「1年単位の変形労働時間」とは、業務に繁閑のある事業場において、 繁忙期に長い労働時間を設定し、かつ、 閑散期に短い労働時間を設定することにより効率的に労働時間を配分して、年間の総労働時間の短縮を図ることを目的にしたものです。
労使協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出ることにより、 1箇月を超え1年以内の一定期間を平均し1週間の労働時間を40時間以下の範囲以内にした場合、 特定の日や週について1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です 。
1年単位の変形労働時間制を実施するときには、労使協定で次の5項目について協定を締結する必要があります。
①対象労働者の範囲
②対象期間(1箇月を超え1年以内の期間に限ります。)及び起算日
③特定期間
④労働日及び労働日ごとの労働時間
⑤労使協定の有効期間
以下に説明をしていきます。
生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
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1年単位の変形労働時間制により労働させる労働者の範囲を協定で明確にする必要があります。なお、勤務期間が対象期間に満たない途中採用者・途中退職者などについても賃金の精算を条件に本制度の適用が認められています。
年少者については、原則として1年単位の変形労働時間制で労働させることはできません(ただし、1週48時間、1日8時間以内であれば可能です)。 また、妊産婦が請求した場合には1 週40時間、1日8時間の範囲以内でしか労働させることはできないため、 1年単位の変形労働時間制で労働させることはできません。
変形労働時間制の対象期間は、その期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、1箇月を超え1年以内の期間に限ります。1年間が最長期間であるので対象期間が1年以内であれば3箇月、4箇月、半年などの対象期間を採用することも可能です。
対象期間を平均して、 1週間の労働時間が40時間を超えないように対象期間内の各日、各週の所定労働時間を定めることが必要です。 これは対象期間の全期間にわたって定めなければなりません。
ただし、対象期間を1箇月以上の期間に区分することとした場合には、
①最初の期間における労働日
②最初の期間における労働日ごとの労働時間
③最初の期間を除く各期間における労働日数
④最初の期間を除く各期間における総労働時間
を定めればよいこととなっています。
この場合でも、最初の期間を除く各期間の労働日と労働日ごとの労働時間については、その期間の始まる少なくとも30日前に、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合(労働者の過半数で組織する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者) の同意を得て、書面により定めなければなりません。
なお、対象期間を通した所定労働時間の総枠は、次の計算式によることになります。
対象期間における所定労働時間総枠≦40時間×対象機関の暦日数÷7
これによって計算すれば、 対象期間において所定労働時間として設定できる労働時間の総枠は下表のようになります。
また、1日の所定労働時間を一定とした場合、 1週平均40時間をクリアするための1日の所定労働時間と年間休日日数の関係は次のようになります。
1日の所定労働時間が7時間26分の場合上記の式にあてはめると年間の所定労働日数が280日の限度日数を超えることになるため1日所定労働時間は7時間27分が限度となります(1年365日の場合)。
ただし、年間労働日数を280日以下にするのであれば7時間26分以下とすることも可能です。
対象期間における労働日数の限度は、原則として1年間に280日となります (対象期間が3箇月以内の場合制限はありません。)。
対象期間が1年未満の場合は下記計算式で上限日数が決まります。
280日×対象期間中の暦日数÷365日
例)対象期間が平成○年4月1日から10月31日までの7ヵ月 (総暦日数214日) の場合は
280日 ×214日÷365日=164.16≒164日が限度となります。
連続労働日数は原則として最長6日までです。
ただし、「特定期間」を設ければ1週間に1日の休日が確保できる日数(最長12日) とすることがで きます。 なお、 「特定期間」とは労使協定により対象期間のうち特に業務が繁忙な時期として定められた期間をいいます。
対象期間のうち相当部分を特定期間として定める労使協定は、法の趣旨に反して認められません。 また、一旦協定した特定期間を対象期間の途中で変更することも認められません。
1年単位の変形労働時間制には、 1日 1週の労働時間の限度が定められており、1日10時間、1週52時間が限度時間です(隔日勤務のタクシー運転者の1日の限度時間は16時間です。)。
対象期間が3箇月を超える場合、この限度時間を設定できる範囲には次のような制限があります (積雪地域の建設業の屋外労働者等については制限はありません。)。
①対象期間中に、週48時間を超える所定労働時間を設定するのは連続3週以内とすること。
②対象期間を初日から3箇月ごとに区切った各期間において、週48時間を超える所定労働時間を設定した週の初日の数が3以内であること。
ただし、以上の「週」については対象期間の初日の曜日を起算とする7日間です。
労働時間が法定労働時間を超えた場合には、その超えた時間について割増賃金を支払うことが必要です。次の時間については時間外労働となり、割増賃金を支払う必要があります。
①1日の法定時間外労働 労使協定で1日8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
②1週の法定時間外労働 労使協定で1週40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は1週40時間を超えて労働した時間 (①で時間外労働となる時間を除く。)
③対象期間の法定時間外労働→対象期間の法定労働時間総枠を超えて労働した時間 (①または②で時間外労働となる時間を除く。)
1年単位の変形労働時間制を導入する場合においても、育児を行う者、 老人等の介護を行う者、職業訓練または教育を受ける者その他特別の配慮を要する者については、これらの者が育児等に必要な時間を確保できるよう配慮をしなければならないこととされています。
始業・終業の時刻、休憩時間や休日は就業規則に必ず記載しなければならない事項となっ ていますから、労使協定により1年単位の変形労働時間制を採用することとした場合にも 変形期間中の各日の始業・終業の時刻等を就業規則に定め、所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります(労働基準法第89条)。