こんにちは。
個人事業主の方でも法人の方でも、自身の事業において人を雇用することはありますよね。
実際に人を雇用した時にしなければならないこととして、社会保険や労働保険などの手続きや、給与の支払い準備などはなんとなく思い浮かぶ方も多いかと思います。
今回は人を雇用すると、事業主にはどんな義務が生じ、何に気をつけるべきかについて、お伝えしたいと思います。
3-1そもそも、「労働者」とはどういった定義であるのか?
労働基準法では、労働者の定義は
(1)職業の種類を問わず、(2)事業又は事務所に使用され、(3)賃金を支払われる者
をいいます。
労働者安全衛生法、労働者災害補償法も労働者については、同じ定義になります。
労働者であるかどうかはその締結している契約形態ではなく、業務の実態で判断されます。業務委託や請負契約だから労働者ではない、とは必ずしも言えないということになります。
例えば業務委託契約をしていたとしてもその業務の実態として
・上司などから指揮命令を受けて業務をする
・その時間は必ずそこで業務をしなければならない
・その仕事を許諾するかどうかの自由がない
・報酬の金額などが同じ業務をおこなっているその事業場の労働者と比して同等レベルである
というようなことが確認できる場合は、原則、労働者として扱うことが妥当と考えられます。
3-2本人が業務委託契約を望んだら、そのまま契約してもいい?
業務内容から労働契約が妥当だとしても、本人が業務委託契約を望む場合もあるかも知れません。昨今の副業解禁の流れを受け、業務委託や請負又はフリーランスと呼ばれる働き方が増えており、このような場面は今後増えるのではないでしょうか。
しかし、本人が望んだから、また、業務委託契約だったら労働時間の制約もなく、社保加入しなくても良いから、というような理由で業務委託契約を結ぶことは、業務実態と合わない判断となり、事業主にはリスクが生じることもあります。
過去には、形式上は業務委託などの形を備えていても、その実態から労働者であることが認められた労働裁判の判例もあります。そうなった場合に、例えばこれまで管理していなかった労働時間を遡及して(賃金請求権は5年、当分の間3年)割増賃金を求められることや、死傷病事故などが生じたタイミングで労働局の調査が入り、その方の労働者性が確認されたとなれば、多額の補償を事業主として負担することとなるなども十分考えられ、それは大変な経営リスクです。
このようなことから、事業主の皆さん自らが、その業務内容から労働者と扱うべきかどうかを判断する必要があります。
3-3実際に、事業主はどんなことに気をつけなければならないか?
まず、労働者を雇用する事業主の方には、労働基準法など法律上のさまざまな義務が発生します。そう聞くと難しいですが、法令違反となりやすい例をご紹介しながら、事業主がやらなければならないことをいくつかお伝えしたいと思います。
1)労働時間・残業代に関する例
労働基準法は、1日につき8時間、1週につき40時間を法定労働時間と定めています。労使間の合意及び行政への届出がないのに、法定労働時間を超えて労働させることは労働基準法違反となります。また、法定労働時間を超えた時間外労働と午後10時から午前5時の深夜時間帯の労働には、いずれも25パーセント、法定休日の労働には35パーセントの割増賃金が支払われなければなりません。
◆事業主がやらなければならないこと
→「時間外・休日労働に関する協定書」を労使間で結び、所轄の労働基準監督署へ届出をした上で、労働者の労働時間を正しく把握し、出勤簿を調製すること。週に1日は休ませること。正しく把握した労働時間のうち、時間外労働や休日労働などの時間は1日単位では切り捨てず集計をし、法に則った割増賃金を支払うこと。
2)有給休暇に関する例
有給休暇の取得は労働者の権利であり、事業主が承認するという性質のものではなく、本人が希望すれば取得させなければなりません。また、労働者が希望する時季に有給休暇を与えない行為も、労働基準法に違反します。希望どおりに休暇を与えても、有給とせず賃金を支払わなかった場合でも違反となります。
◆事業主がやらなければならないこと
→入社して6ヶ月を経過すると、労働者には法律上当然に有給休暇が発生します。きちんと有給付与日と付与日数を労働者に通知をし、取得しやすいような配慮をすること。有給休暇管理簿などを作成し管理すること。パートやアルバイトでも有給休暇は発生します。
3)賃金に関する例
賃金には、通貨で・直接・全額・毎月1回以上・一定期日という5原則があり、ひとつでも守られていなければ賃金の未払いとして労働基準法の違反になります。例えば、社内預金等の協定を締結届出がないのに、賃金の一部を差し引いて支払い、その差し引いた金額を積み立てて退職時に退職金として支給する、などは違反になります。また、最低賃金に満たない賃金しか支払わなかった場合は最低賃金法の違反になります。賃金に関する違反といえば給料の未払いや最低賃金未満が大変多く事例があります。
◆事業主がやらなければならないこと
→賃金を決定する際に、最低賃金を下回っていないかを月給や日給でも時給換算して確認すること。毎年最低賃金の変更がないかを確認すること。労働条件通知書や雇用契約書などであらかじめ労働者に賃金や支払いについての明示をすること。基本給と時間外手当が明確に区分できるような賃金台帳や給与明細を作成し保管すること。
4)解雇・雇い止めに関する例
法律では、会社が労働者を解雇する際には少なくとも30日以上前に解雇を予告しなければならず、30日よりも前に解雇する場合はその日数に応じた解雇予告手当を支給しなければなりません。遅刻1回など軽微なミスで「今日でクビだから明日から来なくていい」といった契約解除は不当解雇となります。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効となります。
◆事業主がやらなければならないこと
→労働条件通知書や雇用契約書、就業規則などに解雇事由について記載し、雇入時などあらかじめ労働者に明示をすること、もしやむを得なく解雇をすることになったら、解雇予告手当などの支払いをするなど、法令に則った手順で必要な手続きを行うこと。
5)労働災害に関する令
労働基準法では、労働者が仕事で病気やけがをしたときには、使用者が療養費を負担し、その病気やけがのため労働者が働けないときは、休業補償を行うことを義務づけています。勤務中や通勤途中に発生した病気や怪我は労働災害にあたります。労働災害について療養補償・休業補償・障害補償をしない、あるいは労働災害によって家族が死亡した際に遺族補償や葬祭料を支払わない場合も労働基準法違反です。場合によっては厳しい刑罰と賠償責任を負う事例もあります。
◆事業主がやらなければならないこと
→労働者を1名でも雇ったらその雇用区分に関わらず、「労働保険関係成立届」「労働保険概算保険料申告」「労働保険料の納付」をすること。
労災保険は、労働者の業務が原因でけが、病気、死亡(業務災害)した場合や、また通勤の途中の事故などの場合(通勤災害)に、国が事業主に代わって給付を行う公的な制度です。事業主に余裕がなかったり、大きな事故が起きたりした場合には、迅速な補償ができないかもしれませんが、労働災害が起きたときに労働者が確実な補償を受けられるように、労災保険制度を設けています。 基本的に労働者を一人でも雇用する会社は適用され、保険料は全額事業主が負担します。パートやアルバイトも含むすべての労働者が対象です。必ず手続きをしましょう。手続きそのものをしていないことでのペナルティもあります。
6)妊娠・出産等に関する例
労働基準法は、妊娠中・出産直後・乳幼児の育児に従事している女性を保護しています。出産前・出産後の休暇を認めない、妊娠中や出産後1年以内の女性に残業を強いる、生後1年未満の子どもを育てている人に育児の時間を与えない場合は、労働基準法違反です。産後8週間(医師が認めた場合は6週間)は出産をした女性を働かせてはならないので、本人が「働ける」と言っても、事業主は働かせてはいけません。産後については正常分娩のほか流産も含みます。
◆事業主がやらなければならないこと
→妊娠・出産・育児についての申し出があった場合は「休ませる」ことが義務となります。その場合の賃金の有無について法律では定めはありません。また、産前産後については健康保険法から、育児休業については雇用保険法から手当や給付金がありますので、希望があれば、申請の手続きをしてください。
3-4事業主が行わなければならないことを、どう進めていくか?
自社内で行う場合は、本来の正しいルール理解に加え、法改正に対応した手続きなど専門的な知識が必要となります。手続きや仕組みが複雑なものや、そもそも必要な手続きが何かよくわからない、調べる時間もないという方は、社会保険労務士に依頼すると良いと思います。
顧問契約を必須とする社会保険労務士もいれば、顧問契約なしで、スポット受託可能な社会保険労務士の方も一定数います。わからないところだけを相談・依頼する、という方法もあると思います。
社会保険労務士を探すことや、打ち合わせをする時間がないが、すぐに準備したいなどの要望には、スポット手続きのWEBサービスを利用するのも良いと思います。例えば日中は自社の業務で手一杯である方などにとって、業務時間外に手続きの依頼をしたい時などに便利です。WEBサービスは24時間好きな時間にご自身で情報入力をしていただき、その情報をもとに雇用契約書の作成や、届出等の手続き代行を行なうサービスですので、事業主の手間を省き、更なる業務効率化が期待できます。
ご自身の事業やお考えにあったスタイルで対応可能かどうかを、まずはご相談されると良いかと思います。
いかがでしたでしょうか?
人を雇用すると、事業主にはどんな義務が生じ、何に気をつけるべきかについて、ご説明しましたが、ご理解いただけましたでしょうか。
人を雇用するとまず「手続き」が頭に浮かびますが、実は労働者を雇用した時点で事業主の義務が生じていることが多く、それに伴い必ず行わなければならないものがあるのがたくさんあります。
これらは専門的な知識がないと、そもそも何が抜け漏れているのかさえもわかりませんよね。
例えば雇入時の健康診断などは労働者安全衛生法上の、事業主の義務となっておりますが、やっていない、または「正社員だけに行うもの」という誤認をされていることも往々にしてあります。
しかしながら法律の不知は「違反をしてしまったやむを得ない理由」としては認められません。なぜなら国はさまざまな方法でその内容を周知しているからです。
例えば厚生労働省のホームページに随時掲載されていたり、行政官庁にリーフレットが置いてあったり、事業主への郵送物に同封するなどです。
労働法違反は罰則や罰金などがあり、最大300万円の罰金、10年以下の懲役など大変厳しいものもあります。昨今では違反をした事業主名の公表も頻繁に行われており、知らなかっただけなのに、では済まされず、大きな損害につながることも少なくありません。
事業主の皆様には、常に法令を遵守する意識をお持ちいただければと思います。
本業に注力するためにも、社会保険労務士やWEBスポットサービスなどをご活用ください。専門家へお任せいただければ、「正しくやれているだろうか」という心配を払拭することができます。また、どれだけリスクヘッジをしていても、リスクを0にするのは難しいです。だからこそ万が一のことがあった場合に、「ここまではやっていた」と言えるのと言えないのとでは、経営リスクの軽減に大きな差が出るのではないでしょうか。