雇用保険被保険者離職証明書(以下、離職証明書)は、退職者が失業給付を申請する際に必要となる「離職票」の発行手続きにおいて欠かせない重要な書類です。
退職者が離職票の発行を希望した場合、事業主はこの離職証明書を必ず作成し、期限内にハローワークへ提出しなければなりません。提出が遅れる、または記載内容に不備があると、退職者の失業給付手続きに影響を及ぼすだけでなく、会社の信頼を損なうリスクや法的な問題を招く可能性があります。
この記事では、離職証明書の正確な書き方や記載例、さらに添付書類の準備方法や提出時の注意点について、分かりやすく解説します。
正確かつ効率的に離職証明書を作成し、退職者との円滑な関係を保つために、ぜひ最後までお読みください。
生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
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雇用保険被保険者離職証明書(以下、離職証明書)は、退職者が失業給付を申請するために必要な「離職票」の発行手続きにおいて基礎となる重要な書類です。
事業主は、離職証明書を雇用保険の「被保険者資格喪失届」とともに作成し、ハローワークに提出します。この離職証明書には退職理由や賃金額、勤務状況が記載され、ハローワークでの給付手続きにおいて審査の材料となります。
離職証明書は書面の場合、3枚綴りの複写式で構成されています。1枚目が事業主控え、2枚目がハローワーク提出用、3枚目が退職者に交付される「離職票-2」です。従業員が離職票を希望しない場合を除き、事業主は法律に基づいて必ず離職証明書を作成しなければなりません。
また、離職証明書には提出期限が法律で定められており、退職日の翌々日から10日以内にハローワークに提出する必要があります。これにより、退職者が速やかに失業給付を受ける準備が整います。企業の人事・労務担当者は手続きの遅れや不備を防ぐため、正確かつ迅速な対応を心がけることが重要です。
離職証明書と離職票・退職証明書との違い
離職証明書、離職票、退職証明書は、似たような名前を持つため混同されやすいですが、退職手続きに関連する重要な書類であり、それぞれ役割や目的が異なります。
以下の表に違いをまとめました。
書類名 | 発行者 | 提出先 | 主な目的 |
離職証明書 | 事業主 | ハローワーク | 離職票発行の基礎資料 |
離職票 | ハローワーク | 退職者→ハローワーク | 雇用保険の失業給付を申請 |
退職証明書 | 事業主(請求時) | 転職先や公的機関 | 退職の事実を証明 (転職や健康保険手続き) |
混同されやすい書類として「離職票」があります。離職票は、正式には「雇用保険被保険者離職票」といい、退職者が失業給付を申請する際に必要な書類です。一方、離職証明書は事業主が作成し、離職票を発行するための基礎資料としてハローワークに提出します。それぞれの違いは、発行者と目的にあります。
離職票(1と2)とは?発行手続きや離職証明書・退職証明書の違いを社労士が解説
退職証明書は、退職者から請求があった場合に事業主が発行する書類で、該当者が確かに退職したことを証明します。離職証明書が公文書であるのに対し、退職証明書は私文書であり、雇用主が独自に作成します。そのため、決まったフォーマットはなく、柔軟に対応できるのが特徴です。
退職証明書は、国民健康保険や国民年金の手続き、または退職者の転職先企業への提出が必要になる場合があります。また、退職証明書は公文書ではありませんが、離職証明書の3枚目である「離職票-2」の代わりとして利用できることがあります。例えば、退職者が国民健康保険や国民年金に加入する際に「離職票-2」が手元にない場合、退職証明書を提出することで代替書類として認められるケースがあります。
そのため、退職者から請求があった場合は、速やかに作成・交付することが求められます。記載内容としては、退職者の氏名や在職期間、退職理由などを明確に記載し、必要に応じて提出先の求める情報を追加すると良いでしょう。これにより、退職者の手続きが円滑に進むようサポートすることができます。
離職証明書は、退職手続きにおいて必要になる場合と不要な場合があります。必要なケースを正しく理解することで、スムーズな手続きが可能になります。また、不要なケースを把握することで、不要な作業を省き業務の効率化が図れます。
以下で詳しく説明します。
離職証明書の作成が必要な場合
離職証明書の作成が必要になるのは、主に退職者が失業給付を受けるために離職票を希望する場合や、年齢が59歳以上の条件を満たす場合に離職証明書の作成が義務付けられています。
それぞれのケースを詳しく解説していきますね。
退職する従業員が離職票の発行を希望したとき、事業主(会社側)は離職証明書を作成する義務があります。離職票は、退職者が雇用保険の失業給付を受けるために必要な書類であり、その発行には離職証明書が欠かせません。
離職証明書は3枚複写式で構成されており、3枚目が退職者に交付される「離職票-2」に該当します。事業主は、離職証明書をハローワークに提出することで、正式な離職票を退職者に渡すことができます。退職が決まった従業員には、離職票の発行を希望するかどうかを必ず確認してください。
また、離職票の発行手続きには、「離職証明書」に加えて「雇用保険被保険者資格喪失届」も必要です。
従業員の退職時年齢が59歳以上の場合、離職証明書の作成は従業員の希望の有無にかかわらず必要となります。この理由は、60歳以上64歳未満の退職者が「高年齢雇用継続給付」を申請する際に、離職票の提出が求められるからです。
高年齢雇用継続給付は、60歳以降に賃金が低下した場合に補填を受けられる制度であり、その申請には「雇用保険被保険者離職票-2」や賃金の支払い状況がわかる書類が必要です。そのため、退職日に59歳以上である場合、再就職や給付申請をスムーズに進めるために、離職証明書を正確に作成し、ハローワークへ提出する必要があります。
特に、従業員が59歳で退職し、再就職の際に60歳を迎えるケースも考慮する必要があります。離職証明書と離職票が適切に発行されていれば、従業員は申請手続きで困ることがありません。事業主は、退職者の年齢要件を確認し、提出期限内に必要な手続きを行うことが求められます。
離職証明書の発行が不要なケース
離職証明書は、退職手続きにおいて必ずしも全てのケースで作成が求められるわけではありません。退職者の状況や希望によっては、発行が不要となる場合もあります。
以下に具体的な例を挙げて説明します。
離職票の発行を希望しない退職者の場合、離職証明書の作成および提出は不要です。このケースでは、退職者が雇用保険の失業給付を申請しない意向を示した場合が該当します。例えば、すぐに次の職場に就職する予定がある場合や、自営業を始める予定がある場合などがこれに当たります。
この場合、事業主は「雇用保険被保険者資格喪失届」のみを所轄のハローワークに提出する必要があります。資格喪失届は、退職に伴い従業員が雇用保険の被保険者資格を失ったことを報告するための書類です。
ただし、退職時に離職票の必要性を確認しないと後でトラブルになる可能性があります。退職後に離職票を請求された場合、速やかに離職証明書を作成し、ハローワークに提出する必要があるため、事前に退職者の希望をしっかり確認しておくことが重要です。
退職者が死亡した場合、離職証明書および離職票の発行は不要です。死亡退職では、失業給付を受ける資格が発生しないため、これらの書類を作成する必要がないのが理由です。この場合、雇用保険被保険者資格喪失届のみをハローワークに提出します。
死亡退職に伴う手続きでは、退職日や給与精算、遺族への連絡事項が優先されるため、雇用保険関連の書類についても確認を怠らないよう注意が必要です。また、必要に応じて遺族からの相談に対応するなど、丁寧な対応を心がけることが求められます。
離職証明書は、退職者が失業給付を受けるために必要不可欠な書類です。記載内容に誤りがあると、ハローワークでの手続きが滞る可能性があるため、正確に作成することが求められます。また、離職証明書の作成には、記載項目の確認や退職者本人の署名・捺印が必要な場合もあるため、余裕を持った準備が重要です。
ここでは、離職証明書に記載するべき主要な項目と、その具体的な記入例について解説します。
離職証明書の記入例
■左側部分
引用元:離職証明書記載例 厚生労働省
離職証明書の記載項目一覧
離職証明書には、退職者に関する基本情報から賃金状況、退職理由まで、詳細な項目を正確に記載する必要があります。記載内容に誤りがあると、退職者が失業給付を受ける際に手続きが滞る可能性があります。
以下は、主な記載項目とそのポイントを解説します。
1.被保険者番号
雇用保険被保険者番号は、退職者が持つ雇用保険被保険者証や雇用保険被保険者資格取得等確認通知書から確認できます。退職者が1981年7月6日以前に雇用保険に加入した場合、被保険者番号が16桁になっている場合があるため、その場合は最後の10桁のみを記載し、11桁目以降は空欄にします。
2.事業所番号
事業所の雇用保険適用事業所番号を記載します。この番号は「雇用保険適用事業所設置届」や「資格取得等確認通知書」などで確認できます。
3.離職者氏名
退職者のフルネーム(漢字およびフリガナ)を正確に記載してください。
4.離職年月日
離職年月日は、「雇用保険被保険者資格喪失届」に記載した日付と一致させる必要があります。記載の不一致はトラブルの原因になるため、特に注意してください。
5.事業所・事業主
事業所の名称、所在地、電話番号、ならびに事業主の氏名や住所を記載します。なお、2枚目(ハローワーク提出用)には事業主印が必要です。忘れずに押印してください。
6.離職者の住所または居所
退職者が退職時点で居住している住所を記載します。退職者が住所変更を希望する場合は、変更後の住所を記載することも可能です。
7.離職理由(用紙2枚目)
離職理由の選択肢から該当するものを選択し、具体的な事情について詳細を記載します。「具体的事情記載欄」には、失業給付の審査に影響する内容を正確に記載する必要があります。
8.被保険者期間算定対象期間
退職日を基点として過去1か月ずつさかのぼり、該当する期間を記載します。一般被保険者や高年齢被保険者はA欄に、短期雇用特例被保険者はB欄に記載します。
9.被保険者期間算定対象期間における賃金支払い基礎日数
被保険者期間算定対象期間中に、賃金の支払いが行われた日数を記載します。月給制の場合は全歴日数を記載し、日給制や時給制の場合は実際の勤務日数を記載します。
10.賃金支払対象期間
賃金締切日の翌日から次の賃金締切日までの期間を記載します。退職日直前の期間を含め、1か月ずつさかのぼって記載してください。
11.賃金支払対象期間の基礎日数
有給休暇、休業手当の対象日を含む、賃金の支払い対象となった日数を記載します。勤務日数が異なる場合は、その理由を「備考」欄に記載してください。
12.賃金額
各賃金支払対象期間の賃金総額を記載します。月給制はA欄に、日給制や時給制の場合はB欄に記載し、計算ミスのないよう注意してください。
13.備考
未払い賃金の有無やその金額、また特記事項がある場合は記載します。傷病や育児休業などの特別な事情がある場合も、ここに詳細を記載します。
14.賃金に関する特記事項
毎月の賃金以外に3か月ごとに支払われた手当や報酬がある場合、支払日、賃金の名称、金額を記載します。
15.署名捺印
退職者が記載内容を確認し、署名または押印を行います。異議がある場合はその旨を記載することが可能です。また、退職者の署名が難しい場合は、その理由を備考欄に記載し、事業主印を押印してください。
離職理由欄の記載方法
離職証明書の「離職理由」欄は、退職者が失業給付を受ける際の審査基準に重要な影響を与える項目です。この欄を正確に記載することで、手続きの遅延や不備を防ぐことができます。
以下に主な記載方法と注意点を解説します。
離職者の主たる離職理由を以下の1~5のカテゴリから1つ選びます。選択後、「事業主記入欄」の該当する□に○を記入してください。
- 事業所の倒産
- 倒産手続きの開始や、事業活動の停止が原因で離職した場合。
- 必要書類例: 倒産手続きの証明書類や解散議事録など。
- 定年退職
- 就業規則等で定められた定年を迎えての離職。
- 必要書類例: 就業規則。
- 契約期間満了
- 労働契約の期間終了が原因で離職した場合。
- 必要書類例: 労働契約書や契約更新通知書。
- 事業主の働きかけによる離職
- 解雇や退職勧奨による離職。
- 必要書類例: 解雇通知書や希望退職募集要項。
- 労働者の判断による離職
- 労働条件の不満や個人的な事情による退職。
- 必要書類例: 退職願などの本人意向を示す書類。
- その他
- 上記1~5に該当しない離職理由。具体的に理由を記載してください。
「具体的事情記載欄」には、離職理由に至った経緯や背景を具体的に記載します。例えば、「事業縮小による希望退職募集に応募したため」や「勤務時間変更に適応できず退職」など、詳細に説明してください。
事業主が記載した離職理由は、離職者本人に確認を取る必要があります。退職者は、「事業主記入欄」の内容に異議がある場合「有り」、ない場合「無し」を選び、署名または押印を行います。やむを得ない理由で本人の署名が得られない場合は、その理由を記載してください。
離職証明書をハローワークに提出する際には、添付書類が必要となります。これらの書類は、離職者の賃金支払状況や離職理由を証明し、失業給付手続きをスムーズに進めるために重要です。
離職証明書の提出時には、以下2種類の書類を準備する必要があります。
・離職までの賃金支払状況を確認できる書類
・離職理由が分かる書類
以下に、主な添付書類の種類と具体的な内容を解説します。
離職までの賃金支払状況を確認できる書類
賃金支払状況を確認するための書類は、退職者の賃金支払実績や基礎日数を証明する重要な資料です。これらの書類は、失業給付の計算基準として使用され、正確な情報の提供が求められます。
主な必要書類は以下の通りです。
◯出勤簿またはタイムカード
退職者の労働日数や出勤時間を確認するために必要な書類です。特に日給制や時給制の労働者については、出勤状況を正確に示す出勤簿やタイムカードの提出が求められます。これにより、賃金支払基礎日数を明確に証明できます。
◯賃金台帳
雇用期間中の賃金支払実績を記録した書類です。基本給、残業代、各種手当など、支払われた賃金の詳細な内訳を正確に記載してください。この書類は、退職者の賃金支払対象期間を証明する際に使用されます。
◯給与明細書
退職月を含む過去6か月分の給与明細書が必要です。給与明細書には、賃金額、支払日、控除項目が記載されており、賃金支払対象期間の裏付け資料として利用されます。
◯労働者名簿(必要に応じて)
労働者の在籍状況を示す資料として、労働者名簿が必要となる場合があります。名簿には、労働者の氏名、雇用開始日、雇用形態などが記載されていることが求められます。
これらの書類を基に、離職証明書の「賃金支払対象期間」「基礎日数」「賃金額」欄を正確に記載します。不備があると手続きに遅れが生じる可能性があるため、事前に内容を十分確認してください。
特に、電子申請を利用する場合は、各書類をPDFファイル化して提出する準備も必要です。
離職理由が分かる書類
離職理由を証明する書類は、離職者が失業給付を申請する際の条件判定や審査をスムーズに進めるために必要です。離職証明書の「離職理由」に基づき、適切な書類を添付することで、退職理由の正当性を裏付けることができます。
これにより、離職者の権利が正当に保護され、事業主の手続きも円滑に進行します。
主な書類は以下の通りです。
◯自己都合退職の場合
退職願や退職届など、離職者が自主的に提出した書類を添付します。これにより、離職者が自己都合で退職したことを証明できます。
◯解雇の場合
解雇通知書や労働者名簿を添付してください。これらの書類は、解雇が事業主の意思で行われたことを明確に示します。
◯退職勧奨の場合
退職願、退職届、または退職勧奨通知書を添付します。退職勧奨が事業主側からの提案であることを証明するための重要な資料です。
◯契約期間満了の場合
雇用契約書や契約更新通知書を添付します。これにより、契約期間満了による退職であることを説明できます。
◯定年退職の場合
就業規則や再雇用規定を添付します。必要に応じて再雇用に関する契約書も提出することで、定年による退職理由を補足できます。
◯倒産や事業閉鎖の場合
倒産手続開始の申立書類や解散決議の議事録を添付します。これらは事業終了に伴う離職理由を証明するために必要です。
◯休職期間満了の場合
休職の開始日と終了日がわかる通知書や就業規則を添付します。これにより、休職期間満了が離職理由であることを説明できます。
◯その他の場合
週20時間未満への労働条件変更による離職など、特定の状況に応じて、雇用契約書や賃金変更通知書を添付してください。
上記書類は、離職理由に応じて必要な証拠となります。書類に不備や誤りがあると手続きが遅れる可能性があるため、提出前に必ず確認しましょう。また、電子申請を行う場合は、必要な書類をPDF形式に変換して提出する準備を整えることが重要です。
離職証明書を作成する際には、退職者の勤務状況や退職理由に基づき、記入内容に注意が必要なケースがあります。
以下のような場合、適切な情報を正確に記載することで、失業給付の審査や手続きをスムーズに進めることができます。
休業手当の支払期間がある退職者の場合
離職証明書の「賃金支払対象期間」において、休業手当を支払っていた場合は、その内容を正確に記載する必要があります。
休業手当の記載内容は失業給付の審査に直接影響を与えるため、「休業手当」と「賃金支払対象期間」の記載方法について以下の点に注意してください。
◯休業手当に関する記載の注意点
・備考欄への記載
休業手当の支払期間と支給額を備考欄に明記します。
・連続した休業がある場合
「休業〇日、所定休日〇日、休業手当〇〇円」と具体的に記載します。
・断続的な休業の場合
休業の合計日数と支給額を記載します。
・全期間休業の場合
全期間休業の場合は、「全休業」と備考欄に記載し、日数や支給額の記載は不要です。
必要に応じて、「全休業(〇年〇月〇日から〇年〇月〇日まで)」などの補足を加えるとより明確になります。
◯賃金支払対象期間に関する記載の注意点
・基礎日数に含める
実働日数が少なくても、賃金支払基礎日数には休業手当の対象となる日数を含めて記載します。
・時短休業の扱い
休業手当が60%以上支給されている場合は、時短休業も通常の労働日数として扱います。
育児・介護等で時短勤務していた退職者の場合
育児・介護休業法に基づき短時間勤務を行っていた退職者については、離職証明書の作成時に、時短勤務中の賃金額をもとに記載する必要があります。
これは、離職証明書に基づいて失業給付の基本手当が決定されるためであり、勤務形態や期間、賃金や勤務時間の記録を正確に記入することが求められます。
ただし、倒産や解雇による退職であり、かつ育児や介護のための休業や時短勤務により給与が減少または喪失した退職者の場合、特例が適用されます。この特例では、時短勤務を開始する前の賃金日額を基準に失業給付が計算されます。
◯特例の適用に必要な対応
特例を適用するためには、以下の対応が必要です。
1.時短勤務期間の記載
備考欄に短時間勤務の開始日と終了日を明記してください。これにより、時短勤務の期間が明確になります。
2.追加書類の提出
「雇用保険被保険者短縮措置等適用時賃金証明書」を添付します。この書類は、時短勤務前の賃金日額を証明するために必要です。
正確な記載と必要書類の提出により、退職者が円滑に失業給付を受け取れるよう配慮しましょう。
短期雇用特例被保険者にあたる退職者の場合
退職者が「短期雇用特例被保険者」に該当する場合、離職証明書の「被保険者期間算定対象期間」欄に、離職日を含む月から短期雇用特例被保険者となった時点までさかのぼって期間を正確に記載する必要があります。
「短期雇用特例被保険者」とは、季節雇用の中でも特定の雇用状況に該当しない労働者を指します。
具体的には以下のいずれかに該当する人です。
・4カ月以内の期間で雇用される者
・1週間の所定労働時間が30時間未満である者
なお注意点として短期雇用特例被保険者は、その雇用条件に応じた特例措置が適用されますが、雇用期間が1年以上となる場合は一般被保険者または高年齢被保険者として再分類されることがあります。このため、雇用期間に基づく適切な記載を心掛けてください。
◯記載時の注意点
・被保険者期間の記載
雇用期間が短い場合でも、該当する期間を正確に反映します。特に短期雇用であることを考慮し、被保険者期間を漏れなく記載してください。
・基礎日数の確認
基礎日数11日以上の月が失業給付の受給資格に影響を及ぼします。不足がある場合には注意深く確認し、不明な点があれば関連書類を参照してください。
・契約内容の明示
契約期間満了による退職の場合、備考欄に「〇年〇月〇日から〇年〇月〇日まで」と具体的に記載します。また、退職理由も明確に示すことが求められます。
高年齢被保険者(65歳以上)にあたる退職者の場合
65歳以上で雇用保険に加入していた「高年齢被保険者」に該当する退職者は、失業給付の対象として「高年齢求職者給付金」が支給されることがあります。この給付金は、通常の失業給付とは異なる条件や内容が適用されるため、離職証明書の記載には特に注意が必要です。
高年齢被保険者は、以下の条件に該当する従業員を指します。
・65歳以上で雇用保険に加入している者
・短期雇用特例被保険者や日雇労働被保険者には該当しない者
◯記載時の注意点
1. 被保険者期間の記載
離職証明書の「被保険者期間算定対象期間」欄には、退職日を含む月から過去6ヵ月分の期間を正確に記載します。必要に応じてそれ以降の記載は省略できます。
2. 特記事項の記載
・定年退職の場合
備考欄に「定年退職」と記載してください。これにより、失業給付の条件に影響を与える特定理由を明確にします。
・他の理由で退職した場合
解雇や契約終了などの理由がある場合は、それに該当する内容を具体的に記載してください。
3. 賃金額の記載
定額の賃金や手当が支給されている場合は、離職証明書の賃金欄に詳細を分けて記載します。なお雇用期間中に特別な手当が支給されていた場合は、それも明記してください。
1枚では足りず離職証明書に記載しきれない場合の注意点
離職証明書には、退職日からさかのぼる2年間のうち、賃金支払基礎日数が11日以上の月を12カ月分記載する必要があります。しかし、離職証明書の記入欄は13行しかないため、1枚の用紙では記入欄が不足する場合があります。
例えば、以下のような場合には記載欄が不足する可能性があります。
- 賃金支払基礎日数が11日未満の月が複数ある場合
- 雇用期間が長期にわたり、賃金支払基礎日数が不規則な場合
このような場合には、続紙を用意して不足分を記載する対応が必要です。
◯続紙を作成する際の手順
- 別の用紙を用意し、右上に「続紙」と記載します。
- 続紙の冒頭に以下の情報を記載してください。
・被保険者番号
・事業所番号
・離職者氏名
・離職年月日
・事業主の住所および氏名
- 続紙に賃金支払状況等の続きを記載します。
これにより、離職証明書の内容が正確に記載され、手続きの遅延やトラブルを防ぐことができます。
離職証明書を提出する際には、手続きの正確性や迅速な対応が求められます。以下に、提出時の具体的な注意点を解説します。
離職票の発行手続きをしないと罰則が課せられる
離職証明書は、退職者が雇用保険の失業給付を受けるために必要な重要な書類です。
退職者が離職票の発行を希望した場合、退職日の翌日から10日以内に「離職証明書」と「雇用保険被保険者資格喪失届」を管轄のハローワークに提出する義務があります。
提出期限を守らない、または退職者の希望にもかかわらず正当な理由なく離職票を発行しなかった場合には、以下の罰則が科される可能性があります。
- 6ヵ月以下の懲役
- 30万円以下の罰金
離職証明書の提出が遅れる、または不備があると、退職者の失業給付手続きが遅延し、退職者とのトラブルに発展するリスクがあります。
そのため、退職手続きに関する説明を行う際には、必ず退職者に離職票の発行を希望するかどうかを確認し、速やかに必要な手続きを進めることが求められます。
適切な対応を行うことで、退職者の権利を保護し、事業主としての信頼を維持することが可能となります。
離職票の申請期限10日以内を過ぎると罰則?期限内に提出できなかった場合の対処法も解説
離職理由を必ず本人に確認する
離職証明書を作成する際、離職理由は失業給付の条件や給付内容に直結する重要な項目です。特に、会社都合退職と自己都合退職では、給付の開始時期や内容が異なるため、退職者の同意を得て正確に記載することが求められます。
例えば、会社都合退職の場合、原則として離職日の翌日から1年以内に失業給付を受けることができます。一方で、自己都合退職の場合は、基本手当の給付開始までに3ヵ月間の給付制限があります。ただし、令和2年10月以降の改正により、自己都合退職の場合でも、5年間のうち2回まではこの給付制限が2ヵ月に短縮される特例が適用されるようになりました。いずれのケースでも、申し込みから通算7日間の待機期間があるため、給付はこの期間以降に開始されます。
離職理由を記載する前に退職者本人に内容を確認し、記載内容についての認識を共有することで、後に異議を唱えられるリスクを防ぐことができます。また、事実に沿った内容を記載し、退職者との認識のズレがないようにすることで、失業給付の審査や手続きの遅延を回避することができます。このように、離職理由の記載は慎重かつ丁寧に進めることが重要です。
離職証明書に退職者の署名・押印が必要
離職証明書を提出する際には、退職者の署名または押印が必要です。署名・押印は、記載内容への同意を確認する重要な手続きです。
ただし、退職者と連絡が取れない場合や、署名・押印が得られない特別な事情がある場合には、その旨を備考欄に記載し、事業主が証明する形で対応することが可能です。このような場合でも、離職者に対する誠実な対応を心掛け、トラブルを未然に防ぐことが重要です。
離職理由に応じた添付書類を準備する
離職証明書の「離職理由」に基づき、適切な添付書類を準備する必要があります。
例えば:
- 自己都合退職の場合:退職届または退職願
- 解雇の場合:解雇通知書
- 契約期間満了の場合:契約書または契約期間満了通知書
添付書類が不足していると手続きが遅延する可能性があるため、事前に必要書類を確認・準備しましょう。
詳しくは、「離職理由が分かる書類」の項目で離職理由別に必要となる添付書類について紹介しています。
離職証明書は、退職者が失業給付を受けるために必要不可欠な書類です。退職者が離職票の発行を希望した場合、事業主は速やかに離職証明書を作成し、所轄のハローワークに提出する責任があります。適切な方法で提出しなければ、手続きの遅延や退職者とのトラブルにつながる可能性があります。
ここでは、離職証明書を提出するための具体的な流れと提出方法について詳しく解説します。正確かつスムーズな手続きを進めるためのポイントを確認しましょう。
離職証明書を提出するまでの流れ
離職証明書を提出する際には、以下の流れを守る必要があります。適切に準備を進めることで、手続きをスムーズに進められます。
1.退職する従業員に離職票の有無の確認
離職票の発行希望の有無を確認し、離職理由について退職者と認識を共有します。記載内容の誤りやトラブルを防ぐため、退職者に内容を確認してもらうことが重要です。
2.書類の準備
離職証明書および「雇用保険被保険者資格喪失届」を用意します。また、離職理由や賃金支払状況を証明するための添付書類(給与明細、契約書など)を揃えます。
3.書類の記載・確認
離職証明書には、退職者に関する情報や賃金支払状況、離職理由を正確に記載します。記載内容について退職者の署名・押印を得ることを忘れないでください。
4.ハローワークへの提出
書類が揃ったら、退職日の翌日から10日以内に所轄のハローワークに提出します。提出期限を過ぎないよう注意しましょう。
離職証明書の提出方法
離職証明書をハローワークに提出する方法は、以下の3つがあります。それぞれの方法を理解し、最適な手段を選択してください。
◯窓口提出
書類を直接、所轄のハローワークに持参して提出します。窓口担当者に確認してもらえるため、記載漏れや添付書類の不足があった場合でもその場で修正が可能です。
◯郵送提出
ハローワークに郵送で提出する方法です。書類を封筒に入れ、所轄のハローワーク宛に送付します。郵送の場合は、発送後に到着確認をすることをおすすめします。
◯電子申請
e-Govを利用してオンラインで提出する方法です。電子申請は手続きが迅速で、時間や場所を選ばずに提出できるため、利便性が高いです。ただし、事前にアカウント登録や電子証明書の取得が必要な場合があるため、準備を整えておきましょう。
いずれの方法でも、提出期限を守ることが最も重要です。適切に手続きを進めることで、退職者の失業給付手続きがスムーズに進行するよう配慮しましょう。
離職票の発行手続きは、専門的な知識が求められるうえ、退職日の翌日から10日以内という限られた期間で対応する必要があります。そのため、手続きの負担を軽減し、確実に進めるためには、社会保険労務士(社労士)に依頼することをおすすめします。
特に、事業主が自身で対応する場合、本業に支障をきたす可能性があるため、プロに任せることで業務への影響を最小限に抑えることができます。ぜひ、社労士への依頼を検討してみてください。
参考)社労士との顧問契約の必要性・顧問料の相場・サポート内容・メリットデメリットを徹底解説
従業員が退職した際には、会社側が離職証明書の作成を含むさまざまな手続きを適切かつ迅速に行う必要があります。
退職手続きは、退職者の新たな生活やキャリアを支援するだけでなく、法律上の義務を果たすためにも欠かせません。
ここでは、退職時に必要となる具体的な手続きと、退職者に渡すべき書類について詳しく解説します。
退職手続きについて詳しくは下記の記事でまとめています。
従業員の退職で会社側が行う退職手続き一覧・流れや必要書類を社労士が解説
退職手続き一覧
従業員の退職時に行う主な公的手続きの種類と内容、期日について以下の表にまとめています。
退職手続きの種類 | 提出期限 | 提出物 | 提出場所 |
社会保険(健康保険・厚生年金)の喪失手続き | 退職後5日以内 | ・健康保険 ・厚生年金被保険者資格喪失届 | 管轄の年金事務所 |
雇用保険の喪失手続き | 退職後10日以内 | ・雇用保険被保険者資格喪失届 ・雇用保険被保険者離職証明書 | 管轄のハローワーク |
所得税・住民税 | 退職日から1か月以内 | ・源泉徴収票の発行 ・給与支払報告に係る給与所得異動届書(住民税の徴収方法の変更) | 退職者に送付 |
社会保険と雇用保険の喪失手続きに関しては下の記事で詳しくまとめています。
従業員の退職で会社側が行う社会保険・雇用保険の手続き!必要書類や流れを解説
退職者に渡す書類一覧
退職者には、以下の書類を必ず渡しましょう。
- 離職票
雇用保険の失業給付を申請するために必要な書類です。退職者が希望した場合に発行し、速やかに渡します。 - 源泉徴収票
転職先の年末調整や確定申告に必要となる書類です。発行時期に注意して交付します。 - 健康保険資格喪失証明書
退職後の健康保険加入手続きに必要な書類です。国民健康保険への切り替えや新しい職場での手続きで使用されます。 - 退職証明書
退職者が希望する場合に発行する書類で、転職先での提出が求められることがあります。
これらの手続きを確実に行い、必要書類を適切に準備することで、退職者と会社双方にとってスムーズな退職プロセスを実現することができます。
「雇用保険被保険者離職証明書」は、退職者が失業給付を申請する際に必要となる「離職票」の発行手続きで欠かせない重要な書類です。
提出期限や記載内容に不備があると、退職者の手続きが遅れるだけでなく、会社としての信頼にも影響を与えかねません。そのため、退職日が決まった時点で早めに必要書類を確認し、計画的に準備を進めることが大切です。
また、離職理由の確認や記載、添付書類の準備など、細かな対応が求められるため、手続きに不安がある場合は、社労士など専門家に相談・依頼することを検討しましょう。本業に集中しつつ、退職者にとってスムーズな手続きとなるよう、適切な対応を心がけてください。
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