2)人を雇用した際に必要となる手続きを知る「雇用&労働法編」

個人事業主の方でも法人の方でも、事業の成長期において、「そろそろ人を雇おうかな」と思われることがありますよね。もちろん、会社設立時から正社員を雇用する場合もありますし、少しずつお願いする業務を広げていきたいから、初めはアルバイトやパートの方を雇用する場合もあると思います。
人を雇用しようと思うタイミングは様々ありますが、実際に人を雇用したときに何をする必要があるのか、具体的にはよくわからないと思う方も多いのではないでしょうか。
今回は、初めて人を雇用するときに、事業主としてしなければならない手続きについて、お伝えしたいと思います。
正社員やアルバイトなどの雇用区分や労働時間や雇用期間に関係なく、とにかく一人でも人を雇用することになった時に、事業主として必要な手続きは3つあります。
2-1適用事業報告(事業場ごと、初回1回のみ)
人を雇用することになったら報告書(この事業場は労働基準法が適用される事業場である」ということを報告するため)を作成し、所轄労働基準監督署へ提出します。
いつまでにという明確な提出期限は設けられていませんが、「遅滞なく」と定められていますので、以下ご紹介する手続きと一緒に行っておくと漏れがないのでお勧めです。
また、複数店舗を開業することとなった場合には、それぞれの事業場ごとに報告が必要になります。労働法は企業単位ではなく事業場(一つの場所での組織的な作業のまとまり)ごとに手続きなどが必要になるので、一般的にはあまり馴染みがない考え方かもしれませんが、注意が必要です。
2-2労働保険関係成立届(事業場ごと、初回1回のみ)
人を雇用した日の翌日から起算して10日以内に所轄の労働基準監督署へ提出します。そうすることで、労働保険番号が付与されますので、以後その番号をもとにさまざまな労働保険に関する手続きをすることができます。
また、事業主が手続きをしたタイミングで労働保険関係が成立するのではなく、手続きをしていなくても労働者を雇用したその日に、法律上当然に労働保険関係は成立しています。もし、労働者を雇用したその日に、業務時間中に怪我などがあれば、「労働災害が発生した」ことになります。よって「成立手続きをした日」ではなく、「労働者を雇用した日」に保険関係が成立しているのです。万が一手続きを怠ってしまうと、保険料の遡及請求だけでなく、労災保険給付に関する事業主負担を求められるなどのペナルティもあります。
2-3労働保険概算保険料申告書(初年度のみ、以降は6月〜7月10日年度更新の手続き)
保険関係成立後50日以内に(実務上では保険関係成立手続きと同時に行うことが多いです)、その年度分の労働保険料を概算保険料として所轄の労働局や労働基準監督署、金融機関などへ申告・納付します。
また、労災保険が適用されるすべての事業主が負担する一般拠出金も計算し、概算保険料と併せて申告・納付をします。
計算式
1)労災保険の対象となる賃金総額x労災保険料率=A
2)雇用保険の対象となる賃金総額x雇用保険料率=B
3)労災保険の対象となる賃金総額x0.02/1000=C
納付額は、A+B+Cの合計額です。
・労働保険料について
労働保険料は、労災保険料(事業主が100%負担)と雇用保険料(労使それぞれで負担)とがあり、それぞれ行う事業の種類により保険料率が違います。労災保険料率はかなり細かく分かれており、例えば建設の事業だけでも7種類に分かれています。労災の発生率や危険度は、行う事業の内容により違うからです。
一方で雇用保険料率はそこまで細かくなく、大まかに3つの種類に分かれます。
・賃金について
労働者(役員報酬や業務委託料などは含みません)に支払ったすべての賃金となります。結婚祝い金など労働の対償ではないものは賃金には含まれませんので注意が必要です。また、支払日が翌年度だとしても、その年度内に賃金支払い義務が確定しているものはすべて含まれます。
以上の3つが、人を1人でも雇用した際に必要な手続きとなります。
では次に、雇用する人の労働時間や期間により、必要な手続きをお伝えします。
2-4雇用保険の加入要件と必要な手続きは?
アルバイト、正社員などの雇用区分ではなく、その雇用する方が、31日以上雇用されることが見込まれること、1週間の所定労働時間が20時間以上である場合には、雇用保険に加入する必要があります。
雇用保険に加入するためには、まず事業場に関する手続きをし、その後個人に関する手続きをします。
・雇用保険適用事業所設置届(事業場ごと、初回1回のみ)
雇用保険の適用事業所となった日(加入が必要な労働者を雇用した日)から10日以内に所轄のハローワークへ提出します。
前述した保険関係成立届と概算保険料申告書の事業主控え(受付印のあるもの)や、法人であれば登記簿謄本などの添付書類も必要となります。
・雇用保険被保険者資格取得届(該当労働者を雇用するごと)
雇用した日の翌月10日までに所轄のハローワークへ提出します。初めての手続きの場合は、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、雇用契約書など実態がわかる添付書類も必要となります。
2-5実は知らない事業主もいる、残業や休日出勤に関する手続き(有効期間により年1回)
残業や休日出勤をした際には、割増賃金を支払うことはご存じの方も多いかと思いますが、労働時間は労働基準法によって上限が定められていています。
それらを超えて労働させる場合には、労使による協定(時間外・休日労働に関する協定書、通称36協定)を締結して、労働基準監督署に届出をしなければなりません。
労働基準法の原則
・労働時間の限度は1日8時間、週40時間
・毎週少なくとも1回の休日
この届出手続きをせずに、残業や休日出勤をさせてしまうと、労働基準法違反となりますので、少しでも可能性があるのであれば、締結及び届出をしていただくことをお勧めします。
2-6手続きの方法について
自社で行う場合は、本来の正しいルール理解に加え、法改正に対応した手続きなど専門的な知識が必要となりますが、スポットの手続に時間を費やすのは効率的でないとお考えの方や、本来の業務で手一杯という方は、社会保険労務士に依頼することが多いように思います。
労働者を雇用するタイミングで社会保険労務士と顧問契約を締結するパターンもありますが、雇用後の労務管理があまり複雑ではない場合は、創業時にスポット手続のみ依頼するなど、顧問契約なしで、スポット受託可能な社会保険労務士の方も一定数います。
また、スポット手続きのWEBサービスを利用する場合は、例えば日中は自社の業務、業務時間外に手続きの依頼をしたい時などに便利です。WEBサービスは24時間好きな時間にご自身で情報入力をしていただき、その情報をもとに届出等の手続き代行を行なうサービスですので、事業主の手間を省き、更なる効率化が期待できます。
ご自身の事業やお考えにあったスタイルで対応可能かどうかを、まずはご相談されると良いかと思います。
いかがでしたでしょうか?
人を雇用するときに必要となることについてご説明しましたが、ご理解いただけましたでしょうか。
労働に関する手続きは、事業場ごと初回1回しか行わないスポット手続きが多くありますが、労働者を雇用した時点で事業主の義務が生じていることから、必ず行わなければならないものがほとんどです。
ですが、例えば労働時間管理の考え方を知らずにいることで、実は法定労働時間を超えていて、残業代の未払いが生じていることもあります。
労働法違反となれば、もちろん罰則や罰金などもありますが、コンプライアンス遵守意識の高まりから、労働法違反をした事業主として、取引先からの契約解除、労働者の離職、企業名公表など、事業経営そのものが危ぶまれるような事態に陥ることも有り得ます。
労働保険は、きちんと加入しておくことで、万が一、障害が残るような業務上の事故や死亡事故につながるような労災が生じた場合に、労災保険から障害補償や遺族補償を受けることもできます。
また、雇用保険においてはコロナ禍でも話題になった「雇用調整金」等の受給で雇用継続することができ、また、万が一労働者を整理解雇するような経営悪化に陥ったとしても、労働者がハローワークで手続きをすることで、失業手当が受けられます。
事業主がルールを守るからこそ、事業主と労働者がルールに守られる仕組みが労働保険にはあることを、ご理解いただけますと幸いです。
事業主の皆様には、常に法令を遵守する意識をお持ちいただければと思います。