を受けた場合の対応は?
退職代行サービスや弁護士を通じて退職の連絡を受けた場合、会社側は冷静かつ迅速に対応することが求められます。まずは、送付された書類や通知内容を確認し、法的に必要な対応を進めることが重要です。退職代行や弁護士を通じての連絡でも、退職者本人からの正式な意思表示とみなされるため、退職手続きの開始が必要です。
具体的には、退職届の受理、離職票の発行、社会保険や雇用保険の資格喪失手続きなど、通常の退職手続きと同様に進めていきます。退職代行を利用する場合、直接のやり取りが難しいケースもありますが、手続きの詳細については退職代行業者や弁護士に問い合わせ、必要な情報を確実に確認することが重要です。
また、こうした対応を進める中で、従業員とのトラブルを避けるために、社労士などの専門家に相談することも有効です。専門家の助言を得ることで、適切な法的対応が可能となり、会社のリスクを軽減することができます。
従業員が退職する際、会社側が行うべき手続きは多岐にわたります。これらの手続きが適切に行われないと、法的リスクや従業員とのトラブルを招く可能性があるため、退職手続きの全体像を把握し、漏れなく対応することが重要です。
ここでは、退職時に会社側が行うべき手続きや対応を分かりやすく整理ています。
会社側が行う退職手続きチェックリスト
退職手続きの基本的な流れは、退職日までに行う対応と退職日以降に行う対応に分けられます。それぞれの手続きについて確認していきましょう。
退職日までに行う対応
- 退職届の受理:従業員から提出された退職届を確認し、正式に受理します。
- 退職日の決定:退職日を従業員と合意の上、確定します。
- 退職手続きの説明:必要な書類や最終給与に関する手続きを従業員に案内します。
- 退職時誓約書の締結:機密保持や競業避止義務に関する誓約書を必要に応じて取り交わ
- 退職証明書の準備:従業員が希望する場合は、退職証明書を発行します。
- 離職証明書の準備:離職票が必要な場合、事前に準備を進めます。
退職日以降に行う対応
- 社会保険資格喪失手続き:退職者の健康保険および厚生年金保険の資格喪失届を年金事務所へ提出します。
- 雇用保険資格喪失手続き:雇用保険被保険者資格喪失届をハローワークに提出します。
- 住民税の手続き:住民税の特別徴収を中止し、普通徴収への切り替えを行います。
- 健康保険証の確認通知書の送付:健康保険被保険者資格喪失確認通知書を送付します。
- 源泉徴収票の発行と送付:退職後1ヶ月以内に源泉徴収票を発行し、退職者に送付します。
- 離職票の送付:離職票1と2を作成し、退職者の希望に応じて送付します。
これらの手続きを効率的に進めるため、事前にスケジュールを作成し、必要な情報を整理しておきましょう。
退職時に従業員から受け取るものチェックリスト
退職時には、従業員から会社に返却してもらう物品や書類があります。これらを確実に回収することで、情報漏洩や物品紛失などのリスクを防ぎます。
退職者から受け取るべき主なものは以下の通りです。
- 健康保険証:退職者が持参している健康保険証を必ず回収します。
- 貸与物:名札、社員証、制服、PC、携帯電話など会社から貸与した物品を回収します。
- 業務関連書類:プロジェクト資料や顧客リストなどの業務に関する書類を確認します。
- 返却確認書:すべての貸与物が返却されたことを確認する書類に従業員の署名をもらいます。
回収が漏れると、後々トラブルの原因になることがあるため、チェックリストを活用しながら確認を行いましょう。
会社側から渡す必要書類チェックリスト
退職時には、従業員に対して必要な書類を適切に交付することも重要です。法律で定められた書類や、従業員からの希望に基づく書類を確実に渡しましょう。
会社側が退職者に渡すべき主な書類は以下の通りです。
- 退職証明書:従業員から希望があれば発行します。
- 離職票:雇用保険の受給に必要な書類で、退職者が希望する場合に交付します。
- 源泉徴収票:所得税の精算に必要な書類で、退職後1ヶ月以内に送付します。
- 健康保険被保険者資格喪失確認通知書:健康保険資格の喪失を証明する書類を発行します。
- 未払い給与明細:最終給与に関する明細を交付します。
これらの書類がスムーズに渡せるよう、事前に作成・準備を行い、退職者に分かりやすく説明することを心がけましょう。
従業員の退職が決まった際には、会社側は退職証明書や離職票の発行、社会保険や雇用保険の資格喪失手続き、税務関連の対応、貸与物の回収など、多岐にわたる手続きを正確かつ迅速に行う必要があります。
退職日が決定した時点で、チェックリストを参考に必要な書類や手続きの流れを明確にし、計画的に行動を開始しましょう。
また、従業員の再就職の有無や意向に応じて必要な手続きが変わるため、従業員との十分なコミュニケーションを取りながら進めることが求められます。
退職手続きは、会社が法的リスクを回避し、従業員との信頼関係を維持するだけでなく、従業員が退職後に円滑に新たなステップへ進むための準備を整える重要な役割を果たします。
さらに、社会保険や雇用保険、離職票発行手続きなどは専門的な知識が求められ、手続き自体が複雑で期限も定められています。そのため、専門家である社労士に相談しながら進めることで、漏れやミスを防ぎ、スムーズな対応が可能となります。
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