雇用保険に未加入のままだと法律違反となり、事業主にとって深刻な法的リスクや影響を伴います。
雇用保険は、労働者を一人でも雇用する事業主(個人事業主を含む)に加入が義務付けられている国の制度です。パートやアルバイトなど、雇用形態に関わらず、一定の条件を満たす従業員は雇用保険の対象となります。
もし、雇用保険に未加入であることが発覚した場合、遡って保険料を徴収されるだけでなく、追徴金や罰則が科せられます。
また、労働基準監督署の調査対象となるリスクや、従業員からの信頼喪失など、企業経営に深刻な影響を及ぼす恐れがあります。さらに雇用保険未加入の従業員は、失業給付や育児休業給付、介護休業給付などの各種給付を受けられず、労使間トラブルや訴訟に発展するケースも少なくありません。
本記事では、雇用保険に未加入の場合のリスク、罰則の内容、そして、未加入が発覚した場合の適切な対応手順について詳しく解説します。
従業員の権利を守り、企業としてのコンプライアンスを確保するために、今一度雇用保険の加入状況を確認し、適切な労務管理体制を整備しましょう。

生島社労士事務所代表
生島 亮
いくしま りょう
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個人事業主・法人を問わず、一定の条件を満たす従業員を1人でも雇用している場合、雇用保険への加入は法律で義務付けられています。未加入のまま放置すると、法律違反となり、罰則が科せられるだけでなく、会社や従業員に様々な不利益が生じるリスクがあります。
「うちは小規模だから」「パートだけだから」といった理由で雇用保険への加入を怠り、後に大きなトラブルに発展するケースが少なくありません。
ここでは、雇用保険の基本的な仕組み、未加入の場合の罰則、加入対象となる従業員の条件、そして加入しなくてもよい例外ケースについて解説していきます。
雇用保険の加入義務を果たしているか、今一度確認してみましょう。
雇用保険とは?制度の仕組み
雇用保険とは、労働者が失業した場合や、育児・介護等で休業した場合に給付を行うことで、労働者の生活と雇用の安定を図るとともに、再就職を促進するための制度です。労災保険とともに「労働保険」と総称される社会保険制度の一つであり、事業主と労働者が共同で保険料を負担する仕組みとなっています。
雇用保険制度は「雇用保険法」に基づいており、第4条で被保険者の定義、第5条で適用事業等が定められています。
原則として、労働者を一人でも雇用する事業は、業種や企業規模を問わず、雇用保険の適用事業となります(農林水産業の一部を除く)。
雇用保険の主な給付には以下のようなものがあります:
- 失業給付(基本手当):失業中の生活を支える給付
- 就職促進給付:早期再就職を促進するための給付
- 教育訓練給付:スキルアップのための教育訓練費用の給付
- 雇用継続給付:育児・介護休業中や高年齢者の雇用継続のための給付
上記の給付を受けるためには、労働者が雇用保険に正しく加入していることが前提条件となります。そのため、事業主が加入手続きを適切に行わない場合、労働者は本来受けられるべき給付を受けられなくなるという重大な不利益を被ることになります。
【社労士監修】労働保険とは?制度、労災・雇用保険の違いを簡単にわかりやすく解説
雇用保険に未加入だと科される罰則やペナルティ
雇用保険は、原則として強制加入の社会保険制度であり、対象となる労働者を雇用しているにもかかわらず、未加入のままでいると、事業主は法律違反となり、悪質な場合は罰則やペナルティが科されます。
具体的には、労働保険徴収法第46条、第51条に基づき、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。これは、「雇用保険の加入は事業主の義務である」と法律で定められているにもかかわらず、その義務を怠ったことに対する罰則です。
また、罰則以外にも、未納の保険料の遡及徴収や追徴金といった金銭的なペナルティも生じます。追徴金は、納付すべき保険料額の10%に相当する額が、原則として加算されます。
悪質なケースでは、厚生労働省によって企業名が公表されたり、ハローワークでの求人が一定期間掲載が停止になる可能性もあります。
さらに、未加入が判明すると、労働基準監督署やハローワークからの調査や是正指導が入り、労働時間管理、賃金支払い、安全衛生管理など、他の労働法規の違反についても調査されます。
これらの直接的な罰則やペナルティに加えて、企業の社会的信用を失い、採用活動や事業継続に悪影響を及ぼすリスクがあります。
罰則を受けるまでの流れ
雇用保険の未加入が発覚した場合、通常、即座に罰則が適用されるわけではありません。一般的には、まずは労働基準監督署による調査が行われ、未加入の事実が確認された後、是正勧告(加入指導)が行われます。
是正勧告を受けたにもかかわらず、加入手続きを行わないなど、悪質な場合は、最終的に罰則(懲役または罰金)が適用される可能性があります。
具体的な流れは、以下のようになります。
- 未加入の発覚: 労働基準監督署やハローワークの調査、または従業員からの通報により、未加入が判明します。
- 是正勧告: 加入指導に従わない場合、労働基準監督署は、事業主に対して、是正勧告を行います。
- 罰則の適用: 是正勧告に従わず、悪質な場合は、検察庁に送検され、罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が適用される可能性があります。
実務上、多くのケースでは最初の是正指導の段階で対応が完了します。ただし、次のような場合は悪質性が高いと判断され、より厳しい対応となる可能性があります。
- 故意に未加入としていた場合
- 長期間にわたって未加入状態を放置していた場合
- 従業員から加入の要請があったにもかかわらず拒否していた場合
- 給与から保険料を控除していながら納付していなかった場合
- 過去にも同様の違反があった場合
特に、給与から雇用保険料を控除しながら納付していないケースは、労働者の権利を著しく侵害する行為として厳しく対処される傾向があります。
雇用保険の加入対象となる従業員の条件
雇用保険の加入対象となるのは、以下の2つの条件を両方満たす従業員です。
- 週20時間以上働く労働者は原則加入
- 31日以上の雇用見込みがある労働者も対象
雇用保険の適応条件は、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトなどの雇用形態を問わず適用されます。
ただし、派遣社員の場合は、派遣元の会社で雇用保険に加入します。
たとえば、週3日勤務で1日7時間働くパート従業員(週21時間)は加入対象となりますが、週5日勤務で1日3時間のアルバイト(週15時間)は加入対象外となります。
短期のアルバイトやイベントスタッフなど、30日以内の雇用を前提とした契約の場合は、原則として雇用保険の加入対象とはなりません。
従業員を雇用しているにもかかわらず、雇用保険に未加入のまま事業を続けていると、様々な不利益を被ることになります。単に「知らなかった」「手続きが面倒だった」では済まされません。ここでは、雇用保険に未加入の場合に、事業主に科せられる罰則、そして会社経営に及ぼす影響について、詳しく解説していきます。
保険料の遡及徴収と追徴金
雇用保険に未加入であることが発覚した場合、まず、過去に遡って未払い保険料が一括で徴収(遡及徴収)されます。これは、本来支払うべきであった保険料を、後からまとめて納付するということです。
遡及期間は、原則として最大2年間です。ただし、以下のような悪質なケースでは、2年を超えて遡及されることがあります。
- 給与から労働者負担分の保険料を控除していたにもかかわらず納付していなかった場合(この場合、詐欺罪や業務上横領罪などの刑事責任を問われる可能性もあります。)
- 故意に加入手続きを行わなかったと認められる場合
- 労働基準監督署やハローワークからの指摘に応じず、未加入状態を継続していた場合
さらに、未納の保険料だけでなく、追徴金も加算されます。追徴金は、納付すべき保険料額の10%に相当する額が、原則として加算されます。この追徴金は、事業主の負担となり、従業員の給与から控除することはできません。また、いかなる場合においても、返還や免除の対象とはなりません。
例えば、従業員の賃金総額が年間500万円で、雇用保険料率が1.55%(一般の事業)の場合、年間の雇用保険料は7万7,500円です。
2年間未加入だった場合、単純計算で15万5,000円の保険料に加え、1万5,500円の追徴金が課せられ、合計17万500円を支払うことになります。(※ 実際の計算は、月ごとの賃金や保険料率の変動などを考慮する必要があります。)
未加入期間が長ければ長いほど、遡って徴収される保険料や追徴金の額は大きくなり、事業主にとって大きな経済的負担となります。
悪質な場合は懲役・罰金も
雇用保険の加入は、労働保険徴収法で定められた事業主の義務であり、「未加入=法律違反」です。単なる手続き漏れと軽く考えて放置すると、取り返しのつかない事態を招く可能性があります。
労働基準監督署から度重なる指導を受けても加入手続きを行わないなど、悪質なケースでは、刑事罰が科せられます。
具体的には、労働保険徴収法第46条および第51条に基づき、**6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金**が科される可能性があります。
「まさか、自分が逮捕されるなんて…」
そう思われるかもしれませんが、これは決して他人事ではありません。
特に、以下のような行為は、悪質と判断され、刑事罰のリスクが高まります。
* 労働基準監督署やハローワークからの是正指導を無視し続ける
* 従業員からの加入要請を故意に拒否する
* 保険料を給与から天引きしながら納付せず、私的に流用する
* 虚偽の申告や書類の改ざんなど、不正行為を行う
これらは、単なる手続きの遅延やミスではなく、意図的な法律違反、つまり「犯罪」とみなされます。
実際に、悪質な未加入事業主が労働局から検察庁へ書類送検され、刑事責任を問われるケースも発生しています。決して、「自分だけは大丈夫」などと思わないようにしましょう。
なお、雇用保険法第83条にも罰則規定はありますが、未加入の事業主に直接適用されるのは、労働保険徴収法の罰則です。
企業イメージの悪化と採用への悪影響
雇用保険の未加入は、単なる法律違反にとどまらず、企業の社会的信用を大きく損なう行為です。特に、ネットやSNSが発達した現代では、「雇用保険にすら加入させない会社」という悪評が瞬く間に拡散する可能性があります。求人サイトの口コミや転職会議などで「社会保険未加入」と書き込まれれば、優秀な人材からの応募は激減するでしょう。
厚生労働省や労働局は、悪質な未加入事業所に対して、企業名を公表することがあります。
企業名が公表されると、「法律を守らない会社」「従業員を大切にしない会社」というイメージが広まり、取引先から取引を敬遠されたり、金融機関から融資を受けられなくなったりする可能性もあります。また、一部の自治体では、公共工事の入札に参加できないなどの制限を設けているところもあり、事業機会の損失にもつながります。
求職者は、企業の福利厚生や労働条件を重視する傾向があります。雇用保険に未加入であることは、求職者にとって大きな不安材料となり、応募をためらう要因となります。特に、経験豊富な求職者や、家庭を持つ求職者は、雇用保険の加入状況を重視する傾向が強いため、優秀な人材を確保する機会を逃してしまう可能性があります。
求人広告や企業のウェブサイトなどで「雇用保険加入」を明示できないことは、採用活動において大きなハンディキャップとなります。
労使トラブル・訴訟リスク
雇用保険未加入が最も深刻な形で表面化するのは、従業員との間で紛争に発展するケースです。特に退職時に発覚することが多く、「失業給付が受けられない」という事態に直面した元従業員が強い不満を抱くのは当然です。
このような場合、元従業員が以下のような行動を取る可能性があります。
- 労働基準監督署やハローワークへの申告
- 未加入期間に相当する保険給付の損害賠償請求
- SNSなどでの告発や口コミサイトへの投稿
- 弁護士を通じた法的措置
実際に、雇用保険未加入が原因で失業給付を受けられなかった労働者が会社に対して損害賠償請求を行い、これが認められた判例も存在します。
また、雇用保険だけでなく、社会保険全般の加入状況や労働時間管理など、他の労働法規の遵守状況も調査の対象となり、追加の法的リスクに発展することも少なくありません。
こうした訴訟対応には、賠償金額以外にも弁護士費用や社内の対応工数など、目に見えないコストも多大にかかります。さらに、訴訟の間、経営者や人事担当者は本来の業務に集中できなくなるという間接的な損失も大きいのです。
雇用保険の未加入はこのように、表面上の罰則以上に、企業経営に多方面から深刻な影響をもたらす可能性があります。法令遵守は単なるコストではなく、持続可能な企業経営のための必要不可欠な投資と考えるべきでしょう。
事例1:使用者が雇用保険料を控除しながらも、加入手続きを行わなかったため、労働者が教育訓練給付金を受給できなかったケース
裁判所は、雇用契約に付随する義務違反を認め、慰謝料(15万円)の請求を認めました。ただし、教育訓練給付金相当額については、労働者が受講も受講料の支払いもしていなかったため、具体的な経済的損害が発生していないとして、請求を認めませんでした。
参考:東京地判平18年11月1日労判926号93頁[グローバルアイ事件]
事例2:使用者が雇用保険料を控除しながら加入手続きを行わず、労働者が教育訓練給付金を受け取れなかったケース
その行為の内容、態様から違法として、精神的苦痛に対する慰謝料15万円の損害賠償請求が認められました。 ただし、教育訓練給付金相当額の請求は認められませんでした。これは、労働者が実際に職業訓練を受講しておらず、具体的な損害が発生していないと判断されたためです。
参考:大阪地判平10年2月9日労判733号67頁[三庵堂事件]
雇用保険は、労働者の生活と雇用の安定を目的とした、国の社会保険制度です。
しかし、雇用保険に未加入の状態でいると、従業員は、本来受けられるはずの様々な給付を受けることができず、大きな不利益を被ることになります。
ここでは、雇用保険に未加入の場合に、従業員が受けられなくなる主な給付について、具体的に解説していきます。
従業員が失業給付を受けられない
雇用保険に未加入の場合、従業員が失業しても、失業給付(基本手当、いわゆる「失業保険」)を受け取ることができません。失業給付は、労働者が失業した際に、生活の安定を図り、再就職を支援するために支給される、最も基本的な給付です。失業給付の受給には、原則として、離職日以前2年間に、雇用保険の被保険者期間が12ヶ月以上あることが必要です。(※ 倒産・解雇など、会社都合による離職の場合は、離職日以前1年間に被保険者期間が6ヶ月以上あれば受給可能)雇用保険に未加入であれば、当然、被保険者期間はカウントされません。
例えば、入社から1年半で退職した従業員が、雇用保険に未加入であった場合、原則として、被保険者期間が12ヶ月以上という要件を満たせないため、失業給付を一切受けられなくなります。これは、特に、再就職先がなかなか決まらない場合など、従業員にとって大きな経済的打撃となります。失業給付を受けられないと、従業員は、失業中の生活費や、再就職活動のための費用を、自分で賄わなければなりません。
従業員が育児休業給付を受けられない
雇用保険に未加入の場合、従業員が育児休業を取得しても、育児休業給付金を受け取ることができません。
育児休業給付金は、1歳未満(最大1歳6か月まで延長可能、特別な事情がある場合は最長2歳まで)の子を養育するために育児休業を取得した被保険者に対して支給される給付金です。
支給額は休業開始時賃金の67%(育児休業の開始から6か月経過後は50%)です。受給するためには、育児休業開始前の2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して12か月以上あることが必要です。
出産・育児は人生の重要なライフイベントであり、この時期の経済的支援が受けられないことは、従業員とその家族にとって非常に大きな不利益です。
また、経済的理由から育児休業の取得を諦めるケースも出てくる可能性があり、少子化対策やワークライフバランスの実現を阻害する要因にもなります。
従業員が介護休業給付を受けられない
雇用保険に未加入の場合、従業員が家族の介護のために介護休業を取得しても、介護休業給付金を受け取ることができません。介護休業給付金は、労働者が要介護状態にある家族を介護するために介護休業を取得した場合に、雇用保険から支給される給付金です。介護休業給付金は、休業前の賃金の67%が支給されます。
この給付金は、介護休業中の収入減を補い、労働者が安心して介護に専念できる環境を整える上で、非常に重要な役割を果たしています。
雇用保険に未加入の場合、この介護休業給付金を受け取ることができず、介護休業中の生活が困窮する可能性があります。
従業員が再就職関連(就職促進給付や教育訓練給付など)の給付を受けれない
雇用保険に未加入の場合、従業員は、失業給付だけでなく、再就職を支援するための様々な給付(就職促進給付、教育訓練給付など)も受け取ることができません。
就職促進給付:
- 再就職手当: 早期に再就職した場合に支給される一時金
- 就業促進定着手当: 再就職先で賃金が低下した場合に支給される給付金
- 広域求職活動費: 遠隔地の事業所の面接などを受ける場合の交通費・宿泊費
教育訓練給付:
- 一般教育訓練給付金: 厚生労働大臣が指定する教育訓練講座を受講し、修了した場合に、受講費用の一部が支給される給付金
- 専門実践教育訓練給付金: より専門的な教育訓練講座を受講し、修了した場合に、受講費用の一部が支給される給付金
- 特定一般教育訓練給付金: 特定の教育訓練講座を受講し、修了した場合に、受講費用の一部が支給される給付金
これらの給付は、労働者の早期再就職や、スキルアップを支援するためのものですが、雇用保険に未加入の場合は、これらの給付を受けることができません。
従業員に離職票が交付されない
雇用保険に未加入の場合、従業員が退職しても、原則として離職票が交付されません。離職票は、従業員が失業給付を受給するために必要な書類です。しかし、雇用保険に未加入の場合、会社は従業員を雇用保険の被保険者として届け出ていないため、ハローワークから離職票の交付を受けることができません。
(※ 厳密には、未加入であっても、従業員から請求があれば、会社は離職証明書を作成する義務がありますが、ハローワークでの手続きを経て交付される離職票とは異なります。)
離職票がないと、従業員は失業給付の手続きを進めることができず、失業中の生活に困窮する可能性があります。
雇用保険の未加入は、従業員にとって、非常に大きな不利益をもたらします。事業主は、雇用保険の加入義務をしっかりと果たし、従業員が安心して働ける環境を整える必要があります。
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うちは小規模だから」「パートやアルバイトだから」「雇用保険に未加入でも、バレないだろう…」そう安易に考えている事業主の方もいるかもしれません。
しかし、雇用保険の未加入は、様々なきっかけで発覚します。そして、発覚した場合には、遡って保険料を徴収されたり、罰則が科せられたりするなど、大きな不利益を被ることになります。
ここでは、雇用保険の未加入が発覚する主なケースについて解説します。
労働基準監督署の調査
労働基準監督署は、労働基準法、労働安全衛生法、労働保険徴収法などの法律に基づき、事業所に対して調査を行う権限を持っています。
この調査には、「定期監督」「申告監督」「災害時監督」など、様々な種類があります。
これらの調査の際に、労働保険関係の書類(労働保険関係成立届、労働保険概算保険料申告書など)の提出を求められ、雇用保険の加入状況が確認されます。
未加入が発覚した場合、労働基準監督署から加入指導を受けることになります。悪質な場合は、送検され、罰則が適用されます。
また、厚生労働省や都道府県労働局は、「労働保険適用促進強化期間」を設け、未加入事業所の一掃に取り組んでいます。この期間中は、特に重点的に調査が行われるため、注意が必要です。
社会保険や税務調査
雇用保険の未加入は、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入手続きや税務調査の過程でも発覚することがあります。
厚生年金保険や健康保険などの社会保険の加入状況を確認するために、年金事務所が事業場を訪問して調査を行うことがあります。
この調査の過程で、従業員の賃金台帳や源泉徴収簿、社会保険の加入対象となる労働者(週20時間以上勤務など)などを確認するため、雇用保険の未加入も同時に発覚するケースがあります。
社会保険と雇用保険では加入要件が異なる部分もありますが、常用的な雇用関係にある労働者については両方の保険に加入する必要があるため、社会保険の調査によって雇用保険の未加入が判明することは少なくありません。
社会保険や税務調査で雇用保険の未加入が発覚した場合、労働基準監督署やハローワークに通報され、加入指導を受けることになります。
従業員からの通報(または相談)
従業員は、自分の勤務先が雇用保険に加入していないことを知った場合、労働基準監督署やハローワークに相談・通報することができます。匿名での相談・通報も可能です。
近年、労働者の権利意識の高まりや、インターネット上での情報共有などにより、従業員からの相談・通報が増加傾向にあります。
特に、以下のような場合に、従業員が相談・通報するケースが多いです。
- 退職時に離職票が交付されない
- 失業給付の手続きについてハローワークに相談した際に、未加入が判明した
- 育児休業や介護休業を取得しようとした際に、給付金が受けられないことが分かった
- 同僚や友人から、自分の会社が雇用保険に未加入であることを指摘された
従業員からの相談・通報があった場合、労働基準監督署やハローワークは、事業所に対して調査を行い、未加入が確認されれば、加入指導を行います。
雇用保険の未加入は、いつ、どのようなきっかけで発覚するか分かりません。「バレなければ大丈夫」という考えは非常に危険です。
雇用保険の未加入が発覚した場合、事業主は、迅速かつ適切な対応が求められます。未加入状態を放置することは、罰則リスクを高めるだけでなく、従業員に対する不利益を拡大させることになります。
ここでは、未加入が発覚した場合の具体的な対応について実務的に解説します。
速やかに管轄のハローワークに連絡し、加入手続きを行う
雇用保険の未加入が発覚した場合、まず最初に行うべきことは、速やかに管轄のハローワークに連絡し、状況を説明した上で加入手続きを行うことです。
未加入の状態を自主的に申し出ることで、ハローワークからの一定の理解が得られる可能性があります。
ハローワークの担当者に、未加入の状況(いつから未加入だったのか、対象となる従業員は誰かなど)を正直に伝え、指示を仰ぎます。
加入手続きは、未加入の状況によって、以下の2つのケースに分けられます。
会社自体が雇用保険の適用事業所としての手続きを行っていなかった場合(従業員を初めて雇用した、または、長期間にわたって雇用保険に未加入だった場合)は、以下の手続きが必要となります。
これらの手続きは、提出期限が定められていますので、注意が必要です。
①労働保険関係成立届の提出(従業員を雇用した日の翌日から10日以内)
まず、労働基準監督署に「労働保険関係成立届」を提出し、労働保険(労災保険・雇用保険)の関係を成立させます。この届出により、事業所は労働保険番号を取得します。
②労働保険概算保険料申告書の提出と保険料の納付(従業員を雇用した日の翌日から50日以内)
労働保険関係成立届と同時に、「労働保険概算保険料申告書」も提出します。この申告書では、当年度の概算保険料を計算して申告し、納付します。概算保険料は、年度末の賃金総額に基づいて計算される確定保険料と、翌年度の年度更新で差額が精算されます。
③雇用保険適用事業所設置届の提出(従業員を雇用した日の翌日から10日以内)
次に、ハローワークに「雇用保険適用事業所設置届」を提出し、雇用保険の適用事業所としての手続きを行います。
④雇用保険被保険者資格取得届の提出(従業員を雇用した日の翌月10日まで)
雇用保険の加入対象となる従業員について、「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークに提出します。
これらの手続きを、ハローワークや労働基準監督署の指示に従って、速やかに行う必要があります。
会社自体は雇用保険の適用事業所となっているものの、特定の従業員について加入手続きが漏れていた場合は、以下の手続きが必要となります。
1. 雇用保険被保険者資格取得届の提出
加入手続きが漏れていた従業員について、「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークに提出します。この届出により、従業員は雇用保険の被保険者となります。
2. 遅延理由書の提出(必要な場合)
雇用保険被保険者資格取得届の提出が、本来の提出期限(従業員を雇用した日の翌月10日)を過ぎてしまった場合は、遅延理由書を添付する必要があります。遅延理由書には、加入手続きが遅れた理由を具体的に記載します。
3.遡及期間の証明資料の提出(必要な場合)
過去にさかのぼって加入手続きを行う場合、遡及期間の雇用実態を証明する資料の提出を求められることがあります。賃金台帳、出勤簿またはタイムカード、雇用契約書、給与明細、源泉徴収票など
ハローワークの担当者に、状況を詳しく説明し、提出が必要な書類や手続きについて、指示に従って進めましょう。
過去の雇用保険料を遡って納付する
雇用保険の未加入期間については、原則として、過去2年間まで遡って保険料を納付する必要があります。ただし、従業員の給与から雇用保険料を控除していた場合は、2年を超えて遡って加入できる場合があります。
遡って納付する保険料は、未加入期間中の従業員の賃金総額に基づいて計算されます。
また、保険料に加えて、追徴金が加算される場合があります。
遡及期間や保険料の計算方法、納付方法などについては、ハローワークの担当者に確認し、指示に従って手続きを進めましょう。
従業員への説明と協力依頼
雇用保険の未加入が発覚した場合、事業主は、従業員に対して、未加入であったこと、今後の対応(加入手続き、保険料の納付など)について、誠意をもって説明する責任があります。
特に、遡って保険料を納付する場合、従業員負担分の保険料をどのように徴収するか(過去の給与から控除するか、一時的に立て替えるかなど)について、従業員とよく話し合い、合意を得る必要があります。
また、過去に遡って雇用保険に加入することで、従業員が失業給付や育児休業給付などを受けられるようになる場合があります。
その場合は、従業員に、給付の申請手続きについて説明し、必要な協力をするようにしましょう。
社労士など専門家への相談も検討
雇用保険の未加入に関する手続きは、複雑で分かりにくい場合があります。
また、未加入の状況によっては、遡及加入の手続きや、従業員への説明など、専門的な知識や経験が必要となる場合もあります。
自分だけで対応するのが難しいと感じたら、社会保険労務士(社労士)などの専門家に相談することを検討しましょう。
社労士は、労働保険や社会保険に関する専門家であり、事業主の状況に合わせて、適切なアドバイスやサポートを提供してくれます。
特に、以下のような場合は、社労士への相談を強くおすすめします。
- 未加入期間が長期間にわたる場合
- 遡って加入する従業員数が多い場合
- 従業員との間でトラブルが発生している場合
- 過去の給与計算や保険料計算に誤りがある場合
社労士に相談することで、手続きの負担を軽減できるだけでなく、法的に適切な対応を取ることができ、安心して事業を継続することができます。
雇用保険の未加入は、決して放置してはいけません。
未加入に気づいたら、速やかに対応し、適切な状態に戻すことが重要です。
雇用保険の加入義務について、多くの事業主が誤解しやすいポイントがあります。特に小規模事業者や個人事業主の方は、雇用保険制度についての理解が不足していることで、知らず知らずのうちに法令違反の状態になっていることがあります。
ここでは、事業主が特に誤解しやすいポイントについて、Q&A形式でわかりやすく解説していきます。
雇用保険の未加入はバレることはありますか?
雇用保険の未加入は、様々なきっかけで発覚する可能性があります。
「従業員が少ないから」「パートやアルバイトだけだから」と、安易に考えて未加入のままにしていると、後々大きな問題に発展する可能性があります。
主な発覚ケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 労働基準監督署の調査
- 社会保険や税務調査
- 従業員からの相談・通報
- 厚生労働省や労働局の取り組み
雇用保険の未加入は、いつ、どのようなきっかけで発覚するか分かりません。
「バレなければ大丈夫」という考えは非常に危険です。未加入のリスクをしっかりと理解し、必ず加入手続きを行いましょう。
個人事業主も従業員を雇用したら雇用保険への加入は必要ですか?
個人事業主の方でも、一定の条件を満たす従業員を1人でも雇用した場合は、雇用保険への加入が義務付けられています。これは、法人だけでなく、個人事業主にも適用される、労働保険徴収法上の義務です。
「個人事業主だから」「従業員が少ないから」という理由で、加入義務が免除されることはありません。
個人事業主は従業員を1人でも雇うと雇用保険への加入が義務?加入条件と手続きを社労士が解説
パートやアルバイトも雇用保険の加入対象になりますか?
パートやアルバイトの方でも、以下の2つの条件を両方満たす場合は、雇用保険の加入対象となります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上引き続き雇用される見込みがあること
これらの条件を満たせば、雇用形態に関わらず、原則として雇用保険の被保険者となります。
「パートだから」「アルバイトだから」という理由で、雇用保険の加入対象外となることはありません。
ただし、派遣社員の場合は、派遣元の会社で雇用保険に加入します。
従業員が5人未満の小規模事業所は加入しなくてもいい?
従業員数に関わらず、雇用保険の加入条件を満たす従業員を1人でも雇用している場合は、原則として雇用保険の加入義務があります。
「従業員が5人未満だから」という理由で、雇用保険の加入義務が免除されることはありません。
ただし、社会保険(健康保険・厚生年金保険)については、従業員が常時5人未満の個人事業所は、強制適用事業所とならない場合があります(一部業種を除く)。
雇用保険と社会保険では、加入義務の要件が異なりますので、混同しないように注意が必要です。
65歳以上で雇った人は雇用保険に入れなくていい?
原則として、65歳以上の方を新たに雇用した場合でも、雇用保険の加入対象となります。2017年1月1日以降、雇用保険の適用範囲が拡大され、65歳以上の方も「高年齢被保険者」として雇用保険に加入できるようになりました。
ただし、1週間の所定労働時間が20時間未満である場合や、31日以上引き続き雇用される見込みがない場合など、雇用保険の加入条件を満たさない場合は、加入対象となりません。
従業員から雇用保険に入りたくないと言われた場合は?
従業員から「雇用保険に入りたくない」と言われた場合でも、事業主は、加入条件を満たす従業員を雇用保険に加入させる義務があります。
雇用保険は、法律で加入が義務付けられている制度であり、事業主や従業員の意思で加入するかどうかを選択することはできません。
従業員が雇用保険に入りたくない理由としては、
- 保険料を負担したくない
- 失業給付を受ける予定がない
- 手続きが面倒
などが考えられます。
しかし、雇用保険は、失業時だけでなく、育児休業や介護休業、教育訓練など、様々な場面で従業員の生活を支えるセーフティーネットとしての役割を果たします。
事業主は、従業員に対して、雇用保険の制度内容やメリットを丁寧に説明し、加入の必要性を理解してもらうように努めましょう。もし、従業員がどうしても納得しない場合は、労働基準監督署やハローワークに相談し、適切な対応についてアドバイスを受けることをおすすめします。
この記事では、雇用保険の未加入について、事業主が理解しておくべき罰則や会社が受ける影響について解説してきました。
雇用保険の未加入は、「知らなかった」「手続きが面倒だった」では済まされません。未加入の期間が長引くほど、遡って納付する保険料や追徴金は高額になり、事業主の経済的負担は大きくなります。悪質なケースでは罰金や懲役といった刑事罰が科せられる可能性もあり、会社の信用を大きく失墜させるリスクがあります。
さらに、雇用保険に未加入の状態で従業員が失業したり、育児・介護休業を取得したりした場合、従業員は当然受けられるはずの給付を受けられません。これは、従業員の生活を脅かすだけでなく、労使間のトラブル、ひいては訴訟問題に発展する可能性も秘めています。
従業員を守り、会社のリスクを回避するためにも、雇用保険の加入は早急に、そして確実に行いましょう。「もしかしたら、うちの会社も未加入かも…」そう思ったら、今すぐ、雇用保険の加入状況を確認しましょう。そして、未加入が判明した場合は、速やかにハローワークに連絡し、加入手続きを行ってください。従業員のため、そして会社を守るため、適切な対応を取ることが、事業主の責任です。
雇用保険は、従業員が安心して働くためのセーフティネットであると同時に、事業主を様々なリスクから守るためのものでもあります。
この機会に、雇用保険について正しく理解し、適切な労務管理を行うことで、従業員と会社、双方にとってより良い環境を築いていきましょう。
なお、雇用保険の加入手続きや遡及申請でお悩みの場合は、社労士に相談することをおすすめします。
特に遡及加入の場合は、適用要件の判断や必要書類の準備、行政機関との折衝など専門的な対応が求められるため、専門家の力を借りることで、スムーズかつ適切な解決が期待できます。
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労働保険(労災保険・雇用保険)の加入手続きは、専門的な知識を要するため、慣れていないと多くの時間や手間がかかるだけでなく、計算ミスや書類の不備によるリスクも否めません。
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