働き方改革という言葉を耳にするようになり、「聞いたことがない」という事業主の方はほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。また、働き方改革は何をするのか?と聞かれれば、「あまり長く働かないこと」や「年次有給休暇を積極的に取得する」など、事業主の皆さんも思い浮かべることが出来るのではないでしょうか。
2019年の改正では、具体的な時間外労働の上限が定められ、多くの労働環境が見直されてきていますが、建設、自動車運転、医師などある一定の事業や業務では、上限規制には5年間の猶予がありました。
なぜならば、これらについてはその業務の特殊性、長時間労働が常態化していること、また、それにより医療等のサービスが成り立っていることが実情であることから、すぐに是正することで起こる不具合の影響を考慮したうえで、5年の猶予を設けることとなりました。
既に1年を切っている2024年4月1日以降はこれら猶予があった事業や業務にも、時間外労働の上限規制が適用されることとなります。
病院側はどうやって長時間労働を抑制し、上限に収まるようにすればよいのか?
今回は医師の働き方改革における長時間労働問題を解決するための、医療機関における宿日直許可申請について、社労士が解説します。
生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
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通常の労働時間外に通常の勤務とは異なる業務を行う「当直勤務」には、日中に行われる「日直」と夜間に宿泊して行われる「宿直」の2つの形態があります。労働基準法ではこれらの日直と宿直を総称して「宿日直」と呼んでいます。
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労働基準法では、労働時間は1日8時間、週40時間(労働基準法第32条)と決められていますが、労使の合意のある協定書の締結及び労働基準監督署に届け出をすることで、事業主は月45時間、年360時間まで(特別条項付きの36協定を締結している場合は、月100時間、年960時間まで)労働者へ時間外労働を命じることが出来ると定められています。(労働基準法第36条)
この上限規制は2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)から施行されており、医療機関でも医師以外の労働者(看護師等)にはすでに適用がされています。
医師の働き方改革では医療機関をいくつかの水準に分け、それぞれの労働時間の上限が大きく分けて3つ決められています。
宿日直許可を得ていなくても、宿日直金もをさせることは可能です。しかし、許可を得ていない場合、宿直時間は労働時間と見なされ、その結果、「時間外労働規制」の上限を超えてしまう恐れがあります。さらに、連続勤務時間制限や勤務間インターバルなどの「追加健康確保措置」も受けられないため、医師たちが宿直や通常の勤務を遂行することが難しくなるかもしれません。
- A水準(すべての医師)
一般の診療従事勤務医である医師となり、時間外労働の上限は年間960時間以下、月間100時間未満となります(休日労働含む)
- B水準(地域医療確保暫定特例水準)
救急医療など、緊急性の高い医療を提供する医療機関で、地域医療を確保するために長時間労働が必要な医師が対象です。時間外労働の上限は年間1860時間以下、月間100時間未満となります(休日労働含む)※2035年度末を目標に終了
- C水準(集中的技術向上水準)
初期臨床研究委や新専門医制度の専攻医など、短期間で集中的に症例経験を積む必要がある医師となり、時間外労働の上限は年間1860時間以下、月間では100時間未満となります。(休日労働含む)※2035年以降は縮減方向予定
上記の労働時間の上限におさめるには、ICTツールの導入やタスクシフティング(医療行為の一部を他の職種への委譲)の検討及び実行、変形労働時間制の導入、新たな人員確保などが必要となります。
そして、これら以外で活用できるものとして、宿日直の許可申請をし、労働基準監督署長に許可を受けられれば、その許可された時間帯を労働時間にカウントしないということが可能になります。
本来業務の終了後などに宿直や日直の勤務を行う場合、当該宿日直勤務が断続的な労働と認められる場合は、行政官庁の許可を受けることにより、労働時間や休憩に関する規定は適用されないこととなります。
勤務の態様がほとんど労働する必要のない定期的巡視や緊急の文書または電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とする働き方が対象となります。
宿日直手当の最低額が、当該事業場において宿直又は日直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われている賃金の一人1日平均額の1/3以上である必要があります。
宿直勤務については週1回、日直勤務については月1回が限度であることや、宿直勤務については相当の睡眠施設の設置など、「断続的な宿日直の許可基準(一般的許可基準)S22発基17号」に定められている許可基準をクリアする必要があります。
医療法第16条には、「医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならない。ただし、当該病院の医師が当該病院に隣接した場所に待機する場合その他当該病院の入院患者の病状が急変した場合においても当該病院の医師が速やかに診療を行う体制が確保されている場合として厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。」と定められていますので、この法令に基づく宿直を医師に行わせること自体に、労働基準監督署長による宿日直許可は不要です。
ですが、宿日直許可の取得が出来れば、その許可の範囲で労働基準法上の労働時間規制が適用除外となりますのでこの分は労働時間とカウントされないことや、勤務間インターバルの休息時間として取り扱えるなど、医師の労働時間管理の上で重要な要素となるため、多くの医療機関が宿日直申請を活用、検討していると言われています。
前述した「断続的な宿日直の許可基準(一般的許可基準)S22発基17号」の条件を満たしていることに加え、以下の許可基準を満たしていることが必要となります。
- 通常の勤務の拘束から完全に解放された後のものであること
- 宿日直中に従事する業務は、一般の宿直業務以外には、特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務に限ること
- 宿直の場合は、夜間に十分睡眠が取り得ること
- ベッド、寝具など睡眠が可能な施設があること
- 始業、終業時刻に密着して行う短時間の業務態様(4時間未満)ではないこと
- 救急患者の診察等通常勤務と同態様の業務が発生することはあっても稀であること
- 実際の宿日直勤務の状況が、上記のとおりであると医療機関内で認識が共有され、そのように運用されていること(宿日直の従事者の認識も同様である)
引用元:厚生労働省「医療機関における宿日直許可について ~制度概要・申請後の流れ~」
申請書類の作成及び添付書類の準備、その提出、書類の審査及び労働基準監督署による実地調査を経て、許可相当と認められた場合には、許可書が交付されます。申請から許可書交付までは今後申請が増加することが予想されるので、時間的余裕をもって対応をしてください。
- 労働基準監督署に「申請書」と「添付書類」を提出する
- 労働基準監督官が実地調査を実施する
- 許可される場合、「断続的な宿直又は日直勤務許可書」が交付される
労働基準監督署に、以下の書類を提出します。
1)申請書(様式第10号)(原本2部)
2)申請関連添付書類
※以下は標準的な必要資料ですので、別途資料を求められることもあります。詳細は所轄の労働基準監督署にてご確認ください。
・対象労働者の労働条件通知書、雇用契約書の写し
・宿日直勤務に従事する労働者ごとの、一定期間(例えば1か月)の宿直または日直勤務の従事階数がわかるもの(当番表やシフト表)
・宿日直勤務中に行われる業務が発生する頻度、その業務の内容と従事した時間について、一定期間の実績がわかる資料(業務日誌等)
・対象労働者全員の給与一覧及び宿日直手当額計算書
・事業場等を巡回する業務がある場合は、巡回場所全体とその順路を示す図面等
・宿直の場合は宿泊設備の概要がわかるもの
書類の確認と同時に労働基準監督官による実地調査があります。宿日直業務に実際に従事する医師等へのヒアリング、仮眠スペースの確認等を原則として実地で行い、申請時に提出された書類の内容が事実に即したものかを確認するためです。その他勤務実態の確認に必要な期間の勤務記録の提出などを求められることとなります。
・一部の診療科のみ、一部の職種のみ、一部の時間帯のみの許可申請も可能です。
・他の医療機関から派遣された医師の宿日直についても申請が可能となっています。
・救急等でも対象業務が「特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務」の場合は許可された事例もあります。
・宿日直の回数が上限を超えていた場合でも、宿日直に従事し得る医師の数等の事情が特例として考慮され(医師確保のための取り組みを尽くしているも、受け入れ医の確保が極めて難しく、また、宿日直勤務は軽度また短時間の業務であることなど)許可された事例もあります。
労働時間として取り扱うことが必要になります。また、該当すれば各種割増賃金の支払いが必要となります。また、2023年4月より60時間を超えた時間外労働については割増率が50%に引き上げられていますので、こちらも忘れずに対応する必要があります。
当然ですが、宿日直許可を得ずに行う宿日直は、通常の労働時間として取り扱う必要があります。
医師の働き方改革による時間外労働の上限規制についてはすべての医師が対象となり、医療機関は2024年4月までに対応する必要があります。宿日直許可の取得を目指す医療機関は増加していくと考えられ、そうなれば「宿日直許可の有無」が医師にとっての働く場所を選ぶ一つの基準となることは容易に想像ができます。
もちろん現状のままでは宿日直許可を得ることが難しい場合でも、どの医療機関も様々な工夫を加え労務管理の変更など取り組みを始めています。
医療機関における医師の労働時間管理は個人の健康を守るためにも必要なことではあります。そのためにはしっかりとした労働時間管理が必要ですが、これまで通りの労働時間管理では960時間どころか1860時間にもすぐに達してしまいます。まずは医師の労働実態を把握し直し、夜間などの労働時間が宿日直と認められるならば、その時間帯を労働時間から省いていき、宿日直許可申請をすることが医師の働き方改革には有効な手段と言えます。
医療機関の事業主の方や人事労務管理のご担当者の方で、宿日直許可申請のことを知らなかったという方は、ぜひ、社会保険労務士にご相談ください。スポットでのご相談などにも対応しておりますので、どうぞお気軽にご連絡くださいませ。
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生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
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