キャリアアップ助成金の「正社員化コース」は、契約社員やアルバイト等非正規雇用の労働者を正社員へと登用する企業に向けた制度で、賃金増額や転換に伴うコストを助成するものです。この制度を活用することで、企業は人材の定着や業務の効率化を図ると同時に、雇用環境の向上に貢献できます。しかし、申請には難解な要件が設定されており、例えば「キャリアアップ計画」の作成や、賃金を3%以上増額する必要があるなど、正確な手続きが求められます。
この記事では、正社員化コースの助成金を申請するための受給条件や対象者、申請手順、支給金額、実際にあった事例について詳しく解説します。また、注意すべき不支給のリスクや必要書類の詳細もご紹介。キャリアアップ助成金を活用し、コストを抑えながら企業の成長を支援したい方は、ぜひ最後までお読みください。
生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
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目次 非表示
- キャリアアップ助成金とは?
- キャリアアップ助成金の正社員化コースとは?
- キャリアアップ助成金の正社員化コースの申請・受給条件
- キャリアアップ助成金正社員化コースの支給金額と支給申請期間
- キャリアアップ助成金正社員化コースの申請方法
- 正社員コースの申請に必要な書類と支給申請書の記入例
- キャリアアップ助成金正社員化コース申請時の注意点
- キャリアアップ助成金が不支給になるケース
- 賃金3%以上増額に係る計算方法と注意点
- 正社員化コース助成金の「正社員の定義」と「労働者要件の定義」に関するよくあるQ&A
- 不正受給の罰則及び留意事項
- まとめ:キャリアアップ助成金正社員化コースを活用して安定した経営を
キャリアアップ助成金とは、契約社員やアルバイト等非正規雇用の労働者が企業内でキャリアを積み、正社員として安定した雇用形態へと移行できるよう支援する、厚生労働省が提供する助成金制度です。この助成金制度は、企業が非正規雇用者を正規雇用へ転換する際にかかるコストの一部を補助し、労働者の意欲向上やスキルアップ、企業の人材定着率の改善に貢献します。
キャリアアップ助成金は、「正社員化支援」と「処遇改善支援」の2つの支援に大別され、それぞれに複数のコースが設けられています。これらのコースは、労働者のキャリア形成を後押しすると同時に、企業の生産性向上にも役立つ重要な施策です。特に中小企業や小規模事業者にとっては、優秀な人材の確保や職場環境の改善に大きく貢献します。
以降では、キャリアアップ助成金の中でも特に主要な「正社員化コース」について、具体的な概要と利用条件をご紹介します。
全コースの条件や申請方法については、以下の記事もご参照ください。
【2024年版】キャリアアップ助成金とは?条件や申請方法、支給金額を社労士がわかりやすく解説
キャリアアップ助成金の正社員化コースは、契約社員やアルバイト等非正規雇用の労働者を正社員(正規雇用労働者)として登用する際に支給される助成金です。この制度は、企業が非正規雇用から正社員へ転換させる際に生じる人件費や制度整備の負担を軽減し、企業の安定的な人材確保と成長を支援する目的で設けられました。キャリアアップ助成金には様々コースがありますが、最も利用されているコースはこちらになります。
「正社員」とは、同じ事業所内で働く社員と同一の就業規則が適用され、賞与や退職金、昇給制度が適用される従業員を指します。
正社員転換にあたっては、転換前後の6ヵ月分の基本給を比較し、3%以上の増加が必要です。ただし、賃金に含まれない手当(通勤手当や住宅手当、時間外労働手当など)もあるため、注意してください。
正社員化コースの制度が拡充
正社員化による助成額は、企業規模や生産性向上の有無によって異なり、最大で80万円が支給されます。
2024年度から支給は2回に分割され、1回目に40万円、2回目にさらに40万円が支給される新しい仕組みとなっています。
さらに、2023年11月29日以降に適用された「正社員転換制度の規定に関する加算措置」により、新たに制度を導入した事業主は追加で20万円の助成金を受け取ることが可能です。よって、これからキャリアアップ助成金 正社員化コースを申請される企業は実質100万円受給可能ということになります。
キャリアアップ助成金の支給申請には、キャリアアップ計画の作成や就業規則の労基署への届け出が必要で、申請から受給まで時間がかかることもあります。この正社員化コースを活用することで、企業は賃金や福利厚生の整備を進めつつ、優秀な人材の確保と組織の持続的な成長を図ることが期待されます。
以降では、正社員化コースの具体的な受給条件や支給金額、申請方法およびその流れについて詳しく解説していきます。
正社員化コース助成金を活用すべき企業
正社員化コース助成金は、特に人手不足の解消や人材の定着に課題を抱える中小企業や小規模事業者にとって、有効な支援制度です。契約社員から正規雇用へ転換することで、従業員のモチベーションが向上し、労働環境の改善にも繋がるため、企業全体の生産性向上が期待できます。
この助成金を活用することで、正社員化に伴う人件費の増加を補助し、コスト負担を軽減しながら、優秀な人材を安定的に確保することが可能です。また、従業員にとっても正社員登用が目標となり、キャリア形成を支援する環境が整うことで、企業への信頼や長期的な定着意欲が向上します。
人材確保と職場環境の向上を図りたいと考える中小企業の経営者や人事担当者にとって、正社員化コース助成金は、企業の成長と持続的な発展を支える重要なツールとなります。
個人事業主の方も対象者となる条件を満たすことで申請することができます。但し、社会保険の加入は必須となるため、まず、任意加入が必要です。
キャリアアップ助成金は個人事業主も利用できる助成金制度?申請条件と対象者を解説
キャリアアップ助成金の正社員化コースを申請・受給するためには、企業が適切にキャリアアップ計画を立て、正社員化のための制度を就業規則で整備し、一定の賃金増額を行うことが求められます。ここでは、支給対象となる事業主や労働者の要件、具体的な受給条件について解説していきます。
支給対象となる事業主と対象外となる事業主
- キャリアアップ計画を作成し、労働局長から受給資格の認定を受けていること。
- 契約社員等を正社員に転換する制度を就業規則に規定していること。
- 賃金台帳及び出勤簿があること。
- 転換された労働者を、転換後6か月以上の期間継続して雇用し、当該労働者に対して転換後6か月分の賃金を支給していること。
- 支給申請日において当該制度を継続して運用していること。
- 転換後6か月間の賃金を、転換前6か月間の賃金より3%以上増額させていること。
- 当該転換日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、事業主の都合により離職させていないこと。
- 本人の同意に基づく制度として運用していること。
- 正社員に転換した日以降の期間について、当該労働者を雇用保険及び社会保険に加入させていること。
以下の条件に該当する事業主は支給対象外となります。助成金の目的にそぐわない事業主や、法令違反をしている事業主は申請が認められません。
・労働保険料の未納がある事業主
・労働関係法令に違反している事業主
・風俗営業や接待を伴う飲食業等を行う事業主
・暴力団や反社会的勢力と関わりがある事業主
・倒産している事業主
・雇用保険適用事業所ではない事業主
これらの条件を満たさない場合、助成金の申請はできませんので、該当する企業は適正な運営を行い、条件をクリアすることが必要です。
対象となる労働者
次の条件のすべてに該当する労働者が対象です。
- 契約社員 (次のア、イのいずれかに該当する労働者)
ア 賃金の額または計算方法が正社員と異なる雇用区分の就業規則等の適用を通算6か月以上受けて雇用される契約社員
イ 支給対象事業主が実施した有期実習型訓練を受講し、修了した契約社員等 - 正社員として雇用することを約して雇い入れられた契約社員等でないこと。
- 当該転換日または直接雇用日の前日から過去3年以内に、当該事業主と密接な関係であった者でないこと。
- 事業主または取締役の3親等以内の親族以外の者であること。
- 支給申請日において、転換または直接雇用後の雇用区分の状態が継続し、離職していない者であること。
- 支給申請日において、契約社員への転換が予定されていない者であること。
- 転換または直接雇用後の雇用形態に定年制が適用される場合、転換または直接雇用日から定年までの期間が1年以上である者であること。
- 支給対象事業主または密接な関係の事業主の事業所において定年を迎えた者でないこと。
- 障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律施行規則に規定する就労継続支援A型の事業所における利用者以外の者であること。
同一の事業所内の正社員に適用される就業規則が適用されている労働者。
ただし、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されている者に限る
※正社員としての試用期間中の者は、正社員から除きます。
賞与や昇給であれば、その支給又は実施時期等を明示することが必要です。また、原則として同じ月に、正社員全員に賞与を支払う必要があります。明示した時期と違う場合は、助成金センターから確認される場合があります。
退職金であれば、労働基準法上、適用される労働者の範囲、退職金の支給要件、額の計算及び支払の方法、支払の時期などを記載しなければなりません。
今までは3年以内の契約社員のみがキャリアアップ助成金正社員化コースの対象とされておりましたが、3年の上限が撤廃され、使いやすくなりました。
正社員化コース助成金の受給条件
正社員化コース助成金を受給するには、以下の条件を満たす必要があります。企業は、非正規から正規雇用への転換に際して、労働者のキャリアアップを支援するための具体的な取り組みを行う必要があります。
①「キャリアアップ計画」作成・提出
助成金を受けるためには、まず「キャリアアップ計画」の作成が必要です。この計画には、非正規雇用の労働者を正社員化するための具体的な施策や目標、スケジュールなどを記載し、労働局に提出します。キャリアアップ計画は、労働者のキャリア形成と企業の成長を両立させるための道筋となる重要な書類です。
② 就業規則への正社員転換制度の規定
企業は、正社員転換制度を就業規則や労働協約などに明文化する必要があります。この規定には、非正規雇用者が正社員に転換する際の条件や手続き、労働条件の変更について明示されていることが求められます。これにより、転換プロセスの透明性と公正さが確保され、労働者の権利が保護されます。
具体的には正社員とはななんのか?契約社員とはなんなのか?社員の定義が必要です。
また、契約社員から正社員にどうやったらなれるのか?試験はあるのか?等の正規雇用転換の規定が必要です。
その他、賞与の規定と給与アップの時期と内容の記載、施工日の記載をします。
審査の時には、就業規則と労基法、キャリアアップの条件、賃金台帳、勤務表、36協定等の全ての条件に矛盾がないか細かくチェックされますので最初から社労士に頼むことをお勧めします。
③ 転換後6ヵ月間の賃金を、転換前6ヵ月間の賃金より3%以上増額
最後に、正社員化後の6ヵ月間の賃金が、転換前6ヵ月間の賃金と比べて3%以上増額されていることが条件となります。これは、転換による処遇改善を促進するための要件であり、企業は賃金台帳をもとに明確に証明する必要があります。ただし、通勤手当や住宅手当、時間外手当などは賃金に含まれないため注意が必要です。
数年前までは賃金アップの条件はなかったのですが、それだと何がキャリアアップしているのかが分からない状態だったため、実質的な話として基本給が上がってるのか?契約社員と正社員の条件の違いはなんなのかってところが問われるようになりました。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の詳しい受給条件や対象者については下記の記事で詳しく解説しています。
キャリアアップ助成金正社員化コースの条件とは?対象者の要件と申請期間、人数などを解説
キャリアアップ助成金の正社員化コースは、契約社員を正社員に転換する際に支給される助成金です。企業の規模や雇用形態の転換内容によって、支給額が異なります。支給申請は1年6か月にわたって2期に分けて行われ、事業主の負担軽減を図ります。
正社員化コースの支給条件と金額は以下の通りです。
企業区分 | 条件 | 支給額(1人あたり) ※2期(12か月)分 |
中小企業 | 契約社員→正社員 | 最大80万円(40万円×2回) |
中小企業 | 無期雇用→正社員 | 最大40万円(20万円×2回) |
大企業 | 契約社員→正社員 | 最大60万円(30万円×2回) |
大企業 | 無期雇用→正社員 | 最大30万円(15万円×2回) |
①契約社員を正社員に転換する場合
契約社員を正社員に転換する際には、1人当たり最大80万円(40万円×2回)が支給され、大企業では最大60万円(30万円×2回)が支給される仕組みです。まず、正社員転換後の最初の6ヶ月間の雇用が継続された段階で第1期分が支給され、さらに6ヶ月継続することで第2期分を申請できます。
②無期雇用労働者を正規雇用労働者に転換する場合
無期雇用労働者(無期限の契約を持つパートタイマーやアルバイトなど)を正社員(正規雇用労働者)として登用する場合にも助成金が支給されます。中小企業では1人当たり最大40万円(20万円×2回)、大企業では最大30万円(15万円×2回)が支給される仕組みです。
支給は2回に分かれており、転換後の最初の6ヶ月間の雇用が継続された段階で第1期分が支給され、その後さらに6ヶ月間の雇用が継続されると第2期分を申請することが可能です。
助成金が加算される条件と支給金額
正社員化コースには、条件に応じて追加の助成金が支給される加算措置が設けられています。中小企業・大企業を問わず、次の条件に該当する場合に加算が適用されます。
条件 | 有期雇用労働者の加算額 (1人あたり) | 無期雇用労働者の加算額 (1人あたり) |
派遣労働者を派遣先で正社員として直接雇用 | 28万5,000円 | 28万5,000円 |
対象者が一人親家庭の母または父 | 9万5,000円 | 4万7,500円 |
人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化 | 9万5,000円 (自発訓練で11万円) | 4万7,500円 (自発訓練で5万5,000円) |
正社員転換制度の新規定を作成し適用 | 20万円 (大企業は15万円) | 20万円 (大企業は15万円) |
「勤務地・職務限定、短時間正社員」制度を新設し適用 | 40万円 (大企業は30万円) | 40万円 (大企業は30万円) |
さらに、生産性向上要件(3年度前比で1~6%以上の生産性向上)が達成された場合には、支給額がさらに増額されます。これにより、企業は非正規から正規への転換を推進しながらコストの一部を助成金で補うことができ、安定した人材確保と雇用の質の向上が期待できます。
キャリアアップ助成金の正社員化コースの支給申請期間については、のちほど申請方法の中で詳しく解説しています。
キャリアアップ助成金の正社員化コースを活用するためには、申請手続きをスムーズに進めることが重要です。正社員転換に向けた計画書の作成から就業規則の整備、各種申請書類の準備まで、適切に進めることで助成金の支給がスムーズに行われます。
以下では、支給申請までの具体的な流れや申請に必要な書類、手続きのポイントについて詳しく解説します。
正社員化コース助成金の支給申請までの流れ
STEP①キャリアアップ計画書を作成し、労働局へ提出
正社員転換に向けたキャリアアップ計画書を作成し、管轄の労働局へ提出します。
(正社員化する前に提出する必要があります。)
STEP②就業規則に転換制度を規定し、労働局へ届け出
就業規則に正社員転換制度を追加・改訂し、労働局に届け出ます(就業規則が未作成の場合は新規作成が必要です)。
STEP③契約社員の雇用(未雇用の場合)
対象の契約社員がいない場合は、正社員化の対象となる契約社員の雇用を行います。
(契約社員を最低でも6ヵ月以上雇用します。)
STEP④契約社員の雇用契約書作成
正社員化対象の契約社員との雇用契約書を作成し、雇用条件を明確にします。
※上記1〜4の手続きは、並行して進めることが可能です。
STEP⑤正社員転換の実施(正社員化)
対象となる労働者を正規雇用として転換します。
(正社員にしてからは、賞与を支払うこととなり、契約社員時と比べ、「基本給」が3%以上(5%以上推奨)、上がってる必要があります。)
STEP⑥転換後6ヶ月の賃金支払い(第1期目)
正社員化後6ヶ月間、規定通りの賃金支払いを行います。
STEP⑦第1期目の支給申請
6ヶ月間の賃金支払いが完了した時点で、第1期目の支給申請を行います。
STEP⑧転換後7〜12ヶ月目の賃金支払い(第2期目)
続けて、転換後7〜12ヶ月目の賃金支払いを実施します。
STEP⑨第2期目の支給申請
最後に、第2期目の賃金支払い完了後、再度支給申請を行います。
※⑦と⑨:賃金台帳や出勤簿、雇用契約書を揃えて支給申請します。
正社員化コース助成金の支給申請期間
キャリアアップ助成金の正社員化コースにおいては、正社員転換後の継続的な雇用を促すために、支給が2期に分かれています。
正社員化された従業員が6ヶ月間安定して雇用されると1期目の助成金申請が可能となり、さらに次の6ヶ月も雇用が継続されれば2期目の助成金が支給される仕組みです。
この制度を活用することで、企業は人材を長期的かつ安定的に確保し、成長と生産性向上につなげることができます。
■支給申請期間の具体例
支給申請期間は、転換後の賃金支給日の翌日から2ヶ月以内となります。以下に具体的な例を挙げて説明します。
- (第1期)
- 正社員転換日:令和5年12月1日
- 賃金支給日:令和6年6月20日(6ヶ月分支給完了日)
- 申請期間:令和6年6月21日~令和6年8月20日(賃金支給翌日から2ヶ月以内)
- (第2期)
- 賃金支給日:令和6年12月20日(12ヶ月分支給完了日)
- 申請期間:令和6年12月21日~令和7年2月20日(賃金支給翌日から2ヶ月以内)
注意点
- キャリアアップ計画の期間内に正社員転換が行われているかを確認してください。
- 第1期の申請期間は、正規雇用転換後の6ヶ月分の賃金支給日翌日から2ヶ月以内である必要があります。
- 月に11日未満の勤務がある場合、その月は6ヶ月のカウントに含まれないため、申請期間が後ろ倒しになる点にも注意しましょう。
正社員化コースの助成金を確実に受給するため、スケジュールを管理し、所定の期間内に申請することが重要です。
キャリアアップ助成金の正社員化コースの申請には、提出が必要な書類が多く、事前に揃えておくことが重要です。ここでは、申請書類と添付書類の具体例、さらに支給申請書の記入例について詳しく解説します。
申請には、以下の基本的な書類が必要です。
- キャリアアップ助成金 支給申請書
- 正社員化コース内訳
- 正社員化コース対象労働者詳細
- 支給要件確認申立書
- 支払方法・受取人住所届
- 管轄労働局の認定を受けたキャリアアップ計画書(コピー)
- 転換前後の就業規則又は労働協約等(コピー)
- 対象労働者の転換前後の労働条件通知書又は雇用契約書等(コピー)
- 対象労働者の転換前後の賃金台帳及び賃金3%以上増額に係る計算書
- 対象労働者の転換前後の出勤簿及び賃金台帳(コピー)
- 登記簿(コピー)
雇用保険番号、労働保険番号はもちろん、最初に提出したキャリアアップ計画書の認定番号、支給申請のコースの記載が必要です。他の会社情報は登記簿通りにご記載ください。
①転換・直接雇用制度の規定年月日は就業規則の規定日で問題ございません。ただし、キャリアアップ助成金の要件にあてはまる期間が包含されていなければ審査で落とされるため、ご注意ください。
①氏名
対象労働者の氏名を記載してください。
②生年月日
対象労働者の生年月日を記載してください。
③雇用保険被保険者番号
対象労働者の雇用保険被保険者番号を記載してください。雇用保険被保険者番号は、会社の事業所番号ではなく、労働者ごとに異なります。
④転換または直接雇用の状況等
対象労働者で記載いただいた措置内容や属性に該当される場合は、該当される記号に丸をつけてください。
⑤制度の種類
多様な正社員への転換等の場合にのみ、記載する箇所となりますので、一般的な正社員への転換の場合は、記載する必要はありません。多様な正社員への転換等の場合は、1~3のいずれかの数字を丸で囲んでください。
⑥転換または直接雇用日
対象労働者を正社員にされた年月日を記載してください。
⑦転換または直接雇用後6か月分の賃金を支給した日
正社員転換してから6か月分の賃金を支払った日を記載してください。
6か月分の賃金を支給した日が休日や休業等により本来の支給日より早く支給された場合は、実際に支払った日を記載してください。(例えば、支給日が日曜日で金曜日に繰り上げて支払った場合は、金曜日の日付を記載します。)
たとえば、月末締め翌25日支払いの企業の場合で4月1日に正規雇用転換をした場合、通常は10月25日が支払日となります。
⑧転換または直接雇用後に派遣労働者であるかどうか。
派遣労働者から直接雇用した場合は、直接雇用後は派遣労働者であると対象とならないため、ご注意ください。
⑨転換または直接雇用時点における有期雇用契約の期間が5年以下であるかどうか。ただし、昼間学生であった期間は除く。
5年以上の場合は自動的に無期転換とみなされ、有期雇用→正社員の受給額と変わってきます。
⑩転換日の前日から過去3年以内に、当該事業主の事業所において、無期雇用労働者として6か月(昼間学生であった期間を除く。)以上雇用されたことがあるかどうか。
無期雇用労働者としていて働いていた場合は、無期転換とみなされ、⑨番と同様受給額が変わってきます。
⑪正規雇用労働者(多様な正社員を含む)として雇用することを予め約していたかどうか。(正社員求人に応募し、雇用された者のうち、有期雇用労働者等として雇用した場合を含む。)
当然ながら、雇入れの際に正社員にすることを予め約束している場合は対象とならないため、ご注意ください。
⑫当事業主の事業所または密接な関係の事業主に正規雇用労働者として雇用されていた、請負・委任の関係にあったまたは役員に就任していたことがあるか。
助成金の要件では該当していると対象とならないため、ご注意ください。
⑬転換または直接雇用を行った事業所の事業主または取締役の3親等内の親族に該当するかどうか。
助成金の要件では該当していると対象とならないため、ご注意ください。
⑭障害者総合支援法に基づく就労継続支援A型の事業における利用者に該当するかどうか。
助成金の要件では就労継続支援A型の事業所における利用者に該当すると対象とならないため、ご注意ください。
⑮当事業主または密接な関係の事業主の事業所において、過去に定年を迎えたかどうか。
現在の会社で定年を迎えた後、再雇用された場合は対象とならないため、ご注意ください。助成金の要件としても、「正社員化の日から定年までの期間が1年以上である者」という記載がありますので、年齢が高い対象労働者の場合は定年までの期間も確認してみてください。
⑯転換後または直接雇用後の6か月間において賃金(時間外手当を含む。)を適切に支給しているかどうか。
適切に支給されていない場合(残業代が未払いなど)は対象とならないため、ご注意ください。
⑰転換または直接雇用前の有期雇用労働者等で雇用されていた期間のうち、昼間学生であった期間があるかどうか。
昼間学生であった期間は対象期間の6か月に含まれないので、ご注意ください。
⑱人材開発支援助成金の対象となる特定の訓練を受講し、正社員転換前に修了したものであるかどうか。
対象となる訓練を受講されていた場合は、その期間を記載してください。加算要件に該当されるかどうかの確認にもなりますので、実態に即して記載してください。
⑲直接雇用した派遣労働者が新型コロナウイルスの影響を受け、就労経験のない職業に就くことを希望する特定紹介予定派遣労働者であるかどうか。
当分の間の取組における暫定措置となっております。該当する場合は、期間等を記載してください。
⑳支給申請日において、有期雇用労働者または無期雇用労働者への転換が予定されているかどうか。
正社員へ転換後、また有期雇用や無期雇用に戻すような場合は対象とならないため、ご注意ください。
㉑対象労働者を転換するための制度を新たに設け、対象労働者が当該制度に基づき転換した第1号者であるかどうか
新たな制度として取り入れた第1号者の場合は、加算で20万円がつきます。
㉒上記の内容について間違いのないことおよび転換または直接雇用後の賃金が適切に支払われていることを対象労働者本人に確認しました。
直接対象労働者へ聞き取り調査等が実施される可能性がありますので、対象労働者へ絶対に確認してから申請してください。
・事業主確認欄
事業主名欄に法人名および事業主氏名を記載してください。
・派遣元事業主証明欄
派遣元事業主の証明が必要となりますので、該当する場合は記載してください。
法人名、法人番号、事業所名称、雇用保険適用事業所番号を忘れずに記入。また、役員の生年月日の記載も必要(別紙)なので事前にメモしておいてください。事業活動にいいえがある場合は、審査で落とされる可能性が高まりますのでご注意ください。
初めて、助成金の申請をするときに記載が必要です。通帳の表紙と2ページ目のコピーを添えて提出しましょう。
キャリアアップ計画は、契約社員のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるため、今後のおおまかな取り組みイメージをあらかじめ記載するものです。また、母子加算等の加算要件にあてはまる場合は、忘れずにご記入ください。
キャリアアップ計画書作成のポイント
- 「キャリアアップ管理者」を決めてください。
- 「有期雇用労働者等のキャリアアップに関するガイドライン」に沿って、おおまかな取り組みの全体の流れを決めてください。
- 3年以上5年以内の計画期間を定めてください。
- 計画対象者、目標、期間、目標を達成するために事業主が行う取り組みなどを記載してください。
- 計画の対象となる契約社員の意見が反映されるよう、契約社員等を含む事業所における全ての労働者の代表から意見を聴いてください。
キャリアアップ計画の記入例
キャリアアップ計画書の作成ポイントや記入例について詳しく下記記事で解説しています。
キャリアアップ計画書の作成方法を記入例付きで社労士が解説(令和6年版)
就業規則の規定例
就業規則には、非正規雇用から正社員への転換制度を具体的かつ明確に定めることが求められます。正社員化にあたっての転換基準や手続きを詳細に記載することで、助成金申請時に必要な要件を確実に満たし、計画の遂行を円滑に進めることが可能です。
また、キャリアアップ助成金の要件に適合した規定を整備することが不可欠です。助成金が不支給となるリスクを避けるため、給与の増額基準や正社員に限定した賞与の支給条件なども規定に含める必要があります。就業規則の整備にあたっては、管轄の労働局や社労士のアドバイスを受け、正確な内容での作成・届け出を行うように心掛けましょう。
(昇給)
第〇条 会社は、前年4月1日より当年3月31日までの査定期間内の勤務日数が3ヶ月以上ある者について、会社の業績、各人の能力、勤務成績その他を勘案して良好な労働者について、原則として4月に昇給を行う。但し、会社の業績低下等のやむを得ない事由がある場合は行わないことがある。
(賞与)
第〇条 賞与は、原則として正社員を対象として前年4月1日より当年3月31日までの査定期間内の勤務日数が3ヶ月以上ある者について、会社の業績、各人の能力、勤務成績その他を勘案して良好な労働者について、原則として6月に賞与を支給する。
2,賞与は原則として、支給日に在籍する正社員について支払う。但し、勤務成績が著しく不良な正社員については、全部または一部を支給しないことがある。
3,本条の賞与は、就業規則に定める正社員以外の社員には支給しない。
キャリアアップ助成金の申請に必要な就業規則については下の記事で詳しく解説しています。
キャリアアップ助成金の申請に必要な就業規則とは?規定例や注意点を解説
キャリアアップ助成金正社員化コースを申請する際には、手続きや条件を十分に理解しておくことが大切です。以下では、申請時に注意すべきポイントを詳しく解説します。
支給申請期間を過ぎると申請ができない
キャリアアップ助成金の正社員化コースでは、助成金の支給申請は所定の期間内に必ず行わなければなりません。申請は正社員転換後の6か月目と12か月目の2回に分かれ、支給対象となる賃金の支払い後、それぞれの翌日から2か月以内が申請可能期間となります。この期間を過ぎると助成金を受給できなくなるため、各タイミングを確実に把握し、期限内に申請を完了することが重要です。
申請漏れを防ぐため、エクセルやカレンダーに期限を記録して管理するなど、スケジュール管理を徹底しましょう。
1年度につき、1事業所が支給申請できる上限は20人まで
正社員化コースの助成金申請には、1年度あたり1事業所が申請できる人数に制限があり、最大で20人までとなっています。この上限を超えて申請することはできないため、申請計画を立てる際には上限人数に注意しながら進めることが必要です。
賃金台帳と出勤簿を備えている必要がある
助成金申請の際、労働者の賃金や勤務状況を証明するための賃金台帳や出勤簿の提出が求められます。これらの記録は転換前後で整備されている必要があるため、日々の労務管理を徹底し、適切な書類を備えておくことが大切です。
不正受給した場合は罰則の可能性もある
キャリアアップ助成金を不正に受給した場合、重大な罰則が科せられる可能性があります。不正受給には、実際には正社員化が実施されていないのに虚偽の申請を行ったり、要件を満たさない従業員を対象に助成金を申請する行為が含まれます。適切な手続きを守らない不正行為は助成金の返還義務やさらに厳しい罰則を招くため、注意が必要です。
不正受給が発覚した場合に適用される主な罰則は次の通りです。
- 助成金の全額返還
不正受給が確認された場合、支給された助成金全額の返還が求められます。返還額には年3%の延滞金と、返還額の20%の違約金が加算されるため、返還負担は非常に大きなものになります。 - 事業主名の公表
不正受給が発覚した場合、厚生労働省などが事業主名を公表する可能性があります。この公表により企業の信用が失墜し、取引関係や社会的評価に悪影響が生じるリスクがあります。 - 今後の助成金申請の制限
不正受給が認定されると、今後5年間はキャリアアップ助成金やその他の助成金の申請が制限され、事業主が受けられる支援の機会を失うことになります。 - 罰金や追加課税
不正の程度によっては罰金や追加課税が科される場合もあり、さらに悪質と判断される場合には刑事罰も検討されることがあります。
助成金制度は、企業が適切に利用し、労働環境の改善に寄与するためのものです。不正のリスクを避けるためにも、申請時には支給条件や必要手続きを正確に理解し、適切な申請を心掛けましょう。また、助成金受給後も適正な管理体制を維持し、企業の信頼性と助成金制度の健全な利用を確保することが大切です。
助成金支給までに時間がかかる
キャリアアップ助成金の支給は、申請から支給までに一定の期間を要する点に留意が必要です。助成金の要件を満たすためには、まずキャリアアップ計画の作成や正社員転換の実施、さらに6ヵ月分の賃金支払いなどの対応を行います。これらの手続きを経た後、労働局による書類審査や確認作業が行われ、ここでも時間がかかる場合があります。
実際に助成金が振り込まれるまでには、1年ほどかかるケースもあるため、事業計画や資金繰りにおいても、すぐに助成金が支給されるわけではないことを前提に計画を進めましょう。
外国人技能実習生は正社員化コース助成金の対象外
外国人技能実習生は、キャリアアップ助成金正社員化コースの対象外となっています。これは、技能実習制度が外国人技能実習生のスキル向上を目的としたものであるためです。技能実習生を正社員化する場合は、この助成金を利用できないことに注意してください。
キャリアアップ助成金の正社員化コースは、要件を満たせば企業にとって有益な制度ですが、不支給となるケースも少なくありません。ここでは、実際に不支給となった例をもとに、注意点を解説します。
会社都合で従業員の解雇が発生した
キャリアアップ助成金の正社員化コースでは、助成金支給の前提として安定した雇用が求められます。正社員に転換する前日から起算して6ヶ月前の日から1年を経過する期間内に、会社都合で従業員の解雇が行われた場合、不支給の対象となる可能性が高くなります。
事業の縮小などでやむを得ず退職を勧めた場合でも、会社都合と判断されることが多いため、注意が必要です。
さらに、厚生労働省が管轄する雇用助成金は、解雇や会社都合の退職が発生した場合、申請中の他の助成金にも影響し、不支給となるリスクを伴います。このような状況を回避するためには、雇用を安定的に維持し、不確定なケースでは専門家のアドバイスを受けながら慎重に対応することが重要です。
自己都合またはやむを得ない理由による離職の場合は、助成金の支給に影響しないケースが多いです。
就業規則の記載内容に不備があった
助成金申請において、就業規則に正社員転換制度や賃金条件を明確に記載していない場合、不備と見なされ、支給が認められない可能性があります。正社員化コースの要件を満たすには、転換制度や賃金に関する条件を就業規則に明記し、労働局への提出を適切なタイミングで行うことが必須です。
また、制度導入のタイミングや就業規則の施行日も重要で、これを間違えると不支給の要因となる可能性があります。助成金の制度は複雑であるため、就業規則の改定や申請の手順については、労働局やハローワーク、または社労士の専門家に相談しながら進めることをお勧めします。
帳票類から法令違反が発覚した
賃金台帳や出勤簿に不備があり、労働時間の管理不足や賃金未払いといった法令違反が発覚した場合、助成金が不支給となるリスクが高まります。特に、正社員化コースを利用する際は、これらの帳票類に基づいた適正な労働環境を証明することが必要です。労働時間の不正や未払賃金が記載されている場合は、労働法に違反していると見なされるため、助成金の申請が通らないことがあります。
昨今では労働局による帳票の確認が厳格化しており、出勤簿や賃金台帳の正確な管理が求められるようになっています。法令違反が疑われる場合には、是正措置を講じた上で助成金申請を再度検討することも可能ですが、審査担当者の判断に左右されるため、予め帳簿の整備を徹底しておくことが重要です。
正確な帳票管理には専門知識が求められるため、社労士などの専門家に相談しながら準備するのが、助成金の申請成功につながる最善の方法でしょう。
賃金3%以上アップをクリアしていなかった
正社員化コースの助成金要件には、正社員化に伴い賃金を3%以上引き上げることが含まれています。この基準は、正社員転換前と後の賃金を比較し、3%以上の増額が確認できない場合、不支給となる可能性があります。転換後の賃金設定では、3%以上の引き上げが確実に達成されるよう、給与額の計算に十分に注意を払いましょう。
特に、時給制から月給制に変更する場合は、フルタイムの所定労働時間に基づいて計算し、増額基準を満たしているかを確認する必要があります。この計算には**労働局が提供している「賃金上昇要件確認ツール(Excel)」**を活用し、正社員転換前に確認することが推奨されます。
他の条件を全て満たしていても、3%アップの計算が正確でない場合は不支給となる厳しい要件です。助成金を確実に受け取るため、計画的に賃金の見直しを行い、事前の準備をしっかりと整えることが重要です。
実務上、3%ではなく5%以上の賃金引き上げを推奨しています。
これは、審査時に何らかの理由で賃金が否認されるリスクを軽減するためです。例えば、残業代の未払いが発覚するなど、給与計算に問題があった場合、3%の引き上げでは不支給になる可能性があるため、余裕を持って5%以上の増額を設定することで、審査に落ちにくくなります。従業員の方にも喜んでもらえます。
契約社員にも賞与を支給してしまった
キャリアアップ助成金の正社員化コースでは、賞与や昇給制度が正社員にのみ適用されることが要件のひとつです。誤って契約社員に賞与を支給すると、正社員と非正規雇用労働者の処遇に差を設けるという要件を満たしていないと見なされ、不支給となる可能性があります。
助成金を受給するためには、賞与や昇給に関する取り扱いを正社員と非正規雇用者で明確に区別し、制度上の整合性を保つことが重要です。また、就業規則や給与制度の運用が要件に沿っているかを事前に確認し、リスクを回避するために必要な手続きを徹底することが大切です。
各要件を満たして不支給リスクを避けるため、制度の運用と管理を慎重に行い、正確な記載内容と適正な管理を心がけましょう。
キャリアアップ助成金の注意点と不支給になる失敗例については、下記の記事で詳しくまとめています。
キャリアアップ助成金の正社員化コース支給申請時の注意点!不支給になる失敗例も解説
キャリアアップ助成金の正社員化コースでは、正社員転換後の賃金が3%以上増額されていることが支給要件の一つとなっています。しかし、単純な給与アップだけでなく、増額の計算にはいくつかの条件や注意点があります。
特定の手当が計算に含まれないなどのルールがあるため、正確に理解し適用することが求められます。以下では、3%増額の計算方法や具体例、適用外となる手当について詳しく解説していきます。
具体例
賃金3%以上増額の際に含めることのできない手当
増額に含むことのできない手当には以下があります。
① 実費補填であるもの
例:通勤手当、住宅手当、燃料手当、工具手当、食事手当
②毎月の状況により変動することが見込まれる等、実態として労働者の処遇が改善しているか判断できないもの
例:歩合給、精皆勤手当、休日手当、時間外労働手当(固定残業代を含む)
③賞与
・固定残業代が基本給に含まれている場合は、固定残業代に関する時間数と金額等の計算方法、固定残業代を除外した基本給の額を就業規則または雇用契約書等に明記してください。
・固定残業代の総額または時間相当数を減らしている場合(固定残業代を廃止した場合も含みます)であって、かつ転換前後の賃金に固定残業代を含めた場合に、賃金が3%以上増額していない場合、支給対象外となります。
■増額が不支給と判断される例(数字を変更した例)
◯ケース 1
転換前:基本給 220,000円、固定残業代 50,000円
転換後:基本給 230,000円、固定残業代 40,000円
◯ケース 2
転換前:基本給 220,000円、固定残業代 50,000円(30時間分)
転換後:基本給 220,000円、固定残業代 30,000円(20時間分)、手当 20,000円
◯ケース 3
転換前:基本給 220,000円、固定残業代 50,000円(32時間分)
転換後:基本給 226,200円、固定残業代 30,000円(31時間分)
このように、転換後も固定残業代を増額する必要があるため、固定残業の時間数を減らさずに賃金を引き上げることが必要です。
キャリアアップ助成金の正社員化コースを利用するためには、正社員や労働者の定義について理解しておくことが重要です。助成金の申請要件を満たすためには、正社員としての条件や、対象となる労働者の基準が明確に定められていますが、これらの基準には疑問が生じやすい部分もあります。ここでは、正社員とみなされる条件や労働者要件の定義について、よくある質問をQ&A形式で分かりやすく解説します。
正社員の定義に関するQ&A
- 正社員転換後6か月の間に賞与や昇給の実績がないが支給対象になるのか?
- 正社員に適用される就業規則等に「賞与または退職金制度」かつ「昇給」の規定を確認することができれば、支給対象となり得ます。
- 賞与について「賞与は原則として支給する。ただし、業績によっては支給しないことがある。」と規定している場合は、支給対象となるのか?
- 就業規則等で賞与制度の規定がある場合に、「賞与は原則として支給する。ただし、業績によっては支給しないことがある。」との記載だけをもって不支給となることはありません。
その一方で、「賞与は支給しない。ただし、業績によっては支給することがある。」といったように、原則不支給の規定の場合や、「賞与の支給は会社業績による」といったように、原則として賞与を支給することが明瞭でない場合は、支給対象外となります。
- 賞与の支給月や回数を記載できない場合は、正社員定義の「賞与」には該当しないのか?
- 支給時期等を記載できない場合は、支給の原則性及び記載できないことに対しての合理的な説明を求める場合があります。その上で、原則として支給することが確認できない場合は、正社員定義の「賞与」には該当しません。ただし、「原則として、毎年 6 月及び 12 月に支給する。ただし。業績により支給しない場合がある」といった規定であれば対象となります。
- 年俸制の場合もキャリアアップ助成金に該当し得るのか?
- 該当し得ます。
- 契約社員との通算契約期間が5年を超えた者を正社員転換した場合は助成金額はどうなるのか?
- 無期雇用労働者の転換と同額となります。
- 昇給について、賃金改定の規定(年1回賃金を見直す等)や降給の可能性のある規定は、「昇給のある就業規則」が適用されている正社員として見なすことはできますか?
- 毎年昇給する訳では無く、賃金の据え置きや降給の可能性があることを規定している場合は、就業規則等に客観的な昇給基準等の規定が必要です。
※ 客観的な昇給基準等がなく、賃金据え置きや降給の規定がある場合(支給不可のケース)
(例)会社が必要と判断した場合には、会社は、賃金の昇降給その他の改定を行う。
※ 客観的な昇給基準等に基づき、賃金減額の規定をおいている場合(支給可のケース)
(例)昇給は勤務成績その他が良好な労働者について、毎年〇月〇日をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は行わないことがある。
(例)毎年1回、各等級の役割遂行度を評価し、基本給の増額又は減額改定を行う。
- 「決算賞与」は正社員定義の「賞与」に該当しますか。
- 支給の有無が会社の業績に依存している「決算賞与」のように、原則として支給することが明瞭でない賞与のみを適用している場合は、正社員定義を満たす賞与の要件には該当しません
賃金の額または計算方法が「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」の適用を6か月以上受けて雇用している契約社員
例)契約社員と正社員とで異なる賃金規定(基本給の多寡や昇給幅の違い)などが適用されるケース
基本給、賞与、退職金、各種手当等(にて、いずれか一つ以上で正社員と賃金の額または計算方法が異なる制度を明示的に定めていれば(基本給の多寡や賞与の有無等)支給対象となり得ます。
労働者要件の定義に関するQ&A
- 契約社員を正社員へ転換させる際の注意点は?
- 契約社員を正社員に転換する場合は、就業規則等上に「契約期間の定め」が必要です。
※)「契約期間の定め」の例
・契約社員の雇用契約期間は 1 年とする。
- 正社員と契約社員の別が就業規則で明らかになってないが支給対象になるのか?
- なりません。
- 令和4年6月1日に就業規則を改正し、「賃金の額または計算方法が正社員と異なる雇用区分」の契約社員就業規則を作成した。令和4年3月1日雇い入れた契約社員を令和4年 10 月1日に正社員転換したが支給対象になるのか?
- 「賃金の額または計算方法が正社員と異なる雇用区分の就業規則」の適用を6か月以上受けて雇用していないため、支給対象外となります。
- 毎月月末締めで翌月 15 日に賃金を支給している事業所において、4月1日に正社員転換をした場合の支給申請期間はいつからいつになる?
- 6か月分の賃金を支給した日の翌日である 10 月 16 日~12 月 15 日までが支給申請期間となります。
- 正規雇用労働者への転換後に、必ず社会保険に加入させなければ助成対象とはならないのか?
- 強制適用事業所または任意適用事業所の場合は、社会保険に加入させなければ助成対象となりません。
- いつの支給申請から2期制の対象となるのか?
- 令和5年 11 月 29 日以降に、正社員化した者の支給申請から、2期制の支給申請の対象となります。
例:(第1期) 令和5年 12 月1日~令和6年5月 31 日(賃金支給日令和6年6月 20 日)
申請期間 令和6年6月 21 日~令和6年8月 20 日
(第2期) 令和6年6月1日~令和6年 11 月 30 日(賃金支給日令和6年 12 月 20 日)
申請期間 令和6年 12 月 21 日~令和7年2月 20 日
※ 転換後6か月分の賃金支給日の翌日から2か月間が第1期申請期間、その後の6か月分(7~12 か月目分)の賃金支給日の翌日から2か月間が第2期申請期間。
※ 勤務が 11 日未満の月がなかった場合の申請期間の例です。11 日未満の月がある場合は、当該月を除いて6か月分を数えるため、該当月分、申請期間が後ろ倒しとなります。
- 2期制となったことに伴う留意点は?
- 第2期目の申請においては、第1期と比較して賃金に減額がないこと、第1期同様、通常の正社員に適用される労働条件が全て適用されていることを確認します。
- 新たに通常の正社員への転換等のための規定を設けた場合の加算についていつから加算が受けられるのか?
- 令和5年 11 月 29 日以降に対象労働者を転換等する場合であって、当該対象労働者を転換等するための規定が存在しなかった事業主が、新たに規定を整備して転換等を行った場合(※)から、当該加算の申請の対象となります。
※ 転換等のための規定整備日と転換等を講じた日が、同一のキャリアアップ計画期間内であることが必要です。
※ また、加算申請の対象労働者が、整備後の規定に基づく転換等の措置の1人目であることが要件となります。
(例)キャリアアップ計画期間:R5.10.1~R10.9.30
規定整備日(導入日):R5.10.1
~
転換(直接雇用)日:R5.12.1
(上記規定の整備後、加算措置の対象となる1人目の転換等が講じられた場合。)
なお、規定整備日は、原則として規定を施行した日(周知日)となりますが、客観的に整備した日が分かるよう、就業規則に規定する際には、施行後速やかに監督署に届け出ることが必要です。
- 事業所に契約社員しか在籍しておらず、店長も契約社員なのですが、契約社員であってもキャリアアップ管理者になることはできるか?
- 契約社員であっても、キャリアアップ管理者としての適格性を満たす方であれば、キャリアアップ管理者になることができます。
- キャリアアップ計画期間内に各コースの取組が終わらない場合、キャリアアップ計画期間満了前に計画期間を延長することはできますか?
- キャリアアップ計画期間は、計画期間満了前であれば、変更届を提出することにより当初の計画期間開始日から最大5年まで延長することができます。
- 外国人労働者はキャリアアップ助成金の対象になるのでしょうか。
- 正社員化コースにおいて、外国人技能実習生については、支給対象外です。また、EPA受入人材として、看護師・介護福祉士試験合格前の者についても、支給対象外です。永住者、定住者は問題ありません。
- 正規雇用労働者への転換後に、必ず社会保険に加入させなければ助成対象とはならないのでしょうか。
- 強制適用事業所または任意適用事業所の場合は、社会保険に加入させなければ助成対象となりません。なお、任意適用申請を行っていない未適用事業所の場合は、社会保険への加入は必要ありませんが、労働条件は適用要件を満たすものである必要があります。
留意事項
- 労働者の処遇改善が図られていない場合など、本助成金の趣旨・目的に沿った取組と判断されない場合には、不支給となります。
- 国の助成金制度の一つですので、受給した事業主は国の会計検査の対象となることがあります。
- 助成金の支給決定にあたり、事業所の実地調査を行う場合があります。
- 不正受給をしてから5年以内に申請をした事業主は助成金を受給できません。
- 不正受給が発覚した場合、助成金を返還していただきます。なお、返還に際し、受給した日の翌日から返還を終了する日までの期間に対し、年3%の延滞金が付されることに加え、返還額の20%の額が違約金として請求されます。
キャリアアップ助成金の正社員化コースは、非正規雇用の労働者を正社員へ転換する際に、企業にとってコスト負担を軽減する強力なサポート制度です。この助成金の活用により、雇用の安定化や従業員のモチベーション向上が期待でき、事業の発展とともに労働環境の改善も図れます。しかし、申請の各ステップには複雑な手続きと厳格な要件が求められるため、正確な知識と計画が不可欠です。
特に、申請における不備や要件未達による不支給のリスクを避けるため、労務管理のプロである社労士への相談や申請代行を検討することが効果的です。助成金の申請手続きを専門家に任せることで、時間と労力を省きながらスムーズに支給までのプロセスを進められます。
助成金制度を有効活用し、事業の安定と従業員の定着を促進しながら、企業の基盤をさらに強化していきましょう。
キャリアアップ助成金の審査が厳しい理由や申請を成功させるコツを詳しく解説しています。
キャリアアップ助成金の審査は厳しい?申請成功のコツや不支給になる理由を解説
専門家である社労士への申請代行も検討する
キャリアアップ助成金の申請には、各種帳票の管理や就業規則の整備、賃金増額の計算など、多岐にわたる専門知識が必要で、準備にも時間を要します。また、要件不足や申請不備によって助成金が不支給となるリスクもあるため、初めて申請を行う企業にとっては不安が伴う場合もあります。こうしたリスクを回避し、スムーズな手続きを実現するために、社労士などの専門家に申請手続きを代行してもらうことを検討しましょう。社労士のサポートにより、確実で迅速な申請が可能となり、企業は本業に集中しながら助成金を有効に活用できます。
助成金の申請には、労働基準法に準じた経営が前提となるため、日々の勤怠管理や賃金規定に関する問題がないか、社労士に確認してもらうことが重要です。特に2022年10月以降は、3%の賃金増額に加え、賞与や退職金付与の条件も追加されるなど、助成金の条件や審査基準が厳格化しています。これらの条件を確実に満たすためにも、早い段階から社労士と相談しながら手続きを進めることが推奨されます。
人事労務担当者が申請に臨む際も、キャリアアップ計画の作成段階から知見のある社労士に相談することで、計画的かつ適切な申請が実現します。助成金を活用し、安定した経営基盤と質の高い雇用環境を整えて、企業の成長につなげていきましょう。