個人事業主が従業員を雇用している場合、労働保険料の経理処理は避けて通れない業務です。しかし、「労働保険料はどの勘定科目で処理すべきか」「個人事業主自身の保険料は経費になるのか」など、疑問や不安を抱えている方も多いでしょう。
労働保険料の仕訳では、従業員分と事業主自身の負担分を正しく区別し、「法定福利費」「事業主貸」「立替金」「預り金」といった複数の勘定科目を使い分ける必要があります。特に個人事業主は、事業と個人のお金が混同しやすいため、正しい処理方法を理解しておくことが重要です。
この記事では、個人事業主のために、労働保険料の仕訳方法や勘定科目のポイントをわかりやすく解説しています。具体的な仕訳例を紹介し、税務調査での指摘リスクを避ける方法もお伝えします。ぜひ参考にして、安心して事業運営を行ってください。
労働保険料とは、「労災保険」と「雇用保険」を総称した「労働保険」に加入するための保険料のことです。これらは、労働者が業務中や通勤途中にケガや病気を負った場合や、失業時に給付を受けるために必要な制度であり、事業主には従業員のための加入義務があります。
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労災保険
「労災保険(労働者災害補償保険)」とは、従業員が業務中または通勤時に負傷や疾病、障害、死亡などの事態に遭遇した場合、治療費や補償給付を受けられる制度です。個人事業主であっても、正社員だけでなくパートやアルバイトなどの従業員を1人でも雇っている場合には、業種や規模を問わず必ず加入しなければなりません。なお、労災保険料については、全額が事業主の負担となっており、従業員からの徴収は認められていません。
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雇用保険
「雇用保険」は、労働者が失業した場合や育児・介護休業時など、一定の状況下で経済的な支援を受けられる制度です。給付の主な目的は、失業時の生活の安定や再就職の促進にあります。雇用保険料は、原則として事業主と労働者の双方で負担しますが、その負担割合は事業の種類によって異なります。
加入義務が生じる条件としては、「1週間の所定労働時間が20時間以上」「31日以上継続して雇用される見込みがある」の2つの条件を満たす労働者を雇用することが挙げられます。個人事業主であっても、この条件に該当する従業員がいる場合は、雇用保険の加入手続きを行わなければなりません。
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万一、労災保険や雇用保険への加入手続きを怠った場合、追徴金が課されるほか、従業員が事故や失業などで給付を必要とした際に、十分な補償を受けられない可能性が高まります。これらのリスクを避けるためにも、個人事業主は適切な手続きと経理処理を正確に行う必要があります。
個人事業主が支払った労働保険料は、経費計上できる場合と、できない場合があります。
従業員のために支払った労働保険料は、事業を営むうえで必要な費用として、経費として認められます。一方で、個人事業主自身のために支払った労働保険料(特別加入分)は、個人的な性質のものと判断されるため、原則として経費計上することができません。
以下で、「従業員を雇用している場合」と「一人親方など個人事業主自身が特別加入している場合」に分けて、経費計上の可否について詳しく解説します。
従業員を雇用している場合は経費計上できる
従業員のために支払った労働保険料(労災保険料・雇用保険料の事業主負担分)は、全額を経費として計上することが可能です。これは、従業員にかかる労働保険料が、事業運営上の必要経費として認められているためです。
ただし、経費として認められるためには、雇用している従業員全員の保険料を適切に支払っていることが条件となります。そのため、従業員ごとに労働保険料の支払い状況を正しく管理しておく必要があります。
なお、従業員分の労働保険料を経費計上する際に使う勘定科目は、原則として「法定福利費」です。「法定福利費」とは、法律で加入が義務付けられた社会保険料(健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険など)のうち、事業主が負担する部分を計上するための勘定科目です。
一人親方の特別加入保険料の場合は経費計上できない
個人事業主自身(一人親方など)が労災保険に特別加入している場合、その保険料は原則として経費に計上することはできません。これは、個人事業主自身の保険料が「事業のための費用」ではなく、「個人的な支出」とみなされるためです。
ただし、経費に計上できないからといって、税務上まったくメリットがないわけではありません。個人事業主自身の特別加入保険料は、確定申告時に「社会保険料控除」として申告することが可能です。「社会保険料控除」とは、所得金額から直接控除されるため、結果的に所得税や住民税を軽減できる仕組みです。
この社会保険料控除を受けるには、確定申告書の所定の欄に保険料の支払金額を記入し、納付書の控えなど支払を証明できる書類を添付もしくは提示する必要があります。忘れずに申告すれば、節税効果が得られますので、ぜひ活用してください。
個人事業主が労働保険料を正確に仕訳するためには、適切な勘定科目の選択が非常に重要です。万が一、誤った科目を使って処理をしてしまうと、税務調査の際に指摘される可能性が高まり、思わぬトラブルに発展することもあります。
労働保険料を仕訳する際、個人事業主が主に使う勘定科目は以下の3つです。
- 個人事業主自身の労働保険料を支払った場合の【事業主貸】
- 従業員の労働保険料を支払った場合の【法定福利費】
- 従業員負担分の労働保険料は【立替金】か【預り金】を使う
以下で、それぞれの勘定科目について具体的な仕訳方法とともに詳しく解説します。
事業主貸
個人事業主自身が労災保険に特別加入している場合、その保険料の支払いは事業経費として認められません。これは個人事業主の特別加入保険料が事業のための支出ではなく、個人的な性質の支出と見なされるためです。このような場合には、「事業主貸」という勘定科目を使用して仕訳を行います。
「事業主貸」とは、事業主が事業用の資金を個人的な目的で使用した場合に用いる勘定科目です。労災保険の特別加入は事業主個人の保障のためであるため、事業用の資金から支払っても経費にはならず、「事業主貸」で処理する必要があります。
実際の仕訳例は以下のようになります。
・借方:事業主貸 XXX円(特別加入保険料の金額)
・貸方:現金預金 XXX円
この仕訳のタイミングは、実際に特別加入保険料を支払った時点で行います。一般的には年度更新時の概算保険料納付時と、確定精算時に追加納付がある場合に仕訳します。
科目選定のポイントとしては、「事業主貸」の使用が適切かどうかを判断するために、その支出が「誰のためのものか」を明確にすることが重要です。個人事業主自身のための保険料は「事業主貸」、従業員のための保険料は別の科目(法定福利費)を使用するというように区分けして処理しましょう。
なお、「事業主貸」で処理された金額は経費にはなりませんが、特別加入保険料については確定申告時に「社会保険料控除」として申告することで、所得税の計算上で控除を受けることができます。
法定福利費
従業員のために支払う労働保険料を経費として計上する場合、「法定福利費」「福利厚生費」「保険料」のどの勘定科目を使用すべきか迷う方も多いでしょう。ここでは、正しい勘定科目の選択方法をわかりやすく解説します。
結論として、従業員にかかる労働保険料の勘定科目は「法定福利費」を使うのが基本です。その理由を詳しく見ていきましょう。
「法定福利費」とは、法律により事業主に加入や負担が義務付けられている保険料を指します。具体的には、健康保険料や厚生年金保険料、労災保険料、雇用保険料などの社会保険料・労働保険料のうち、事業主負担分が該当します。これらは法律に基づく義務的な支出のため「法定」という名称がついています。
一方、「福利厚生費」は、法律に基づく義務ではなく、事業主が任意で従業員の福利厚生のために支出する費用を指します。例えば、社員旅行費用や社内イベントの費用、慶弔見舞金などがこれに当てはまります。
また、「保険料」は、事業用の建物にかける火災保険料や業務用の自動車保険料など、事業用資産のリスクをカバーするための任意加入保険の支払いに使用する勘定科目です。
このように、「法定福利費」「福利厚生費」「保険料」はそれぞれ性質が異なります。そのため、正しく使い分けることで経理の透明性が高まり、税務調査でも指摘を受けにくくなります。特に労働保険料のような法的義務に基づく支出については、必ず「法定福利費」で処理することが重要です。
具体的な仕訳例を見てみましょう。
- 借方:法定福利費 XXX円(従業員分の労働保険料)
- 貸方:現金預金 XXX円
このように仕訳することで、従業員にかかる労働保険料を正確に経費として計上でき、課税所得からも適切に控除されるようになります。
従業員負担分の労働保険料は【立替金】か【預り金】を使う
雇用保険料は事業主と従業員がそれぞれ負担する仕組みです。従業員が負担する保険料は、毎月の給与から天引きされますが、この金額を正しく仕訳するためには、勘定科目として「預り金」または「立替金」のどちらかを使用します。
どちらを使っても間違いではありませんが、それぞれ用途が微妙に異なります。そのため、業務の流れに応じて科目を統一すると、経理処理がスムーズになり、税務調査などで指摘されるリスクも低下します。
預り金は、本来従業員が支払うべきお金を給与から天引きし、事業主が一時的に保管している場合に使います。
■預り金の具体的な仕訳例
◯給与支給時:
- (借方)給与手当 XXX円(総支給額)
- (貸方)預り金 XXX円(従業員負担分の保険料)
- (貸方)現金預金 XXX円(手取り支給額)
◯労働保険料の納付時:
- (借方)預り金 XXX円
- (貸方)現金預金 XXX円
一方、事業主が労働保険料を先に全額支払った後で、従業員の給与からその分を控除する場合は、「立替金」を使います。
■立替金の具体的な仕訳例
◯保険料納付時:
- (借方)立替金 XXX円(従業員負担分)
- (借方)法定福利費 XXX円(事業主負担分)
- (貸方)現金預金 XXX円(合計額)
◯給与支払時(控除時):
- (借方)給与手当 XXX円
- (貸方)立替金 XXX円
「預り金」と「立替金」の違いを明確に把握し、事業の実態に合った科目を選択することが重要です。また、どちらか一方に統一して処理を行うことで、経理処理がシンプルになり、税務調査時のリスクも軽減できます。
労働保険料の仕訳例をケース別に解説
労働保険料の仕訳は、ケースによって処理方法が異なります。個人事業主が自身の特別加入保険料を支払う場合、従業員分の概算保険料を支払う場合、従業員負担分と事業主負担分を分けて管理する場合、年度更新での精算時など、それぞれの状況に応じた適切な仕訳方法を理解することが重要です。
以下では、労働保険料の仕訳について、具体的なケースを想定しながら、仕訳例を挙げて解説していきます。
個人事業主の特別加入保険料は「事業主貸」で処理する
労働保険料の仕訳は、ケースによって処理方法が異なります。個人事業主が自身の特別加入保険料を支払う場合、従業員分の概算保険料を支払う場合、従業員負担分と事業主負担分を分けて管理する場合、年度更新での精算時など、それぞれの状況に応じた適切な仕訳方法を理解することが重要です。
以下では、労働保険料の仕訳について、具体的なケースを想定しながら、仕訳例を挙げて解説していきます。
個人事業主の特別加入保険料は「事業主貸」で処理する
個人事業主(一人親方など)が自身の労災保険料として特別加入保険料を支払った場合、その金額は事業の経費にはできません。これは、事業主本人の保険料が事業に直接関係する支出ではなく、個人的な支出とみなされるためです。
例えば、特別加入保険料として年間48,000円を事業用の口座から支払った場合の仕訳は次のようになります。
■仕訳例
- 借方:事業主貸 48,000円
- 貸方:普通預金 48,000円
ここでの「事業主貸」とは、事業用資金から事業主個人のために支払った費用を処理する際に使用する勘定科目です。経費とは異なる性質のため、確定申告で所得計算上の費用としては認められません。
ただし、特別加入保険料は確定申告の際に「社会保険料控除」として所得控除を受けることが可能です。社会保険料控除を利用することで、所得税や住民税の負担を減らすことができます。
控除を受ける場合は、確定申告書の社会保険料控除欄に支払った保険料の金額を記入し、保険料の支払いを証明できる領収書などの書類を必ず保存しておきましょう。
概算保険料を支払った場合の仕訳方法
労働保険料は、毎年の年度更新の際に、前年分の確定保険料と当年度分の概算保険料を合わせて納付するのが一般的です。ここでは、当年度の概算保険料を支払った際の会計処理について解説します。
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従業員分の労働保険料は経費計上が可能であり、勘定科目は基本的に「法定福利費」を使用します。概算保険料を支払った時の基本的な仕訳は以下の通りです。
- 借方:法定福利費 120,000円(従業員分の概算保険料)
- 貸方:普通預金 120,000円
この仕訳では、支払った概算保険料を全額その年度の経費として計上していますが、実際には次年度の分まで含んだ前払いの性質を持っています。そのため、より正確に損益計算を行いたい個人事業主、特に青色申告を行っている場合には、「前払費用」として一旦資産計上し、毎月少しずつ費用に振り替える方法もあります。
具体的には、次のような仕訳となります。
【概算保険料の支払時の仕訳】
- 借方:前払費用 120,000円(年間分の概算保険料)
- 貸方:普通預金 120,000円
【毎月の費用振替時(1年を12等分)の仕訳】
- 借方:法定福利費 10,000円(月割の金額)
- 貸方:前払費用 10,000円
後者の方法は特に青色申告を利用する個人事業主に推奨され、より正確に年間の収支状況を把握できるメリットがあります。
概算保険料と従業員負担分を分けて管理する場合の仕訳方法
労働保険料のうち、雇用保険料には従業員が負担する部分があります。この従業員負担分と事業主負担分を明確に分けて管理したい場合、次のような仕訳を行います。
【保険料を納付した時の仕訳例】
- 借方:立替金 18,000円(従業員負担分)
- 借方:法定福利費 102,000円(事業主負担分)
- 貸方:普通預金 120,000円(納付総額)
この仕訳では、従業員が本来負担すべき雇用保険料を事業主が一時的に立て替えたことを示すために「立替金」を使用します。
次に、給与支払い時に従業員負担分を給与から控除(天引き)する際の仕訳は以下の通りです。
【給与から控除する時の仕訳例】
- 借方:給与 18,000円(控除額)
- 貸方:立替金 18,000円
こうすることで、従業員負担分は一時的に立替えていたお金として適切に処理され、事業主の経費とは明確に区別できます。
なお、給与から従業員負担分をあらかじめ控除し、その後で保険料を納付する場合には、「立替金」ではなく「預り金」を使用します。その場合の仕訳は以下の通りです。
【給与支払時(天引き時)の仕訳例】
- 借方:給与 318,000円(総支給額)
- 貸方:預り金 18,000円(従業員負担分)
- 貸方:普通預金 300,000円(手取り額)
【保険料納付時の仕訳例】
- 借方:預り金 18,000円(従業員負担分)
- 借方:法定福利費 102,000円(事業主負担分)
- 貸方:普通預金 120,000円(納付総額)
どちらの方法を選択する場合でも、従業員負担分と事業主負担分の仕訳を明確に行うことは、税務調査での指摘を避けるためにも重要です。
年度更新で確定保険料が確定した際の差額精算の仕訳方法
労働保険料は年度更新の際、前年度に納付した概算保険料と、実際の確定保険料との差額を精算します。この差額は、不足があれば追加で納付、過払いがあれば還付または翌年度分の保険料と相殺します。それぞれのケースに分けて具体的な仕訳例を紹介します。
前年度の概算保険料が実際の確定保険料よりも少なかった場合、その不足分を追加で支払う必要があります。
例えば、概算保険料として120,000円を納付済みだったものの、確定保険料が135,000円と判明し、15,000円が不足していた場合の仕訳は以下のとおりです。
- 借方:法定福利費 15,000円(従業員分の不足額)
- 貸方:普通預金 15,000円
この追加納付した不足分は、法定福利費として経費に計上できます。ただし、個人事業主自身が特別加入した分の保険料が含まれる場合は、その部分だけ「事業主貸」として処理します。
反対に、概算保険料が実際の確定保険料より多く、過払いが生じる場合もあります。その場合は、過払い分を還付金として受け取ります。
例えば、概算保険料として120,000円を納付済みでしたが、確定保険料は110,000円だったため、10,000円の過払いが生じ、還付される場合の仕訳は以下のとおりです。
- 借方:普通預金 10,000円(還付額)
- 貸方:法定福利費 10,000円
この仕訳により、還付金はその年度の法定福利費から差し引かれる形になり、結果として経費が減少します。
過払い金を翌年度の概算保険料と相殺することも可能です。この場合の仕訳方法は以下のようになります。
例えば、概算保険料120,000円を納付しましたが、確定保険料は110,000円となり、10,000円の過払いが生じて相殺を選択した場合の仕訳です。
【差額相殺時の仕訳】
- 借方:前払費用 10,000円(翌年度に繰り越す過払い分)
- 貸方:法定福利費 10,000円
【翌年度の概算保険料納付時の仕訳】
翌年度の概算保険料が125,000円で、前払費用の10,000円を差し引いて115,000円を実際に支払う場合の仕訳は次のとおりです。
- 借方:法定福利費 125,000円(翌年度の概算保険料総額)
- 貸方:前払費用 10,000円(前年の過払い相殺分)
- 貸方:普通預金 115,000円(実際に納付する金額)
このように処理することで、年度間の経費配分を正しく管理できます。
年度更新での保険料精算処理はやや複雑ですが、概算と確定保険料の差額を正確に把握し、適切な勘定科目で仕訳を行うことが大切です。適切に処理されていないと税務調査の際に指摘され、修正申告が必要となる場合がありますので、日頃から記帳を正確に行うよう心がけましょう。
個人事業主が労働保険料の仕訳を行う際には、いくつか重要なポイントを押さえておくことが必要です。特に、勘定科目の選択ミスや保険料の計上漏れは、税務調査で指摘されやすく、経理上のリスクが高まります。また、正しい知識がないと、受けられるはずの税制上のメリットを逃してしまう可能性もあります。
ここでは、個人事業主が労働保険料の仕訳を正確に行うために注意すべきポイントをわかりやすく解説します。具体的な仕訳例や、税務調査で問題になりやすいケースも合わせて紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
確定申告時の社会保険料控除を忘れない
個人事業主が自身のために支払った特別加入の労災保険料は、事業の経費として計上できませんが、確定申告で「社会保険料控除」を受けることができます。控除の申告を忘れると、本来受けられる税金の軽減効果を逃すことになり、非常にもったいないです。
事業主自身の特別加入保険料を支払った際は、経費ではなく「事業主貸」として処理します。この保険料は所得税法上の社会保険料に該当するため、確定申告書の第一表「社会保険料控除」欄に記入することで、支払った全額を所得から控除できます。
例えば、年間60,000円の特別加入保険料を支払った場合、この全額が社会保険料控除として申告可能です。仮に所得税率が20%なら、所得税が12,000円軽減されます(60,000円×20%)。このように、社会保険料控除は支払った保険料の全額が控除対象となり、上限額はありません。
社会保険料控除を受ける際には、次の点に注意しましょう。
- 従業員の労働保険料は控除の対象外 従業員分の労働保険料は、すでに経費(法定福利費)として計上済みであるため、二重に社会保険料控除を受けることはできません。
- 支払い証明書類の保存義務 特別加入保険料を支払ったことを証明する書類(納付書の控えなど)は、税務調査時の提示が必要となるため、7年間は保存してください。
- 支払った年の所得控除になる 控除対象となるのは保険料を実際に支払った年の分のみです。年度末など時期が微妙な場合は、納付日を明確に記録しておきましょう。
- 家族分をまとめて控除可能 生計を一にする配偶者や親族の社会保険料(健康保険や年金保険料など)を支払った場合も、合算して控除できます。
個人事業主にとって特別加入保険料は経費にならない分、社会保険料控除を活用することで税負担を軽減できます。確定申告時には控除申告を忘れないように注意しましょう。
概算と確定の違いを理解し、仕訳を間違えない
労働保険料の「概算」と「確定」の違いを正確に理解し、適切に仕訳することが重要です。この違いを理解せずに仕訳すると、経費計上の時期や金額が不適切になる可能性があります。
「概算保険料」は、当年度(4月1日から翌年3月31日まで)の見込み賃金総額に基づいて計算され、年度の初めに納付する保険料です。これは未来の期間に対する前払いという性質を持ちます。
一方、「確定保険料」は、前年度(4月1日から3月31日まで)の実際の賃金総額に基づいて計算される保険料で、既に支払った概算保険料との差額を精算するものです。
年度更新時には、確定保険料と概算保険料を一緒に計算し納付するため、それぞれを明確に区分して仕訳することが重要です。特に確定保険料と概算保険料の差額(追加納付や還付)を正確に把握し、適切な勘定科目で処理しましょう。
従業員の預り金と立替金の処理を間違えない
従業員負担分の雇用保険料を処理する際、「預り金」と「立替金」の使い分けを間違えないよう注意が必要です。これらの勘定科目は、お金の流れのタイミングによって使い分けます。
給与からあらかじめ雇用保険料を天引きする場合です。この場合、従業員から先にお金を預かって、後で保険料として納付することになるため「預り金」を使います。
例えば、月給300,000円、雇用保険料の従業員負担分が3,000円の場合:
■給与支払時の仕訳:
- 借方:給与 300,000円
- 貸方:預り金 3,000円(従業員負担分)
- 貸方:普通預金 297,000円(手取り額)
■保険料納付時の仕訳:
- 借方:預り金 3,000円(従業員負担分)
- 借方:法定福利費 7,000円(事業主負担分)
- 貸方:普通預金 10,000円(納付総額)
年度更新時にまとめて保険料を納付し、後から給与から控除する場合です。この場合、事業主が一旦従業員分も含めて立て替えて支払い、後から回収することになるため「立替金」を使います。
■保険料納付時の仕訳:
- 借方:立替金 3,000円(従業員負担分)
- 借方:法定福利費 7,000円(事業主負担分)
- 貸方:普通預金 10,000円(納付総額)
■給与から控除する時の仕訳:
- 借方:給与 3,000円(控除額)
- 貸方:立替金 3,000円
これらの勘定科目を間違えると、従業員負担分を経費として計上してしまったり、逆に事業主負担分を経費計上しないといった誤りにつながります。特に税務調査では、従業員負担分と事業主負担分の区別が明確になっているかどうかが重要なチェックポイントとなりますので、正確に処理しましょう。
税務調査で指摘されないためのポイントと対策
労働保険料の経理処理は、税務調査の際によくチェックされるポイントの一つです。誤った処理をすると、税務署から指摘を受け、追徴課税や延滞税が発生する恐れがあります。
特に以下の5点は注意しましょう。
- 個人事業主本人の特別加入保険料を経費にしてしまう
個人事業主本人の特別加入保険料(労災保険)は経費に計上できません。必ず「事業主貸」として処理し、確定申告時に社会保険料控除を適用しましょう。- 誤った例:借方 法定福利費(×)
- 正しい例:借方 事業主貸(特別加入保険料)
- 従業員負担分を法定福利費に含めて経費計上する誤り
雇用保険料の従業員負担分は、従業員が負担するものです。事業主が一時的に立て替えた場合は「立替金」、給与天引き後に納付する場合は「預り金」で処理しましょう。- 誤った例:全額を法定福利費として計上
- 正しい例:
- 納付時:(借方)立替金 〇円/(貸方)普通預金 〇円
- 給与控除時:(借方)給与 〇円/(貸方)立替金 〇円
- 支払い証明書類の未保管
労働保険料の納付書など支払いを証明する書類は、税務調査で提示を求められることがあります。必ず7年間保管しましょう。 - 労働保険料の計算ミス
従業員の賃金総額を正確に計算せずに保険料を納付すると、追加納付や延滞税の対象になります。賃金台帳を正確に記録し、最新の保険料率で計算してください。また、賃金総額の集計には、労働保険料の年度更新の計算ツールを使って集計表を作成するのがおすすめです。
【社労士監修】労働保険 年度更新申告書計算支援ツール・入力ガイドの使い方を解説
- 概算保険料と確定保険料の差額処理の誤り
年度更新の際、前年度の概算保険料と確定保険料の差額を適切に処理しましょう。追加納付分は「法定福利費」として経費計上し、還付分は経費から減額します。処理を間違えると、年度ごとの経費計上が不適切になり指摘対象となります。
税務調査で指摘されないためには、日頃から次の点に注意しましょう。
- 勘定科目の区別を明確にする
「法定福利費」「立替金」「預り金」「事業主貸」の各科目を適切に使い分けましょう。個人事業主分と従業員分、さらに従業員負担分と事業主負担分を区別することが重要です。 - 証拠書類を整理して保管する
納付書や領収書、労働保険料申告書の控えなどは、7年間しっかり保管しておきましょう。 - 保険料の計算根拠を明確に記録する
賃金台帳などを定期的に記録し、正確な労働保険料の計算根拠を示せるようにしましょう。 - 処理方法の一貫性を保つ
経理処理の方法を途中で変更する際は、その理由と根拠を明記しておくことが大切です。 - 不明な点は専門家に相談する
経理処理や仕訳方法に迷った場合は、社会保険労務士や税理士に相談すると安心です。
これらを実践することで、税務調査のリスクを抑え、安心して事業運営に集中できるようになります。
労働保険料の計上タイミングは、大きく分けて「年度更新(年次精算)」と「毎月の給与計算時」の2つがあります。個人事業主が労働保険料を正確に経理処理するためには、これらのタイミングでそれぞれどのような仕訳や手続きが必要になるのかを理解しておくことが重要です。
ここでは、年度更新時および毎月の給与計算時における労働保険料の計上方法と、それぞれの処理のポイントを詳しく解説します。
年度更新時の処理(年次精算)
労働保険料の年度更新とは、毎年6月1日から7月10日までの期間に行う、前年度の労働保険料を確定し、既に納付した概算保険料との差額を精算する手続きです。このとき同時に当年度分の概算保険料も申告・納付するため、前年と当年、2年分の保険料を処理することになります。
具体的には、まず前年度(4月1日から3月31日まで)の従業員の賃金総額をもとに、労災保険料と雇用保険料を合わせた「確定保険料」を計算します。その後、すでに納付済みの「概算保険料」と比較して、差額を精算します。この差額が不足している場合は追加納付を、過払いの場合は還付または翌年度分の概算保険料に充当する処理が行われます。
次に、当年度(4月1日~翌年3月31日)の従業員賃金の見込額を算出し、それを基に概算保険料を計算します。こうして求めた確定保険料と概算保険料を申告書へ記入し、労働局または指定金融機関を通じて納付手続きを行います。
なお、この年度更新に伴う保険料の支払い時の仕訳は、従業員分を「法定福利費」、事業主自身が特別加入している場合は「事業主貸」として処理します。仕訳の誤りは税務調査時の指摘につながるため注意しましょう。
労働保険の年度更新とは?手続き方法や対象期間、申告書作成時の注意点をわかりやすく解説
毎月の給与計算時の処理
毎月の給与計算の際には、雇用保険料の「従業員負担分」を給与から控除(天引き)し、「預り金」として計上します。雇用保険料は労働者と事業主が負担を折半する仕組みのため、従業員負担分を明確に分けることが経理処理上重要です。
一方、労災保険料については全額が事業主負担であるため、従業員の給与から控除することはありません。そのため、毎月の給与計算時に計上するのは、あくまで雇用保険料の従業員負担分のみです。
なお、控除した雇用保険料の従業員負担分(預り金)は、事業主負担分(法定福利費)と合算して、年次精算時に納付します。毎月の経理処理で「預り金」として正確に管理しておくことで、年度更新時の手続きがスムーズに進むでしょう。
特に、給与計算の段階で従業員負担分の仕訳が不適切だと、年度末の確定申告や税務調査時に問題となりかねません。会計ソフトを活用して正確な記帳を心掛けることが大切です。
労働保険料は、毎年1回、年度更新という手続きを通じて申告・納付を行います。年度更新は、前年度の確定保険料を精算し、当年度の概算保険料を納付するための重要な手続きです。
ここでは、労働保険の年度更新について、その概要と手続きの流れを解説します。
年度更新とは?
労働保険の年度更新とは、毎年6月1日から7月10日までの間に、以下の手続きを行うことです。
◯確定保険料の申告・精算:
前年度(4月1日から3月31日まで)の賃金総額に基づいて確定保険料を計算し、既に納付した概算保険料との過不足を精算します。
◯概算保険料の申告・納付:
当年度(4月1日から翌年3月31日まで)の賃金総額を見込み、概算保険料を計算し、申告・納付します。
年度更新の手続きの流れ
①労働保険料算定基礎賃金集計表の作成:
前年度の賃金総額を、従業員ごとに集計します。
②労働保険概算・確定保険料申告書の作成:
労働保険料算定基礎賃金集計表をもとに、確定保険料と概算保険料を計算し、申告書に記入します。
③申告書の提出・保険料の納付:
作成した申告書を、所轄の労働基準監督署または労働局に提出し、保険料を納付します。
- 窓口への持参:
所轄の労働基準監督署または労働局の窓口に、申告書を持参して提出します。 - 郵送:
申告書を郵送で提出することも可能です。 - 電子申請:
e-Gov(電子政府の総合窓口)を利用して、オンラインで申告することもできます。
- 金融機関での納付:
銀行、信用金庫、郵便局などの金融機関で納付できます。 - 口座振替:
事前に口座振替の手続きをしておけば、自動的に保険料が引き落とされます。 - 電子納付:
Pay-easy(ペイジー)を利用して、インターネットバンキングやATMから納付することもできます。
労働保険料の納付方法と期限は?支払い時期や分割納付について社労士が解説
労働保険の年度更新は、個人事業主にとって年に一度の重要な手続きです。期限内に忘れずに申告・納付を行いましょう。
労働保険料の勘定科目や仕訳について、個人事業主の方からよくいただく質問をQ&A形式でまとめました。
法人化すると、労働保険料の仕訳や勘定科目は変わりますか?
個人事業主から法人へ事業形態を変更する場合、労働保険料の仕訳や勘定科目には大きな変更点があります。
最も重要な変更点は、事業主(個人事業主)自身が特別加入している労働保険料の取り扱いです。個人事業主の場合は「事業主貸」で処理し経費にならないものが、法人の場合は役員として「法定福利費」で処理でき、全額が経費として認められるようになります。
具体的な違いは以下の通りです。
◯個人事業主の場合:
- 個人事業主本人の特別加入保険料→「事業主貸」(経費にならない)
- 従業員分の保険料→「法定福利費」(経費になる)
◯法人の場合:
- 役員(元個人事業主)の保険料→「法定福利費」(経費になる)
- 従業員分の保険料→「法定福利費」(経費になる)
また、法人の場合は決算月が自由に選べるため、労働保険料の年度(4月から翌年3月)と会計年度が異なる場合は、期末時点での未払分や前払分を調整する必要があります。
法人化に際しては、労働保険料の事務処理以外にも様々な変更点がありますので、事前に税理士や社会保険労務士に相談することをお勧めします。特に、個人事業主時代の労働保険料の精算と、法人設立後の新たな保険関係の成立手続きは、漏れなく行う必要があります。
法人化を検討している場合は、税理士や社会保険労務士などの専門家に相談し、事前に準備を進めておくことをおすすめします。
労働保険料を間違った勘定科目で処理してしまった場合の手続きは?
労働保険料を間違った勘定科目で処理してしまった場合、その修正方法は帳簿の状況や確定申告の有無によって異なります。間違った仕訳に気づいたら、できるだけ早く修正しましょう。
◯確定申告前で、帳簿上のみの誤りの場合:
間違った仕訳を取り消し、正しい仕訳を入力し直します。
◯確定申告後の場合:
確定申告後に誤りが発覚した場合は、修正申告を行う必要があります。税務署に相談し、修正申告書を作成・提出しましょう。
- 修正によって納税額が増える場合(例:個人事業主本人の保険料を経費計上していた):速やかに修正申告を行います。遅延すると延滞税や過少申告加算税が発生する可能性があります。
- 修正によって納税額が減る場合(例:本来経費になるものを経費計上していなかった):更正の請求により税金の還付を受けることができます。ただし、期限(原則として、確定申告期限から5年以内)があるので注意が必要です。
この記事では、個人事業主が支払う労働保険料の適切な経理処理について、勘定科目や仕訳方法を中心に詳しく解説してきました。
個人事業主にとって、労働保険料の正確な経理処理は、税務上のリスクを回避するだけでなく、事業の健全な運営にもつながります。従業員分の労働保険料は「法定福利費」として経費計上し、ご自身の特別加入保険料は経費にならなくても「社会保険料控除」として確定申告時に活用できますので、忘れずに申告しましょう。
労働保険料の仕訳は、個人事業主にとって複雑で分かりにくい部分もありますが、正しく理解し、適切に処理することが重要です。誤った勘定科目で処理してしまうと、税務調査で指摘を受けたり、余計な税金を支払うことになります。
今回の内容を参考に、まずはご自身の労働保険料の仕訳状況を確認してみましょう。そして、年度更新の時期が近づいてきましたら、この記事を参考に、早めに準備を始めましょう。もし、労働保険料の仕訳や税務処理について不安な点がある場合は、税理士や社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
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労働保険料の経理処理や年度更新手続きは、専門的な知識を要するため、慣れていないと多くの時間と労力を費やしてしまいます。また、勘定科目の選択ミスや申告漏れなどのリスクも伴います。「社労士へ依頼するのは、費用が心配」「自社で対応できるか不安」といった場合は、社労士クラウドのスポット申請代行サービスの利用を検討してみるのも一つの方法です。
社労士クラウドのスポット申請代行サービスは、必要な時だけ専門家に業務を依頼できるサービスです。
例えば、労働保険の年度更新の手続きのみを依頼することも可能です。スポットで依頼することで、自社で対応するよりも、確実かつ効率的に手続きを進められる場合があります。勘定科目の選択や仕訳についても専門家のアドバイスを受けられるため、税務調査でも安心です。【関連記事】
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