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標準賞与額とは?計算方法・上限・決定通知書の対応をわかりやすく解説

標準賞与額とは、賞与(ボーナス)にかかる健康保険・厚生年金保険などの社会保険料を計算するための基準となる金額です。

実際の支給額(額面)や、労働保険・所得税の計算に使う金額とはルールが異なるため、仕組みを知らないまま処理すると、保険料の過不足や将来の年金記録の誤りにつながるおそれがあります。

この記事では、「標準賞与額とは?」という基本から、健康保険と厚生年金の上限の考え方、具体的な計算方法、そして標準賞与額決定通知書が届いたときのチェックポイントまで、事業主の方が実務で押さえておきたいポイントをわかりやすく解説します。

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この記事を監修した人

生島社労士事務所代表

生島 亮

いくしま りょう

https://sharoushi-cloud.com/

社会保険手続きの自動販売機|全国のあらゆる社会保険手続きと労務相談を「顧問料なしのスポット」で代行するWebサービス【社労士クラウド】の運営者|懇切丁寧・当日申請・フリー価格・丸投げOK|3,000社以上の事業主様や顧問先の社保周りを解決されたい士業の先生にご利用頂いており、顧問契約も可能です|リピーター率8割以上

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標準賞与額とは?社会保険料計算の基準額

標準賞与額とは、「賞与(ボーナス)にかかる社会保険料を計算するための基準となる金額」のことです。

実際に従業員へ支給するボーナス額そのものではなく、税引前の賞与総支給額(現物支給を含む)から1,000円未満を切り捨てた金額を使います。

【例】ボーナスの総支給額が 503,999円 の場合
999円(1,000円未満)を切り捨てます。
標準賞与額 = 503,000円

社会保険(健康保険、介護保険、厚生年金、子ども・子育て拠出金)の計算では、実際のボーナス支給額(額面)ではなく、この「標準賞与額」を使います。

実務で最も注意が必要なのは、「労働保険」や「所得税」の計算には、この標準賞与額を使わないという点です。これらは1円単位の「実額」を使います。

ここを混同すると計算ミスの原因になりますので、以下のように区別して覚えましょう。

所得税: 実際の支給額(1円単位)を使う

社会保険(健保・厚年など): 標準賞与額(1,000円未満切り捨て)を使う

労働保険(雇用・労災): 実際の支給額(1円単位)を使う

生島社会保険労務士
生島社会保険労務士

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標準賞与額に含まれる賞与

標準賞与額の対象になるかどうかは、「支給回数」と「性質」で決まります。

結論から言うと、年3回以下支給される賞与や一時金で、労働の対価として支払われるものが標準賞与額の対象です。

たとえば、次のような支給は標準賞与額に含まれます。

  • 夏季・冬季ボーナス
  • 決算賞与・業績連動賞与
  • 期末手当、年末一時金 など

名称が「インセンティブ」や「特別手当」となっていても、実態として「働いたことへの評価」として支給されるのであれば、社会保険上は賞与として扱われます。 

また、金銭だけでなく、食事や社宅、自社製品などの「現物給与」が賞与として支給された場合も、それを通貨に換算して合算する必要があります。

逆に、次のような支給は標準賞与額には含まれません。

  • 結婚祝金・出産祝金・香典・見舞金など、恩恵的な性質のもの
  • 出張旅費、日当、通勤費の実費精算など、費用の立て替えや実費弁償にあたるもの

これらは「労働の対価」ではなく、慶弔や実費補てんとして支給されるため、社会保険料の対象外です。

もう一つ重要なのが「支給回数」です。社会保険では、年3回以下の支給が「賞与」とされ、標準賞与額の対象になります。

一方で、年4回以上支給しているものは、たとえ会社としては「賞与」と呼んでいても、法律上は「報酬(給与)」として扱われます。 

たとえば、四半期ごとに年4回のインセンティブを支給している場合、その支給は標準賞与額ではなく、毎月の「標準報酬月額」のほうに反映させる必要があります。

この区分を誤ると、賞与支払届と標準報酬月額のどちらで手続きするかがずれてしまい、将来の年金額や傷病手当金の計算に影響が出るおそれがあります。

実務では、「その支給は労働の対価か」「年何回支給しているか」の2点を確認し、標準賞与額に含めるかどうかを正しく切り分けましょう。

標準賞与額の上限

標準賞与額には、保険料が青天井に高くならないよう、これ以上は保険料がかかりませんよという「上限額(天井)」が設定されています。この上限を超えた額に対しては健康保険料も厚生年金保険料もかかりません。

それぞれ異なる上限が設定されているため、計算する際は注意が必要です。

計算ミスを防ぐために、まずは2つの違いをざっくりと頭に入れておきましょう。

  • 健康保険:「1年間」の合計で上限を決める
  • 厚生年金:「1回(1ヶ月)」ごとに上限を決める

健康保険の上限は「年間累計 573万円」

健康保険では、標準賞与額の上限は**「年度の累計で573万円」**と決められています。

ここでいう年度とは、4月1日から翌年3月31日までの12か月間です。 同じ年度のあいだに支給した賞与について、標準賞与額を足し上げていき、合計が573万円に達するまでは、通常どおりすべて健康保険料の対象になります。

一方、合計が573万円を超えた部分については、標準賞与額に含めず、健康保険料・介護保険料もかかりません。

【計算例】ある年度に高額な賞与を2回支給した場合夏の賞与:標準賞与額 300万円冬の賞与:標準賞与額 350万円

この場合、単純な合計は650万円になりますが、健康保険の標準賞与額として扱うのは「573万円まで」です。 そのため、冬の賞与のうち、573万円からはみ出した「77万円分」については、健康保険料の対象外(0円)という扱いになります。

もう1つ大事なのが「だれが保険者か」という視点です。 この累計は、同じ健康保険に入っているあいだだけカウントされます。

途中で転職して、協会けんぽから健康保険組合に変わった場合などは、保険者が変わるタイミングで累計がリセットされると考えておくと分かりやすいです。

厚生年金の上限は「1回あたり 150万円」

厚生年金では、標準賞与額の上限は「1回の支給につき150万円」です。

ここでの「1回」とは、同じ月に支給した賞与をすべて合算した金額を指します。 

たとえば、ある月に賞与として200万円を支給した場合、標準賞与額はどれだけ高くても「150万円」で頭打ちになります。残りの50万円分には、厚生年金保険料はかかりません。

健康保険と大きく違うのは、年間累計ではなく、月ごとにリセットされる点です。 もし、7月に150万円、12月に150万円支給したとしても、それぞれの月でリセットされるため、両方の月で満額(150万円分)の厚生年金保険料がかかります。

また、「子ども・子育て拠出金」も、この厚生年金と同じ標準賞与額を使って計算します。こちらも上限は「1か月あたり150万円」で、厚生年金と同じ考え方です。

【重要】子ども・子育て拠出金は会社負担子ども・子育て拠出金は全額が事業主負担であり、従業員からは天引きしない点に注意が必要です。 厚生年金と一緒に計算されますが、負担するのは会社だけです。

高額な賞与を支給する役員や従業員がいる会社では、「健康保険は年度累計573万円」「厚生年金・子ども子育ては月150万円」という2つの上限をセットで意識しておくと、計算ミスを防ぎやすくなります。

同じ月に2回以上賞与を支給した場合の上限の考え方

実務で迷いやすいのが、同じ月に2回以上賞与を支給したケースです。 この場合は、支給日が分かれていても「同じ月に支払った賞与」をすべて合算して、1回の上限判定を行います。

たとえば、「6月10日に80万円」「6月25日に90万円」を支給したケースで考えてみましょう。

1.合算する:80万円 + 90万円 = 合計170万円

2.標準賞与額にする:1,000円未満を切り捨てて、170万円とします。

3.上限を適用する

・厚生年金:上限の150万円として保険料を計算(20万円分は対象外)。
・健康保険:その年度の累計が573万円に達していなければ、170万円として保険料を計算。

このように、同じ170万円の賞与でも、厚生年金と健康保険で計算のもとになる金額が変わることがあるのです。

標準賞与額から保険料を計算する方法

ここでは、標準賞与額を使って実際の社会保険料をどのように計算するかを整理します。

流れはシンプルで、次の3ステップです。

  1. 賞与の総支給額を集計する(現物支給も含める)
  2. その総支給額から1,000円未満を切り捨てて「標準賞与額」を出す
  3. 標準賞与額に各保険料率を掛けて、会社と従業員で半分ずつ負担する

一度この流れを押さえておけば、賞与のたびに同じ考え方で計算できるようになります。

逆に、この順番があいまいなまま計算すると、「どこまでが標準賞与額か」「どの金額に税金を掛けるのか」が混ざってしまい、控除額の説明が難しくなります。

次からは、ステップごとにもう少し細かく見ていきます。

計算ステップ1:総支給額から1,000円未満を切り捨てる

最初に行うのは、「標準賞与額」を決める作業です。

対象になるのは、税金などを引く前の「賞与総支給額」です。現金だけでなく、現物支給(食事や自社製品など)があれば、その評価額も含めて合計します。

そのうえで、1,000円未満の端数を切り捨てます。

【例】支給額 253,800円→標準賞与額 253,000円支給額 1,234,999円→標準賞与額 1,234,000円

ここでのポイントは、「四捨五入ではなく、必ず切り捨て」という点です。

999円などの大きな端数であっても、すべて切り捨てます。この段階ではまだ保険料率は考えず、「社会保険用の計算のもとになる金額」をつくることに集中しましょう。

計算ステップ2:保険料率を掛けて会社と従業員で折半する

標準賞与額が決まったら、次はそこに各保険料率を掛けて、保険料の金額を出します。

基本の考え方は、次のとおりです。

  1. 標準賞与額 × 保険料率 = 保険料の総額
  2. その総額を、会社と従業員で半分ずつ負担

このとき、健康保険・介護保険と、厚生年金・子ども・子育て拠出金で考え方が少し変わる部分があります。順番に整理します。

h4:健康保険料(+介護保険料)の計算

健康保険では、標準賞与額に健康保険料率を掛けて、健康保険料の総額を求めます。

■計算式

標準賞与額 × 健康保険料率 = 健康保険料の総額算出された全額を、会社と従業員で半分ずつ負担。

厚生年金保険料率は全国一律(18.3%)ですが、健康保険料率は加入している保険者によって異なります。

  • 協会けんぽ(多くの小規模企業)の場合: 会社の所在地(都道府県)ごとに料率が異なります(例:東京と大阪では料率が違います)。
  • 健康保険組合の場合: その組合ごとに独自の料率が設定されています。

また、料率は毎年3月分(4月納付分)から改定されることが多いため、賞与計算の際は必ず「最新の保険料額表」を確認するようにしてください。

【介護保険に注意】 

40歳以上65歳未満の従業員(介護保険第2号被保険者)の場合は、健康保険料率に「介護保険料率」が上乗せされるため、他の年齢層と料率が変わります。

厚生年金保険料(+子ども・子育て拠出金)の計算

厚生年金についても考え方は同じで、標準賞与額に厚生年金保険料率を掛けて保険料の総額を出します。厚生年金保険料率は18.3%で固定されています。

■計算式

標準賞与額 × 厚生年金保険料率(18.3%) = 厚生年金保険料の総額算出された全額を、会社と従業員で半分ずつ負担。

【重要】子ども・子育て拠出金

厚生年金と同じ標準賞与額を使って計算しますが、これは「全額が会社負担」です。 賞与明細で「厚生年金」とセットで扱ってしまい、うっかり従業員から天引きしてしまうミスが多いので、はっきりと区別しておきましょう。

賞与にかかる社会保険料については、下記の記事で詳しく解説しています。

賞与(ボーナス)に社会保険料はかかる?計算方法から届出・納付まで手続きの流れを解説賞与(ボーナス)に社会保険料はかかる?計算方法から届出・納付まで手続きの流れを解説

具体的な計算方法やシミュレーションについては、以下のツールも参考にしてください。

参考)賞与の社会保険料の自動計算ツール

所得税の計算には標準賞与額を使わない

社会保険料の計算には標準賞与額を使いますが、所得税の計算には標準賞与額は一切使いません。所得税は、あくまで「実際に支給する賞与額(税引前)」をもとに計算します。

ここは非常に間違えやすいポイントです。

「社会保険料の計算が終わったから、所得税もこの標準賞与額で計算しよう」としてしまうと誤りですので、必ず頭を切り替えましょう。

標準賞与額と標準報酬月額の違い

標準賞与額と標準報酬月額は、どちらも社会保険料を計算するための「基準額」です。

ただし、目的と対象がはっきり分かれています。

  • 標準賞与額:ボーナス用(1,000円未満切り捨ての実額)
  • 標準報酬月額:毎月の給料用(等級表のランク)

標準報酬月額とは?月々の給与に使われる基準額

標準報酬月額とは、毎月の給料(基本給+残業代+通勤手当など)を、「1級・2級…」といった等級(ランク)に当てはめた金額のことです。

毎月支払う次のような項目が対象になります。

  • 基本給
  • 各種手当(役職手当・資格手当など)
  • 残業代
  • 通勤手当

これらを合計した「報酬月額」を、そのまま金額で使うのではなく、協会けんぽなどが定めた等級表(〇万円〜〇万円という幅)に当てはめて、「〇等級・標準報酬月額△万円」と決定します。

【標準報酬月額が決まる主なタイミング】

  1. 資格取得時(入社したとき)
  2. 定時決定(毎年7月に前3か月の平均で見直す「算定基礎届」)
  3. 随時改定(昇給や降給などで報酬が大きく変わったときの「月額変更届」)

標準報酬月額の等級表や、具体的な調べ方については、下記の記事で詳しく解説しています。 

標準報酬月額とは?決め方や計算方法、調べ方を社労士がわかりやすく解説(簡易計算ツール付き)標準報酬月額とは?決め方や計算方法、調べ方を社労士がわかりやすく解説(簡易計算ツール付き)

賞与が年4回以上の場合は「標準報酬月額」の対象になる

賞与が「年4回以上」支給される場合は、社会保険のルール上「賞与」ではなく「毎月の報酬」として扱われます。

ここで重要なのは、提出する書類と計算方法がまったく変わってしまうという点です。

  • 年3回以下(通常): 支給のたびに「賞与支払届」を出し、その都度保険料を計算する。
  • 年4回以上: 賞与支払届は出しません。賞与の年額を12で割った額を毎月の給料に上乗せし、「算定基礎届」や「月額変更届」で標準報酬月額を決定します。

この切り分けを間違えて、年4回以上出しているのに「賞与支払届」を出し続けてしまうと、将来の年金額が正しく反映されなかったり、病気で休んだ時の「傷病手当金」が少なくなってしまったりするリスクがあります。

賞与を年4回以上支給する時の社会保険の手続きを年3回以下の場合との違いを含めて解説!賞与を年4回以上支給する時の社会保険の手続きを年3回以下の場合との違いを含めて解説!

標準賞与額決定通知書とは?届いたときのチェックポイント

標準賞与額決定通知書とは、「賞与支払届の内容をもとに、各従業員の標準賞与額がこう決まりました」と年金事務所が知らせてくれる書類です。

会社にとっては、単なるお知らせではなく、以下の点を確認するための重要な「控え」となります。

  • 賞与支払届が正しく処理されたか
  • 標準賞与額や上限の扱いに誤りがないか

通知書を「とりあえずファイルに入れておく」だけで終わらせてしまうと、決定ミスに気づかず、保険料の過不足や従業員からの問い合わせに対応できないリスクがあります。 

短時間でも良いので、「届いたら必ず中身を確認してから保管する」というルールを社内で決めておくことが大切です。

標準賞与額決定通知書・標準額決定通知書の違い

まずは、名称がよく似ている2種類の通知書の違いを整理します。どちらも「標準〇〇額」が書かれているため混同しやすいですが、対象となるお金の種類がまったく違います。

通知書の種類対象届くタイミング
標準賞与額決定通知書ボーナス・一時金賞与支払届を出したあとに届く
標準報酬決定通知書
(標準報酬月額決定通知書)
毎月の給料算定基礎届などを出したあとに届く(9月頃など)

この2つを同じファイルに混ぜてしまうと、後から探すのが大変です。 ファイリングの際は、「賞与関係」と「月額(給与)関係」でフォルダを分けておくと、税務調査や従業員からの問い合わせ時にもスムーズに対応できます。

賞与支払届の提出から通知書が届くまでの流れ

標準賞与額決定通知書は、会社からの届出に対して自動的に送られてくるものです。

  1. 会社が従業員へ賞与を支給する。
  2. 支給日から5日以内に「被保険者賞与支払届」を年金事務所(または健保組合)へ提出する。
  3. 年金事務所側で処理が完了すると、**「標準賞与額決定通知書」**が会社に届く。

提出方法によって、届き方が異なります。

  • 郵送・窓口提出の場合:紙の通知書が郵送で届きます。
  • 電子申請(e-Gov等)の場合:電子公文書としてデータで届くケースが一般的です。

実務としては、提出した「賞与支払届の控え」と、後日届いた「決定通知書」をセットで保管し、突き合わせ確認ができるようにしておきましょう。

通知書が届いたらまず確認すべき項目

通知書が届いたら、そのまま保管せずに以下の3点を必ずチェックしてください。

標準賞与額・1,000円未満の切り捨ては合っているか?・同じ月に2回以上支給した場合、合算した金額になっているか?
上限適用・厚生年金:1回あたり150万円を超える部分が対象外になっているか?・健康保険:年間累計573万円を超えた部分が対象外になっているか?
被保険者情報・すでに退職している人が含まれていないか?・産休・育休中の従業員について、免除要件どおりに扱われているか?

もしここで間違い(記載内容と通知書のズレ)があれば、速やかに年金事務所へ連絡し、「訂正届」の手続きを行ってください。 早めに修正しておけば、次回の給与での保険料精算もスムーズに進みます。

通知書の保管方法と、標準賞与額を後から確認したいときの見方

この通知書には、従業員への通知義務があります。 事業主は、決定された標準賞与額を従業員本人に知らせなければなりません(賞与明細への記載などで代用するのが一般的です)。

正当な理由なく通知しない場合は、罰則の対象となる可能性もあります。

また、書類の保管期間については以下のとおりです。

  • 法令上:完結の日から2年間
  • 実務上:7年程度の保管を強く推奨

なぜなら、税務調査では過去7年分の資料を求められることが多く、また退職者から「年金記録を確認したい」と問い合わせがあった際にも、この通知書が確実な証拠となるからです。 「年度別」に整理して、いつでも取り出せるようにしておきましょう。

標準賞与額の実務上の注意点

ここからは、「ルールとしては知っているけれど、実際の処理で迷いやすいポイント」をまとめていきます。 とくに、退職時、育休中、不支給時の3パターンは、問い合わせやトラブルが起こりやすい場面です。

標準賞与額そのもののルールは変わりませんが、「その標準賞与額に対して保険料を取るかどうか」の判断を間違えないよう、順番に整理していきましょう。

退職する月に賞与を支給した場合の標準賞与額と保険料の扱い

退職する月に賞与を支給する場合は、「いつ資格喪失になるか」で保険料の扱いが変わります。 

健康保険・厚生年金では、「資格喪失日(退職日の翌日)が属する月」の保険料は原則として徴収しない決まりです。

このルールを踏まえると、実務上の考え方は次のようになります。

月末退職の場合

退職日が月末 → 資格喪失日は翌月1日になります。

資格喪失日は翌月なので、「退職月」はまだ被保険者です。したがって、退職月に支給した賞与についても、保険料を徴収します。

月の途中で退職する場合(例:15日退職など)

退職日が月の途中 → 資格喪失日は同じ月の翌日になります。

この場合、その月は資格喪失月になるため、原則としてその月分の保険料はかかりません。賞与についても、標準賞与額の決定(届出)自体は行われますが、保険料の徴収対象にはなりません。

実務では、「退職日を月末と勘違いしていた」などの理由で、過不足徴収が発生しやすいポイントです。

必ず「退職日」と「資格喪失日」をセットで確認し、給与計算ソフトの設定が合っているかチェックしましょう。

産前産後休業・育児休業中に賞与を支給した場合の取り扱い

産休・育休中に賞与を支給した場合、要件を満たせば保険料は免除(0円)になります。 ただし、2022年の法改正により、育休の免除要件が厳しくなっています。

■免除要件賞与支給月の末日を含み、かつ、連続した1ヶ月を超える育児休業を取得していること。

以前のように「月末に数日休んでいるだけ」といった駆け込み的な取得では、賞与の保険料は免除されません。 実務では、「暦日で見て1ヶ月を超えているか?」を必ずカレンダーで確認してください。

【ポイント】標準賞与額自体は記録されます

保険料が免除されても、「標準賞与額」自体は記録され、将来の年金額などの計算には反映されます(保険料を納めたものとして扱われます)。従業員にとっては有利な制度ですので、手続き漏れがないようにしましょう。

賞与支払い予定月に支給しなかった場合・大幅に金額が変わった場合

日本年金機構に「賞与支払予定月」を事前に届け出ている事業所は、予定していた月に賞与がない場合の対応も注意が必要です。

◯支給しなかった場合
年金機構にあらかじめ登録していた賞与支払予定月に支給がなかった場合は、「賞与不支給報告書」の提出が必要です。 

これを出さずに放置していると、「賞与支払届の提出漏れではないか」という照会状が届き、対応の手間が増えてしまいます。支給ゼロでも報告は忘れずに行いましょう。

◯金額が変わった場合
大幅に減額した場合でも、実際の支給額にもとづいて通常通り届け出れば問題ありません。ただし、手取り額が減ることで従業員の不安を招かないよう、事前に説明しておくことが大切です。

賞与通知書とは?従業員への周知とトラブル防止のための書き方

会社から従業員に渡す「賞与明細書(賞与通知書)」には、手取り額だけでなく「標準賞与額」や「控除された保険料」を明確に記載しましょう。

とくに「標準賞与額」を明記しておくと、 「総支給はいくらなのに、なぜこの金額に対して保険料がかかっているのか」 「健康保険と厚生年金で計算の元になる金額が違うのはなぜか(上限適用時など)」 といった疑問を説明しやすくなります。

口頭だけで説明すると、どうしても認識のズレが生まれがちです。数字を並べた通知書を用意し、計算根拠と控除内容を一緒に確認できるようにしておくことで、従業員の不信感や誤解を防ぎやすくなります。

標準賞与額に関するよくある質問Q&A

ここでは、標準賞与額について、実務でよく聞かれるポイントをQ&A形式で整理します。

過去の標準賞与額や賞与支払届に誤りがあった場合の修正方法

誤りが見つかったときは、放置せずに早めに修正手続きを進めることが大切です。 基本的な流れは次のとおりです。

1.誤りの内容を特定する
どの従業員の、いつの賞与で、金額や支給日をどう間違えていたのかを特定します。

2.「訂正届」を提出する
年金事務所へ「賞与支払届の訂正届」を提出し、正しい標準賞与額に修正してもらいます。

3.保険料の精算(還付・追徴)を行う
保険料が多すぎれば「還付」、少なければ「追徴」されます。会社負担分と従業員負担分の両方が変わるため、差額の調整が必要です。

4.従業員へ説明する
精算によって手取りが増減するため、「計算ミスの内容」と「修正方法」を誠実に説明しましょう。

誤りに気づいた時点で、時間が経っていても対応は可能です。放置すると遡及期間が長くなり、精算額も大きくなってしまうため、気づいたらすぐに行動しましょう。

転職した場合、健康保険の573万円上限は引き継がれますか?

原則として、転職先には引き継がれません(リセットされます)。 この上限は、「同一の保険者(協会けんぽや健康保険組合)」に加入している期間だけでカウントするためです。

A社に在籍していた期間:A社の保険者の中で、標準賞与額をカウントします。

B社に転職した後:保険者が変わるため、年度累計はゼロにリセットされ、また573万円までの枠をカウントし直します。

ただし、「前の会社も今の会社も、同じ都道府県の協会けんぽだった」といった例外ケースでは、同じ保険者とみなされて累計が引き継がれる場合があります。

まとめ

標準賞与額は、賞与(ボーナス)にかかる社会保険料を計算するための専用の金額で、「税引前の総支給額から1,000円未満を切り捨てた額」が基本です。

実際に従業員へ支給する金額や、労働保険・所得税の計算で使う金額とはルールが異なるため、「どの計算でどの金額を使うか」を整理しておくことがとても大切です。

あわせて、以下のポイントも押さえておきましょう。

  • 健康保険は「年度累計573万円」、厚生年金は「1回あたり150万円」の上限がある
  • 同じ月に複数回賞与を支給した場合は合算して判定する
  • 退職月や育休中に支給する賞与には、特別な扱いがある

こうしたルールを誤ると、「保険料の過不足による遡及精算」だけでなく、「年末調整のやり直し」や「従業員の手取りへの影響からくる不信感」、最悪の場合は**「年金記録の誤り」**といったリスクにつながります。

特に、賞与計算は年に数回しかない業務のため、担当者も「あれ、どうだっけ?」と迷ったり、法改正を見落としたりしやすいのが実情です。

「ルールは何となく分かったけれど、自社のケースに当てはめると本当に合っているか心配」 「高額賞与や退職月のボーナスで計算が複雑になっている」

そのようなときは、無理に社内だけで抱え込まず、社労士への相談・依頼を検討することも現実的な選択肢です。

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