事業主にとって、労働局、労働基準監督署、ハローワークなどの行政はどんな存在でしょうか?悪いことをしているわけではないのに、何か指摘されるのではと、不安に思う事業主の方も多いのではないでしょうか。
もし、所轄の労働基準監督署から、「労働条件に関する調査の実施について」という書類が送られて来た場合、事業主はどうしたらいいでしょうか?どんな準備や対応をしたらいいのでしょうか?社労士が解説いたします。
生島社労士事務所代表
生島 亮
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労働基準監督署は、厚生労働省の第一線機関であり、全国に321署あります。労働基準監督署では、労働基準法などの関係法令に関する各種届出の受付や、相談対応、監督指導、機械や設備の設置に係る届出の審査や、職場の安全や健康の確保に関する技術的な指導、仕事に関する負傷などに対する労災保険給付、会計処理などを行っています。
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労働基準監督署には、方面(監督)、安全衛生課、労災課、業務課という部署があります。役割はそれぞれ以下のような内容となります。
①方面(監督課)
法定労働条件に関する相談や、勤務先が労働基準法などに違 反している事実について行政指導を求める申告を受け付けます。
・監督指導
計画的に、あるいは働く人からの申告などを契機として、労働基準法などの法律に基づいて、労働基準監督官が事業場(工場や事務所など)に立ち入り、機械・設備や帳簿などを検査して関係労働者の労働条件について確認を行います。その結果、法違反が認められた場合には事業主などに対しその是正を指導します。また、危険性の高い機械・設備などについては、その場で使用停止などを命ずる行政処分を行います。
・司法警察事務
度重なる指導にもかかわらず法違反の是正が行われない場合 など、重大・悪質な事案については、刑事事件として取調べなどの任意捜査や、捜索・差押え、逮捕などの強制捜査を行い、検察庁に送検します。
②安全衛生課
労働安全衛生法などに基づき、働く人の安全と健康を確保するための措置が講じられるよう事業場への指導などを行っています。具体的には、クレーンなどの機械の検査や建設工事に関 する計画届の審査を行うほか、事業場に立ち入り、職場での健 康診断の実施状況や有害な化学物質の取扱いに関する措置(マスクの着用など)の確認などを行っています。
③労災課
労働者災害補償保険法に基づき、働く人の、業務上の事由、 事業主が同一人でない二以上の事業の業務を要因とする事由または通勤による負傷などに対して、被災者や遺族の請求により、 関係者からの聴き取り・実地調査・医学的意見の収集などの必 要な調査を行った上で、事業主から徴収した労災保険料をもとに、保険給付を行っています。
④業務課
会計処理などを行っています。
都道府県労働局は、厚生労働省が管轄する組織であり、各都道府県にあります。労働基準監督署の上に位置する組織となり、労働関係法令に対する助言等を行います。
一方で、労働局には違反を取り締まることはできず、その権限があるのは労働基準監督署となります。
労働基準監督署の権限
労働基準監督署は、管轄区域の企業を監督し、労働基準法を遵守しない企業があれば取り締まります。指導しても改善が見られない企業に対しては、刑事事件として立件することが可能です。
労働基準監督官の権限
企業への立ち入り検査、違反者への指導勧告、また、特別司法警察職員の権限があり、違反者を逮捕することができます。(労働基準法101条~103条)
- 定期監督・・労働基準監督署が定めた監督計画に基づいて、企業を調査するもの
- 申告監督・・労働者の申告をきっかけとして実施する調査
- 災害時監督・・労働者から労災申請があった際に行う調査
- 再監督・・前述の3つの調査において、指導した点が正されているかを確認するための再調査です。是正報告書が未提出である場合や、報告内容に虚偽・問題点が見つかった場合に実施します。
上記の調査は、法律上の権限に基づいて行われます。よって、調査の拒否はできません。
監督指導は、1 年間に約 17 万件(平成 30 年)実施しています。
そのうち定期監督(主体的、計画的に実施する監督指導)等では、約7割の事業場において労働基準関係法令(労働基準監督官が取り扱う、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、じん肺法、家内労働法、賃金の支払の確 保等に関する法律などの法律を指します。)の違反が認められています。
主な違反事項は、
- 時間外労働に関する届出を労働基準監督署に届け出ていない、または届け出た上限時間を上回って時間外労働 (残業)を行わせたもの
- 機械や設備などの安全基準を満たしていなかったもの
- 時間外労働(残業)などに対して割増賃金を支払っていないもの(一部未払を含む)
- 就業規則の作成・変更届を行っていない
- 賃金台帳が適切に調整されていない
- 年次有給休暇管理簿が適切に調整されていない
- 年一回の定期健康診断を実施していない
などがあげられます。
人を雇っている事業主の方すべての方が対象となる可能性がある調査です。創業間もない会社でも、創業20年以上経過している企業でも、業種規模問わず対象となります。
ある日、所轄の労働基準監督署から、郵送で封書が届きます。
・労働条件に関する調査の実施に関する書面の通知
・労働条件に関する質問票
・出席連絡票
などが同封されています。労働基準監督署が指定した日に、指定した書類を持参して、労働基準監督署へ出向くように書かれているので、準備をして対応をします。
指定日に必ず行かなければならないのか?
日にちについては、相談をすれば別の日時に変更することは可能です。 前述した通り、法律上の権限に基づいて行われる調査のため、拒否をすることはできません。放置せずに必ず対応しましょう
当日労働基準監督署に出向く担当はどう決めたらいいのか?
事業主や自社の労務を担当している従業員、顧問契約をしている社会保険労務士など、労働基準監督署の質問に対して回答できる人が参加することが望ましいです。参加者は事業主で決められます。郵送された封書に同封された当日の出席表に氏名を記載し、ファックスなどで労働基準監督署へ事前に連絡をします。
指定される当日の持参物はどんなもの?
- 就業規則などの規程
- 労働者名簿
- 個別の労働契約書・労働条件通知書
- タイムカード、出勤簿(直近6か月分)
- 賃金台帳(直近6か月分)
- 36協定、賃金控除に関する協定
- 変形労働制に関する労使協定届、シフト表
- 年次有給休暇管理簿(●年●月以降の付与にかかるもの)
- 健康診断結果管理簿(直近1年分
などがあります。
それぞれの何を見るのか?
- 労働時間、休憩時間、休日などが適正に設定されているかどうか
- 従業員数に応じ、就業規則などの届出がなされているかどうか
- 時間外労働の有無及び36協定の締結と届出があるか
- 割増賃金が発生している場合は、きちんとした割増率で支払われているかどうか
- 最低賃金を下回っていないか
- 賃金台帳に労働時間や時間外労働時間や深夜残業時間の項目が明記されているかどうか
- 年次有給休暇が年10日以上付与される人について、5日以上取得できているかどうか
- 年1度の健康診断を受診する必要がある人にきちんと受診させているかどうか
等があげられます。 法改正などがあった後は、その法改正に基づいた内容に対応しているかを確認するようなことも多くあります。例えば令和5年4月以降は、中小企業含めすべての事業場で60時間超の時間外労働は、割増率が50%となりますので、今後は正しい割増率以上で割増賃金が支払われているかを調査されることとなります
当日、労働基準監督署ではどんなことをやるのか?
事業主が持参した書類を提出し、労働基準監督官がその内容を精査していきます。当然内容について質問をされることもあり、それに対して事業主や同席した社会保険労務士などが回答をします。基本的には聞かれたことだけに回答をすればよいです。
労働基準監督官が資料を精査した後、持参資料の必要箇所のコピーを取り、是正勧告書を作成するなどの時間がありますので、少し待機する時間があります。
もちろん指摘事項が何もない場合は、持参資料を確認するのみで終了ということもあります。持参した資料は労働基準監督官が閲覧後、返却されます。
精査する内容やボリュームにもよりますので、所要時間は1時間を予定されていても、伸びることもあります。
持参するように指定された資料、そもそも調整していない場合は?
例えば、お休みを従業員はとっているけど、特に管理するということはしてこなかった、要は年次有給休暇管理簿を作っていなかった、という場合もあるかもしれません。
その場合は、年次有給休暇管理簿の作成をして持参し、「今後このような管理簿で管理をしていく」という運用方法などを説明することをしても良いです。作り方がわからないなどあれば、労働基準監督官にその場で指導してもらい、後日是正報告書と一緒に提出するという対応でもよいと思います。
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持参した資料を精査した結果、もし違反が見つかった場合は、当日その場で、労働基準監督官が「是正勧告書」を作成し、事業主に説明をしてくれます。違反内容については、どの法律に触れているかということも書かれています。指摘された部分の違反について、どのように是正すべきかの方向性や具体的な方法、「この方法であっているかどうか」等もその場で聞けば、詳しく説明をし、リーフレット等も渡してくれます。
是正勧告を受けた後にすること
違反した項目について、改善期日が明記されていますので、違反内容の改善をし、改善をしたことの証明となる書類を添付して是正報告書の作成および提出をします。
例えば、持参した賃金台帳から、最低賃金を下回る給与を支払っていたことを指摘された場合(最低賃金法違反、労働基準法違反など)、その期間の不足分を計算し、その不足分(未払い賃金)を対象労働者へ支払い、対象労働者の受領サインなどを添付資料として併せて提出します。
一連の流れを記載するか、別紙のとおり、という報告内容で是正報告書を作成します。
指摘された部分すべてに対し、是正報告書に記載をします。
期日までに是正できなかったらどうなるのか
是正勧告書には、期日が記載されています。ですが、事情によりすぐに対応できない場合もあると思います。その場合は、労働基準監督署へ事前に連絡し、期日が伸びる理由、おおよそいつ頃に提出できる見込みであるかを伝えておけば問題はありません。しかし、早めにやっておくに越したことはありません。出来る限り早めに対応をしてしまいたいところです。
是正報告書を出さないなど放置した場合はどうなるのか
指導の原因となった違法状態が改善されずに存在することとなりますから、放置したままでは済まず、再度の立ち入り調査の実施や、重大、悪質な事案であり証拠隠滅の疑いがあれば、司法警察職員の権限により被疑者逮捕、送検となることももちろんあります。
労働基準監督署の調査は、事前に連絡がある呼び出し調査と、立ち入り調査、いわゆる臨検というものもあります。臨検は事前の予告や連絡はなく、ある日いきなり労働基準監督官が事業所にやってきて、その場で書類の提出を要請されます。調査および是正勧告まで一気に行いますので、対応するほうもかなり時間を要することとなります。是正勧告を受けたのちは、前述した流れと基本的には同じとなります。
事業主の方は、労働基準監督署から連絡、と聞くと、ドキッとする方もいるかと思います。労働基準監督署は司法警察の権限を有してはいますが、一度の違反で送検するようなことはありません。
労働基準監督署は、より良い労働環境の実現のため、調査を行い、違反があれば指導をしてくれるので、この機会にわからないことをしっかり聞くことをお勧めします。また、日ごろの労務管理がしっかり行えておらず、残業代を支払わない、お休みを与えないなどの労働諸法令の違反となるようなことがあれば、労働者の不満がたまり、労働者からの申告により事前告知なしの立ち入り調査となることもあります。
今はインターネットで様々な情報を得ることができますので、労働者も労務について知識を持っている人は以前に比べ格段に多くなっています。あっせんや訴訟となれば、その時間や費用などもかかることもありますし、トラブルがある会社と世に知れ渡れば、事業経営に大きな影響を与え損失に繋がります。
事業主はルールを知らなかった、という法律の不知は言い訳として認められることはありません。人を雇う時に必要な労務管理の知識については、事業主として最低限理解しておくことをお勧めします。
しかしながらお忙しい事業主の皆さんにとって、ご自身で労務の見直しをする時間はなかなか取れない方も多いのではないでしょうか。もし、現在の労務管理に何か心配事がある場合は、社会保険労務士にスポットの労務相談や、簡易の労務監査などを受けてみてはいかがでしょうか。
労働契約書の書き方、残業時間のつけ方、残業代の計算の基礎に入れるべき手当がどれなのか、届出や締結が必要なものが漏れていない、法改正に対応しているかなど、一度「会社の健康診断」だと思って活用してみてはいかがでしょうか。
顧問契約までは必要がないとお考えの事業主の見方も、安心のため、リスク管理のため、スポットの専門家相談をぜひご活用ください。
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初めて従業員を雇用した際に会社が行う社会保険手続きについては下記で詳しくまとめています。