従業員が退職する際、希望があれば企業は離職票の発行手続きを行う義務があります。離職票の発行手続きには、必要書類の準備や、退職後の一定期間内に処理を行うなど、注意すべき点が多く、手続きミスや遅れがトラブルを招くことも少なくありません。離職後に、やっぱり離職票が欲しいと従業員から連絡をもらうことも少なくありません。
離職票の申請手続きは「退職日の翌々日から10日以内」に行わなければならず、この期限の10日以内を過ぎてしまうと罰則が科せられる可能性があります。
この記事では、人事・労務担当者の方へ向けて、離職票の申請書類の提出が期限を過ぎた場合、罰則が科される可能性がある具体的なケースや期限内に提出できなかった場合の対処法について解説しています。
円滑な退職手続きを進め、トラブルを未然に防ぐための参考として、ぜひ最後までお読みください。
生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
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離職票とは、雇用保険に加入している被保険者が退職した際に、ハローワークから失業給付を受給するために必要な書類です。正式名称は「雇用保険被保険者離職票」といいます。
離職票は、退職者が再就職するまでの生活を支える重要な役割を果たします。退職後、新しい仕事が決まるまでの間、生活の安定を図るための経済的支援として機能するのです。
離職票は、「離職票-1」と「離職票-2」の2種類で構成されています。
離職票とは何に使うのか?離職票1と2の違いや見方について、詳しくは下記の記事で詳しく解説しています。
離職票(1と2)とは?発行手続きや離職証明書・退職証明書の違いを社労士が解説
離職票の発行は、原則として退職者本人からの請求に基づいて行われます。ただし、59歳以上の退職者については、本人の意思に関わらず、企業は必ず離職票の交付手続きを行わなければなりません。
企業は、従業員が雇用保険の資格を喪失した日の翌日から起算して10日以内に、離職票の交付申請をハローワークに対して行う義務があります。この期限を守らないと、雇用保険法に基づく罰則が科される可能性があるため、注意が必要です。
離職票は、退職者の生活を守り、再就職までの期間を支える重要な書類です。企業は法令を遵守し、速やかな手続きを心がける必要があるでしょう。
離職票の申請書類は、雇用保険法施行規則第7条に基づき、企業は従業員が雇用保険の資格を喪失した日の翌日から10日以内に、所轄のハローワークに提出しなければなりません。
企業がこれに違反し、申請書類を提出しなかった場合、雇用保険法第83条に基づき罰則が適用される可能性があります。
具体的には、以下のようなケースで6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
- 正当な理由なく離職票の発行手続きを怠った場合
- 虚偽の届け出を行った場合
- 離職者からの発行依頼を正当な理由なく拒否した場合
罰則を回避するためには、企業は規定された期限内に迅速かつ正確に離職票の交付申請書類を提出することが重要です。特に、従業員の失業給付に影響を与えないためにも、法に従った適切な手続きを確実に行うことが求められます。
【スポット申請】労働保険(労災保険及び雇用保険)の役割と加入条件について
提出期限に土日や休日が影響する場合
離職票の申請書類の提出期限は、企業は従業員が雇用保険の資格を喪失した日の翌日から10日以内に、所轄のハローワークに提出しなければなりません。雇用保険の資格を喪失するのは退職日の翌日となるため、提出期限は退職日の翌々日から10日以内という計算になります。
この期間には土日祝日も含まれます。したがって、提出期限が土日や祝日と重なる場合でも、提出が遅れることなく対応しなければなりません。
例えば、退職日が金曜日の場合、翌日である土曜日が1日目としてカウントされ、提出期限はその次の週の月曜日までに申請書類をハローワークに提出する必要があります。提出期限を過ぎると、企業には罰則が科される可能性があるため、迅速な対応が求められます。
離職票の発行遅延が元従業員に与える影響
離職票の発行が遅れると、退職者である元従業員は失業給付を受けることができません。 失業給付は、生活の安定を図るための重要な経済的支援です。 これが受けられないことで、再就職までの生活に大きな支障をきたす恐れがあります。
離職票の提出が遅れることによって、元従業員が失業手当を受給できる時期が後ろ倒しになります。 場合によっては、生活費に困窮したり、再就職活動に専念できなくなったりするなど、深刻な事態を招くこともあり得ます。
元従業員の生活を守るという観点からも、企業には離職票の期限内提出の義務が課せられているのです。
また、離職票の遅延によって失業給付の受給開始時期が遅れた場合、実際に被った損害について、会社に損害賠償を求められる可能性もあります。
元従業員との関係悪化や、会社の信用失墜など、企業にとってもデメリットは少なくありません。 円滑な退職手続きは、企業にとっても元従業員にとっても重要な意味を持つのです。
離職票の発行手続きは、企業が従業員の退職後に速やかに行わなければならない重要なプロセスです。この手続きを怠ると、従業員が失業給付を受けられなくなる可能性があり、企業側にも罰則が科されることがあります。以下に、退職後に必要な離職票発行の流れについて説明します。
離職票の発行手続き及び雇用保険喪失手続きの大まかな流れ
- 退職した従業員の雇用保険被保険者資格喪失届を所轄のハローワークへ提出する(被保険者(対象従業員)でなくなった事実があった日の翌日から起算して10日以内)
- 対象従業員が離職票の発行を希望する場合、雇用保険被保険者離職証明書を作成し、「上記1(雇用保険被保険者資格喪失届)」と必要な書類を添えて所轄のハローワークへ提出する。
- ハローワークで喪失手続きが完了すると、完了のお知らせ及び書類一式(この中に離職票(1と2)など退職した従業員へ渡す書類が含まれている)が届く
- 退職した従業員へ必要な書類(雇用保険被保険者資格喪失確認通知書、雇用保険被保険者離職証明書(離職票1,2)など)を郵送などで渡す
離職票を発行しない場合には離職証明書の提出は不要ですが、雇用保険被保険者資格喪失届は離職票の発行の有無にかかわらず、必ず提出しなければなりません。提出期限は退職日の翌日から10日以内となっていますので、期限に遅れないよう注意が必要です。
雇用保険被保険者離職証明書とは?書き方と必要書類を記入例付きで社労士が解説
上記3のハローワークから届く書類一式の中には離職票1と2とあわせて、企業側には「雇用保険被保険者資格喪失確認通知書」と「離職証明書(事業主控)」が発行されます。この2つの書類は会社側の確認および保管用です。退職者に渡す離職票と混同しないよう注意が必要です。
ハローワークから発行された離職票を受け取った後、企業は速やかに退職者に対して離職票を送付します。遅延が生じると、退職者が失業給付を申請できなくなり、生活に支障をきたす可能性があります。そのため、企業は迅速に対応し、離職票を遅延なく退職者に届けることが重要です。
離職票の発行に必要な離職証明書の提出手続きは、記入が難しく、期日も短いものになります。そのうえ、必ず事業主が対応しなければなりませんので大変です。そして退職者にとっても雇用保険の基本手当の受給に関わる重要な書類であるため、手続きに不備があればトラブルに発展する可能性もあります。
会社としてのリスクを軽減するためにも離職票の発行手続きは専門化である社労士に依頼することも検討してください。
離職票の申請書類の提出が10日以内を過ぎてしまった場合、まずは速やかに対応策を講じる必要があります。申請書類の提出期限を過ぎると、企業には法的な罰則が科せられる可能性があるため、適切な対応が求められます。以下のステップを踏むことで、遅れた場合でもできるだけ早く対処できます。
ハローワークに連絡と相談をする
申請書類の提出が期限を過ぎてしまった場合、まずは管轄のハローワークに連絡し、状況を説明することが重要です。遅延の理由を明確に伝え、今後の対処方法について指示を仰ぎましょう。
正当な理由があれば、ハローワークの担当者と相談しながら適切な処理を行うことで、罰則を回避できる可能性もあります。迅速な対応により、従業員の失業給付手続きへの影響も最小限に抑えられます。
ただし、正当な理由なく離職票の発行手続きを怠った場合や、虚偽の届け出を行った場合、離職者からの発行依頼を正当な理由なく拒否した場合には、雇用保険法に基づき6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
退職者(元従業員)への対応
申請書類の提出が遅れた場合、退職者への速やかで丁寧な対応が不可欠です。離職票の発行が遅れると、退職者が失業給付を受け取るまでの手続きが遅延し、生活に支障をきたす恐れがあります。
そのため、すみやかに退職者に連絡し、遅延が発生している理由や今後の手続きの進行状況を説明することが大切です。誠意を持った対応は、退職者とのトラブルを回避し、信頼関係の維持につながります。
また、ハローワークでの手続きに時間がかかる場合、退職者には仮受付の手続きを案内するとよいでしょう。仮受付を行えば、離職票が発行される前でも失業給付の申請を進められ、遅延による影響を最小限に抑えることが可能です。
離職票の発行遅延は、退職者の生活に直結する重大な問題です。企業は、ミスを未然に防ぐ仕組みづくりと、万が一遅れた場合の適切な対応の両面から、離職票の手続きに万全を期す必要があります。
離職票の発行や手続きには、さまざまなトラブルが発生することがあります。退職者と企業の間での誤解や手続きミスが原因で、離職票の発行が遅れたり、失業給付の受給に影響が出たりする可能性があります。ここでは、離職票に関してよく起こるトラブルと、その予防方法について解説します。
離職理由の異議申し立て
離職理由が離職票に記載される際、企業と退職者の間で認識の違いが生じることがあります。特に、自己都合退職か会社都合退職かの判断は、失業給付の受給に大きく影響するため、退職者から異議申し立てが行われることも少なくありません。自己都合で処理されると失業給付の開始が遅れたり、給付額が少なくなるためです。
こうしたトラブルを避けるには、離職証明書の作成時に退職理由を正確に把握し、企業側が離職証明書に具体的な事情を詳細に記載することが重要です。退職前に退職者に内容を確認してもらい、双方の認識にズレがないか確認することで、後の異議申し立てを防ぐことができます。また、ハローワークから離職理由に関する確認が求められた場合は、速やかに訂正手続きを行うことも求められます。
特定理由離職者に認定される場合もあるので、下記ハローワークのページで特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲を確認してください。
参考)ハローワークインターネットサービス – 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要
離職票が届かない
離職票が退職者の手元に届かないトラブルも発生しています。原因としては以下のようなものが考えられます。
①手続きを忘れている 企業が離職票の発行手続きを失念し、そもそも離職票が発行されていないことがあります。退職時に、発行の必要性を再確認することが大切です。
②ハローワークでの処理が遅れている ハローワークでの処よう伝えましょう。
③宛先不明で戻ってきた 退職者の住所が変理に時間がかかり、発行が遅れるケースもあります。退職者にはハローワークに進捗状況を確認する更されていると、郵送した離職票が宛先不明で返送されてくることがあります。送付前に、退職者の最新の住所を確認しておくことが重要です。
④離職票の交付希望を聞いていなかった そもそも企業が、退職時に離職票の交付希望を確認していなかったため、発行手続きを行っていないこともあります。退職者に必要性を確認することを忘れずに。
離職票を紛失した場合の再発行手続き
離職票を紛失した場合、再発行の手続きを行う必要があります。退職者は、再発行を希望する旨を企業に伝え、企業はハローワークに対して再発行を依頼します。再発行の手続きにも時間がかかることがあるため、早めに対応することが大切です。紛失を防ぐためには、離職票を受け取った際に、すぐにコピーを取っておくことを推奨します。
従業員が退職する際には、企業として必要な手続きを速やかに行うことが求められます。これには、社会保険や税金関連の書類の処理から、退職者に対する証明書類の発行まで、多岐にわたります。ここでは、会社が退職時に行う主要な手続きについて説明します。
従業員の退職で会社側が行う退職手続き一覧・流れや必要書類を社労士が解説
具体的には大きく3つの手続きが必要になります。
・雇用保険に関する手続き
・社会保険に関する手続き
・税金に関する手続き
雇用保険に関する手続き(離職票の発行手続きを含む)
従業員が退職した場合、企業は「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職証明書」を所轄のハローワークに提出する必要があります。これらの手続きは、従業員が雇用保険の資格を喪失した日の翌日から10日以内に行う義務があります。手続きが完了すると、ハローワークから「離職票」が発行され、退職者へ交付します。この離職票は、退職者が失業給付を受けるために必要な書類です。退職者が離職票の交付を希望する場合は、離職票の発行手続きを進めます。
社会保険に関する手続き
退職した従業員が加入している社会保険(健康保険と厚生年金保険)の資格を喪失するため、会社は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を管轄の年金事務所に提出します。この手続きは退職日から5日以内に行わなければなりません。また、退職者が会社の健康保険証を持っている場合、これを回収し、年金事務所へ返却します。
この手続きが遅れると、退職者が次に加入する保険への切り替えが遅れ、国民健康保険への加入ができないなどのトラブルが発生する恐れがあります。企業としては、迅速かつ確実に処理することが求められます。
税金に関する手続き
退職に伴う税金の手続きとして、企業は退職者に対して「源泉徴収票」を発行する必要があります。これは、所得税の確定申告や次の就職先での年末調整に必要な書類です。発行期限は退職日から1か月以内とされており、退職者に速やかに渡します。
また、住民税に関しては、「給与支払報告書」や「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を退職者が住んでいる自治体に提出します。これにより、退職者の住民税の徴収方法が正しく変更されます。これらの手続きを確実に行わないと、退職者に税金の未払いが生じる可能性があるため、注意が必要です。
退職者に渡すべきその他の書類
退職者には、雇用保険や社会保険、税金に関する書類以外にもいくつかの書類を渡す必要があります。以下の書類が代表的です。
- 雇用保険被保険者証:雇用保険に加入していたことを証明する書類で、退職時に返却します。
- 退職証明書:退職者の依頼があれば発行する義務があります。退職理由や在職期間が記載されますが、退職者が希望しない項目を記載することは法律で禁じられています。
- 健康保険資格喪失証明書:退職者が国民健康保険に加入する際に必要な書類です。
これらの書類を確実に準備し、退職者に適切に交付することで、退職後の手続きが円滑に進むよう配慮することが大切です。
従業員の退職に伴う手続きは多岐にわたるため、計画的に準備を進めることが重要です。企業としては、法的義務を果たしつつ、退職者に対する丁寧な対応を心がけることで、信頼関係を維持することができます。
従業員の退職時に会社がおこなう社会保険と雇用保険の手続きについて下の記事で詳しくまとめています。
従業員の退職で会社側が行う社会保険・雇用保険の手続き!必要書類や流れを解説
離職票の申請手続きは、退職者が失業給付を受け取るために重要な書類です。企業は、退職者から離職票の交付希望があった場合、退職日の翌日から起算して10日以内に、必要書類をハローワークに提出し、速やかに手続きを完了させなければなりません。
10日以内を過ぎて提出してしまうと、企業には雇用保険法に基づく罰則が科される可能性があり、退職者が失業給付を受けられないなどの不利益を生じさせることになります。企業は、適切な期限内に手続きを行い、トラブルを避けるために、正確かつ迅速な対応が求められます。
また、休日や土日が挟まる場合でも、事前に準備を進めておくことで、手続きが遅れないようにすることが重要です。退職者との連絡を密にし、必要な書類の作成を速やかに行うことで、スムーズな手続きを完了させることができるでしょう。
離職票の発行手続きは、退職者の生活を守り、再就職までの期間を支える重要な役割を担っています。企業は、法令を遵守し、適切な期限内での手続きを心がけることが求められます。日頃から、労務管理の知識を深め、ミスを未然に防ぐ仕組みづくりに取り組むことが大切です。
離職票の申請手続きは、企業にとって重要な責務のひとつです。退職者の生活を守り、円滑な再就職をサポートするためにも、退職日の翌々日から10日以内の提出を確実に行うことを心がけましょう。
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