建設業は他の業種に比べて労働災害のリスクが高く、高所作業や重機の使用など、日々危険と隣り合わせです。そこで重要になるのが、労働者災害補償保険(労災保険)です。
しかし、建設業では元請企業が一括して加入する仕組みや、一括・単独有期事業など独自の制度があり、一般の業種とは異なる点が多くあります。
また、一人親方や中小企業の事業主でも特別加入制度を利用できる反面、手続きや条件には注意が必要です。
本記事では、建設業の労災保険の仕組み、加入義務の有無、保険料の計算方法、年度更新の流れ、そして特別加入制度の詳細までをわかりやすく解説します。
労働者を守り、事業を円滑に進めるためにも、ぜひ最後までご覧ください。

生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
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労災保険は通常、事業主が雇用関係にある従業員に対して、業務中の事故や災害に対する補償として加入する保険制度です。
しかし、建設業は複数の企業が請負・下請・孫請と連携する多段階な請負構造や、各建設現場ごとに異なる業務内容が存在するため、一般の労災保険とは異なる特徴があります。
建設業は、他の業種に比べて労災事故のリスクが高く、労災保険は非常に重要な制度です。万が一の事故に備え、労働者を守るだけでなく、事業主の皆様自身を守ることにもつながります。
ここでは、建設業における労災保険の制度の特徴や適用される労働保険(労働保険と雇用保険)の種類について紹介しています。
建設業における労災保険の特徴
建設業における労災保険の最大の特徴は、労災保険への加入を元請会社が原則としてすべて行う点です。
通常、労災保険は各企業が一括して加入します。そして、建設業では建設工事現場を一つの事業単位と捉え、元請会社が下請会社や孫請会社の社員を含めたすべての労働者のために労災保険に加入する仕組みとなっています。
これは、労働基準法第87条が建設業においては「元請負人のみを使用者」とみなしていることによる特徴です。
この仕組みは一般的に「現場労災」と呼ばれています。建設現場での労働災害保険は、元請会社が加入する労災保険で、元請、下請、孫請など、雇用関係に関わらず、建設現場で働くすべての労働者が保険給付を受けることができます。
一方、建設業であっても、事務所で働く事務員や営業担当者などの従業員に対する労災保険は、一般的な企業と同様に会社単位で加入します。こちらは「事務所労災」と呼ばれ、現場労災とは区別されます。
建設業の労災保険は、このように現場と事務所で加入の仕組みが異なり、元請会社が建設現場全体の労働者の保険適用を負担する特徴があります。
【スポット申請】社会保険の加入条件や加入手続きの流れと加入方法の全まとめ
建設業に適用される労働保険(労災保険と雇用保険)の種類
建設業に適用される労働保険は、大きく分けて労災保険と雇用保険の2種類があります。労働保険とは、労働者の生活と雇用を守る保険制度であり、労災保険と雇用保険を総称したものです。
建設業においては、建設現場の労災保険の特長に加えて、保険加入や保険料の計算方法など、一般的な業種とは異なる特長がいくつか存在します。
ここでは、建設業に適用される労働保険の種類について、主要な点を解説していきます。
工事現場における労災保険は、建設現場での労働者の労働災害を補償する保険です。先述の通り、建設業の労災保険の特長として、建設現場の労災保険は、建設工事の元請業者が保険加入者となります。建設工事に従事する労働者は、雇用形態や所属企業に関わらず、建設現場内で労働災害に遭った場合は、建設現場の労災保険から保険給付を受けることができます。
工事現場で労働者が安心して労働に従事するためには、建設現場の労災保険への適切な加入と制度の理解が不可欠です。
工事現場以外の場所、例えば、事務所や作業場などで発生した労働災害も、労災保険の補償対象となります。
建設現場以外の労災保険は、建設現場の労災保険とは異なり、各労働者を雇用する事業主が保険加入者となり、保険料の負担や手続きを行う必要があります。
建設現場以外の労災保険は、全ての業種に共通する一般的な労災保険制度であり、労働者の労働災害に対する補償として、建設現場の労災保険と同様に非常に重要な制度です。
雇用保険は、労働者が失業した場合や、育児や介護で労働を休業する場合などに、生活の安定を図るための保険制度です。雇用保険は、労災保険と併せて労働保険を構成する保険の一つであり、労働者の安心・安全を守るために非常に重要な役割を担っています。建設業においても、雇用保険は建設現場の労働者、事務所や作業場で働く労働者、全ての労働者に適用されます。
事業主は、雇用保険の加入手続きや保険料の納付などを適切に行う義務があります。
建設業における労災保険は、事業の形態や規模に応じて適用方法が異なります。適切な保険手続きを行うためには、各種事業の特徴と対象を理解することが重要です。
ここでは、継続事業と有期事業、単独有期事業と一括有期事業、一元適用事業と二元適用事業の違いについて解説します。
継続事業と有期事業の違い
建設業における労災保険は、事業の期間によって「継続事業」と「有期事業」に分類されます。
継続事業
事業の終了時期が定められていない事業です。例えば工場や商店、事務所などが該当します。
例:〇〇株式会社の本社、△△工場の製造部門
有期事業
事業の終了予定日がある事業です。特定の目的を達成するために一定の期間内で完了する事業であり、建設工事や道路工事、林業などがこれに当たります。
例:〇〇ビルの建設工事、××橋の補修工事
建設業は、工事ごとに開始日と終了日があるため、原則として「有期事業」となります。
一方、建設会社の事務所(本社や支店など)は、「継続事業」となります。 労災保険の加入手続きや保険料の計算方法は、「継続事業」と「有期事業」で異なります。
この区分により、労災保険の適用方法や手続きが異なるため、事業主は自社の事業がどちらに該当するかを正確に把握することが求められます。
単独有期事業と一括有期事業の違い
建設業の「有期事業」は、さらに「単独有期事業」と「一括有期事業」に分かれます。
違いは、工事の規模(請負金額、保険料)です。
単独有期事業
単独有期事業とは、規模が大きく、個別に労災保険の手続きを行う必要がある事業を指します。具体的には、概算保険料が160万円以上、または請負金額が1億8,000万円(消費税を除く)以上の工事が該当します。
工事ごとに個別に労災保険の加入手続きを行い、保険料を計算・納付します。工事が終了するごとに、保険関係も終了し、清算手続きを行います。
一括有期事業
一括有期事業は、一定の条件を満たす小規模な工事を一つの事業としてまとめて労災保険の手続きを行うものです。具体的には、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 同一事業主が行う建設業であること
- 各事業の概算保険料が160万円未満であること
- 各事業の請負金額が1億8,000万円(消費税を除く)未満であること
- 各事業の労災保険率が同じであること
- それぞれの事業が、事業の種類を同じくすること
- それぞれの事業に係る労働保険料の納付の事務が一の事務所で取り扱われること
- それぞれの事業が、事務所の所在地を管轄する都道府県労働局の管轄区域またはこれと隣接する都道府県労働局の管轄区域内で行われること
メリットは、個々の工事ごとに手続きをする必要がなく、事務手続きを簡素化できることです。まとめて手続きをすることで、労働保険料の負担が軽減されるケースもあります。
一元適用事業と二元適用事業の違い
労災保険と雇用保険の適用方法には、「一元適用事業」と「二元適用事業」の区別があります。
一元適用事業
一元適用事業とは、労災保険と雇用保険の適用範囲が同じであり、保険料の申告・納付を一括して行う事業を指します。一般的な事業(建設業、農林水産業以外)がこの一元適用事業に該当します。
二元適用事業:
建設業は原則として「二元適用事業」とされ、労災保険と雇用保険の適用範囲が異なるため、保険料の申告・納付を別々に行う必要があります。ただし、建設業の事務部門など、雇用保険と労災保険で労働保険の適用範囲が変わらない場合は、「一元適用事業」となります。
具体的には、労災保険は建設現場ごとに元請業者が一括して加入し、雇用保険は各事業所単位で事業主が加入手続きを行います。
建設業が二元適用事業である理由は、建設現場(有期事業)と事務所(継続事業)で、労災保険の適用関係が異なること、雇用保険は各事業所(元請、下請)で加入することなどが挙げられます。
建設業では、現場の労災保険は元請が一括して加入しますが、雇用保険はそれぞれの会社が加入する必要があるため、二元適用事業となるのです。 少し複雑ですが、建設業の事業主は、この違いを理解しておくことが重要です。
建設業の労災保険は、その特殊性から、適用対象となる人とそうでない人がいます。 労災保険は、労働者として雇用されている方々を保護するための制度です。
具体的には、元請企業や下請企業の従業員が該当します。 一方で、事業主や役員、一人親方などは労働者ではないため、原則として労災保険の適用対象外となります。
ここでは、建設業の労災保険の適用対象について、詳しく解説していきます。
また、原則として対象外となる事業主、役員、一人親方などの方々が、労災保険の補償を受けるための「特別加入制度」についても紹介します。
元請企業、下請企業の従業員は適用される
建設業の労災保険(現場労災)は、工事現場で働くすべての労働者が対象です。 これは、正社員、契約社員、パート、アルバイト、日雇い労働者など、雇用形態に関わりません。
また、元請企業の従業員だけでなく、下請企業(一次下請、二次下請など)の従業員も、すべて元請の労災保険で保護されます。 これは、建設業特有の「元請責任」という考え方に基づいています。
下請企業の従業員は、自社で労災保険に加入する必要はありません。 万が一、工事現場で労災事故が発生した場合は、元請企業の労災保険から給付を受けることができます。
ただし、下請企業の従業員であっても、本社や営業所など、工事現場以外で働く場合は、自社の事務所労災に加入する必要がありますので、注意が必要です。
事業主、役員、一人親方は原則対象外
建設業の労災保険(現場労災)は、労働者を保護するための制度です。 そのため、原則として、事業主(社長)、法人の役員、一人親方などは、労災保険の適用対象外となります。 これらの人々は、「労働者」ではないため、労災保険の保護を受けられないのです。
しかし、建設業は、他の業種に比べて労災事故のリスクが高いため、事業主や一人親方であっても、労災保険の保護が必要となる場合があります。
そこで、建設業では、「特別加入制度」という特別な制度が設けられています。 特別加入制度を利用すれば、事業主、役員、一人親方なども、労災保険に加入することができます。 特別加入制度については、後ほど詳しく解説します。
建設業では、一般的な事業とは異なり、工事現場単位で労災保険に加入する必要があります。さらに、雇用保険と労災保険が別々に適用される「二元適用事業」として扱われるのも特徴です。
これらの制度を正しく理解し、適切な手続きを行うことで、労働者を守り、事業を円滑に進めることができます。
ここでは、建設業の労災保険に関する具体的な手続きの流れを順を追って解説します。
①保険関係の成立届の提出
建設業の労災保険に加入するためには、まず「保険関係成立届」を提出する必要があります。 これは、工事を開始した日の翌日から10日以内に、工事現場を管轄する労働基準監督署に提出しなければならない書類です。
提出が遅れると、労災事故が発生した際に、保険給付がスムーズに受けられないだけでなく、追徴金や罰則が科される可能性もあります。
ただし、手続きは単独有期事業と一括有期事業で異なります。
単独有期事業の場合は、工事現場ごとに個別に保険関係成立届を提出する必要があります。 複数の建設工事を請け負っている場合は、建設工事の数だけ届出が必要になるため、手続きが煩雑に感じるかもしれませんが、適切に保険関係を成立させるために非常に重要な手続きです。
提出先は、工事現場の所在地を管轄する労働基準監督署です。 提出期限は、保険関係が成立した日(労働者を雇用して工事を開始した日)から10日以内です。 大規模な工事を行う場合は、忘れずに手続きを行いましょう。
保険関係成立届は、元請業者が一括して、元請事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。これにより、各工事ごとに手続きを行う手間を省くことができます。
提出期限は、保険関係が成立した日(労働者を雇用して最初の工事を開始した日)から10日以内です。
②概算保険料申告書の提出・納付
労災保険関係が成立した後、速やかに「概算保険料申告書」を提出し、概算保険料を納付する必要があります。提出期限、提出先は、単独有期事業と一括有期事業で異なりますので注意が必要です。概算保険料は、予定される労働者の賃金総額に業種別の保険料率を掛けて((請負金額 × 労務費率)× 労災保険率)算出します。
単独有期事業の提出期限と提出先
保険関係が成立した日(労働者を雇用して工事を開始した日)から20日以内に、工事現場の所在地を管轄する労働基準監督署、都道府県労働局、または日本銀行(本店、支店、代理店、歳入代理店)。
例えば4月1日に工事を開始した場合、4月21日が期限となります。
一括有期事業の提出期限と提出先
保険関係が成立した日から50日以内に、一括有期事業を管轄する労働基準監督署等(労働基準監督署、都道府県労働局、または日本銀行(本店、支店、代理店、歳入代理店(銀行・信用金庫の本店・支店、郵便局))
例えば4月1日に最初の工事を開始した場合、5月21日が期限となります。
③労災保険関係成立票の提示
「保険関係成立届」の提出後、労災保険関係が成立したことを示す「労災保険関係成立票」を、工事現場の見やすい場所に掲示する義務があります(労働安全衛生法第101条、同法施行規則第77条)。
この掲示により、労働者や関係者に対して労災保険の適用状況を明示します。
【記載事項】
- 労働保険番号
- 保険関係成立年月日
- 工事期間(事業の期間)
- 事業主の住所・氏名
- 注文者の氏名
- 事業主代理人の氏名(必要な場合)
【罰則】
掲示義務違反は、30万円以下の罰金の対象となります。
④確定保険料申告書の提出(工事終了後)
建設工事が終了した後には、建設工事の保険期間中に実際に支払われた賃金の総額をもとに正確な保険料を計算し、「確定保険料申告書」を提出する必要があります。
確定保険料は、概算保険料と実際に支払うべき保険料との差額を精算するための手続きです。 概算保険料はあくまでも見込み額であるため、実際の請負金額や賃金総額に基づいて、確定保険料を計算しなおす必要があるためです。
精算の結果、保険料の過不足が生じた場合は、追加で納付したり、還付を受けたりすることになります。確定保険料申告書の提出期限は、工事終了日の翌日から50日以内です。
提出先は、労働基準監督署、都道府県労働局、または金融機関です。 確定保険料が概算保険料よりも多い場合は、追加で保険料を納付します。
逆に、確定保険料が概算保険料よりも少ない場合は、払い過ぎた保険料が還付されます。 忘れずに手続きを行い、保険料を正しく精算しましょう。
工事が分割発注された場合の手続き
建設工事が長期にわたる場合、工事を第1期、第2期…と分割して発注することがあります。 このような分割発注の場合、労災保険の手続きは、工事全体で一つの保険関係と捉え、変更手続きを行うという考え方が基本となります。
つまり、分割された工事ごとに、新たに労災保険に加入する必要はありません。
例えば、
1. 最初の工事開始時:
まず、最初の工事(第1期工事など)を開始する際に、通常の労災保険加入手続きを行います。
具体的には、保険関係成立届を提出し、概算保険料を申告・納付します。 この時点では、判明している工事の情報(第1期工事分)に基づいて手続きを行えば問題ありません。
2. 後続工事の発注確定時:
その後、後続の工事(第2期工事など)の発注が確定し、工事期間や請負金額などに変更が生じた場合は、「労働保険・名称、所在地等変更届」を労働基準監督署に提出します。
この変更届は、保険関係の内容に変更があったことを通知するための手続きであり、提出期限は、変更があった日から30日以内です。
さらに、労災保険料が大幅に増加する場合は、追加の申告が必要となるため、注意が必要です。
具体的には、変更後の概算保険料が、変更前の概算保険料の2倍を超え、かつ、その差額が13万円以上となる場合は、「増加概算保険料申告書」と「請負金額内訳書(乙)」を提出しなければなりません。
この追加申告は、増加した概算保険料を適切に申告・納付するための手続きであり、提出期限は、増加事由が発生した日(例:追加工事の契約日)から30日以内です。
工事内容に変更があった場合の手続き
工事の内容や期間に変更が生じた場合、速やかに所轄の労働基準監督署に報告し、必要な手続きを行う必要があります。
適切な手続きを怠ると、労災保険の適用に支障をきたす可能性があるため、注意が必要です。
工事の途中で追加発注があった場合、労災保険の手続きは、基本的に「工事が分割発注された場合の手続き」と同様です。
つまり、工事期間や請負金額などに変更が生じるため、「労働保険・名称、所在地等変更届」を労働基準監督署に提出する必要があります。
提出期限は、変更があった日から30日以内です。
さらに、追加発注によって労災保険料が大幅に増加する場合は、「増加概算保険料申告書」と「請負金額内訳書(乙)」の提出も必要になります。
これは、以下の両方の条件を満たす場合です。
- 増加額が2倍超: 変更後の概算保険料が、変更前の概算保険料の2倍を超える
- 差額が13万円以上: 変更後の概算保険料と変更前の概算保険料の差額が13万円以上
増加概算保険料申告書と請負金額内訳書(乙)の提出期限は、増加事由が発生した日(例:追加工事の契約日)から30日以内です。
工事期間が短縮された場合も、「労働保険・名称、所在地等変更届」を提出します。
提出期限は、変更があった日から30日以内です。 工事期間が短縮されたことで、概算保険料が払い過ぎになる可能性があります。
その場合は、工事終了後に提出する「確定保険料申告書」で精算し、還付を受けることができます。 変更手続きを忘れずに行い、払い過ぎた保険料を取り戻しましょう。
労災保険は、本来、労働者のための制度ですが、建設業では、労働者以外にも労災保険に加入できる特別な制度があります。 それが「特別加入制度」です。
特別加入制度を利用すれば、一人親方や中小企業の事業主、役員なども、労災保険の保護を受けることができます。
建設業は、他の業種に比べて労災事故のリスクが高いため、万が一の事態に備えて、特別加入制度への加入をおすすめします。
こちらでは、特別加入制度の概要、加入条件、加入方法、そして未加入の場合のリスクについて、詳しく解説していきます。
加入条件!誰でも入れるわけではない
労災保険の特別加入制度は、通常の労災保険の対象とならない中小事業主や一人親方などが、業務上の災害に備えるための制度です。
建設業においても、事業主自身や労働者を雇用しない一人親方が業務中の災害に遭うリスクは高く、この制度への加入が重要となります。
以下に、特別加入制度の概要と加入条件をまとめました。
対象者 | 加入条件 |
中小事業主等 | – 常時使用する労働者数が以下の基準を満たすこと: - 金融業、保険業、不動産業、小売業:50人以下 - 卸売業、サービス業:100人以下 - その他の業種:300人以下- 労働者を雇用し、労災保険の適用事業主であること- 労働保険事務組合に事務処理を委託していること |
一人親方等 | – 労働者を使用しないで事業を行うことが常態であること- 以下の事業に従事していること: - 建設業 - 漁業 - 林業 - その他特定の事業- 労働者を年間100日未満しか雇用しない場合も対象となる |
それぞれの加入条件について、詳しく見ていきましょう。
中小事業主等として特別加入
中小事業主等として特別加入できるのは、以下の要件をすべて満たす方です。
- 常時使用する労働者数が、建設業の場合は300人以下であること
- 労働保険事務組合に労働保険事務の委託をしていること
- 事業主本人や役員などが、労働者と同じ業務に従事していること
「労働者と同じ業務に従事している」とは、例えば、建設会社の社長が、現場で労働者と一緒に作業をしている場合などが該当します。
特別加入することで、業務中や通勤途中の事故でケガをした場合などに、労災保険から補償を受けることができます。 ただし、加入するには、労働保険事務組合を通じて手続きを行う必要があります。
一人親方として特別加入
一人親方として特別加入できるのは、以下の要件をすべて満たす方です。
- 労働者を使用しないで建設業の事業を行う個人事業主
- 年間労働者使用延日数が100日未満であること(労働者を使用する場合)
- 特定の危険有害業務に従事していること(建設業の場合は、ほとんどの業務が該当)
一人親方とは、大工、左官、とび、電気工事士など、建設業で個人で仕事をしている方を指します。 一人親方も、労働者と同様に、業務中や通勤途中の事故でケガをする可能性があります。
特別加入することで、安心して仕事に取り組むことができます。 一人親方の場合は、「一人親方団体」を通じて特別加入の手続きを行います。
建設業における労災保険料の計算方法は、一般の事業とは異なり、工事の請負金額や労務費率、労災保険率を用いて算出します。これは、建設業特有の多段階の請負構造や、元請業者が下請業者の労働者も含めて保険料を負担する仕組みに対応するためです。
労災保険料の基本的な計算式は以下のとおりです。
労災保険料 = 請負金額 × 労務費率 × 労災保険率
ここで、各項目の詳細は以下のとおりです:
- 請負金額:工事全体の契約金額を指します。発注者から提供された資材や機械の価額も含めて計算する必要があります。
- 労務費率:工事の種類ごとに定められた、労務費の割合を示す率です。例えば、「建築事業」の労務費率は23%と設定されています。
- 労災保険率:事業の種類や工事の内容に応じて設定された保険料率です。例えば、「建築事業」の労災保険率は1,000分の9.5(0.95%)となっています。
具体例として、請負金額が1億円の建築工事の場合、労災保険料は以下のように計算されます。
- 賃金総額の算出:
- 1億円(請負金額) × 23%(労務費率) = 2,300万円
- 労災保険料の算出:
- 2,300万円(賃金総額) × 0.95%(労災保険率) = 21万8,500円
このように、労務費率を用いることで、元請業者が下請業者の賃金総額を正確に把握することが難しい場合でも、適切に労災保険料を算出することが可能です。
一括有期事業の労災保険料は、毎年6月1日から7月10日までの間に年度更新という手続きで労働保険料を申告・納付します。
年度更新では、当年度の概算保険料を申告・納付することに加え、前年度の確定保険料も申告・納付します。
これらの手続きは、毎年6月1日から7月10日までの間に行う必要があります。手続きが遅れると、追徴金が課される可能性があるため、注意が必要です。
また、年度更新の際には、以下の書類の提出が求められます。
◯一括有期事業報告書
4月1日から3月31日までに完了した工事の詳細を報告する書類。
◯一括有期事業総括表
報告書の内容を総括した表。
建設業の年度更新は、申告書の作成や保険料の計算が複雑で、専門的な知識が求められます。そのため、社労士に申請代行を依頼することで、手続きの負担を軽減し、適切に申告・納付を行うことができます。
建設業(一括有期事業)における年度更新については、「建設業の労働保険の年度更新(一括有期事業)の申告・納付手続きをわかりやすく解説」の記事で詳しく解説しています。
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建設業における労災保険に関するよくある質問を以下にまとめました。
下請は労災保険に加入しなくてもよいの?
下請企業の労働者は、現場労災については、個別に加入する必要はありません。 建設業では、元請業者が工事現場で働くすべての労働者(下請労働者を含む)の労災保険を一括して加入する「元請責任」という仕組みがあるためです。
ただし、これはあくまでも工事現場で働く労働者に対する労災保険(現場労災)の話です。 下請企業であっても、自社の事務所で働く事務員などについては、事務所労災に別途加入する必要があります。
また、雇用保険については、元請・下請それぞれが個別に加入手続きを行う必要があります。
労災保険料は経費として計上できますか?
労災保険料は全額経費(損金)に算入できます。 労災保険料は、事業主が負担する費用であり、事業を行う上で必要な経費として認められています。 確定申告の際には、忘れずに経費として計上しましょう。
法人の場合は法人税、個人事業主の場合は所得税の計算において、労災保険料を支払った年の経費として計上できます。 経費計上することで、課税所得を減らし、税負担を軽減することができます。 ただし、一人親方などの特別加入者の保険料は、扱いが異なりますので注意が必要です。
労働保険番号とは?
労働保険番号とは、労災保険と雇用保険の適用事業所ごとに付与される、14桁の番号です。 労働保険の加入手続きを行うと、労働基準監督署または公共職業安定所(ハローワーク)から労働保険番号が通知されます。 労働保険番号は、年度更新の手続きや、労災保険の給付申請など、様々な場面で必要になります。
労働保険番号は、以下の4つの区分で構成されています。
- 所掌: 管轄の労働基準監督署または公共職業安定所
- 管轄: 労働基準監督署または公共職業安定所の管轄区域
- 基幹番号: 事業所ごとに付番される番号
- 枝番号: 継続事業の一括などが行われている場合に付番される番号
労働保険番号は、会社にとって非常に重要な番号です。 紛失しないように、大切に保管しましょう。
建設業退職金共済制度(建退共)との関係は?
建設業退職金共済制度(建退共)は、建設現場で働く労働者のための退職金制度です。 建設業の労働者は、現場を転々とすることが多いため、通常の退職金制度では十分な退職金を受け取ることが難しい場合があります。 建退共は、このような建設業の特殊性を考慮して設けられた制度です。
建退共は、労災保険とは別の制度ですが、建設業では両方に加入することが一般的です。 事業主は、労働者が建退共に加入している場合、掛金を負担する必要があります。 建退共の掛金は、原則として、全額事業主負担となります。 掛金は、労働者の労働日数に応じて計算されます。
労災保険に未加入だとどうなる?
労災保険は、労働者を一人でも雇用する事業主には加入義務があります。 建設業の場合、元請業者は、下請労働者を含めて労災保険に加入する義務があります。 労災保険に未加入の状態で労災事故が発生した場合、事業主は以下のようなリスクを負うことになります。
- 費用徴収制度: 労災保険から給付が行われた場合、事業主は、その費用の全部または一部を徴収されます。
- 損害賠償請求: 労働者やその遺族から、損害賠償請求を受ける可能性があります。
- 罰則: 労働基準法違反として、罰金刑が科せられる可能性があります。
- 行政処分: 指名停止など、行政処分を受ける可能性があります。
- 社会的信用: 社会的信用を失い、今後の事業活動に支障をきたす可能性があります。
労災保険への加入は、事業主の義務であるだけでなく、労働者と事業主自身を守るためにも、非常に重要なことです。
労災認定されなかった場合は?
労災保険の給付を受けるためには、労働基準監督署長の認定(労災認定)を受ける必要があります。 しかし、申請した内容が、必ずしも労災と認められるとは限りません。 労災認定されなかった場合は、以下の対応を検討しましょう。
- 不服申し立て(審査請求・再審査請求): 労働基準監督署長の決定に不服がある場合は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行うことができます。審査請求の結果に不服がある場合は、労働保険審査会に対して再審査請求を行うことができます。
- 訴訟: 審査請求や再審査請求を経てもなお、労災認定が得られない場合は、裁判所に訴訟を提起することができます。
労災認定は、専門的な知識が必要となる場合が多いため、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
現場で怪我をしたが、元請ではなく、自分の加入している一人親方労災を使いたいと言われた。これは可能か。
原則として、現場で発生した労災事故については、元請の労災保険(現場労災)を使用するのが正しいです。 一人親方の労災保険(特別加入)は、あくまでも一人親方自身の業務災害や通勤災害を補償するものであり、現場の労働者として働いている場合の事故は対象外となります。
元請が、一人親方の労災保険を使うように指示するのは、労災隠しにあたる可能性があります。 労災隠しは、労働安全衛生法違反となり、罰則の対象となります。 また、元請は、費用徴収制度により、労災保険給付額の全部または一部を徴収される可能性があります。
もし、このような状況になった場合は、まずは労働基準監督署に相談しましょう。 労働基準監督署は、労災保険に関する相談窓口であり、適切なアドバイスを受けることができます。 また、必要に応じて、社会保険労務士などの専門家に相談することも検討しましょう。
この記事では、主に建設業における労災保険の特徴、加入手続き、保険料の計算、そして一人親方や中小事業主も加入できる特別加入制度について解説してきました。 建設業の労災保険は、一般的な労災保険とは異なる点が多く、複雑な制度ですが、労働者を守り、事業主の皆様の経営リスクを軽減するためには、正しく理解し、適切に対応することが不可欠です。
労災保険の手続きは、確かに複雑で分かりにくい点もあるかもしれません。 しかし、労働者を守り、安心して働ける環境を整えることは、事業主の皆様の責務であるとともに、企業の信頼性向上、優秀な人材確保にもつながります。 不明な点や疑問点がある場合は、労働基準監督署、都道府県労働局、社会保険労務士、労働保険事務組合などの専門機関にご相談ください。
労災保険制度を正しく理解し、適切に活用することで、労働災害のリスクを軽減し、安心して事業を継続できる環境を共に作っていきましょう。
スポット申請代行サービスの社労士クラウドとは?
建設業の労災保険の加入手続きや労働保険(労災・雇用保険)料の計算は、専門的な知識が必要で、慣れないと多くの時間と労力を費やしてしまいます。
また、計算ミスや申告漏れ、納付遅延などのリスクも伴います。 「社労士に依頼するのは費用がかかりそう…」「自社で対応できるか不安…」 そんなお悩みをお持ちの場合は、「社労士クラウド」のスポット申請代行サービスのご利用をご検討ください。
「社労士クラウド」のスポット申請代行サービスは、労働保険の年度更新に必要な手続きだけを、専門家である社労士に依頼できるサービスです。
例えば、「労働保険料の計算だけお願いしたい」「申告書の作成と提出だけ代行してほしい」「申告書を確認してほしい」といった、部分的な依頼も可能です。
「社労士クラウド」は、労働保険の専門家である社会保険労務士が、最新の法令に基づき正確に手続きを代行します。面倒な手続きを私たちにお任せいただくことで、お客様は貴重な時間を有効活用できます。必要な業務のみをスポットでご依頼いただけるため、費用も抑えられます。全国どこからでもご依頼可能です。
スポットで依頼することで、自社で対応するよりも、確実かつ効率的に年度更新の手続きを進められる場合があります。 労働保険料の納付手続きでお困りの際は、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。
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